ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2013年2号
現場改善
第120回 食材メーカーM社のBCP向け拠点分散

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

81  FEBRUARY 2013 主要荷主の要請で拠点を分散  
夕劼惑商約四五億円の食材メーカーであ る。
大手食品メーカー、卸、外食チェーンなど へ食品原料や半製品を納めている。
製品アイテ ム数は約二三〇。
協力工場は持たず、関東に置 く自社工場で一〇〇%自社生産している。
物流 拠点は工場併設の倉庫のほか、外部倉庫一棟と いう体制であった。
 
夕劼呂海譴泙濃埔譽法璽困帽腓辰神宿奮発 に地道に取り組み、堅実な経営を続けてきた。
そこに一つの転機が訪れた。
主要取引先の大手 メーカーL社が「BCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)」の一環で、既存の関東 工場とは別に関西に第二工場を建設することに なった。
これに伴いM社に対して西日本への供 給体制を整えて欲しいとの要請が入った。
 新たに物流拠点を設置すれば在庫の分散や固 定費負担の増加が避けられないが、M社として は何としてもL社の要請に応える必要があった。
また、それ以前から売り上げ全体の約一八%は 西日本向けであったため、この機会に西日本の 物流インフラを整備して、リードタイム短縮な どでサービスレベルを向上することで、L社以 外の得意先に対する営業強化も期待したいとこ ろであった。
 とはいえ、無駄な投資やコストアップは抑え たい。
そんなことから我々日本ロジファクトリ ー(NLF)にお声が掛かり、M社のインフラ 整備をサポートすることになった。
 一般に原料メーカーや食品関連メーカー、と りわけ商品単価の安い飲料品やパンメーカーな どは消費地の近隣に工場を設けることが多い。
?地産地消?と鮮度を重視するというだけでな く、そうしなければ運賃コストを吸収できない からだ。
 しかし、M社の場合は関東工場一カ所で西 日本を始めとする遠隔地にも対応していた。
確 認のためM社の製品一パレット当たりの売価を 聞き出し、荷姿を確認してコスト分析を行って みた。
するとなるほど遠隔地への出荷でも運賃 を吸収できている。
それだけM社の取り扱って いる製品は付加価値が高かった。
このことから、 新たに関西に拠点を置くコストを、輸送距離の 短縮による支払い運賃の削減で相殺するという やり方は期待できそうになかった。
 ところが、現場視察を行っていて、おかしな ことに気が付いた。
在庫の分散である。
事例で学ぶ 現場改善 日本ロジファクトリー 青木正一 代表  主要顧客がリスク分散を目的に関西に第二工場を新設する ことになった。
それに伴いサプライヤーも物流拠点を整備す るよう要請された。
断ることはできない。
しかし、何も手 を打たなければ在庫増とコストアップを招いてしまう。
ピン チをチャンスに変えるための取り組みが始まった。
食材メーカーM社のBCP向け拠点分散 第120 回 FEBRUARY 2013  82  外部倉庫を借りているにも関わらず、工場併 設の倉庫には空きが多く見受けられる。
その物 量を確認したところ、現状の工場在庫を一〇% 程度削減できれば計算上は外部倉庫から撤収で きることが分かった。
外部倉庫費用と横持ち費 用が不要になる。
瓢箪から駒のように、有益な テーマを発見できた。
 そこで西日本インフラの整備と並んで、関東 の拠点集約もプロジェクトのテーマの中に組み 込むことになった。
勝算は十分あった。
万が一、 在庫の一〇%削減ができず、工場倉庫がオーバ ーフローになった場合には、新設する西日本拠 点を利用すればいい。
 こうしてプロジェクトが正式にカットオーバー した。
本社からは、業務、情報システム、営業 のそれぞれ課長クラス、工場からは工場長と資 材購買が一人ずつ、計五人がメンバーに選ばれ た。
このチームで実務を回し、必要に応じて責 任者のS専務に意思決定を仰ぐという運営スタ イルである。
 我々NLFはメンバーと共に以下のテーマをそ れぞれ検証し、具体的な施策を打ち出してアク ションプランに落とし込むことが求められた。
?西日本拠点の立地と規模の設定 ?保管倉庫スペックの決定 ?協力物流会社の選定 ?工場併設倉庫の改善 ?適正在庫量の設定 ?外部倉庫と横持ち運送会社の解約準備  「?西日本拠点の立地と規模の設定」では、ま ず立地について「着地点分析」を行った。
各納 品先の場所、出荷頻度、物量、そして納入金 額(取引額)を地図上にマッピングした。
そこ から機械的に物流上の最適立地を弾き出すこと は可能だが、それだけでは不十分だ。
今後M社 がどの得意先、どのエリアを強化していくのか を考慮しなければならない。
 営業部門の方針、戦略を確認する必要があっ た。
しかし、PJメンバーに参加している営業 課長にそれを尋ねたところ、具体的な計画やビ ジョンは未定というより、考えてもいなかった ことだったらしく、戸惑った様子であった。
そ こで話をいったん営業部門に持ち帰って部内で 協議し、次回のプロジェクト会議で報告しても らうことにした。
 一方、西日本拠点の規模については、後の 「適正在庫量の設定」と連動する事項ではある が、時間的な制約から今回のプロジェクトでは 各テーマを同時並行で進める必要があったため、 暫定的ながら作業を進めることにした。
 西日本拠点で取り扱うアイテム数を確認し、納 品リードタイムから西日本の安全在庫を一〇日 分に定めた。
ただし、関東工場からの補充輸送 を一〇トン車満載にできるだけのロットを確保 するにはプラス五日分が必要であった。
またL 社分の在庫に関してはBCP対策のため、さら に五日分を上乗せした。
 これらを計算すると西日本拠点にはパレット 二四〇枚分の保管スペースが必要であった。
保 管方法は平積みだと二段積み、重量ラックでは 三段積みできるため、重量ラックの有無によっ て実際の坪数は変わってくることになる。
空いたスペースに在庫が散在  「?保管倉庫スペックの決定」では誤算があっ た。
現状から常温保管と思いきや、よくよく製 品特性を調べてみると、品質維持のためには定 温倉庫を使用した方が良いことが分かった。
定 温設備となると賃借する施設の選択肢がぐっと 狭まってしまう。
 しかも、M社の製品は一部に「匂いが残る」 ものがあった。
他の製品と保管場所や輸送を 分ける必要があるため、取り扱いがやっかいだ。
協力物流会社選びのハードルが高くなってしま った。
我々は頭を抱えた。
 事前に社内で手が打てることはないか、プロ ジェクトチームで検討した。
それまで「匂いモ ノ」は紙袋の上にビニールラップを巻いていた が、ラップはかなり薄手であった。
また製品を ラップで完全に覆うのではなく、品質維持と荷 崩れ防止のため一部が露出するかたちで工場か ら出荷していた。
 これを改め、若干コストアップとはなったが、 一回り厚手のビニールラップを使うことにして、 荷物の上部に汗かき防止のための穴を空けた だけで他は全てラップを巻きつけるようにした。
これによって大幅に匂いを抑えることができた。
それでも、長期保管となれば、匂いが他の製品 に移る可能性も否定できなかったため、在庫回 転率を高めるように適正在庫水準の設定を行っ た。
83  FEBRUARY 2013  「?協力物流会社の選定」では、既存の協力 物流会社と、先ほどの着地点分析から導き出し た最適地に拠点を持つ、筆者とは旧知の物流会 社の二社を候補とした。
 敢えてコンペは避けた。
物量が少ないことに 加え、不特定多数の物流会社に声を掛けてコン ペを開催しているほどの時間的余裕が無かった ためだ。
L社にBCP対策を要請された時点で、 実施まで四カ月しかなかった。
それまでにM社 は新拠点を立ち上げ、トライアルを終えておく 必要があった。
 「?工場併設倉庫の改善」では、庫内の整理整 頓、レイアウト、ロケーションを見直した。
関東 工場は長年にわたり継ぎ足しの増床を繰り返し てきたことから、場内が複雑に入り組んでいた。
 生産ラインこそ区切られているが、それ以外 は空いたスペースに在庫が散在している状態だ った。
手狭になっていることも理由の一つでは あったが、出来上がった製品を空いているとこ ろに取りあえず置くというやり方が常態化して いた。
どこに何を置くという決まりがない。
 そこでまず、生産計画、出荷スケジュールと 連動するように「先入れ・先出し」の動線を確 保し、そこから出荷頻度を考慮したゾーニング (枠取り)、レイアウト(ネステナーとラックの配 置)、そしてロケーション(棚番地)を整えてい った。
 動線となる通路を確保した分、保管面積は縮 小したが、実行段階で不要になった金型や古く なったパレット、死蔵在庫など多くの廃棄物が 出てきた。
さらに整理整頓を行ったため、結果 的に保管面積はプラスマイナスゼロに収まった。
 このスペースに外部倉庫分の在庫を取り込め るかが問題であった。
結論から言えば、上手く いった。
三パレット分だけはみ出したが、想定 内のオーバーフローであり、その後に予定して いる在庫削減と西日本拠点の活用によって十分 吸収できる量だった。
生産ロットを修正して在庫を削減  「?適正在庫量の設定」では、改善の対象が 生産管理にまで及ぶことになった。
工場には計 七つの生産ラインがあり、それらは大きく少量 生産品と大量生産品の二つに区分できた。
各ラ インはそれぞれ生産効率に基づいたロットで生 産していたが、そのために回転率の低いCラン ク製品では三カ月以上も在庫を抱えているもの があった。
 そこでB、Cランク商品についてアイテム別 の適正在庫量を改めて設定し直した。
生産ライ ンの段取り替えには、二度の洗浄と乾燥、殺菌 が必要で平均十二時間を要する。
それを前提条 件として、生産効率と在庫コストのトレードオ フをアイテム毎にチェックした。
 その結果、約一八〇アイテムについて、現状 よりも生産ロットを小さくした方がコストメリ ットのあることが分かった。
しかし、最終的に 生産ロットを小さくしたのは六五アイテムに限 られた。
これは工場側の品質保証部から、異物 や他成分の混入リスクについて訴えがあったた めである。
 それでも六五アイテムについて少ロット生産 を実現できたのは大きなメリットであった。
こ れによって全体では四〇日を超えていた在庫が 二七日まで大幅に削減されたのである。
 「?外部倉庫と横持ち運送会社の解約準備」 は、大きな問題もなく約定通りの解約を実施で きた。
既存の外部倉庫会社には西日本拠点の提 案を要請したが、足回り(配送)が確保できな いという理由から辞退してきた。
これによって 必然的にもう一つの候補会社がパートナーに決 まった。
 こうしてM社は顧客の要請によって、つまり ?外圧?によって拠点分散を強いられたわけだが、 そのことが在庫削減のきっかけとなり、物流力 のアップに繋がった。
しかも、西日本エリアに おける納品リードタイムの短縮によって、M社 の売上高は約十二%も増加したのである。
 顧客からの無理難題とも思えるような?外 圧?も、必ずしもマイナスに出るとは限らない。
それどころか改革、改善の起爆剤になる得るこ とを筆者は実感したのであった。
あおき・しょういち  1964年生まれ。
京都産業大学経済学部卒 業。
大手運送業者のセールスドライバーを経 て、89年に船井総合研究所入社。
物流開発 チーム・トラックチームチーフを務める。
96 年、独立。
日本ロジファクトリーを設立し代 表に就任。
現在に至る。
主な著書に『経営 のテコ入れは物流改善から』(明日香出版社)、 『物流のしくみ』(同文館出版)などがある。
HP:http://www.nlf.co.jp/ e-mail:info@nlf.co.jp PROFILE

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