2013年3月号
ケース
ケース
米ブリンカー・インターナショナル 欧米SCM会議㉔ 外食チェーンのSCM専門家を役員に招き改革リーダーに据え調達・物流コスト削減
MARCH 2013 46
売上減少にフランチャイズ化で対応
米ブリンカー・インターナショナルはメキシ
コ料理の「チリーズ・グリル&バー(Chilli's
Grill & Bar)」やイタリア料理の「マジアー
ノズ・リトル・イタリー(Maggiano's Little
Italy)」などのレストランチェーンを、アメリ
カを中心に約一五〇〇店展開しています。
当社の歴史は一九七五年に起業家のラリ ー・ラビン氏がテキサス州ダラスにチリーズ の一号店を出店した時に始まります。
その後、 八三年にラビン氏はチェーン店をサラダバーの 発案者として知られるノーマン・ブリンカー 氏に売却し、現在の当社の基礎が出来上がり ます。
そして八九年にニューヨーク証券取引 所に上場しました。
私自身はカリフォルニア出身で、カリフォ ルニア大学で経済学の学士号を取った後、南 カリフォルニア大学でMBAを取得しました。
卒業後は製薬会社のバクスターに入社し、購 買部門や情報技術部門などで働きました。
その経験を基に八〇年代からは一貫してレ ストランチェーンのサプライチェーン改革に携 わってきました。
最初はファミリーレストラン の「デニーズ」、次はハンバーガーチェーンの 「カールズ・ジュニア(Carl's Jr.)」、他にも中 華レストランの「パンダ・エクスプレス」を運 営するパンダ・マネジメントなどでSCMを 実践し、ノウハウと実績を積み上げてきまし た。
二〇〇〇年に入ってからは、ファミリーレ ストランの「アップルビー」で上級副社長とし て経営に参画するようになりました。
アップ ルビーは〇七年に同業の「IHOP(アイホ ップ)」を傘下に持つダイナエクイティに買収 されますが、そのダイナエクイティでも、私 は上級副社長を務めました。
そして一一年にそろそろ引退しようと考え ダイナエクイティを退職しました。
しかしそ の決断は一週間と持ちませんでした。
私の退 職を知ったブリンカー・インターナショナルの ダッグ・ブルックスCEO(最高経営責任者) から、SCMの改革に一役買ってほしいとい う声が掛かったのです。
今から七カ月前のこ とになります。
私がブルックスCEOに入社の条件として提 リーマンショック後に売上高が大幅に落ち込ん だ。
これを機に直営店中心からフランチャイズ展 開に比重を移し、収益構造を改革した。
さらに 外食チェーンのSCM専門家であるデービッド・ パーズリー氏を上級副社長としてスカウトし、大 規模なサプライチェーン改革に着手した。
欧米SCM会議㉔ 米ブリンカー・インターナショナル 外食チェーンのSCM専門家を役員に招き 改革リーダーに据え調達・物流コスト削減 図1 ブリンカーの業績推移 (単位:1000ドル) 08 年度 09 年度 10 年度 11 年度 12 年度 160,000 120,000 80,000 40,000 0 4,000,000 3,500,000 3,000,000 2,500,000 2,000,000 2,000 1,800 1,600 1,400 1,200 1,000 800 600 400 200 0 売上高(左軸) 最終利益(左軸) 総店舗数(右軸) 1,888 1,689 1,550 1,579 1,581 3,860,921 2,820,722 2,858,498 2,761,386 3,276,362 79,166 137,704 141,060 151,232 51,722 47 MARCH 2013 示したのは、役員の一人として経営に参画さ せて欲しいというものでした。
これまでの体 験からSCMを改革するには、私自身が経営 陣の一人であること、そして他の経営陣から のバックアップが必要であることを痛感してい ました。
まずは、その一つである経営陣とし て参加したいという希望を提示し、それがか なえられました。
ブリンカーはリーマンショック前の〇七年 度に過去最高の四〇億ドル以上の売上高を 計上しました。
しかし、それがピークであり、 直近の一二年六月決算では二〇億ドル台にま で売り上げが落ち込んでいます。
それだけ外 食産業というのは景気の影響を大きく受けや すいのです。
これに対してブルックスCEOは、売り上 げが落ち込む中でも安定した経営を維持でき るように、従来の直営店中心の店舗展開から フランチャイズ方式へと少しずつ軸足を移し てきました。
自ら店舗を構えて資源や人材を 投入するというやり方から、店舗運営のノウ ハウ提供や食材などを納入して利益を上げる やり方へと変えていったのです。
その結果、〇七年度に一三〇〇店以上あ った直営店は現在九〇〇店以下にまで減少し、 それに代わってフランチャイズ店は約四〇〇 店から七〇〇店以上に増えました。
そして〇 八年に一%台だった利益率は五%台まで回復 しました(図1)。
売り上げ規模は縮小したも のの、最終利益の額は増え続けています。
過 去五年間で見れば株価も上昇しています。
そのために必要だったのがSCM改革だっ たのです。
フランチャイズ店というのは、小 さいながらも起業家精神にあふれた人たちが 経営する店舗です。
そこへどのように、無駄 なく、無理なく、高品質のサービスを、安価 に提供できるのかが、これまで以上に重要と なっていました。
サプライチェーン改革のポイント SCMの重要性を説明するために私がしば しば使用するのが図2です。
SCMにおいて、 最も重要となる可視性を高めるにはどうすれ ばいいのでしょうか。
それは、情報システム を使って、サプライヤーから顧客に繋がるま でのすべてのモノの流れを、コンピューター上 で追跡可能にすることです。
経営学者の故ピーター・ドラッカーはSC Mを六〇年代には「暗黒大陸」と呼び、八〇 年代には「最後の利益の未開拓地(last profit frontier)」と表現しました。
このフロンティ アを開拓するのに必須となるのが情報化によ る可視性であり、それを成し遂げるためには 全社的な協力のみならず、サプライヤーや取 引先の協力が不可欠となります。
とりわけリーマンショック以降は、どのレ ストランチェーンも以前のように売上高を右 肩上がりで伸ばしていくことが難しくなって いるため、SCMを軸にした全体最適によっ てコストを削減し、最終利益を改善しようと 図2 サプライチェーンにおける可視性 IT マーケティング オペレーションサービス 研究開発 購買 データ分析 リスク管理 ロジスティクス 財務 サプライヤー2 サプライヤー1 フランチャイズ店 物流センター 小売り向け 卸への配送 配送 商品の安全性の確保 顧客との関係 在庫管理 サプライヤー管理 コスト管理 商品開発 危機管理 各種のプログラム 顧客 可視性/情報 原材料 梱包資料プロセッサー Products and Services Flow MARCH 2013 48 しています。
しかし、口でそう言うのは簡単 でも実行するのは容易ではありません。
SCMの最適化とは、サービスレベルを落 とさずに、コストを削減することに尽きます が、事業規模の大きさや、展開する地域の広 さなどによって、その取るべき施策は大きく 異なってきます。
そのあたりはSCMの教科 書にプラスして、これまでの経験値がモノを 言うところです。
全社的な支援を取り付けるだけでも、なか なか容易ではありません。
私がブリンカーに 入った当初、社内には改革に対する強い警戒 心がありました。
従来通りのやり方が通用し なくなり、仕事がやりにくくなるのではない かという不安を、購買部門を始めとする全て の部門が抱えていました。
実際、サプライチェーン改革には新しいル ールの導入や業務プロセスの見直しが付きも のです。
しかし、それが日々の業務の負担と ならないようにすることが改革の成否を分け ることになります。
もう一つ、SCM改革で気を付けなければ ならないのは、ソフトウェア会社との取引で す。
私の元には毎日のようにソフトウェア会 社からセールスの電話がかかってきます。
彼ら は決まってこう言います。
「当社こそが、御社 の業務の最適化を果たすことができます。
当 社のソフトを導入いただければ、たちまち御 社の問題はすべて解決します」 そうした電話を受けるたびに、私はこう質 問します。
「あなたは、我々のレストラン業界 のSCMについてどの程度ご存じなのでしょ うか」と。
ソフトウェアは確かにSCMに欠 かせませんが、ソフトウェアの機能と同じぐ らい、それを作った人たちがどれだけレスト ラン業界に精通しているかで、結果は大きく 変わってきます。
ソフトウェアを導入した後でも、やること はたくさんあります。
私がアップルビー時代に 実行したことは、卸業者が各店舗にソフトウ ェア上で決まった通りの請求をしているかど うかを確認することでした。
卸業者が請求金 額を間違える時は、金額が低くなることより も高くなることの方が圧倒的に多いのです。
アップルビーは当時全米に約二〇〇〇店舗 を展開していましたが、その店舗の請求書 を専門の分析チームで全部チェックしました。
すると、年間数百万ドルにも上る過大請求が 見つかりました。
それも毎年のことです。
も ちろん卸業者に悪意があるわけではなく、単 純に会計処理を間違えただけですが、全店舗 を合算すると、卸業者からの過大請求だけで 数百万ドルという大きな数字になってしまう のです。
この取り組みをブリンカーでも採用しまし た。
すでに専門の分析チームを立ち上げ、請 求書のチェックを始めています。
やはり過大 請求は少なくありません。
それをチェックし ていくだけでも、すぐさま全体の利益に結び 付きます。
そうした目に見える成果を積み重 ねていくことで、社内の改革に対する不安や 警戒心は徐々に解消されていきます。
サプライヤーの数を半減 ブリンカーに入社してすぐに取り組んだの は、サプライヤーの絞り込みでした。
例えば それまで鶏肉や七面鳥の肉を六社のサプライ ヤーから仕入れていましたが、これを三社に 絞り込みました。
六社のうち規模も大きくサ ービスレベルも高い三社を選ぶことで、サプ 役員レベルの マネジメント研究開発 情報技術 日常業務 SCM マーケティング 会計 人材管理 財務 SCM 役員レベルの マネジメント研究開発 情報技術 日常業務 SCM マーケティング 会計 人材管理 財務 SCM 役員レベルの マネジメント研究開発 情報技術 日常業務 SCM マーケティング 会計 人材管理 財務 SCM 役員レベルの マネジメント研究開発 情報技術 日常業務 SCM マーケティング 会計 人材管理 財務 SCM 図3 連鎖しているサプライチェーン サプライヤー顧客 役員レベルの マネジメント 研究開発 情報技術日常業務 SCM マーケティング 会計 人材管理 財務 SCM 中核企業 49 MARCH 2013 購買活動 企業とサプライヤーの関係)」(未 邦訳)という本でした。
現在バージニア大学 で教鞭を取っているラセター教授によって九〇 年代に出版された本です。
サプライヤー同士に は適度の競争関係が必要であり、その上でも 共存共栄の関係は成り立つとそこに説かれて います。
そのエッセンスは現在でも十分に役に 立つと考えます。
次は輸送体制の見直し ブリンカーが次に取り組むべき大きな課題は、 物流センターと輸送形態の見直しです。
これ もアップルビー時代の話ですが、私が二〇〇 〇年に入社した時点でアップルビーは全米二 〇〇〇店舗に対し、三〇カ所に物流センター を置いていました。
それを数年掛けて配送ルートを効率化した り、配送スケジュールを変更したりすること で一七カ所まで減らしました。
同時にサービ スレベルは向上させました。
オンタイム配送 率や完納率(order accuracy)、在庫管理な どのKPI(重要業績指標)を改善していっ たのです。
輸送形態の見直しも重要です。
アップルビ ーに私が入社した時点で、同社のトラック輸 送全体に占める貸切輸送の割合は約三五% でした。
それが退社するころには七〇%台 まで上がりました。
それまでは割高なLTL (Less-Than-Truckload :日本の特別積合せ 便に相当)を安易に選んでいました。
そこで 計画的な発注のルールを作り、貨物の可視性 を高めた結果、貸切輸送の割合を増やすこと ができました。
その分だけ、支払い運賃を減 らすことができました。
先にお話ししました通り、ブリンカーは現 在、従来の直営店方式からフランチャイズ方 式へとシフトを進めています。
フランチャイズ 店の経営者たちは当然ながら少しでも利益を 多くしたいと考えています。
そうした経営者の多くが最初に目を着ける のが納入代金です。
一ケース当たり二ドルの 納入コストを一・九五ドルに抑え、一ケース 当たり五セント安く仕入れることができただ けでも大喜びする経営者が少なくありません。
しかし、その店の年間納入ケース数が二万 ケースだったとすると、コスト削減額の合計 は年間一〇〇〇ドルに過ぎません。
それに対 し、輸送効率を上げることで一重量ポンド当 たりの輸送費用を一セント安くすることができ れば、年間のコスト削減額は約四〇〇〇ドル に上ります。
こうした具体的な数字を提示す ることで、フランチャイズ店の経営者の方々 に計画発注の必要性を理解してもらい、全体 の効率を上げていこうと考えています。
ブリンカーのサプライチェーン改革はまだ始 まったばかりですが、今後もそうした具体的 な成果を積み上げることで、ブリンカー本体 とフランチャイズ店、さらにはサプライヤーと の互恵関係の構築に努めていくつもりです。
(フリージャーナリスト・横田増生) ライヤーにスケールメリットが働くようになり ます。
それだけでも年間約四〇〇万ドルのコ スト削減を果たしました。
サプライヤーに無理難題を押し付けたわけ ではありません。
集約によるスケールメリッ トのゲインシェア(成果配分)として、当社 に還元してもらった額が四〇〇万ドルだった のです(図3)。
この取り組みはアップルビー時代にモッツァ レラスティックの納入業者を見直した時の経 験を元にしています。
既存のサプライヤー二 社に五社を加えてコンペを行い、再び二社を 選び直した結果、年間約一〇〇万ドルの削減 を果たすことができました。
その理論的背景としたのは「Balanced Sourcing : Cooperation and Competition in Supplier Relationships(バランスの取れた 社名 ブリンカー・インターナショナル 創業 1975 年 本社 テキサス州ダラス CEO ダグラス・ブルックス 株式市場 1989 年にニューヨーク証券取引所に上場 主要店舗 チリーズ・グリル&バー 売上高 28 億2072 万ドル (2651 億4800 万円) 当期利益 1 億5123 万ドル (142 億1600 万円) 店舗数 1581 店舗 (直営店:865 店、フランチャイズ店:716 店) 従業員数 5 万8068 人 (注1) 2012 年6 期の年次報告書より (注2) 1ドル=94 円で換算 会社概要
当社の歴史は一九七五年に起業家のラリ ー・ラビン氏がテキサス州ダラスにチリーズ の一号店を出店した時に始まります。
その後、 八三年にラビン氏はチェーン店をサラダバーの 発案者として知られるノーマン・ブリンカー 氏に売却し、現在の当社の基礎が出来上がり ます。
そして八九年にニューヨーク証券取引 所に上場しました。
私自身はカリフォルニア出身で、カリフォ ルニア大学で経済学の学士号を取った後、南 カリフォルニア大学でMBAを取得しました。
卒業後は製薬会社のバクスターに入社し、購 買部門や情報技術部門などで働きました。
その経験を基に八〇年代からは一貫してレ ストランチェーンのサプライチェーン改革に携 わってきました。
最初はファミリーレストラン の「デニーズ」、次はハンバーガーチェーンの 「カールズ・ジュニア(Carl's Jr.)」、他にも中 華レストランの「パンダ・エクスプレス」を運 営するパンダ・マネジメントなどでSCMを 実践し、ノウハウと実績を積み上げてきまし た。
二〇〇〇年に入ってからは、ファミリーレ ストランの「アップルビー」で上級副社長とし て経営に参画するようになりました。
アップ ルビーは〇七年に同業の「IHOP(アイホ ップ)」を傘下に持つダイナエクイティに買収 されますが、そのダイナエクイティでも、私 は上級副社長を務めました。
そして一一年にそろそろ引退しようと考え ダイナエクイティを退職しました。
しかしそ の決断は一週間と持ちませんでした。
私の退 職を知ったブリンカー・インターナショナルの ダッグ・ブルックスCEO(最高経営責任者) から、SCMの改革に一役買ってほしいとい う声が掛かったのです。
今から七カ月前のこ とになります。
私がブルックスCEOに入社の条件として提 リーマンショック後に売上高が大幅に落ち込ん だ。
これを機に直営店中心からフランチャイズ展 開に比重を移し、収益構造を改革した。
さらに 外食チェーンのSCM専門家であるデービッド・ パーズリー氏を上級副社長としてスカウトし、大 規模なサプライチェーン改革に着手した。
欧米SCM会議㉔ 米ブリンカー・インターナショナル 外食チェーンのSCM専門家を役員に招き 改革リーダーに据え調達・物流コスト削減 図1 ブリンカーの業績推移 (単位:1000ドル) 08 年度 09 年度 10 年度 11 年度 12 年度 160,000 120,000 80,000 40,000 0 4,000,000 3,500,000 3,000,000 2,500,000 2,000,000 2,000 1,800 1,600 1,400 1,200 1,000 800 600 400 200 0 売上高(左軸) 最終利益(左軸) 総店舗数(右軸) 1,888 1,689 1,550 1,579 1,581 3,860,921 2,820,722 2,858,498 2,761,386 3,276,362 79,166 137,704 141,060 151,232 51,722 47 MARCH 2013 示したのは、役員の一人として経営に参画さ せて欲しいというものでした。
これまでの体 験からSCMを改革するには、私自身が経営 陣の一人であること、そして他の経営陣から のバックアップが必要であることを痛感してい ました。
まずは、その一つである経営陣とし て参加したいという希望を提示し、それがか なえられました。
ブリンカーはリーマンショック前の〇七年 度に過去最高の四〇億ドル以上の売上高を 計上しました。
しかし、それがピークであり、 直近の一二年六月決算では二〇億ドル台にま で売り上げが落ち込んでいます。
それだけ外 食産業というのは景気の影響を大きく受けや すいのです。
これに対してブルックスCEOは、売り上 げが落ち込む中でも安定した経営を維持でき るように、従来の直営店中心の店舗展開から フランチャイズ方式へと少しずつ軸足を移し てきました。
自ら店舗を構えて資源や人材を 投入するというやり方から、店舗運営のノウ ハウ提供や食材などを納入して利益を上げる やり方へと変えていったのです。
その結果、〇七年度に一三〇〇店以上あ った直営店は現在九〇〇店以下にまで減少し、 それに代わってフランチャイズ店は約四〇〇 店から七〇〇店以上に増えました。
そして〇 八年に一%台だった利益率は五%台まで回復 しました(図1)。
売り上げ規模は縮小したも のの、最終利益の額は増え続けています。
過 去五年間で見れば株価も上昇しています。
そのために必要だったのがSCM改革だっ たのです。
フランチャイズ店というのは、小 さいながらも起業家精神にあふれた人たちが 経営する店舗です。
そこへどのように、無駄 なく、無理なく、高品質のサービスを、安価 に提供できるのかが、これまで以上に重要と なっていました。
サプライチェーン改革のポイント SCMの重要性を説明するために私がしば しば使用するのが図2です。
SCMにおいて、 最も重要となる可視性を高めるにはどうすれ ばいいのでしょうか。
それは、情報システム を使って、サプライヤーから顧客に繋がるま でのすべてのモノの流れを、コンピューター上 で追跡可能にすることです。
経営学者の故ピーター・ドラッカーはSC Mを六〇年代には「暗黒大陸」と呼び、八〇 年代には「最後の利益の未開拓地(last profit frontier)」と表現しました。
このフロンティ アを開拓するのに必須となるのが情報化によ る可視性であり、それを成し遂げるためには 全社的な協力のみならず、サプライヤーや取 引先の協力が不可欠となります。
とりわけリーマンショック以降は、どのレ ストランチェーンも以前のように売上高を右 肩上がりで伸ばしていくことが難しくなって いるため、SCMを軸にした全体最適によっ てコストを削減し、最終利益を改善しようと 図2 サプライチェーンにおける可視性 IT マーケティング オペレーションサービス 研究開発 購買 データ分析 リスク管理 ロジスティクス 財務 サプライヤー2 サプライヤー1 フランチャイズ店 物流センター 小売り向け 卸への配送 配送 商品の安全性の確保 顧客との関係 在庫管理 サプライヤー管理 コスト管理 商品開発 危機管理 各種のプログラム 顧客 可視性/情報 原材料 梱包資料プロセッサー Products and Services Flow MARCH 2013 48 しています。
しかし、口でそう言うのは簡単 でも実行するのは容易ではありません。
SCMの最適化とは、サービスレベルを落 とさずに、コストを削減することに尽きます が、事業規模の大きさや、展開する地域の広 さなどによって、その取るべき施策は大きく 異なってきます。
そのあたりはSCMの教科 書にプラスして、これまでの経験値がモノを 言うところです。
全社的な支援を取り付けるだけでも、なか なか容易ではありません。
私がブリンカーに 入った当初、社内には改革に対する強い警戒 心がありました。
従来通りのやり方が通用し なくなり、仕事がやりにくくなるのではない かという不安を、購買部門を始めとする全て の部門が抱えていました。
実際、サプライチェーン改革には新しいル ールの導入や業務プロセスの見直しが付きも のです。
しかし、それが日々の業務の負担と ならないようにすることが改革の成否を分け ることになります。
もう一つ、SCM改革で気を付けなければ ならないのは、ソフトウェア会社との取引で す。
私の元には毎日のようにソフトウェア会 社からセールスの電話がかかってきます。
彼ら は決まってこう言います。
「当社こそが、御社 の業務の最適化を果たすことができます。
当 社のソフトを導入いただければ、たちまち御 社の問題はすべて解決します」 そうした電話を受けるたびに、私はこう質 問します。
「あなたは、我々のレストラン業界 のSCMについてどの程度ご存じなのでしょ うか」と。
ソフトウェアは確かにSCMに欠 かせませんが、ソフトウェアの機能と同じぐ らい、それを作った人たちがどれだけレスト ラン業界に精通しているかで、結果は大きく 変わってきます。
ソフトウェアを導入した後でも、やること はたくさんあります。
私がアップルビー時代に 実行したことは、卸業者が各店舗にソフトウ ェア上で決まった通りの請求をしているかど うかを確認することでした。
卸業者が請求金 額を間違える時は、金額が低くなることより も高くなることの方が圧倒的に多いのです。
アップルビーは当時全米に約二〇〇〇店舗 を展開していましたが、その店舗の請求書 を専門の分析チームで全部チェックしました。
すると、年間数百万ドルにも上る過大請求が 見つかりました。
それも毎年のことです。
も ちろん卸業者に悪意があるわけではなく、単 純に会計処理を間違えただけですが、全店舗 を合算すると、卸業者からの過大請求だけで 数百万ドルという大きな数字になってしまう のです。
この取り組みをブリンカーでも採用しまし た。
すでに専門の分析チームを立ち上げ、請 求書のチェックを始めています。
やはり過大 請求は少なくありません。
それをチェックし ていくだけでも、すぐさま全体の利益に結び 付きます。
そうした目に見える成果を積み重 ねていくことで、社内の改革に対する不安や 警戒心は徐々に解消されていきます。
サプライヤーの数を半減 ブリンカーに入社してすぐに取り組んだの は、サプライヤーの絞り込みでした。
例えば それまで鶏肉や七面鳥の肉を六社のサプライ ヤーから仕入れていましたが、これを三社に 絞り込みました。
六社のうち規模も大きくサ ービスレベルも高い三社を選ぶことで、サプ 役員レベルの マネジメント研究開発 情報技術 日常業務 SCM マーケティング 会計 人材管理 財務 SCM 役員レベルの マネジメント研究開発 情報技術 日常業務 SCM マーケティング 会計 人材管理 財務 SCM 役員レベルの マネジメント研究開発 情報技術 日常業務 SCM マーケティング 会計 人材管理 財務 SCM 役員レベルの マネジメント研究開発 情報技術 日常業務 SCM マーケティング 会計 人材管理 財務 SCM 図3 連鎖しているサプライチェーン サプライヤー顧客 役員レベルの マネジメント 研究開発 情報技術日常業務 SCM マーケティング 会計 人材管理 財務 SCM 中核企業 49 MARCH 2013 購買活動 企業とサプライヤーの関係)」(未 邦訳)という本でした。
現在バージニア大学 で教鞭を取っているラセター教授によって九〇 年代に出版された本です。
サプライヤー同士に は適度の競争関係が必要であり、その上でも 共存共栄の関係は成り立つとそこに説かれて います。
そのエッセンスは現在でも十分に役に 立つと考えます。
次は輸送体制の見直し ブリンカーが次に取り組むべき大きな課題は、 物流センターと輸送形態の見直しです。
これ もアップルビー時代の話ですが、私が二〇〇 〇年に入社した時点でアップルビーは全米二 〇〇〇店舗に対し、三〇カ所に物流センター を置いていました。
それを数年掛けて配送ルートを効率化した り、配送スケジュールを変更したりすること で一七カ所まで減らしました。
同時にサービ スレベルは向上させました。
オンタイム配送 率や完納率(order accuracy)、在庫管理な どのKPI(重要業績指標)を改善していっ たのです。
輸送形態の見直しも重要です。
アップルビ ーに私が入社した時点で、同社のトラック輸 送全体に占める貸切輸送の割合は約三五% でした。
それが退社するころには七〇%台 まで上がりました。
それまでは割高なLTL (Less-Than-Truckload :日本の特別積合せ 便に相当)を安易に選んでいました。
そこで 計画的な発注のルールを作り、貨物の可視性 を高めた結果、貸切輸送の割合を増やすこと ができました。
その分だけ、支払い運賃を減 らすことができました。
先にお話ししました通り、ブリンカーは現 在、従来の直営店方式からフランチャイズ方 式へとシフトを進めています。
フランチャイズ 店の経営者たちは当然ながら少しでも利益を 多くしたいと考えています。
そうした経営者の多くが最初に目を着ける のが納入代金です。
一ケース当たり二ドルの 納入コストを一・九五ドルに抑え、一ケース 当たり五セント安く仕入れることができただ けでも大喜びする経営者が少なくありません。
しかし、その店の年間納入ケース数が二万 ケースだったとすると、コスト削減額の合計 は年間一〇〇〇ドルに過ぎません。
それに対 し、輸送効率を上げることで一重量ポンド当 たりの輸送費用を一セント安くすることができ れば、年間のコスト削減額は約四〇〇〇ドル に上ります。
こうした具体的な数字を提示す ることで、フランチャイズ店の経営者の方々 に計画発注の必要性を理解してもらい、全体 の効率を上げていこうと考えています。
ブリンカーのサプライチェーン改革はまだ始 まったばかりですが、今後もそうした具体的 な成果を積み上げることで、ブリンカー本体 とフランチャイズ店、さらにはサプライヤーと の互恵関係の構築に努めていくつもりです。
(フリージャーナリスト・横田増生) ライヤーにスケールメリットが働くようになり ます。
それだけでも年間約四〇〇万ドルのコ スト削減を果たしました。
サプライヤーに無理難題を押し付けたわけ ではありません。
集約によるスケールメリッ トのゲインシェア(成果配分)として、当社 に還元してもらった額が四〇〇万ドルだった のです(図3)。
この取り組みはアップルビー時代にモッツァ レラスティックの納入業者を見直した時の経 験を元にしています。
既存のサプライヤー二 社に五社を加えてコンペを行い、再び二社を 選び直した結果、年間約一〇〇万ドルの削減 を果たすことができました。
その理論的背景としたのは「Balanced Sourcing : Cooperation and Competition in Supplier Relationships(バランスの取れた 社名 ブリンカー・インターナショナル 創業 1975 年 本社 テキサス州ダラス CEO ダグラス・ブルックス 株式市場 1989 年にニューヨーク証券取引所に上場 主要店舗 チリーズ・グリル&バー 売上高 28 億2072 万ドル (2651 億4800 万円) 当期利益 1 億5123 万ドル (142 億1600 万円) 店舗数 1581 店舗 (直営店:865 店、フランチャイズ店:716 店) 従業員数 5 万8068 人 (注1) 2012 年6 期の年次報告書より (注2) 1ドル=94 円で換算 会社概要
