2012年3月号
特集

第2部 注目5カ国の物流市場勢力図 タ イ──洪水後も輸出拠点の地位は健在

 大規模洪水の復興特需が発生している。
長期間にわたるサ プライチェーンの寸断を経験したが、アセアン随一の輸出基 地の地位は揺らぎそうにない。
日系物流企業各社は今後も物 流需要の拡大を見込む。
現地の所得水準の向上に伴い、内需 関連の物流ニーズも増加している。
       (梶原幸絵) 洪水からの復興特需  タイ発着の航空貨物輸送が急増している。
タイに とって最大の貿易相手国である日本からタイ向けの輸 出混載重量は、昨年十二月には前年同月比約二・五 倍の一万四九〇・九トンを記録した。
昨年一〇月の 大洪水の影響で、緊急輸送需要が発生している。
 タイには自動車産業を中心に多くの日系企業が進出 し、部品メーカーも含めた分厚い産業集積を形成して いる。
二〇一〇年のタイの自動車生産台数は一六四 万台で、そのうち五割以上が輸出される。
自動車産 業にとってタイはASEAN最大の完成車輸出基地で あり、同時に部品の供給基地としての役割も担って いる。
 それだけに大洪水は日系自動車産業のサプライチェ ーンに深刻な被害をもたらした。
タイ中部のアユタヤ 県やパトゥムタニ県の七つの工業団地が冠水し、日系 製造業約四五〇社の工場が生産を停止。
その混乱は 全世界に波及した。
 現地の日系物流業者は荷主の貨物や生産設備を他 地域に移動させるなどの初動を取った。
その後も日 本や中国、他のアジア諸国、ブラジルなどとの間で緊 急輸送が急増し、今も対応に追われている。
メーカ ーの多くは三月までの生産再開、四月からの本格操 業を目指し復旧作業を続けている。
このためしばら くは高水準の輸送需要が続くとみられている。
 阪急阪神エクスプレスは、これまでタイで航空機五 〜六機をチャーターするなど、緊急需要を多く取り込 んでいる。
同社は日本発航空貨物市場で第四位の準 大手だが、タイ発の航空輸送では日本通運、郵船ロ ジスティクスに次ぐシェアを持ち、近鉄エクスプレス とはほぼ互角の位置につけていると推測される。
 昨年まで阪急阪神エクスプレスのタイ現地法人でマ ネージング・ダイレクターを務めていた平田耕二中四 国支店支店長は、「既存顧客ばかりでなく、新規顧 客の貨物が増えている。
洪水時には水没した工場に 行くためのゴムボートまで手配するなど、どのような 要望にでも応え、大手には難しい、きめ細かな対応 で荷主のサポートを続けた。
その分だけ新規の取り扱 いが増えている」と話す。
 洪水の被害のなかった東南部のレムチャバン地域に、 新たに倉庫も設置した。
同社はスワンナプーム空港外 に四〇〇〇平方メートルの基幹物流センターを構えて いるが、満床状態が続いていた。
レムチャバンにはタ イ最大の貿易港があり、周辺には日系自動車関連企 業が多く集まっている。
今後の需要増が期待できる。
既に新規の配送業務の受託に成功しているという。
 国際緊急輸送に続いて国内の復興需要も生まれて いる。
破損した生産設備の修繕や新規設備の据え付 けなどが一月頃から始まった。
機工業務に強い物流 業者が活躍している。
その筆頭の山九は、作業員の 増員を進めて百数十人を確保し、対応に当たってい る。
同社は機工事業からタイに進出し、工場構内作 業の支援、一般物流に事業を広げてきた。
物流事業 では主にティア1、ティア2の自動車部品メーカーを ターゲットとし、輸出入業務と倉庫保管、セットメー カーへの納入などを手掛けている。
 同社のタイ事業はこれまで右肩上がりを続けてい る。
山九の吉野光宣ロジスティクス・ソリューション (LS)事業本部企画部部長は「今後もタイはASE ANの中心であり続ける。
当社のタイ事業もまだまだ 伸びる」と強気の見通しを立てている。
とくに日本 以外との三国間輸送が加速すると予想しており、各 国の拠点との連携強化によって物量の拡大を目指す。
MARCH 2012  34 タ イ ──洪水後も輸出拠点の地位は健在 注目5カ国の物流市場勢力図 第2部 小売物流ではDHLが他を圧倒  日系物流業者のタイ進出は一九八〇年代に本格化 し、二〇〇〇年頃には大手が出揃った。
進出物流企 業の増加に伴い、日系同士の競争は激しくなってい る。
それでも市場の成長に加え、各企業では現地化 が進んでいるため、収益は安定しているようだ。
 一方で、流通業向けの物流は今のところ欧州系物 流業者が主導している。
英テスコ、仏ビッグCなどの 欧州の大手小売業が現地の所得水準の上昇に伴い成 長を続けている。
タイの小売市場において、これら の外資系は既に大きなシェアを占めている。
 流通科学大学商学部の森隆行教授は「欧州系の組 織小売企業は専用センターを設置し、店舗への多品種 少量配送など高度な物流をタイに持ちこんだ。
そう した需要に応えられる地場の物流業者はいない。
こ のため欧州系、中でもDHLがタイの国内物流では 圧倒的な強さを誇っている」と説明する。
   タイ資本のローカル物流業者も育ってきた。
ローカ ル系は全国ネットワークを持たず、事業エリアはそれ ぞれ限定される。
物流品質も外資系荷主が満足する レベルにはない。
それでも山九の田中賢次LS事業 本部営業部部長は「現時点ではローカル業者が相見 積もりに入ってくることはほとんどないが、水面下 ではローカルの出す料金との見合いが出てきているの ではないか。
この三年ほどは顧客の要求する単価が 厳しくなっている」という。
 現地の物流業者の中でも注目株が、全国ネットワ ークを持つ国営郵便のタイポストだ。
昨年、タイポス トは物流事業会社を設立、物流市場に本格攻勢をか ける体制を整えた。
今後、日系を含めた外資系物流 会社の強力なライバルになる可能性がある。
35  MARCH 2012 代表的な現地法人 日本通運 ヤマトホールディングス 山九 日立物流※3 近鉄エクスプレス 日新 三菱倉庫 郵船ロジスティクス※5 バンテック 住友倉庫 日本梱包運輸倉庫 会社名都市・ 拠点数 倉庫延べ床 面積合計スタッフ数運用車両台数 (うち自社保有台数) 主要物流企業のタイ展開 ※1 2012 年1月時点 ※2 2011 年 9月時点(外注先の運用車両台数は一定ではないため、ヒアリングベースの概数) ※3 2011 年9月30日時点、持ち分法適用会社含む。
バンテックグループは除く ※4 日本人スタッフには現地採用日本人も含む ※5 2011 年12月末時点 4 都市 5 拠点 172,548? 4,000? 114,136?※2 約123,000? 37,443? 42,500? なし 165,339.5? 約28,000? 16,098? 72,750? 日本人11 人、 現地採用1879 人 7 都市 26拠点 3 都市 4 拠点 11 都市 20 拠点※1 8都市 19 拠点 6都市 12 拠点 7 都市 10拠点 3 都市 5 拠点 7 都市 15拠点 4 都市 9 拠点 3 都市 4 拠点 日本人23 人、 現地採用1714 人 日本人・ 現地採用計185 人 日本人39 人、 現地採用2189 人※1 日本人7 人、 総スタッフ約2000 人 日本人22 人※4、 現地採用1666 人 日本人8 人、 現地採用450 人 日本人2 人、 現地採用110 人 日本人16人、 現地採用1470 人 日本人9 人、 現地採用約530 人 日本人4 人、 現地採用154 人 102 台 (102 台) ─ ─ ─ ─ 229 台 (152 台) 150 台 (60 台) 約500 台 (241 台) 80 台 (0 台) 554 台 (500 台) なし KWE-Kintetsu World Express(Thailand)、Kintetsu Logistics (Thailand) タイ日本通運、タイ日本通運倉庫、タイ日通エンジニアリング ほか VIA LOGISTICS、VANTEC WORLD TRANSPORT (THAILAND) SIAM NISTRANS、BEST COLD CHAIN、 SIAM NISSIN & SEO LOGISTICS YAMATO UNYU(THAILAND) 山九タイ、山九レムチャバン、TBCS 日立物流タイ、ETG社 泰国三菱倉庫会社 YUSEN LOGISTICS (THAILAND) ロジャナ・ディストリビューション・センター A.N.I LOGISTICS、NIPPON KONPO(THAILAND) タイ ラオス カンボジア ベトナム 友誼関 カイラン港 ハイフォン港 ランソン フエサイ ハノイ ダナン バンコク チェンマイ チェン・コーン バンコク ※2 アユタヤ パトゥムタニ チョンブリ ラヨーン スワンナプーム空港 レムチャバン港 山九のナワナコンフレートセンター 物流大手の 特集

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