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かが勝負です。 それも新興国ともなれ
ば、すべてを自社のリソースで処理す
るわけにもいかないので、現地の民間
企業や国営企業と組みながら、どうや
って必要な品質、競争力を実現するか
というところがポイントになる」
──日通は「日通航空」として航空フ
ォワーダー最大手であり、そこで得た
利益が、日通全体の収益をこれまで支
えてきました。
「航空フォワーディングが儲かる時代
は、そう長くは続かないと見ています。
このところの円高も手伝って、日本の
大手メーカーの多くが現在、航空便を
ゼロにしろと号令をかけています。 ア
ジア域内であれば船便と航空便で、そ
れほど大きな時間差があるわけではな
い。 欧米向けだと数週間の違いが出る
ので、これは大きい。 しかし、例えば
日本から上海だと、船便でも我々なら
二七時間、航空便で三時間、その差
はわずか一日です。 そのレベルであれ
ば在庫や生産ラインの調整によってカ
バーできてしまう」
「また昨年はサプライチェーンの寸断
が頻発し、日系メーカーが韓国系をは
じめとするライバルにシェアを奪われ
るという事態に見舞われました。 これ
によって今後は在庫の持ち方が変わっ
ていくはずです。 限りなく在庫をゼロ
にするという流れに見直しが入る。 最
アジア物流の優位性とは
──日本通運は現在、「グローバルロ
ジスティクス企業としての成長」を基
本戦略に、売り上げの五〇%を国際
関連事業で稼ぐことを目指しています。
中期的には二〇一〇年三月期に二七
%だった国際事業の売上比率を一三
年三月期に三三%まで拡大するとい
う数値目標を掲げています。 その進捗
は?
「一一年末時点の国際関連事業の売
上比率は三一%でした。 三年計画の二
年目の数値としては悪くはありません
が、昨年は震災や円高、タイの洪水な
ど、大きく環境が動きましたので、額
面通りに受け取るわけにはいきません。
それでも当社がアジア市場における優
位性を獲得するための投資は、ほぼ計
画通り実施できたと思います」
「アジアの物流インフラはまだまだ貧
弱です。 インフラが弱点であるだけに、
荷主のニーズにきちんとフィットした
サービスを提供すること自体が差別化
の手段になる。 そのために、まず各地
に倉庫を作り、それを線で結んで、最
終的にはミルクランや混載のネットワ
ークを現地に敷いていく」
「そうしたアプローチで既に中国で約
一〇〇都市をカバーしました。 さらに
は上海とシンガポール間の約七〇〇〇
?をトラック輸送する『SS7000』
で、中国とアセアン諸国を結んだ。 イ
ンドでもチェンナイを中心にした自動
車物流のミルクラン輸送を開始しまし
た。 一連の投資によって他社を引き離
すことができたと自負しています」
──欧州危機をきっかけに、国際イン
テグレーターをはじめとする欧米の大
手物流企業には、新興国への投資を見
直す動きも見られます。
「当社は今後も投資の手を緩めるつ
もりはありません。 欧米からアジアへ
のシフトはまだまだ続くと見ています」
──新興国の国内物流は儲からないと
も言われています。
「当社の場合、中国ほかアジアの利
益率は決して悪くありません。 フォワ
ーダーやインテグレーターは、港から
港、空港から空港がメーンですが、当
社の場合はもともとネットワークの両
端の輸配送をはじめ国内物流で育った
会社ですから、両端のノウハウには一
日の長がある。 そして大きな差別化の
余地は、今はそこにしかない」
「荷物が有り余っていた時代、需要
過多だった時代なら港から港だけでも
利益は出せました。 しかし、今は違い
ます。 輸送の両端で、どれだけ高品質
で競争力のあるサービスを提供できる
日本通運 中村次郎 代表取締役副社長
「内陸を制するものが市場を制す」
売り上げの半分を国際物流で稼ぐという目標に向け、アジアで
積極的な投資を続ける。 欧州系のメガフォワーダーがライバルだ。
彼等が欧州で手掛けてきた複合輸送事業を、アジアでは先んじて
展開する。 誰もよりも深く広くアジアの内陸部に入り込み、物流
の発生源を押さえ込む。 (聞き手・大矢昌浩)
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小限の在庫は持ち、船便のスケジュー
ルを織り込んで生産ラインを動かすよ
うになる」
「ますます航空便は、突発的な輸送
需要に特化していくしかありません。
現在、航空機で運ばれている貨物は世
界の物量の〇・三%程度と言われてい
ます。 それが今後、大きく増えていく
ことは考えにくい。 航空便を使わなく
て済むサプライチェーンが今後の主流
になります。 従って、内陸輸送をはじ
めとする末端の機能を充実させたもの
が今後のマーケットを制することにな
るのではないでしょうか」
──日通の目指す「グローバルロジス
ティクス企業」とは、国際インテグレ
ーターやフォワーダーとは全く違う業
態なのですか。
「国際インテグレーターは我々の参考
にはなりません。 米国では有力フォワ
ーダーがほとんど育たずに、陸上輸送
は鉄道とトラック、航空貨物はエクス
プレスに特化したインテグレーターが、
つまり輸送キャリアだけが生き残った
わけですが、これは米国特有の物流業
規制や州際輸送の制約、地理的条件
などが大きく影響しています」
「一方、欧州市場はキューネ+ナーゲ
ル、パナルピナ、DBシェンカーとい
った大手フォワーダーが年間二〇〇万
〜三〇〇万TEUという物量を扱い、
の我々よりも桁違いに大きいのはその
ためです」
「この川下からの流れに我々も対応
しなくてはなりません。 そのため米国
と欧州に新たに流通業専門の営業部隊
を設置しました。 その調達先となる上
海にも米国から営業マンを投入します。
そして、もう一つのカギが中国を中心
としたアジア内需です。 ここにも莫大
な物量が発生する。 日本で培った我々
のノウハウが活かせる物流です」
──国際インテグレーターに対抗して
アジア域内の国際宅配便に乗り出すア
ジア勢も出てきました。
「インテグレーターとの兼業は難しい
ように思います。 アセットを持つこと
が足かせになりかねない。 複合輸送
事業が理想とするのは、コストの安い
キャリアを組み合わせて、品質の高い
サービスを実現することです。 ロジス
ティクス事業も同じで、熟練度の低い、
割安な労働力を使って高い品質を実現
することが競争力になる。 それには
アジアを深く知らなくてはなりません。
欧州系フォワーダーにとってアジアは
まだまだブラックボックスです。 アジ
アにおけるノウハウでは、我々は欧州
系には負けない。 またアジアを押さえ
ることで我々は逆に欧米企業にも切り
込んでいける。 欧米市場にもまだまだ
チャンスはあると見ています」
支配力を持っている。 これらの欧州系
フォワーダーは、単に船の手配をして
いるわけではありません。 荷主とキャ
リアの間に入って、艀や鉄道、トラッ
クなどを駆使してドア・ツー・ドアの
複合輸送サービスを伝統的に行ってき
ました」
「欧州は元々、国境が複雑に入り組
み、国ごとに通関があったため、輸
送キャリアだけでは物流が完結しなか
った。 そのためのフォワーダーがそれ
こそ植民地時代から、アフリカや南米
の内陸まで入り込んで荷物を積み込み、
それを欧米の消費地まで運ぶという仕
事を担ってきた。 だから強い。 内陸で
荷物を押さえているから彼等は強いん
です」
「国際輸送のトータルコストは海上
運賃ではそれほど差はつきません。 内
陸で発生する物流コストのほうがはる
かに大きい。 そこで差がつく。 いかに
安く早く、港まで持っていくか。 ある
いは港についた部品をいかに安く早く、
内陸の工場に持っていくか。 そうした
仕事を歴史的に積み上げてきたところ
に彼等の強さがある」
ライバルは欧州系フォワーダー
──しかし、欧米市場は既に成熟して
いる。 これから日本の物流企業が出て
いってもつけ入る隙は無い。 だから日
本通運は欧州型のフォワーダー事業を
アジアで展開するということですか。
「そういうことです。 欧米に関して
は、現地の大手に対抗できるだけのイ
ンフラをこれから投資して構築すると
いうのは現実的ではありません。 しか
し、アジア市場はいまだ成長の過程に
あります。 日本の我々には地の利もあ
る。 そして、さすがの欧州系フォワー
ダーも経済危機でこのところ元気がな
い。 我々にとってはアジアにおける競
争力を獲得するチャンスです」
──確かに現状では、アジアの物流市
場はまだ乱戦状態です。 欧州系フォワ
ーダーによって支配されているわけで
はありません。
「しかし、存在感は年々増していま
す。 アジア物流の中心地は九〇年代ま
で圧倒的に日本でした。 そして日本を
発着する貨物は当社をはじめ日本の物
流会社が握っていた。 円高が進み、日
本のメーカーが海外に工場を移しても、
そこから出荷する荷物は日本の物流会
社に優位性があった」
「それに対して今起きているのは、川
下からのプレッシャーです。 欧米の大
手量販やSPA(製造小売り)を荷
主に持つ欧州系フォワーダーが、その
調達物流を取り込むかたちで、アジ
アで大量の物量を扱うようになってき
た。 欧州系フォワーダーの物量が日系
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