ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2004年3号
特集
中国の第三者物流 中国物流“御三家”の最新事情

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

MARCH 2004 22 中国物流“御三家”の最新事情 日本通運/山九/日新  日通、山九、日新の3社は俗に中国物流の“御三家”として並び称 される存在だ。
いずれも現在のように中国進出ブームが過熱するはる か以前から、大手荷主の要請に応える形で現地に入り込んで活動を続 けてきた。
ただし、従来は必ずしも利益を期待できるビジネスではなか った。
それが今日、重要な収益源に位置付けを変えている。
日本通運――本部機能を上海に移管 日本通運は二〇〇四年二月、それまで香港に置い ていた中国室の本部機能を上海に移した。
国内物流 の強化が狙いだ。
同社の香港を含めた中国ビジネスの 売上高は二〇〇三年三月期で約四三〇億円だった。
こ れを北京オリンピックの開催される二〇〇八年までに 倍増させる目標を掲げている。
中国本土を舞台とした 3PL事業の展開が目標実現のカギを握っている。
同社は八一年に北京に駐在員事務所を置いて以来、 既に二〇年以上にわたって中国本土の物流ビジネスを 手掛けている。
九二年にはキヤノンを始めとする大手 日系メーカーの進出に合わせて大連に大連日通外運 物流有限公司を設立。
その後も、大手日系荷主の要 請に応じて上海や深 など沿岸部の大都市を中心に 計五二カ所に拠点を設置してきた。
現在、中国地域のグループ会社に勤務する社員数 は香港を除いても二三〇〇人、香港を含めると三二 〇〇人に上る。
日本からの出向者も八〇人を超える。
今後も増員していく計画だ。
日本国内の物流需要の 増加が期待できない現状で、急拡大を続ける中国の 物流は格好の収益源と位置付けられている。
もっとも、現在のように日系企業の中国シフトが過 熱する以前は、日通に限らず日系の物流会社にとって 中国ビジネスは必ずしも旨味の大きな商売ではなかっ た。
とりわけ国内の物流に関しては、元請けとしての 地位を確保するための、やむを得ないサービスという 色合いが濃かった。
一つは事業免許の制約があったからだ。
本来、輸送 や倉庫業務のオペレーション自体は人手を投入すれば いくらでも対応できる。
現地企業を下請けとして利用 してもいい。
しかし、ライセンスを持っていない以上、 請求書が切れない。
荷主から国内物流の相談を受け ても、現地企業を紹介するのが関の山だった。
進出した日系荷主企業のニーズ自体、当初は海外 から材料を輸入して完成品を輸出するという加工貿 易のフォワーディング業務が中心だった。
船会社や航 空会社などの国際輸送キャリアと違い、フォワーディ ング業務は通関関係の手続きのほか、港や空港と工 場を結ぶ物流だけをカバーしていれば済んだ。
「それが九〇年代の半ば頃から、VMI倉庫の運営 を始めとした生産ラインへのジャスト・イン・タイム 納品など、国内のオペレーションや3PL的なサービ スを求められるようになっていった」と、同社海外企 画業部で中国を担当する佐谷浩次長は説明する。
こ うした動きを受けて日通は九四年に倉庫業務を主体 とする日通国際物流(深 )、九七年には珠海日通を 設立している。
しかし、外資系物流業者が国内物流を本格的なプ ロフィットセンターとするには、中国が外資系物流企 業に対する規制を緩和するのを待つ必要があった。
そ れ以前は自由な事業展開が制限されているうえ、例え 現地法人が利益を上げたとしても、それを日本に持ち 帰ることは難しかった。
二〇〇一年の中国のWTO加盟によって潮目が変 わった。
その前年の二〇〇〇年から、?第三次ブー ム〞と呼ばれる日系企業の進出ラッシュが始まってい た。
ちなみに第一次と第二次の進出ブームは、いずれ も文字通りの一時的現象で終わっている。
第一次ブー ムは経済開発区が大連などにできた一九八五年のこと。
円高の対応を迫られた日系メーカーを中心に対中投 資が活発化したが、八九年の天安門事件によって進 出熱は雲散霧消した。
続いて九二年の 小平の「南 第3部 特 集 23 MARCH 2004 巡講話」をきっかけに第二次進出ブームが始まったが、 これもその後のアジア通貨危機などの影響から収束し ている。
しかし今回の第三次ブームは、いずれ行き過 ぎた景気の揺り戻しが避けられないとしても、前の二 回の時のような壊滅的な状況に陥る可能性は少ないと 考えられている。
目の前には拡大する一方の物流需要。
しかも事業 規制は着実に緩和されている。
こうした動きに反応し て日通も動いた。
二〇〇二年に香港に中国室を置く と同時に、中国各地の駐在員事務所を整理。
上海、蘇 州、廈門、珠海の拠点を一〇〇%出資の現地法人と して一気に再編成した。
さらに昨年は国際輸送キャリ アとして日中間の国際輸送にも着手した。
博多〜上 海間を高速RORO船で結ぶ「上海スーパーエクスプ レス」の運行を開始、日中間のドア・ツー・ドア輸送 を一貫して自社で処理する体制を整えた。
海上輸送 の料金で航空貨物並みのスピードという低コスト・高 サービスが売りだ。
第三次ブーム以前の日通の中国物流は、あくまでも 荷主の要請が出発点だった。
それだけに拠点展開にネ ットワークの視点が欠けていたことは否めない。
その ため「当面は国内輸送を始めとした各地のライセンス の取得に動いている。
それによって『点』を『面』に 展開できるようにすることが目標だ。
ただし中国全土 を網羅するのは自社だけでは不可能。
同時に現地企 業との効果的な提携も進めている」と佐谷次長は説 明する。
既に有力な現地物流企業との提携は、外資系企業 による陣取り合戦の様相を呈している。
日通では新た に上海に拠点を移した中国室が、その最前線で指揮 を執ることになる。
自らの主導による中国ビジネスの 戦略的な展開が、いよいよ本格化する。
香港日本通運 大連日通機器製造 大連日通外運物流 上海通運国際物流 日通国際物流(深 ) 世裕管理 天宇客貨運輸服務 日通国際物流 上海億科軟件技術 日通儲運(深 ) 日通国際物流(上海) 蘇州日通国際物流 日通国際物流(廈門) 日通珠海儲運 北京山九北海物流 天津天山国際貨運 大九国際流通 青島山九亜太物流 上海経貿山九儲運 上海経貿山九物流 南京山九長発物流 広州山九物流 深 深九国際物流 山九東源国際 山九空運 山九陸通(珠海保税区) 広州広重山九機械工程 日新運輸倉庫(香港) 上海高信国際物流 常熟日新中外運運輸 江蘇日新外運国際運輸 天津日新国際物流 北京三新冷蔵儲運 広州日新国際物流 1979年6月 1991年2月 1992年7月 1994年6月 1994年7月 1995年10月出資 1995年10月出資 1997年4月 2001年4月 2002年1月 2002年2月 2002年2月 2002年6月 2002年7月 1998年3月 1986年10月 1993年4月 1997年7月 1996年11月 2000年10月 1997年7月 1996年11月 1993年12月 1973年7月 1993年8月 2003年9月 1995年1月 1974年1月 1992年8月 1995年2月 1997年3月 1999年3月 2000年11月 2003年1月 香港 大連 大連 上海 深 香港 北京 珠海 上海 深 上海 蘇州 厦門 珠海 北京 天津 大連 青島 上海 上海 南京 広州 深 香港 香港 珠海 広州 香港 上海 常熟 南京 天津 北京 広州 8,800万HKドル 5億円 255万USドル 400万USドル 7,000万HKドル 500万HKドル 1,660万人民元 4,000万HKドル 25万USドル 500万HKドル 81万USドル 370万USドル 50万USドル 200万HKドル 120万USドル 1,800万人民元 4,800万人民元 600万人民元 296万USドル 500万人民元 830万人民元 1,600万人民元 7500万HKドル 3200万HKドル 300万HKドル 350万HKドル 500万HKドル 730万HKドル 1,000万USドル 112万USドル 100万USドル 35万USドル 280万USドル 35万USドル 100% 20%・日通商事80% 50%・遼寧外運50% 49%・華東外運51% 香港日通100% 香港日通100% 世裕50%・北京金耐威50% 香港日通100% 100% 香港日通100% 香港日通100% 95%・珠海日通5% 香港日通100% 香港日通60%・珠海日通40% 80% 40% 30% 60% 山九Singapore49% 上海経貿儲運80% 60% 35%・山九東源20% 49% 98.75% 山九東源60% 山九東源90% 山九東源50% 100% 25% 50% 50% 100% 15% 100% (略称:香港日通)倉庫71,528?(拠点数8カ所) (大連日通コンテナ)倉庫7,462?(工場を含み4カ所) (大連日通)倉庫19,395?(2カ所) (上海日通)倉庫28,100?(外高橋保税倉庫ほか6カ所) (深セン日通)倉庫31,806?(3カ所) (世裕)倉庫なし、投資管理業務を担当 (天宇)倉庫11,843?(9カ所) (珠海日通)倉庫23,434?(5カ所) (上海e-テクノロジー)倉庫なし、システム開発などを担当 (塩田日通)倉庫5,857?(1カ所) (外高橋ロジスティクス)倉庫8,263?(1カ所) (蘇州日通)倉庫2,412?(1カ所) (厦門日通)倉庫2,841?(1カ所) (珠海保税区日通)倉庫2,400?(1カ所) 倉庫1,4000?、車輌10台 倉庫5,000?、車輌47台 倉庫19,200?、車輌38台 倉庫3,400?、車輌8台 倉庫36,160?、車輌14台 倉庫7,300?、車輌なし 倉庫5,700?、車輌6台  倉庫21,000?、車輌18台 倉庫45,700?、車輌35台 倉庫4,600?、車輌68台 倉庫500?、車輌4台 倉庫5,000?、車輌なし 車輌12台 クレーン車4台 倉庫8,642?(事務所は7カ所) 倉庫2万7,000?〈事務所は上海市内、空港など9カ所) 倉庫8,070? 倉庫8,200? 倉庫2,100?、大連支店 三井物産グループ34%出資、冷凍コンテナ車27台 ●中国物流“御三家”の主な現地法人 現法社名 日本通運 山 九 日 新 設立年月 本社 所在地 資本金 出資比率 主要拠点・設備・注記 MARCH 2004 24 山九――大型投資で拠点網再編 ライバルとなる山九の中国ビジネスも堅調に推移し ている。
二〇〇二年度、同社の中国事業収入は約三 三〇億円だった。
それが間もなく終了する二〇〇三年 度には前年比二〇%増の四〇〇億円を達成する見通 しだ。
二〇〇三年にスタートした中期経営計画では最 終年度の二〇〇五年度に中国事業の収入を四二〇億 円にまで引き上げるという目標を掲げていたが、これ を五〇〇億円に上方修正する方針だという。
現在、山九は中国に十三の現地法人を持つ。
分公 司と呼ばれる支店は八つある。
さらに今年二月には新 たに内陸部の武漢に、六月には長春に事務所を開設 する計画だ。
中国国内に保有する倉庫の合計面積は 約二五万平方メートル。
日系物流企業としてはトップ クラスの規模を誇る。
ただし、既存のネットワークには日通と同様の課題 も残されている。
「これまで当社は顧客企業の中国進 出に合わせて物流拠点を用意してきた。
その結果、規 模の小さい拠点が中国各地に点在するなど非効率な 状態になっている。
今後はこれをきちんと整理してい きたい」と姫田正規中国総代表は説明する。
上海地区ではすでに拠点の統廃合に乗り出している。
現在、日系企業の進出が相次ぐ上海・外高橋保税区 に程近い「高東工業園区」内に大型物流センターの 建設を進めている。
投資額は約一〇億円。
敷地面積 約四万平方メートル、延べ床面積二万六〇〇〇平方 メートル。
二階建ての倉庫二棟で形成される新センタ ーは今年五月に完成する予定だ(二五頁写真参照)。
山九では上海地区にエアコンやプラズマテレビとい った家電製品や化学品を一時保管する倉庫、日系通 販会社向けアパレル製品の検品センターなど計五カ所 の物流センターを設置してきた。
しかし、これを今年 度中には新センターを中核拠点にして二〜三カ所程 度に集約するという。
今後、上海地区だけではなく、北京や深 といった 地域でも同じように既存拠点の統廃合を進めていく計 画だ。
一連の取り組みによって同社では倉庫賃貸料な どのコストを大幅に削減。
オペレーションの一元管理 体制を確立する。
同社はこれまで中国での大規模な設備投資を極力 控えてきた。
センターは借庫が中心だった。
しかしこ こにきて自社投資による大型センターの建設に踏み切 ったのは、中国での物流ビジネスが軌道に乗り、さら に今後も成長が見込めると判断したためだ。
「日系の物流企業の多くはこれまで、中国にはどう 転ぶかわからないというカントリーリスクがあるとい う理由で、投資を手控えていた感があった。
しかし、 少なくとも北京オリンピックが開催される二〇〇八年 まで中国では好景気が続く。
そのため各社とも中国国 内の物流ネットワーク再構築を急いでいる」と北川恭 一中国事業戦略室長は分析する。
今年十二月、中国ではWTO加盟に伴う規制緩和 の一環として外資一〇〇%出資による物流会社の設 立が認められる。
これを受けて日系物流企業の間では 拠点の統廃合からさらに一歩踏み込んで、合弁相手 との関係を清算したうえで地域ごとに設けている現地 法人を一本化しようという動きが出始めている。
統合 が進めば、各法人で重複して発生している間接業務の 簡素化などが期待できるからだ。
ところが現在のところ、山九では現地法人の統廃合 にはさほど積極的ではない。
将来に向けての一つの選 択肢であることは確かだが、急ぐ必要はないという判 日本通運の佐谷宏海外 企画部中国担当次長 山九の姫田正規 中国総代表 山九の北川恭一 中国事業戦略室長 25 MARCH 2004 断だ。
中国の現地企業との合弁解消に関してもパート ナーを失うことで生じるマイナス要素のほうをむしろ 懸念している。
例えば、「中央政府や市政府にライセンス(免許) の取得を申請する際に、現地のパートナーはとても頼 りになる。
外国資本一〇〇%の会社が同じようなアプ ローチをした場合とは比べものにならないくらいレス ポンスがいい。
合弁であることのこうしたメリットを 勘案すると、規制緩和=即独資というわけにはいかな い」と姫田中国総代表は説明する。
日新――シノトランスとの関係強化 歴史的に見ると?御三家〞の中でも最初に中国事 業に乗り出したのが日新だ。
日中国交正常化よりもは るか前、一九五五年に東京で開催された「中国展覧 会」の関連物資を輸送したのがきっかけだった。
もっ とも同社が中国への本格進出を開始したのは九〇年 代に入ってから。
現在では中国国内に七つの現地法 人を用意。
沿岸部の大都市圏を中心に約二〇カ所の 拠点を展開している。
二〇〇二年度の国際物流事業の売上高は約一〇二 〇億円だった。
このうちの一〇%を中国関連事業が 占めている。
中国ビジネスの収入は年々拡大を続けて おり、「日中貿易の伸び率とほぼ同じで、年二〇%台 の伸びで推移している」(細井定博中国部次長)とい う。
中国に生産拠点を移管した日系組み立てメーカー に日本から部品を供給する。
反対に中国で生産された 製品を日本に輸出する。
日新の中国事業はこれまで、 こうした日中間の国際輸送がメーンだった。
海運、航 空、トラック輸送、通関、そして倉庫での保管といっ た総合的な物流サービスを顧客企業に提供してきた。
その一方でここ数年は中国国内の物流ネットワーク の拡充にも力を注いできた。
急速な経済発展で中国の 生活水準は従来に比べ格段に向上している。
それに伴 い、中国国内の物流の需要が高まっているためだ。
具 体的には国内のトラック輸送網を強化した。
北京や上 海といった大都市間、さらに大都市と内陸の地方都 市とを結ぶトラックの定期便を運行している。
二〇〇〇年には日系物流企業として初めて中国で の冷凍・冷蔵輸送事業にも参入した。
三井物産や中 国の国有企業など五社の共同出資で専門会社を設立。
北京を中心に大都市圏を結ぶコールドチェーンを構築 することに成功した。
現在、中国各地に店舗を展開す るファーストフードチェーン向けに物流サービスを提 供している。
さらに昨年二月には中国での合弁相手の一社で、中 国最大手の物流企業であるシノトランスに一億二〇 〇〇万円を出資した。
日新とシノトランスは五五年の 「中国展覧会」以来の付き合いで、八〇年代には香港 経由のドア・ツー・ドアサービスを共同で展開するな ど、もともと関係が深かった。
今回、日新はシノトラ ンスが発行する新株を引き受けることで協力関係をさ らに強化。
シノトランスが中国国内に展開する三〇〇 以上の拠点を活用することで国内配送網を充実させ た。
今後はこうした現地企業とのアライアンスと並行し て、自社投資による拠点の新設も進めて中国国内の ネットワークをさらに拡充していく方針だ。
細井次長 は「沿岸部の拠点整備はたいぶ落ち着いてきた。
とく にこれからは内陸部でのネットワークづくりが課題に なっていきそうだ。
中国ビジネスの主戦場は国際輸送 から国内輸送へと移っていく」と見ている。
特 集 山九は今年5月の完成を目指し、新センターの建設を急ピッチで進めている 山九の通販向け検品センター山九の家電製品用の倉庫

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