ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2004年3号
特集
中国の第三者物流 フォワーディングから3PLへ

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

MARCH 2004 10 フォワーディングから3PLへ 中国物流のニーズが国際輸送から国内物流にシフトしよ うとしている。
これに伴い物流市場の勢力図も一変する。
こ れまで主役を担ってきた国際輸送キャリアやフォワーダー に代わり、現地のオペレーションに強みを持つ3PLが新 たにスポットライトを浴びることになる。
一〇兆円規模の物流市場が目を覚ます 中国の物流市場が国の経済成長をはるかに超える 勢いで拡大している。
中国のGDP(国民総生産)成 長率が年八%〜九%で推移しているのに対し、このと ころ物流市場は毎年二〇%〜三〇%のペースで成長 を続けている模様だ。
二〇〇三年度は二〇〇〇億元 (二兆六〇〇〇億円)規模に上ったと推測される。
今後も勢いは止まりそうもない。
世界銀行の調査に よると、先進国の対GDP物流コスト比率がいずれも 一〇%前後であるのに対して、中国のそれは一七%に も上っている。
これを二〇〇三年のGDP約一五二 兆円に当てはめると、トータル物流コストは約二六兆 円という計算になる。
現在の物流市場のちょうど一〇 倍だ。
つまり中国では、いまだ九〇%の物流を荷主が自社 で運営している状況なのだ。
日本を含めた先進国の物 流外部委託の比率は五〇%程度。
そこから中国の潜 在的な物流市場の規模を、現状の約五倍の一兆元(一 三兆円)と弾くこともできる。
現在、中国政府は対G DP比率で十三%を目標に物流の効率化に取り組ん でいるが、それを差し引いても余りある巨大な物流ア ウトソーシング市場が目を覚まそうとしている。
市場の拡大に合わせて現在、中国国内では個人事 業に近い零細業者が中心ながら、毎年数十万社とい うペースで民間物流会社が誕生しているという。
日本 や欧米の大手外資系物流企業も手をこまぬいてはいな い。
主だったプレーヤーのほとんどが既に拠点進出を 果たしている。
ただし、これまで中国の外資系物流会社は現地に 生産拠点を移した外資系荷主企業に対し、部品調達 や完成品輸出のフォワーディングと国際輸送サービス を提供していたに過ぎなかった。
外資系物流企業にと っての中国ビジネスとは、端的に言えば中国と欧米を 結ぶ国際物流であり、あくまでも船会社や航空貨物な どの大手輸送キャリアやフォワーダーのための市場だ った。
しかし二〇〇一年に中国がWTOに加盟したこと をきっかけとして、市場は新たなフェーズに入った。
外資系企業に対する国内ビジネスへの規制は段階的 に緩和が進んでいる。
高級輸入製品を購買できる国 内の富裕層も既に四〇〇〇万人規模に達していると 言われる。
中国の位置付けが「世界の工場」から消費 市場へと変化していくのに伴い、物流企業にとっての 中国ビジネスの内容も大きく様変わりしようとしてい る。
外資に対する貿易権(三十二頁参照)は二〇〇五 年初頭に解禁される予定だ。
これをメドとしてキヤノ ンは現在、中国全土を対象にした大規模な輸送ネッ トワークの構築を急いでいる。
同社は既にサプライチ ェーンの上流部分では、地場の部品ベンダーの工場を トラックで集荷して回るミルクラン方式の調達物流や セル生産方式など、日本国内と変わらないオペレーシ ョンを現地でも運用している。
同じ方針を国内販売の ロジスティクスにも適用する。
カメラやファクスを製造するキヤノン珠海、そして 複写機のキヤノン蘇州の二工場で生産した製品を、全 国七カ所の物流センターで在庫。
受注から二日以内 で中国全土のディーラーに納品できる体制づくりに取 り組んでいる。
これによって「輸入品の内販が自由化 された時点で、すぐに対応できるようにする」と高橋 良夫ロジスティクス本部ロジスティクス企画部部長は 説明する。
現地で同社の物流パートナーを務めるのは三菱商事 第1部 11 MARCH 2004 特 集 系列のエム・シー・トランスインターナショナル(M CTI)だ。
物流子会社を持たないキヤノンは、これ まで日本通運をメーンのパートナーとして利用してき た。
現在もキヤノンの物流全体の約八割は日通が担っ ている。
中国でも沿岸部を発着する製品のフォワーデ ィングや国際輸送では日通が主力になっている。
しかし中国進出の狙いが、製造コストの低減から、 現地の消費市場に移り、新たに国内のネットワーク構 築が課題になったことで、内販事業を統括する北京の キヤノンチャイナでは、入札方式で改めて物流パート ナーを選択することにした。
その結果、これまで物流 事業では、ほとんどつき合いのなかった三菱商事を新 たなパートナーとして指名することになった。
先行投資で国内物流に切り込んだ三菱 中国に強いと言われる日通、山九、日新といった物 流業者が、これまで国際輸送に事業の軸足を置いてき たのに対し、三菱商事は九〇年代の中頃からいちはや く内販向け物流をターゲットにした国内ネットワーク の構築を進めてきた。
具体的には九六年四月にグループの三菱倉庫、そ して大物華僑のケリー・クオック氏率いるケリーグル ープとの合弁で上海菱華倉儲服務有限公司を設立。
上 海の浦東地区に総額約一六〇〇万ドルを投じて中国 最大級の物流センターの建設に着手した。
さらに同八 月には上海浦菱儲運有限公司を設立し、自社車両に よる国内のトラック輸送事業にも乗り出した。
他の日系物流業者のように予め荷主企業を確保し ていたわけではない。
もちろん現在のような中国進出 ブームを見通していたはずもない。
「今考えると乱暴 な話だが、これから中国ビジネスが伸びるだろうとい う見込みのもとに、具体的に何をやるかはっきりしな いまま、とりあえず器だけ作ったというのが実情だっ た」と同社物流事業ユニットの若松紀久雄ユニットマ ネージャーは振り返る。
リスクの大きな先行投資だった。
現地法人設立直 後にはアジア通貨危機にも直面した。
それでも上海を 起点に内販事業を本格展開させようとしていた日系の 大手家電メーカーをクライアントに迎えたことでビジ ネスに一気に弾みがついた。
荷主の急ピッチな販売拡 大に歩調を合わせる形で、現地ネットワークの整備を 進めることができた。
現在、同社は中国二十三都市に三十二の拠点を構 え、一日平均五五〇台余りの車両を中国内で運行し ている。
GPSを搭載した車両を使ってリアルタイム で在庫ステータスを把握する物流情報システムを運用 するなど、ソフト面での実績も積んだ。
中国国内の物 流に関して現状では総合商社の中でも頭一つ抜きん 出た存在との評価を受けるに至っている。
キヤノンが国内物流網構築のパートナーに三菱商事を選んだのも、こうした実績を評価したからだ。
ただ し、キヤノンは今後も物流パートナーの見直しを定期 的に行っていく方針だ。
「現在は国内物流を三菱一社 に委託しているが、それが本当に良いのかどうか。
地 域単位で協力会社を使い分けたり、あるいは機能別に 委託したほうが効果的ではないか。
その当たりを判断 するのが今後の課題だ」と同社の高橋部長は考えてい る。
同様に松下電器産業も、中国国内の物流に関して 「これまでは現地のネットワークに頼ってきたが、当 社は二〇〇二年に四五〇〇億円だった中国市場での 売り上げを二〇〇五年に一兆円規模にする目標を掲 げている。
そのためには自社流通網の構築が不可欠で、 とりわけ物流は最大の課題になっている。
現地物流業 三菱商事の若松紀久雄 物流事業ユニット ユニットマネージャー コンテナ取扱量が急増する上海港のターミナル MARCH 2004 12 者の利用方法も含めて現在、中国内の物流網の再構 築にとりかかっている最中だ」(松下広報)という。
国際輸送から始まった外資系企業にとっての中国 物流市場が現在、国内物流の3PLサービスに主戦 場を移そうとしている。
その最初のステージで三菱商 事は先行者利益を得ることに成功した。
しかし、安住 は許されない。
他の外資系物流専業者や現地の有力 物流企業などのライバルも相次いで同じ土俵に上って きている。
トラック会社・近鉄エクスプレス 日系の航空フォワーダーとしていち早く中国進出を 果たした近鉄エクスプレス。
同社は日中間の国際輸送 から中国でのビジネスをスタートさせた。
香港を皮切 りに、上海、深 、北京など沿岸部の大都市を中心 に相次いで拠点を設置。
主に日本〜中国を行き来す る精密機器やコンピュータ関連機器、電子部品などの 輸送を手掛けてきた。
もともとは典型的な航空フォワーダーとして機能し てきた同社だが、実は中国では別の顔も持っている。
路線トラック会社の顔だ。
加工貿易による製品の輸 出から、中国国内での販売へ軸足を移しつつある顧客 企業からの要請で、九七年に現地で「定期混載トラ ック便」サービスを開始した。
上海や北京といった大都市はもちろん、武漢、重慶、 西安といった内陸部の中堅都市までをカバーする。
便 数は上海と各主要都市を結ぶ路線で週に二〜三便。
運 行路線の数、そして一路線当たりの便数の多さは群を 抜いている。
サービス面でも「中国に進出している日 系物流企業が提供するトラック便の中で三本の指には 入る」(大手日系メーカー)との評価を受けている。
近鉄が本業ではない「トラック便」サービスの強化 に動いたのは、フォワーディング業務だけでは他社と 差別化しにくいと考えたからだ。
事実、中国のフォワ ーディングや国際輸送は既に熾烈な価格競争に入って いる。
これに対して「国内の輸配送ネットワークが充 実していれば、『国際輸送の部分も含めて一貫して近 鉄さんに物流をお願いしたい』という話になる。
運賃 のダンピング競争に巻き込まれなくて済む」と北京近 鉄運通運輸有限公司の稲村寿通董事長は説明する。
近鉄では引き続きトラック便サービスの強化に力を 注いでいく方針だ。
すでに沿岸部を中心としたネット ワークづくりは完了している。
今後はとりわけ内陸部 のネットワークの拡充に重点を置いていく計画だとい う。
日本以外の外資系物流企業も国内輸送網の強化を 急いでいる。
フェデラル・エクスプレスは昨年九月、 決められた時間内に荷物が届かなかった場合に、送料 を荷主に返金する「マネーバック・ギャランティー制 度」を中国で開始した。
既に米国や日本では導入済 みの制度だが、中国でも国内の配送が安定してきたこ とから導入に踏み切った。
これと並行して、これまで 現地の物流会社との提携によってカバーしてきた集配 網の自社化も進めている。
現地の物流会社も日系企業に標準 現地の物流企業の成長も著しい。
政府系ではCO SCO(中海遠洋運輸集団)の物流部門、コスコ・ ロジスティクスの評価が高い。
民間企業としては鉄道 を使った小口配送を運営する宝供物流や、北京〜上 海間の宅配便事業を手掛ける宅急送。
さらに大手家 電メーカー、ハイアール(海爾集団)の物流子会社な どが、外資系荷主を対象にした3PL事業を開始し ている。
近鉄エクスプレスは97年、中国で「定期混載ト ラック便」を開始した 北京近鉄の 稲村寿通董事長 13 MARCH 2004 「われわれが中国に張り巡らせている物流ネットワ ークの凄さが日系企業に全然知られていない。
不幸な 話だ。
欧米のビックネームたちは当社に物流業務をア ウトソーシングすることで中国ビジネスで成功を収め ている。
われわれの話を一度聞いてもらいたい」 そう言って日系企業へのアプローチを本格化させて いるのは、深 新科安 后勤保障有限公司(STANDA LOGISTICS )の黄循 総経理だ。
中国の政 府系物流企業である招商局物流(チャイナ・マーチャ ント・ロジスティクス)と、シンガポールのセムコー プロジスティクスの共同出資で設立された3PL業者 だ。
現在、従業員は九〇〇人。
中国国内に二八拠点 を展開する。
物流センターの倉庫面積は合計で二五 万平方メートルに達するという。
同社の強みは中国八六六都市をカバーするという充 実した輸配送ネットワークだ。
現在、地場のトラック 運送会社二七六社と契約を交わし、実運送を担当さ せている。
配送カバー率は「(出荷から)二四時間以 内」が三十一・四%、「二四〜四八時間以内」が四 六・四%。
「四八〜七二時間以内」が一六%。
日系物 流企業のそれをはるかに凌駕している。
総経理のセールストークにもあるように、同社はジ レット、ジョンソン・アンド・ジョンソン、エクソン モービル、クラフトなど欧米系の有力企業から中国に おける物流業務を全面的に受託している。
その範囲は 中国で生産した製品を欧米各国に輸出するといった 国際輸送だけでなく、国内の販売物流にまで及んでい る。
「中国国内のサプライチェーンをどう動かしていけ ばいいのか。
我々はロジスティクスからさらにもう一 歩踏み込んだかたちで改善を提案できる能力を持って いる。
3PLというよりも4PLに近い」と黄総経理 はアピールする。
第三者物流の波は日本国内にも及ぶ 同社の目下の課題は欧米企業と同様に中国シフト を加速させている日系企業から物流業務を受託するこ とだという。
もっとも現在まで実績はゼロに近い。
そ こで今年一月には日系企業を開拓するための専門部 隊を用意した。
白羽の矢が立ったのは二〇〇一年三 月に経営破たんし、その後セムコープグループの傘下 に組み込まれた老舗路線業者のフットワークエクスプ レスだ。
日系企業の攻略には日系企業をあてることで 受注に漕ぎ着けようというわけだ。
セムコープからの要請はフットワークにとっても渡 りに舟だった。
ST―ANDAの輸配送ネットワーク を武器に、中国で日系企業を取り込むことができれば、 日本国内の物流も任せてもらえる可能性が高まるから だ。
今年二月下旬、フットワークは上海の中心部に事 務所を構えた。
三月から上海を含めた華東地区を中心に本格的な営業活動を開始する予定だという。
そのために日本から派遣されたのはシンガポールや バンコクなど海外赴任歴の長いフットワークの早瀬丈 二営業開発部コンサルタントだ。
「ST―ANDAの ネットワークがどれだけ充実しているかをまず知って もらう。
最大のセールスポイントは中国国内の配送カ バー率だ。
これを聞けば、多くの物流担当者は『本当 にそんなことできるのか』と驚くはずだ。
とりあえず 日系で一〇〇社程度営業でまわってみるつもりだ」と 意気込んでいる。
同社以外にも日系企業に対して3PLサービスを 提案する現地の物流企業はいくつか現われてきている。
中国の3PLビジネスの波は国境を越えて、日本国 内の物流市場にも及ぼうとしている。
特 集 ST-ANDAの黄循 総経理 ST-ANDAの上海物流センターは1万平 方メートル級の倉庫7棟からなる 写真右はハイアール物 流、下は宅急送、現地 の物流会社のレベルは 急速に上がっている

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