ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2013年2号
SOLE
「サプライチェーンAPS」による生産管理システムの改革

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

SOLE 日本支部フォーラムの報告 The International Society of Logistics FEBRUARY 2013  92  各プロセスの計画や実績データを把 握できるようにするだけでは「見え る化」は不十分だ。
全体最適化に導 く施策を判断するにはサプライチェー ンを構成する各プロセスの?繋がり? まで見える化する必要がある。
その 具体的な手法が「サプライチェーンA PS」だ。
(構造計画研究所 製造ビジネスソリ ューション部 野本真輔) SCM改革の要は生産管理  製造業のグローバルサプライチェー ン再構築は、生産管理システムの改 革が鍵を握っている。
大量の製品在 庫に頼らなくとも需要の変動に追随 できる、フレキシブルなサプライチェ ーンを構築するには、その要請に応え られるように、生産管理業務も合わ せて改革する必要がある。
 しかし、その実現は容易ではない。
当初の目的を果たすことができなかっ た改革プロジェクトがこれまでに多々 報告されている。
さまざまな原因が あるが、コンピュータシステムの問題 と並んで、組織や人の問題も指摘さ れている 【1】 。
 中でも最も根深い問題が組織間の 利害対立である。
一般に営業部門は 在庫の欠品を極端に嫌がる。
生産部 門は大ロット生産を主張し、物流部 門は大ロット輸送を希望する。
単純 に折り合いを付けようとすれば、在 庫を積み増すばかりという事態にな ってしまう。
 
咤達猷革に対する共通の目的意 識を持たぬまま、システム化を図れば、 おのずと困難が待ち受けている。
筆 者自身、要件が定められずにシステム が完成しないケースから、全ての要求 を受け入れた結果、膨大なカスタマイ ズが発生するケースまで、これまでに 数多くの失敗事例を見聞きしてきた。
 カスタマイズ費用が大幅に膨れ上が っても、成果が上がるのであればま だ良い。
しかし実際には、システムが 複雑化し過ぎて正常に機能しないケー スや、苦労して稼働させた結果、元 通りのサプライチェーンが再現されて、 在庫削減もリードタイム短縮も実現し なかったというケースさえある。
 こうした問題の解決策を、リーダ ーシップや、業務理解、トップのコ ミットメントに求める論調は多く見受 けられる。
それはそれで重要ではあ るが、本稿では別の面からもう一歩 掘り下げて、解決の糸口を探りたい。
キーワードは相互理解と参画意識  「強力なリーダーシップと全体最適 な計画を作成するシステム」という西 洋医学的な直接的処方と双璧を成す のが、「見える化」による業務改革で あろう。
 単に「現状」や「誰かが決めた結 果」を見せるだけではなく、各自の 意思決定を受け入れ、その結果がサ プライチェーン全体にどのような影響 を与えるのかを、見える化によって理 解できるようにすることにより、お のずと調整と改善が進むことを期待 する方法である。
 部門間の利害対立は、わがままの ぶつかり合いではなく、他部門の状 況への無知が原因であり、相互理解 が進めば自律的に調整が進むという 立場である。
部門間の相互理解と参 画意識を醸成して全体のベクトル合わ せを徐々に進めるという、性善説に 基づく漢方医学的な穏やかな方法と 言える。
 理想は「見える化」を実現し、そ の上で問題点を「最適化」すること である。
そのために、ほとんどの改 革プロジェクトおよび市販のパッケー ジソフトウェアが、その両方を標榜し ている。
見える化の阻害要因  それでは、見える化を阻害してい る要因は何なのであろうか。
もちろ ん、SCMはそれ自体が膨大で複雑 な情報を含むので、見えるようにす るためにはそれなりの工夫が必要であ るが、それが根本原因ではない。
筆 者は標準的なSCMの業務フローに原 因があると考えている。
 図1に、標準的なSCMの業務フ ローを示した。
企業によって多少の相 違はあろうが、繰り返し量産型製造 業のSCMとしては定番の業務フロー である。
 まず営業部門が主体となって販売 「サプライチェーンAPS」による 生産管理システムの改革 図1 SCM の一般的手順 製品在庫 販売計画(需要予測) 需要調整(PSI / SCPなど) MRP(資材所要量計画) 生産日程計画(負荷調整) 実績管理 生産要求 在庫管理 93  FEBRUARY 2013 成までの「道のり」がどうなってい るのか?──そのようなことが把握 できれば、相当に「見える」感じが するであろう。
 伝統的な製番管理の時代には、こ うした?繋がり?は完全に見えていた。
ところが効率的な大量生産のための 管理方式に移行して、ステップ・バ イ・ステップでプロセスを処理し、数 量と期日の情報のみを次のプロセスに 渡すようになったことで、繋がりが 見えなくなってしまった。
 出荷実績や進捗実績、在庫などは 管理されているものの、計画との差 異が、繋がりにどのように影響を与 えているのかを分析することが容易 ではなくなってしまったのである。
繋がり情報中心の管理  筆者らは、図1のSCM手順に対 し、繋がり情報を軸に据えた管理方 法として「サプライチェーンAPS (Advanced Planning System)」を提 唱している。
販売計画を契機に、調 達、在庫、物流、日程計画を一元的 に計画・管理する手法である。
 サプライチェーンAPSはSCMと 生産管理のシステムであるから、計 画の立案が主たる機能であると思わ れるかもしれないが、そうではない。
その最も重要な機能は、「繋がりの管 理」にある。
 上記のプロセスは、一つずつステッ プを踏んで実施される。
前のプロセス の結果を受け取り、コンピューターシ ステムを使うか、あるいは人が表計算 ソフトでバッチ的に処理をして、次の プロセスへ結果を受け渡す。
 この状況で、何が「見えていない」 のか、あるいは何が「見たい」ので あろうか。
 出荷計画、物流計画、在庫計画、 生産計画、調達計画‥‥と、全ての 計画は数値化され、表やグラフで示す ことができる。
しかし、それらの膨 大な情報を、いくら分かりやすく表 やグラフで表現しても「見えた」感じ はしないのではないだろうか。
 「見えた」感じがするためには、サ プライチェーンの繋がりが理解できて、 現在までの進捗と未来の計画に対す る影響が見えなければならない。
 例えば、今日の生産指示が、その 後どのような日程や経路で、どの顧 客に届けられるのかといった「道の り」を見える化できれば、計画の必 然性ばかりでなく、遅延の影響など が容易に理解できる。
今日生産して も、明日から一カ月間倉庫で寝かさ れるだけであることが分かれば、後 回しにしても構わないと判断できる。
 あるいは、来週の出荷に必要な製 品がどこまで進んでいるのか?──現 在、生産工程のどの辺りにいて、完 計画を決める。
この時、販売計画の 中には、顧客からの注文と予測需要 が含まれる。
 次に、製品在庫を見ながら需給調 整を行う。
このプロセスは生産調整が 主の場合には「PSI(Production, Sales, Inventory)」、物流やデポ在庫 が主の場合には「SCP(サプライチ ェーン計画)」と呼ばれたりする。
 需給調整の結果が、工場に生産要 求として送られる。
工場はそれに基 づいて資材所要量計画(MRP)と、 生産日程計画を立案する。
そして調 達指示や作業指示が生産計画に基づ いて発せられる。
 最後にこれらの実績を管理し、そ れを次回の需給調整にフィードバック することでPDCAサイクルが完結す る。
 社内の各部門は、概ねこのプロセ スに則した役割と管理責任を担ってい る。
従って一般的な生産管理システ ムも、このプロセスに沿って構築され ている。
すなわち、需要予測・販売 管理モジュール、PSI機能、MR Pモジュール、スケジューラー(日程 計画)、調達管理・作業進捗管理・ 出荷管理モジュール、在庫管理モジ ュールなどの機能が有し、それらのデ ータベースを連結している。
図2 サプライチェーンBOM オーダー 製品デポ在庫 製品工場在庫 運搬 組立作業 中間品部品A 外注 資材 調達 調達 部品B 素材 調達 加工作業 組立ライン 40分/個 リードタイム1日 週2 便 月・木 旋盤 20分/個 段取り 30分 50 個ロット  そのためにサプライチェーンAP Sでは、調達から生産、物流を経 て、製品が顧客の手に渡るまでのサ プライチェーン全体の道のりを表現す る「サプライチェーンBOM(Bill Of Material)」を用いる。
その例を図2 に示す。
 「繋がりの管理」とは、現在の在庫 と、現在計画されている調達・生産 (外注含む)・物流・販売などの、全 てのサプライチェーン計画を、サプラ イチェーンBOMに照らして、先入れ 先出しや優先度に基づいて、繋がり の紐付けを行うことである。
 サプライチェーンBOMをツールと して利用することで、サプライチェー ン上のすべての紐のつながりを解析し、 現在在庫と計画に基づくトレーサビリ ティー情報を見ることができる。
 需要に対し供給が不足し、欠品と なっている場合には、下流側から上 流に遡るトレースバックの紐が途中で 途切れた状態となる。
反対に供給過 剰の場合には、上流側から下流に向 かうトレースフォワードの紐が途切れ た状態となる。
 繋がり情報は常時監視しておく必 要がある。
そのため情報が変化する たびに即座に紐を付け替える「ダイナ ミックペギング」を実施する 【2】 。
例 えば、飛び込みの需要により計画よ りも多くの出荷があった場合、先入 れ先出しで全ての紐を付け直す。
そ れによって在庫推移の変化と、欠品 時期や欠品となるオーダーが明らかと なる。
 情報の変化は出荷ばかりではない。
調達・生産・物流における全ての実 績が報告されれば即座にその結果に 基づく紐の付け替えを行う。
計画の 修正も情報の変化の一つである。
生 産部門が、何らかの都合で日程計画 を変更した場合にも紐の付け替えを行 い、繋がりをチェックする。
 サプライチェーンAPSのもう一つ の機能は、サプライチェーンBOMを 使って紐の途切れたところを発見し、 紐を紡ぎ直すように計画を修正するこ とである。
 顧客のオーダーが増加すれば、製 品が不足して紐が切れる。
これを紡 ぐために生産が計画されると今度は 子部品が不足して紐が切れる。
この 繰り返しにより、調達までサプライチ ェーン全体の計画を修正する。
 反対に顧客のオーダーが減少すれば、 製品の余剰という形で紐が切れる。
こ れを紡ぐために、いくつかの生産計 画をキャンセルすると、子部品が余剰 となり、紐が切れる。
この場合にも先 程と同様に、サプライチェーン全体の 計画を修正していく。
その際に、設 備の負荷や、物流のリードタイムなど の制約条件を考慮して計画を修正す ることで、実行可能な計画が常に維 持される。
大きく変わる業務フロー  サプライチェーンAPSの業務フロ ーを図3に示す。
図1の業務フローと 見比べてみれば、大きく違うことが 分かるだろう。
 サプライチェーンAPSは、現在 の計画に基づいて、各部署に指示を 送る。
各部署では、指示だけではな く、サプライチェーンの繋がりや在庫 推移まで確認できるので、現場の事 情に合わせて各部門で計画を修正でき る。
そして計画の修正によって、す ぐに紐が付け変わるため、サプライチ ェーンへの影響を確認しながら、より 適切な計画を検討していく。
 それでも紐が切れてしまった場合に は、上流・下流の監督者とコミュニ ケーションを取り、調整をする必要が 生じる。
このようなコミュニケーショ ンの活性化が、上下流に対する理解 を深めるためには重要であり、相互 理解の基礎となる。
 また実績の報告も、サプライチェー ンAPSに向かって行われる。
実績 の報告が行われた場合も、繋がりの 紐が付け変わる。
 サプライチェーンAPSにおいては 計画立案のプロセスが従来とは大きく 違う。
営業部門が顧客のオーダーな どを取りまとめて、販売計画を立案 するところまでは、これまでと同様 である。
しかし、そこからステップ・ バイ・ステップで各機能を計画するの ではなく、サプライチェーン上で紐の 切れたところ全てを、サプライチェー ンBOMに沿って、一元的に一括で 修正する。
 先ほど各部署が適宜修正すると説 明しているので、ここで矛盾を感じ る方もいるかも知れない。
これにつ いて若干補足しておく。
 新たな販売計画が大量にインプット された場合など、紐が切れていると ころが同時に多数発生している場合 には、その発見と紡ぎ直しはコンピュ ーターに任せた方が早い。
しかし、現 場が何らかのこだわりを持っている部 FEBRUARY 2013  94 図3 サプライチェーンAPS 販売計画(需要予測) サプライチェーンAPS 繋がりの管理 在庫管理・在庫引当・在庫推移 物流計画・日程計画・調達計画 調達外注生産物流出荷 修正実績 指示 修正実績 指示 修正実績 指示 修正実績 指示 修正実績 指示 分の計画は、現場を一番知っている 人が立案したほうが効果的であるこ とが多い。
 実は計画はシステムが一括して修正 しようが、各部署で人が修正しよう が、同じことである。
要するにフォワ ード方向とバックワード方向の双方に 紐が切れたところが無くなればよい のである。
導入のプロセス  最後に、サプライチェーンAPSの 導入プロセスについて説明しておこう。
 システムの選定、導入意思決定、 マスター整備などのプロセスは、サプ ライチェーンAPSに限らず、どんな システムを導入する場合でも共通して いる。
何らかの新しいシステムを導入 する場合には、システムの機能や性能 を十分に確認し、プロトタイピングな どを行ってFit & Gapを確認す る必要があり、導入後はマスターデー タを整備しなければならない。
 気を付けなければならないのは、運 用開始の時である。
全く新たに工場 を立ち上げる場合ならともかく、そ れまで何らかの方法で管理をしてい た工場に対し、いきなり運用を変え るのは危険である。
特に、図1に示 すような業務プロセスから、図3に示 す業務プロセスに転換する場合には慎 重にソフトランディングを期すべきだ。
 最初は、今までの方法で計画を作 成し、それを新システムに入力して紐 の繋がり具合を確認するところから 始めることを薦める。
計画と実績を 入力し、PDCAのサイクルが一巡 するようになってから、紐の切れてい るところについて、上下流の責任者 同士でコミュニケーションを取りなが ら、計画の修正を行い、新しい業務 フローについて理解を深めていくのが 良い。
この過程で、サプライチェーン の繋がりに対する理解と、計画への 参画意識が醸成される。
 最終的には、修正工数を削減する ためにシステムに計画修正を任せるこ とになるが、あくまで「現場を熟知 した人」が主体で管理を行い、全員 参加型のSCM構築を目指すべきで ある。
参考文献 【1】 生き残るための生産管理マネジメント  K.N.Mckay 著、中野一夫、西岡靖之 監 訳 日系BP社 二〇〇五 【2】 納期見積もりと生産スケジューリング  黒田充 著  朝倉書店 二〇一一 95  FEBRUARY 2013 ※ S O L E(The International Society of Logistics: 国際ロジスティクス学会) は一 九六〇年代に設立されたロジスティクス団体。
米国に本部を置き、会員は五一カ国・三〇〇 〇〜三五〇〇人に及ぶ。
日本支部では毎月 「フォーラム」を開催し、講演、研究発表、現 場見学などを通じてロジスティクス・マネジメ ントに関する活発な意見交換、議論を行って いる。
次回フォーラムのお知らせ  次回フォーラムは2013年2月13 日(水)、東京・浜松町の商工会館6Fで 開催する。
グローバルサプライチェーン 研究会による研究発表などが予定され ている。
このフォーラムは年間計画に 基づいて運営しているが、単月のみの参 加も可能。
一回の参加費は6000円。
お問い合わせは事務局(s-sogabe@ mbb.nifty.ne.jp)まで。

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