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MARCH 2012 22
山 九
──生産現場のDNAで物流事業を展開
重厚長大メーカーの工場内に深く入り込み、あらゆるアウトソー
シングニーズに応えてきた。 中国物流では、機工事業から物流
事業に展開する従来のアプローチを転換、物流事業を先行させ
て機工事業に広げようとしている。 独自の事業モデルを武器に、
他社に真似のできないサービスで事業規模の拡大を目指す。
工場内を熟知する強み
──二〇一〇年に策定した「山九グループ長期ビジョ
ン」では、ロジスティクス事業、プラント・エンジ
ニアリング事業、オペレーション・サポート事業の三
つを軸にグローバル化を進めていく方針を打ち出し
ました。 それぞれの事業内容は?
「ロジスティクス事業は一般的な物流事業です。 工
場に入ってくる調達物流、工場から出ていく製品物
流、そして静脈物流の三つが対象です。 プラント・
エンジニアリング事業はいわゆる機工事業、プラン
トを建設したり設備を据え付けたり、メンテナンス
をする仕事を指しています。 オペレーション・サポー
ト事業とは構内物流を含め、工場の構内で顧客が日々
行う業務を支援するものです。 ライン補助や機械加
工などの操業支援、日常のメンテナンスまであらゆ
る業務支援を行っています」
──他社には見られない事業モデルです。
「当社が伝統的に主要顧客としてきた鉄鋼産業の
ニーズに合わせることで現在の業態が出来上がって
いきました。 かつての官営製鉄所がアウトソーシン
グを進めていく受け皿として、工場のなかで当社が
機械の据え付けやメンテナンス、生産ラインの補助
業務などを請け負っていったんです」
「その後、高度成長時代に石油コンビナートが建
設されるようになって、そこでも当社が重量物や機
械の搬入・据え付け、メンテナンスを手掛けました。
当社がロジスティクス事業、工場の外の一般物流事
業を広く手掛けるようになったのは石油化学産業が
端緒でした。 現在は石油化学の分野で多くの荷主か
らアウトソーシングを受けており、この分野で大き
なシェアを握っています。 さらに近年は、そうしたメー
カー物流の最上流から川下の方へと事業領域を拡大
し、日用品、衣料品、電機・電子関連、自動車部
品などへと顧客基盤を広げてきました」
──物流事業を開拓していくに当たって、プラント・
エンジニアリング事業やオペレーション・サポート事
業が強みになっているのですか。
「工場の中を熟知していることが当社の大きな強
みです。 例えば製品の販売物流では、工場内の出荷
倉庫からどのように貨物を出せば最も効率がいいの
かわかる。 操業支援や構内物流をやっているので、
一週間後、一カ月後の生産計画もあらかた把握して
いる。 工場の出荷倉庫の部分から物流をコントロー
ルすることで、工場の外の物流のコストを最小限に
抑えることが可能になります」
──しかし、一般の物流事業は他の二つの事業と比
較すると、かなり利益率が低い。
「否定できません。 ただし、当社は良かれ悪しかれ、
いったん請け負った仕事はよほどのことがない限り
自分からは手を引かない。 株式公開企業である以上、
利益率が一定の水準を切った案件からは撤退するド
ライさも必要なのかもしれませんが、当社にはなか
なか馴染まない。 それが工場構内で育った当社のD
NAなんです」
「エンジニアリングや構内の仕事は、誰にでもでき
るというものではありません。 代わりはそう簡単に
見つからない。 鉄鋼や石油化学の工場では、同じ生
産設備を数十年にわたって使い続けます。 当社とお
客さんの付き合いも、それだけ長いものになる。 そ
のため当社の利益が悪化した場合も、もちろん正当
な理由があれば値上げの交渉をしますが、その一方
で当社自身でも何とかコスト効率を改善しようと考
える。 そうしたDNAが、ロジスティクス事業にも
山九 藤冨孝 取締役常務執行役員
ロジスティクス・ソリューション事業本部本部長
第1部 目指せアジアの物流メジャー
23 MARCH 2012
影響しているのだと思います」
──物流事業の収益性をどうやって向上させますか。
「顧客の数、仕事の数、貨物の数を増やしていく
のが基本です。 物流事業には物量が必要です。 N数
を増やすことでネットワークが拡大し、しかも厚く
なる。 いろいろなシナジー効果が生まれてきます」
──山九は鉄鋼産業や石油化学産業の海外進出に合
わせて早い時期に海外にも出ていきました。 中国物
流では、一九九〇年代から取り組んだパイオニアの
一社です。
「基本的に海外事業はお客さんについていって、
まず機工の仕事から入り、構内業務、物流に広げて
収益基盤を確立するという手法をとっています。 た
だし、中国とインドは別です。 機工の仕事はありま
せんでしたが、戦略的に物流事業を先行させました」
「海外、とりわけ新興国の物流事業は他社にでき
ない仕事をしなければ勝てません。 現地に輸入され
た貨物を荷揚げして通関をきって倉庫に保管すると
いう入口までなら誰でもできる。 必然的に料金のた
たき合いになります。 だから当社は入口から先の配送、
中国なら内陸部まで持って行く。 現地の国内物流の
ところまで踏み込みます」
「実際、中国では自動車部品などのミルクランな
ども行っており、時間厳守はもちろん、車両にGP
Sを搭載したり、ドライバーの状況をカメラでモニ
タリングしたり、付加価値をきちっとつけています。
付加価値によって獲得したさまざまな仕事を、知恵
を使って組み合わせ、効率化しています」
シンガポールにアジア統括本部
──物流事業先行は実りましたか?
「ようやく今、中国で機工のニーズが増えつつあ
ります。 今後は期待できると見ています。 それも物
流の仕事を手掛けてきたからこそです。 『機工から
物流』という従来のアプローチとは逆の流れを作る
ことができました」
──アジア市場を面で見たときの展開は?
「アジア域内のモノの移動が増えているのに合わせ
て、一〇年一〇月に東南アジア、中東、インドをカバー
する地域統括会社としてシンガポールに『山九東南
アジアホールディングス』を設立しました。 各国の
拠点をネットワークとして結び、面で機能させてい
くための組織です」
「また今年四月には、ロジスティクスの営業部門の
組織を顧客のカテゴリー別に再編する計画です。 カ
テゴリー別にお客さんにアプローチをかけることに
よって、各カテゴリー内で共通するノウハウ、仕事
の仕組みなど、さまざまな機能を活かして国内外で
しっかりサポートする体制を整えます」
──現状では海外事業も顧客層が日系荷主に偏って
います。
「現段階では当社が取り込めていない日系荷主の
仕事が各国にまだまだたくさんある。 今はまず、そ
こに注力しているところです。 とはいえ各国で外資
系や現地系の荷主を開拓する必要性は感じています。
そのために、現地化を進めなければなりません」
「七二年に設立したブラジルの機工会社は、現地
を相手に商売しています。 従業員数は五〇〇〇人以
上の規模でありながら、日本人は一〇人にも満たない。
ブラジル以外でもナショナルスタッフを育て、日系荷
主以外の仕事も含めて現地の物流を拡大してきます。
外資系荷主の仕事を取り込むためにどのようにサー
ビスを売っていくのかという具体的な方策もこれか
ら検討していきます」
2011 年3 月期セグメント別売上高・営業利益構成比
注)オペレーション・サポート事業のうち、構内物流は物流事業、
それ以外は機工事業に含まれる
連結
営業利益
187億円
物流事業
30%
物流事業
55%
機工事業
64%
機工事業
40%
その他
6%
その他
5%
連結
売上高
3,732 億円
物流大手の
特集
機工事業や工場の操業支援も手掛けることが、大きな特徴になっ
ている(写真は千葉県市原市の「山九メンテナンスセンター」で
のデモ風景)
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