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FEBRUARY 2013 30
伊藤忠ロジスティクス
──既成概念を捨て商社系物流の業態を革新
事業の立て直しを背負い伊藤忠商事の繊維部門か
らトップが赴任した。 既成概念に囚われずに商社系
物流会社のあるべき姿を摸索した。 赤字事業の撤
収では非情に徹し、同時に背水の陣で新たなビジネ
スモデルの構築に取り組んだ。 トップダウンの改革
によって、業績のV字回復と業態革新を成し遂げた。
非情に徹して採算改善
──佐々社長が親会社の伊藤忠商事から伊藤忠ロジ
スティクスに赴任したのは二〇一〇年六月でした。
その直前の〇九年三月期に伊藤忠ロジは大幅な減収
減益に陥っています。
「それ以前も決して褒められたものではありませ
んでした。 しかも、業績は年々悪化する傾向にあった。
〇九年七月に当時のアイ・ロジスティクス(旧社名)
の上場を廃止したのも事業の立て直しのためでした。
上場していると株主のコンセンサスや株価を維持し
なければならないので、思い切った手が打てません
から」
──上場廃止はむしろ物流事業を伊藤忠商事の柱の
一つにしようとしたのでは?
「違いますね。 当時私は当事者ではありませんで
したが、アイ・ロジの株式を手放すことも含めて色々
とシリアスな議論があったようです。 その結果、一
〇年度を初年度として立て直すことに決まって、社
名も伊藤忠ロジに変更し、私が送り込まれた。 一億
円余りに落ち込んでいた連結の当期利益を初年度六
億円、次年度八億円、三年度一〇億円にしろと言う。
随分なことを、とは思いましたが、それなら自分の
やりたいようにやらせて欲しいと念押ししました」
──物流業は未経験でしたよね。
「それまで私は三六年間ずっと繊維畑でしたから、
伊藤忠ロジがどんな会社かぐらいは知っていましたが、
中身までは知らなかった。 この会社が何をしようと
しているのかも分かりませんでした。 しかし、敢え
てそれは見ないようにした。 引き継ぎは後回しにし
て当初まずは二つのことをしました。 一つは採算の
改善です。 極端な話、赤字事業から手を引けば最低
でもプラマイゼロにはなるという考えで臨みました」
「最初の海外出張は欧州でした。 数千万円の赤字
を出していた。 そこで一人を残して他は日本に帰し
た。 他の地域も赤字のところは最低限の人数に絞っ
た。 ベトナムには一人も残さなかった。 それまでの
歴史や現場スタッフの頑張りを知っていれば情が出
てしまって、とてもそんなことはできません。 だか
ら敢えて過去のストーリーには耳をふさいだんです」
「その一方で、この会社の特徴は何なのだろうと
数カ月掛けて考え抜きました。 単純にAからBへ運
ぶというだけの仕事からは手を引きました。 そんな
ところに我々の強みはない。 商社系の物流会社であ
る我々はやはり商流を意識すべきだと考えました」
──具体的には?
「当社は〇一年に伊藤忠倉庫、航空フォワーダー
のニュージャパンエアサービス、そして海上貨物の伊
藤忠エクスプレスの統合によって誕生した会社です。
国際物流に必要な機能を全部持っている。 ところが
実際には統合から一〇年経っても組織も仕事のやり
方も縦割りのままでした」
「それをまずは自分自身で壊していきました。 荷
主企業の経営層にトップセールスをかけて案件を取っ
てきて、それを社長直轄事業として組織横断チーム
を組んで当たらせる。 それを一年やった上で個人プ
レーでは限界があるので、総勢一〇人のソリューショ
ン部門『グローバル事業・開発本部』を作りました。
その結果、これまでに十数社のグローバル3PL案
件を受託することができました。 当社の業績が伸び
ている最大の理由です」
──グローバル3PL案件とは?
「例えば『LeSportsac』というナイロンバックで有
名なメーカーがありますが、そのグローバルロジスティ
佐々和秀 社長
注目企業 トップが語る強さの秘訣
第 2 位
第 5 位
第 7 位
第 9 位
第15 位
第18 位
31 FEBRUARY 2013
クスは現在、当社が一〇〇%運営しています。 香港
にハブセンターを置いて北米、ハワイ、グアム、サイ
パン、欧州、韓国などの消費地に供給するオペレーショ
ンの運用を当社がパッケージ化して提供しています」
「これに伴いそれまで消費地に置いていた倉庫は
撤収して、売れ行きに合わせてダイレクトに在庫を
供給するようにした結果、トータルコストを約三割
削減することができました。 また現在の生産地はベ
トナムですが、これがカンボジアに移ろうがバングラ
デシュに移ろうが、また販売地域が南米に広がろうが、
全て当社がマネジメントするので荷主は心配しなく
ていい」
──確かに典型的なグローバル3PLですが、通常
荷主はそう簡単に3PLを一本化しようとはしない
ものでは。
「荷主も我々もトップダウンでないとできませんね。
これは我々物流会社側もそうですが、荷主側でもトッ
プと現場では意識に違いがある。 トップ層は物流を
改革したいと考えている。 ところが物流管理部門に
聞くと、それはできないと言う。 おかしいと感じて
いるんです。 そこでトップを説得して、トップダウ
ンでタスクフォースを組んで実務に落とす。 そこで
効果を実証できれば、単純なサービス商品を売るだ
けではなく会社対会社の取り組みが可能になる」
スピード経営でリスクを抑制
──赤字部門を撤収する一方でM&Aには積極的で
すね。
「私が一〇年に経営を引き継いだ当時の社員数は
連結で九〇〇人程度でした。 それが現在は同じ連結
で一一〇〇人。 M&Aなど資本政策によって持ち分
法適用会社になった会社まで含めると四七〇〇人に
なりました。 以前から当社は各国にフォワーディン
グの拠点は構えていた。 しかし、ソリューションを
提供するには国内物流の機能が必要です。 それも新
興国の国内物流を当社が一から立ち上げていたので
は間に合わない。 それよりも現地のパートナーを組
み入れたほうが得策だという判断です」
──しかし、新興国の国内物流で日系企業が黒字を
出すのは至難の業です。
「とは言え、日本国内だけで大きく成長して行け
るとも思えません。 新興国ビジネスのリスクが大き
いのは、その通りです。 その点では経営判断のスピー
ドが重要になる。 進出後二年から三年で黒字化する
ことを一つの目安にしています。 これは無理だと判
断すれば一年目であっても追い銭を払ってでも撤退
する。 それだけ新興国の物流はチャンスもある一方
で変化が激しい」
──昨年四月には伊藤忠の一〇〇%子会社、伊藤
忠物流(中国)への出資にも踏み切りました。 親会
社との役割分担については、どうお考えですか。 中
国物流では伊藤忠はパイオニアの一つです。
「確かに伊藤忠は中国に強い。 物流面でも常に先
手を打ってきました。 しかし、総合商社の物流ビジ
ネスの中核は、やはりインフラ整備などの投資です。
自分でオペレーションをするのは無理がある。 先ほ
ど説明した通り、当社は三年計画で一〇億円の純利
益を出すという目標を掲げてきました。 これは達成
するつもりです。 そして次は二〇億円や三〇億円が
目標になってくる。 しかし、例え五〇億円の利益が
出るようになったとしても総合商社の事業規模から
見れば微々たるものです。 物流事業は我々が請け負い、
伊藤忠は連結経営の中でそれを評価するというかた
ちが現実的だと考えています」
タイ・インド・インドネシアに注力
伊藤忠商事傘下の物流事業会社。 1961年設立。 94年に東証
二部上場(当時の商号はは伊藤忠倉庫)。 2001年に伊藤忠倉庫、
ニュージャパンエアサービス、伊藤忠エクスプレスが合併し、商号
をアイ・ロジスティクスに変更。 09年、伊藤忠商事による株式公
開買付により上場を廃止。 10年、商号を現在の伊藤忠ロジスティ
クスに変更。
中国物流、医薬品物流、自動車物流などに強み。 特に中国で
は約80の物流拠点を構え全土をカバー。 そのネットワークと実績
には定評がある。
金融危機の影響で09年度は業績を落とすも、その後は順調に
回復。 不採算事業からの撤退や組織改編などを断行し、企業体
質を改革・強化したことが奏功。 並行して、タイ、インド、イン
ドネシアなど有力な市場への進出も推進。 輸出入だけで無く、各
国の国内物流に食い込むことが狙い。 これらの市場を中国に次
ぐ柱に育てられるかどうかが、今後の業績を左右することになる。
本誌解説
10 年
3月期
11 年
3月期
12 年
3月期
13 年
3月期
60,000
50,000
40,000
30,000
20,000
10,000
0
1,400
1,200
1,000
800
600
400
200
0
(百万円) 業績推移(連結)
(見通し)
売上高(左軸)
税引後利益(右軸)
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