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楽天が運営する書籍・DVD・ゲーム等のオン
ラインショップ「楽天ブックス」は、ライバルであ
るアマゾンと最も激しく競合する分野の一つだ。 マ
ーケティングはもちろん、物流品質でも後れを取る
わけにはいかない。 進捗状況の見える化や?弾丸
カート?の導入など、様々な施策を打ち出し、効
果を挙げている。
巨大図書館さながらの在庫棚
二〇一〇年一〇月に千葉県市川市で稼働した
「楽天フルフィルメントセンター(RFC)」は、楽
天の物流を陰で支える中核拠点だ。 楽天の一〇〇%
子会社である楽天物流が約八〇〇〇坪のスペース
を活用し、書籍・DVD・ゲーム等のオンラインシ
ョップ「楽天ブックス」や、水・洗剤といった日用
雑貨品を一括で届ける「楽天
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」、楽天市場のテナ
ントに対して総合フルフィルメント機能を提供する
「楽天スーパーロジスティクス(RSL)」などのオ
ペレーションに当たっている。
このうち、楽天ブックスでは約一〇〇万ピースに
も上る総在庫を抱えている。 広い空間に在庫棚が
ずらりと並ぶ光景は巨大図書館さながら。 ここか
ら、一日あたり数万件分の注文商品が出荷されて
いる。
楽天ブックスには楽天
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やRSLとは異なった特
徴がある。 楽天
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やRSLの荷主はあくまで楽天
市場の出店者であるのに対し、楽天ブックスの場
合は楽天自身が販売会社だ。 書籍のネット直販を
メーンとするライバル・アマゾンと最も激しく競合
する分野と言える。
それだけに、物流のサービスレベルでも後塵を拝
すわけにはいかない。 RFC開設と同時に楽天ブ
ックスのオペレーションを自身で手掛けるようにな
って以来、作業品質の高度化やミスの削減活動を
継続して行っている。
楽天物流の中村晋太郎チームリーダーは「この一
年で最も効果的だった施策の一つが、作業進捗状
況の『見える化』だ」と言う。 楽天ブックスの庫内
フローは大きく入荷・検品・棚入れ・ピッキング・
梱包・出荷に分けられるが、以前はどの作業に遅
れが生じていて、どの作業が進んでいるかを明確
に把握できなかった。 そのため適切な人員配置が
できず、目標としていた一日の作業量を達成でき
ないこともしばしばだった。
庫内作業の遅れは、配送の遅れに直結する。 注
文に対して適切なリードタイムを確実に実現できな
ければ、ユーザー離れを招いてしまう。 サイトの競
争力を維持するためにも、何らかの手を打つ必要
があった。
JANUARY 2013 36
そこで、各作業エリアの床に青、黄、赤のライ
ンで枠を描き、どの色の枠内に商品が収まってい
るかで、その作業の進捗状況を一目でわかるよう
にした。 例えば棚入れ待ちのエリアで、商品を載
せたカートが赤のラインまで並んでいたら、それは
想定よりも作業が遅れていることを表す。 青のラ
インの枠内に収まっていれば、スムーズに進行して
いることを示す。 黄色はその中間といった具合だ。
棚入れ待ちの商品が赤の枠まで溢れていて、反
対に出荷待ちの商品が青の枠で収まっていれば、余
裕のある出荷作業の人員を棚入れ作業に回すこと
などが可能になり、庫内オペレーションのバランス
を取ることができるようになった。 この取り組み
により、全体の処理能力が大きく向上した。
作業スタッフにも進捗状況は一目瞭然なので、
担当している作業に遅れが生じていれば「急ごう」
──“弾丸カート”でスピード処理
楽 天通販物流
楽天ブックスでは約100万ピースもの書籍やDVDを扱っている
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というモチベーションも生まれ、生産性の向上にも
繋がっている。 「床にラインを描くというアナログ
な手法だが、効果は大きい」と中村チームリーダー
は言う。
この「見える化」とほぼ同時期にスタートしたの
が、「弾丸カート」の導入だ。 RFCに入荷してく
る商品には、まだ注文が確定していない「補充品」
と、既にユーザーからの注文が確定している「客
注品」がある。 このうち客注品の多くは、入荷し
たその日のうちに出荷指示が下りる可能性が高い。
そのため、指示が来たらすぐにピッキングや梱包に
取り掛かれるように、通常の在庫棚には格納せず
に専用カートに載せている。
この専用カートを弾丸カートと呼んでいる。 在庫
棚を飛ばし、検品エリアから一気に梱包エリアまで
最短距離で運ばれることが?弾丸?の由来だ。
中村チームリーダーは「すぐに出荷指示が出ると
分かっている客注品を、広大なスペースの在庫棚に
格納すると大きなムダが生じる。 それだけピッキン
グの動線が長くなるし、在庫スペースも余分に掛か
ってしまう。 弾丸カートを導入したことで、その
両方を省くことができた」と説明する。
棚の空き状況も見える化
客注品が弾丸カートで運ばれる一方、補充品は
在庫棚に棚入れされるが、ここにも工夫が凝らさ
れている。 楽天ブックスでは在庫にはフリーロケー
ションが採用されている。 入荷検品を終えた商品
を作業スタッフがカートで運び、空いている棚に保
管していく。
ただし、在庫棚のエリアは広大で、棚の数自体も
多い。 一見しただけでは、どの棚に空きスペースが
あり、どこがいっぱいになっているのかを判別する
ことは難しい。 作業スタッフが空いた棚を探して闇
雲に動き回れば、それだけ作業効率の弊害になる。
これを防ぐため、棚の通路側に空き具合を示す
赤、青、黄の紙を貼って対応している。 先述した
進捗状況の見える化と同様に、赤は棚が既にいっ
ぱいであることを示し、青は余裕があることを示
している。
作業スタ
ッフはこの
紙の色を見
るだけで、迷
うことなく
空いたスペ
ースに到達することができる。 朝一番の状況を見
て管理者が棚に紙を貼っていくが、棚が途中でい
っぱいになるなど状況が変化した場合は、作業ス
タッフが適切な色の紙に貼り替える。
商品を棚に入れるときにも注意を払っている。 棚
入れをする際、作業スタッフは在庫する商品と棚
の間口のコードをハンディスキャナで読み込み、商
品内容と在庫位置をシステム上でひも付けている。
この時、誤って隣の間口のコードを読み込んでしま
うというミスが発生しやすい。 その結果、ピッキ
ングの時にシステムから指示された場所に商品が無
いというケースが生じてしまう。
作業スタッフへの教育でこれに対応している。 商
品をその棚の間口に入れたら、その間口のコードを
手でつかみ、バーコードで読み込むまでは決して放
さないというルールを徹底している。
こうした細かな取り組みによって品質を高めよ
うとする動きは、棚入れ以外にも随所に見られる。
例えば入荷検品時では、商品の二度読みを防止す
るため、一度手に持った商品はハンディで読み込
み、カートに移すまでは絶対に下に置かないという
ルールを設けている。 また、高度な機械化が進ん
だ梱包・出荷ラインでも、その投入口では納品書
と商品内容に誤りが無いかを専属のスタッフが厳し
く目を光らせている。 スタッフが順守すべきマニュ
アルを、作業ごとに一つ一つ積み上げてきた。
中村チームリーダーは「ただし、どんなに優れた
マニュアルやマテハンを導入しても、それに頼り切
ることはできない。 物流の品質はそれを実行する
人に掛かっている。 スタッフや配送パートナーであ
るヤマト運輸さんと協力し、より高いレベルを目指
していく」と言う。 (石鍋 圭)
棚の空き具合を紙の色で表示ラインの色で進捗状況を見える化
隣の間口を読み込まない工夫も客注品は弾丸カートへ
楽天物流の中村晋太郎
オペレーション本部オ
ペレーション部チーム
リーダー
特集
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