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MARCH 2012 28
豪トールグループ
──買収攻勢を支える企業再建ノウハウ
豪トールは1993年の株式公開以降、これまでに100社近
くの物流会社を買収し、地元オーストラリアからアジア全域
に版図を広げている。 日本では2009年にフットワークエクス
プレスを完全子会社化。 今年3月にはTollブランドにその商
号を変更し、老舗の路線会社を国際物流企業に変革する。
一〇〇社近くの物流会社を買収
──日本の物流会社の多くが、日本の国内市場がこ
れから縮小していくという前提に立って、アジアに
事業領域を広げようとしています。 それに対してトー
ルグループはフットワークエクスプレスを完全子会社
化することで、日本市場にあえて本格参入を果たし
ました。 その狙いは。
「いくつかの理由がありますが、その一つは急速
に規模を拡大するアジアのロジスティクス市場におい
て、トールがグローバルなプレゼンスを得るのにフッ
トワークの完全子会社化が有効だと考えたからです。
米中に次ぐ経済規模を誇り、また優先度の高い荷主
のいる日本は見逃せない市場でした。 そこにトール
の基盤を持つ必要がありました」
──しかし、フットワークは二〇〇一年に経営破綻
し、再建途上にあった会社です。 “火中の栗”を拾っ
たことになる。
「フットワークが困難な局面に立たされていること
は我々も十分承知していました。 しかし、フットワー
クは強力な輸送ネットワークと優れた人材を持ってい
ました。 そこに大きな可能性を感じました。 過去に
もトールは財務体質の悪化した物流会社を買い取り、
再建するというプロセスを何度も経験してきました。
当社は九三年に株式を公開して以降、これまでに一
〇〇社近くの各国の物流関連企業を買収しています。
その経験を元にフットワークの再建は可能だと判断し
ました。 実際、今は当時以上に当社の日本事業の将
来についてポジティブな見通しを持っています」
──トールグループのアジア展開において、フットワー
クはどのような役割を求められているのでしょうか。
現在、フットワークはトールグループの「グローバル・
エクスプレス部門」の傘下にありますが、フットワー
クが主業とする路線便と、グローバル・エクスプレ
スとの接点は?
「グローバル・エクスプレス部門の業務は、必ずし
も国際輸送だけではありません。 実際、オーストラ
リアでは国内輸送がグローバル・エクスプレス部門
のメーンの事業となっています。 トールが九六年に
買収した『Branbles Industries』はオーストラリア
のパレットレンタルの会社であり、九八年に買収し
た『IPEC』は国内宅配便会社です。 他にも国
内の航空貨物輸送やトラック運送会社などをいくつ
も買収し、それをグローバル・エクスプレス部門の
下で運営しています。 国内物流はトールの主要事業
の一つなのです。 日本や海外においてもそれは同じ
です。 国際輸送をドア・ツー・ドアで展開するには、
国内輸送が不可欠だからです。 実際トールは日本の
フットワークだけでなく、他のアジア諸国でも国内
輸送会社をいくつも買収しています」
──日本の路線事業をどう改革しますか。 フットワー
クの路線便ネットワークは国内全土を網羅している
わけではありません。 メーンの東海道のほか、九州
にはグループの九州産交運輸を置いていますが、東
北以北はカバーできていない。 ネットワークの穴を
買収で埋める考えはありますか。
「フットワークのネットワークに関しては現在、精
査している最中です。 買収の可能性も否定はしませ
んが、今のところ具体的には検討していません。 そ
れよりも当面は路線事業を国際輸送や3PL事業と
組み合わせることで付加価値を高めていきます」
──海外の市場に国内物流から先に参入するという
のは珍しいパターンです。
「この二年間は、フットワークの国内事業を安定さ
フットワークエクスプレス ニール・ポーリントン 社長
第1部 目指せアジアの物流メジャー
29 MARCH 2012
せて収益性を改善することに取り組んできましたが、
これからは本格的に国際物流に歩を進めていきます。
そのためにフットワークの海空のフォワーディング機
能を強化して、倉庫機能まで含めたアジア域内の一
貫物流、統合されたロジスティクスサービスを提供
していきます」
「その一環として昨年一〇月には国際宅配便を開
始しました。 今年三月末にはフットワークの社名も“T
oll”ブランドに変えて、グループのノウハウとネッ
トワークを活かした国際物流事業を、ここ日本でも
展開していきます」
──国際一貫輸送や総合物流を売り物にする物流会
社は珍しくありません。 何を武器にしますか。
「トールは日本では新参者かも知れませんが、グロー
バルロジスティクスに関しては豊富な経験があります。
強力なネットワークも持っている。 一般のフォワーダー
や国際エクスプレス企業とは違って各国の国内物流
にまで踏み込んで自ら事業基盤を持ち、しかも、事
業分野別の縦割りではない、本当の意味での統合さ
れたサービスを長年にわたって提供してきました」
「またトールは積極的な買収攻勢ばかりが注目さ
れがちですが、それを成功裏に進めてくることがで
きたのは、オペレーションを改善して収益性を向上
させるノウハウを持っているからです。 私自身、日
本に来る前はオーストラリアの国内物流部門で、オ
ペレーションの経験を積んできました。 そうした現
場主義はトールのもう一つのカルチャーであり、ま
た優位性なのです」
──それでも日本の国内物流で利益を上げるのは容
易ではないはずです。
「確かに日本の国内物流事業は、極めて高いレベ
ルの品質が求められるのと同時に、極めてたくさん
のプレーヤーがひしめいています。 競争は熾烈であ
り、利益を得るのは容易ではありません。 欧米の物
流市場は、これはオーストラリアもそうなのですが、
過去二〇年間に大規模な業界再編を経験し、大手へ
の集約が進みました。 それによって物流事業の収益
性は向上しました。 しかし、日本は今のところそうなっ
ていません。 日本の国内物流事業で適正な利益を得
られるようになるには、ある程度の淘汰も必要だろ
うと個人的には考えています」
アジア市場でも上位集中は進む
──アジア市場というレベルではどうでしょう。 や
はり欧米の物流市場とは状況は違いますか。
「アジアにも既に各国を代表する大手物流会社が
台頭していますが、今のところ欧州市場ほど寡占化
は進んでいません。 これはアジアの物流需要が拡大
し続けているためだと思います。 しかし、いずれア
ジアでも淘汰と集約は進むはずです。 そこで我々は
主導権を握っていきたいと考えています」
──アジアにおけるDHLを目指す?
「そう言っても間違いではありませんが、我々は
航空貨物以外にも先ほどの国内物流や、また資源関
連の物流を強みの一つにしています。 オーストラリ
アから中国、シンガポール、タイなどに大量の資源
を運んでいます。 今後も資源物流には力を入れてい
きます。 国際インテグレーターとはビジネスモデルが
違います」
──そうなるとトールグループのライバルとは?
「それぞれの事業分野、事業エリアにライバルはい
ますが、アジア市場全域で考えれば、ヤマト運輸を
はじめとする日本の大手物流会社や総合商社が我々
の最大のライバルになる可能性があります」
1888年、創業者のアルバート・トール氏が馬車による
石炭輸送事業で起業した。 1960年代には鉱山会社の傘下
に入ったが、86年に前会長のポール・リトル氏らがMBO
で独立。 93年の株式公開を機に、積極的な買収攻勢でオ
ーストラリア最大手に浮上、現在はアジアに事業エリアを
拡大している。 2011年6月期の連結売上高は82億2500
万豪ドル(約6900億円)、営業利益は4億6340万豪ドル
(約390億円)。
日本では、06年にシンガポールのセンブコープ・ロジス
ティクスを買収したことに伴い、同社が保有していたフ
ットワークエクスプレスの36 %の株式を取得したが、09
年に残りの64%を買い取り完全子会社化した。 今年3月
末にはフットワークエクスプレスの商号を “Toll” ブランド
に変更する予定。
《企業概要》 豪トール・ホールディングス
トールグループはフットワークの設備投資に、約100億円近くをかけ
ている。 昨年12月には約9200坪の敷地にターミナル機能を備えた
小牧支店を開設した
物流大手の
特集
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