ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2013年3号
値段
第82回 澁澤倉庫 「選択と集中」で三大都市圏に重点投資海外戦略もベトナム特化で収益化に成功

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

MARCH 2013  50 大手倉庫と一線を画す  大手倉庫各社はこれまで盤石な不動産資産を 武器に、物流事業者の中でも特に安定した事業 基盤を築いてきた。
一方で、各社横並びの経営 戦略や安定性を重視する消極的な姿勢が多く見 られたのも事実である。
 ところがここにきて、その姿勢に大きな変化 が見られる。
国内経済は構造的に長期成長が難 しい。
大手各社の戦略も、特にリーマンショック 以降は積極性が増し、その内容には大きな違い が生まれつつある。
 澁澤倉庫は、同業大手が国際化を主軸とした 拡大路線を模索する中、二〇一〇〜一二年度の 中期経営計画「SUCCESS 
横娃隠押廚 おいては、事業領域の「選択と集中」を進めて きた。
 そもそも同社は、大手倉庫各社の中では不動 産資産が相対的に乏しかったため、倉庫収益の みに依存せず、トラック輸送など足回りも含め た総合的な物流を荷主に提案することで業容を 拡大してきた。
得意分野の一つである共同配送 でも、特に日用雑貨・飲料において、その提案 力が受け入れられてきたとみられる。
同社の企 業理念の特色でもある、「創意・工夫」という 特徴とも通ずる基本事業戦略である。
 現・中期経営計画と、それまでの計画との大 きな違いは、「選択と集中」というキーワードが 盛り込まれた点である。
選択と集中は、現・中 計の四つのキーワード(ほかの三つは機能拡充・ アジア・ローコストオペレーション)の一つとし て示されているに過ぎないが、そのコンセプト は計画全体に通底して、重要な影響を及ぼして いる。
 大手倉庫と一線を画す要素を戦略に盛り込ん だ背景には、現・中計策定時点で不採算拠点・ 非関連事業が存在したことのみならず、競合大 手との規模の戦いを避け、独自の付加価値を模 索しようとする経営陣の意思が表れていると考 えられる。
 現・中計では第一に、倉庫拠点を核として、 保管・輸配送・流通加工の機能を兼ね備えた総 合物流サービス機能の拡充を挙げている。
また 同時に収益性の向上についても目標としており、 実際に現・中計期間では、検品・加工などの川 上工程の受注に成功した。
 サービス機能拡充を実現する前提としては、都 市圏への集中投資・拠点の大型化がある。
例え ば、小規模施設で、特定荷主のために多様なサ ービスを提供しても、高い作業効率が望めず、採 算性が低いばかりか、顧客に提案する価格につ いても割高になるケースがよく見られる。
逆に ある程度の規模感があれば、その拠点の基幹荷 主のみならず、その商流の川上・川下だけでな 澁澤倉庫 「選択と集中」で三大都市圏に重点投資 海外戦略もベトナム特化で収益化に成功  三大都市圏に投資を集中。
規模の争いからは 一歩身を引いて、特定荷主との密接な関係を活 かしてサービス領域を拡大することで、アセット 力に差がある大手倉庫会社に対抗。
海外でも単 なる拡大戦略ではなく、ベトナムに特化して投 資効率を高めている。
第82回 大庭正裕 グラックス・アンド・アソシエイツ 金融コンサルティンググループ・マネージャー 51  MARCH 2013 く、同種商品の他の荷主からの受注機会も生ま れやすく、事実その実績も上げている。
 実際、神戸・港島倉庫、愛知県小牧市の名古 屋倉庫の増築など、同社の投資内容は三大都市 圏への集中を意識していると考えられる。
国内 の輸出入物流が都市圏に集約していく傾向も考 慮すると、長期的には妥当性の高い投資と言え るのではないか。
 アジア戦略は現・中計よりも実際にはさらに エリアを絞って、ベトナムへの集中投資という結 果となった。
ベトナムでは、二〇〇社以上のサ プライヤーの部品に対して、日本および各国から の現地工場納入までの一貫輸送を手掛ける。
国 内データと現地データの連携を行い、厳密なスケ ジューリングにも対応、一部生産にも携わってい る。
これによりベトナム法人の立ち上げから独り 立ちまでを達成し、連結収益に貢献している。
 また同社では、ローコストオペレーションの実 現のためには、IT化や納入管理分散に加え、荷 主との連携が大きなポイントと考えている。
提案 営業の中で、荷主自体の作業効率化も促し、担 当作業部分でのコストを削減することで、価格 競争力を上昇させるという営業方針を取ってい る。
そのためには、ある程度、重要顧客に絞っ てコミュニケーションを取り、レベルの高い提案 を行う必要がある。
 物流以外の事業でも選択と集中の意図が見え る。
不動産事業での新規開発は、学生寮などの 特殊物件に絞り、サブリースする形で管理負担 を抑えつつ、比較的安定した収益を確保、本業 と関連の薄いゴルフ場事業は売却した。
海外での事業提携も選択肢に  現・中計の最終年度である二〇一三年三月期 の決算は締まっていないが、概ね会社計画通り進 捗している。
これを前提とすると、現・中計の 実現を経て、営業利益率は三%から五%に、E BITDAマージンは九%から一〇%程度へと 改善される。
収益性の面では、賃貸不動産収益 (営業利益率は二〇%超であることが多い)が 少ないというハンデを乗り越え、概ね同業他社 並みになると言える。
 また成長率の面では、売上高は同業平均に劣 るものの、事業再編の結果であり、企業評価上 のマイナスポイントにはなりにくい。
他方、EB ITDA、営業利益に関しては同業平均を大き く上回る。
結果としてこれまで同業平均に劣っ ていた投資効率性(ここでは総資産・自己資本 に対するEBITDAの割合を取り上げる)は、 同業平均にほぼ追い付いたと言える。
 一三年五月に発表されるであろう次期中計で は選択と集中された事業領域への深掘りフェー ズへの移行が示唆される。
 課題は国際化が十分でない点と財務安定性だ ろう。
主戦場はより海外にシフトすると考えられ るが、ベトナム現地法人を含めても、海外事業 の収益貢献は一〇%に満たない状況であり、将 来性という点では株式評価上、相対的にディス カウント要素となり得る。
 今後は、既に展開した現地法人・または国内 で取り扱う輸入物の輸入元での海外現地物流へ の進出などが必要だ。
その際には自己資本比率 がやや低めであることなどを考慮すると、事業 提携なども選択肢になると考えられる。
おおば まさひろ べリングポイント(現プライスハウスク ーパース)にてSCMコンサルティング などを経験した後、野村證券企業調査 部にて証券アナリスト業務に従事。
現 在は、グラックス・アンド・アソシエ イツにて、事業デューデリジェンスや 事業再生コンサルティングを手掛ける。
大手倉庫の業績比較 収益性成長率(年率) 効率性自己 資本 営業 比率 利益率 EBITDA マージン 売上高 EBITDA 営業利益 EBITDA /総資産 EBITDA /自己資本 澁澤倉庫 倉庫各社平均 三菱倉庫 住友倉庫 三井倉庫 日本トランスシティ ヤマタネ 安田倉庫 2009年度 2012年度 2009年度 2012年度 2009年度 2012年度 2009年度 2012年度 2009年度 2012年度 2009年度 2012年度 2009年度 2012年度 2009年度 2012年度 3.1% 5.3% 6.7% 6.2% 6.9% 6.9% 6.5% 7.3% 18.6% 18.7% 10.9% 12.3% 6.9% 7.0% 14.8% 15.1% 7.4% 7.2% 25.7% 28.4% 7.3% 7.6% 18.4% 17.4% 5.6% 6.2% 25.6% 26.2% 7.3% 6.2% 16.1% 12.7% 40.4% 41.3% 59.9% 59.3% 46.6% 46.6% 28.9% 25.4% 39.7% 43.9% 22.0% 23.6% 45.4% 49.2% 12.8% 10.9% 6.9% 6.3% 15.1% 12.8% 6.5% 6.6% 13.4% 11.1% 7.4% 4.3% 14.2% 9.5% 4.4% 5.0% 8.5% 8.0% 6.6% 7.4% 9.1% 10.3% 8.1% 7.3% 16.7% 13.9% 8.7% 10.3% 4.7% 6.5% 13.3% 17.2% 35.3% 3.2% 37.6% 7.5% 2.3% 4.5% 8.4% 1.9% 9.2% 4.0% 2.0% 8.5% 0.0% 4.2% 3.6% 2.7% -3.5% -1.1% 10.5% 4.8% 7.3% 19.1% 4.2% -0.2% 9.0% 24.2% 注:EBITDAは営業利益+減価償却費+のれん償却費 自己資本は純資産合計より新株払込金、新株予約権、少数株主持分を除いた数値 自己資本比率=自己資本/総資産(期末時点) 2012年度データは会社予想、ただし総資産・自己資本については11年度のもの SPEEDAよりグラックス・アンド・アソシエイツ作成

購読案内広告案内