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物流指標を読む
FEBRUARY 2012 88
2012年度の国際貨物の行方
第38 回
●外貿コンテナ貨物は4.1%増へ
●国際航空貨物はほぼ横ばいで推移
さとう のぶひろ 1964年 ●欧州の経済危機には柔軟に対応
生まれ。 早稲田大学大学院修
了。 89年に日通総合研究所
入社。 現在、経済研究部担当
部長。 「経済と貨物輸送量の見
通し」、「日通総研短観」など
を担当。 貨物輸送の将来展望
に関する著書、講演多数。
物流市場予想の結果は‥‥
米国の投資ファンド運用会社ブラックストーン・
グループの副会長であるバイロン・ウィーン氏によ
る、毎年恒例の「一〇大びっくり予想」(Ten of
Surprise) が発表された。 ブルームバークによると
以下の通り(注:一部、筆者が加筆)。
?
.
原油価格(WTI)は八五ドルに下落。
?
.
S&P五〇〇指数は一四〇〇超え。
?
.
米実質GDP成長率は三%超、失業率は八%
未満に低下。
?
.
大統領選はバラク・オバマ氏対ミット・ロムニ
ー氏に。 民主党は下院で勝利するが、上院で
は敗北。
?
.
欧州はソブリン債危機の解決に向けた広範な
計画を作成。 ギリシャとイタリアが債務を再編。
スペインとアイルランドが財政を強化。 銀行の
メルトダウンは回避。 欧州経済は縮小。
?
.
主要金融機関へのハッカー攻撃。
?
.
スカンジナビアやオーストラリア、シンガポー
ル、韓国など「自国経済を賢明に管理してい
る」と思われる国の通貨買いに。
?
.
米議会が今後一〇年間で債務を一兆二〇〇〇
億ドル削減することで合意。 国防費やメディケ
ア(高齢者医療保険制度)費用、農業への助
成金、さらに一部の税控除をカットへ。
?
.
シリアのアサド大統領が更迭。
?
.
中国、インド、ブラジルの株価指数が一五〜二
〇%上昇。
総じてみると、悲観論者が唱えているような「世
界恐慌の発生」といった破滅的なシナリオではなく、
世界経済の急回復を予想するものとなっている。
この予想は、「世の中の人が三分の一未満の確率
でしか起こらないと考えている事柄であるが、ウ
ィーン氏は五〇%の確率で起きると確信している
もの」をサプライズとして発表しているものであ
り、平均的な的中率は五〇%超。 是非とも、ウィ
ーン氏の予想通り、世界恐慌が回避されることを
祈る。 ちなみに、昨年のウィーン氏の予想は四勝
四敗二分であり、まあまあといったところか。
さて、昨年、筆者も真似をして、十一年度の物
流市場環境および規模について予想したが、結果
は以下の通り。
?国内景気
日通総研は十一年度の実質経済成長率を一・
一%と予測したが、筆者は若干上ぶれると予測。
⇒
×(東日本大震災の発生に伴い、十二年度はマ
イナス成長となる可能性が高い)
?為替レート(円ドルレート)
米国がさらなる金融緩和策を打ち出せば、七〇
円台の円高も起こりうる。
⇒△(水準は的中した
が、米国のQE3〈量的緩和第三弾〉はなかった)
?燃料価格
十一年度にWTIの最高値が一〇〇ドルを突破
する可能性は高いが、〇八年と比較して、為替が
二割以上も円高の水準となっているので、二年半
前のように、給油所売りのガソリン価格が一九〇
円台まで急騰するような事態にはならない。
⇒
○(WTIの現物価格(月平均)は、四月、五
月に一〇〇ドルを超え、わが国の輸入価格(CI
Fベース)も四月以降一一〇〜一二〇ドルのレン
ジで推移したが、給油所売りのガソリン価格(レ
「2011・2012年度の経済と貨物輸送の見通し」日通総合研究所
89 FEBRUARY 2012
について予測しているのは弊社だけであり、その
ため、業界内外からの注目度は高い。 予測は、経
済、国内貨物輸送、国際貨物輸送の分野について
行っている。 なかでも外部からの問い合わせが最
も多いのは国際貨物輸送の見通しについてであり、
国際貨物輸送の重要性が垣間見える。
予測の難しい国際貨物
ところで、経済、国内貨物輸送、国際貨物輸送、
それぞれに予測の難しさはあるのだが、予測が一
番難しいのはやはり国際貨物輸送だ。 国内の経済
状況だけでなく、世界経済、為替レート、原油価
格、海運や航空
の運賃動向など
多岐にわたる要
素を勘案しなけ
ればならない。 と
くに現在のよう
に、欧州経済の先
行きが読みにく
く、さらに為替レ
ートや原油価格
の行方も不透明
という状況下で、
予測を行うのは
至難の業である。
日通総研では、
欧州債務危機に
伴う国際金融危
機は収束すると
いう前提のもと、
十二年度におけるわが国の実質経済成長率を二・
一%、世界経済の実質成長率(二〇一一暦年:日
本を除く)を三・四%、為替(円ドル)レートを
一〇九・八円/ドル、原油輸入価格(CIFベー
ス)を一〇九・八ドル/バーレルなどと想定した上
で、国際貨物輸送量を以下のように予測している。
《外貿コンテナ貨物》
一二年度の外貿コンテナ貨物(主要九港)の輸
出は、震災の影響に伴う減少の反動もあり、四〜
六月期には高い伸びが期待できるが、世界経済の
拡大ペースの鈍化に加え、前年度から続く円高が
下押し要因となり、七〜九月期以降は伸びが抑え
られることから、年度全体では三・八%の増加に
なるものと見込まれる。
輸入は、個人消費に力強さは欠けるものの、円
高効果もあって、主力の消費財については食料品
を中心に顕著な増加が見込まれ、機械機器も堅調
な設備投資の伸びを反映した荷動きが予測される
ことから、四・三%増になるものとみられる。
《国際航空》
一二年度の国際航空の輸出は、半導体等電子部
品などIT関連貨物については、世界需要は拡大
するものの、生産拠点の集約、海外移転、円高な
どの要因により、小幅な伸びにとどまる模様であ
る。 自動車部品も前年度における大幅増の反動が
懸念されることから、全体では〇・二%増とほぼ
横ばいで推移しよう。
輸入は、消費財では生鮮貨物に伸びは期待でき
ないものの、製造食品が堅調さを維持し、IT関
連など機械機器類も持ち直してくることから、一・
七%増とプラスに転じるものと予測される。
ギュラー:消費税込み)は概ね一四〇〜一五〇円
のレンジで推移した)
?国内貨物輸送量
国内貨物輸送量は二・一%減と十二年連続のマ
イナスとなる。
⇒△(まだ確定していないが、も
う少し大きなマイナスになりそう)
?国際貨物輸送量
外貿コンテナ貨物の輸出は三・四%増、輸入は
二・五%増。 国際航空の輸出は、二・四%増、輸
入は二・二%増。
⇒×(まだ確定していないが、
外貿コンテナ貨物の輸入以外はマイナスになりそう)
?トラック運賃水準
運賃水準自体に大きな変動はみられないと思う
が、基調としては若干の上昇に向かう。
⇒○(道
路貨物輸送のCSPI(日銀)をみると、一〇年
度の一〇〇・六に対し、十一年度上期は一〇〇・
九と小幅の上昇となっている)
二勝二敗二分といったところで、的中率は今一
歩。 今年は、正直よく分からないので、びっくり
予想は控えることにするが、一応、世界経済につ
いてコメントすると、少なくとも今年は、世界恐
慌が発生することはないと考えている。 リーマン・
ショックは大半の人々が予測していなかったから
こそ、そのショックは大きかった。 一方、今回の
欧州の債務危機は誰もが認識している。 結果、ソ
フトランディングに向かうのではないかと、筆者は
考えている。
さて、本欄でも何度か紹介したことがあるが、日
通総合研究所は年に四回、「経済と貨物輸送の見
通し」を発表している。 経済については、多くの
シンクタンクが予測しているが、定期的に貨物輸送
国際貨物輸送量の見通し
注:( ) 内は対前年同期比増減率(%)
外貿コンテナ:千TEU(実入り) 国際航空:千トン
上期下期
6,303 6,302 6,580 6,539 12,312 12,604 13,118
(2.1) (2.7) (4.4) (3.8) (11.1) (2.4) (4.1)
2,582 2,607 2,696 2,689 5,312 5,190 5,385
(△3.4) (△1.2) (4.4) (3.1) (9.2) (△2.3) (3.8)
3,720 3,695 3,884 3,849 7,000 7,415 7,733
(6.2) (5.6) (4.4) (4.2) (12.6) (5.9) (4.3)
1,138.8 1,110.7 1,143.0 1,129.4 2,356.6 2,249.5 2,272.4
(△4.3) (△4.8) (0.4) (1.7) (14.4) (△4.5) (1.0)
532.3 511.8 530.2 516.5 1,134.1 1,044.1 1,046.7
(△7.9) (△8.0) (△0.4) (0.9) (14.3) (△7.9) (0.2)
606.5 598.9 612.8 612.9 1,222.5 1,205.4 1,225.7
(△0.9) (△1.9) (1.0) (2.3) (14.5) (△1.4) (1.7)
2011 年度
上期下期
2012 年度2010
年度
2011
年度
2012
年度
外貿コンテナ国際航空
合計
輸出
輸入
合計
輸出
輸入
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