ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2004年4号
keyperson
エクセル・ジャパン サイモン・ミリントン社長

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

KEYPERSON THEME APRIL 2004 50 買収機に国内市場に本格参入 ――これまで日本市場の外資系物流企業は、本 部の出先機関として国際輸送のフォワーディ ング業務を扱っていたに過ぎず、国内市場に 参入しようという意欲は希薄だったと認識し ている。
しかし最近は様子が違う。
その象徴が 今回の富士通ロジスティクスの買収だ。
エクセ ルの日本市場での戦略は、いつ、どのような形 で変化したのか。
「その質問に答えるには、当社の位置付けか ら説明する必要があるだろう。
当社は二〇〇 〇年にMSASとエクセルという二つの物流 企業が統合することによって誕生した。
対等 の関係の統合だった。
MSASはグローバル・ ネットワーク・フォワーダーであり、国際的な ロジスティクス・サービスを提供していた。
か たやエクセルは、基本的に倉庫管理業務や輸 送業務などのドメスティックなロジスティク ス・サービスを展開していた」 「二社を統合する以前、エクセルは日本では 全く業務を行っていなかった。
そこで我々は統 合の第一段階として、テクノロジー分野の多 国籍企業をメインに日本国内のロジスティク ス・ビジネスの構築に取り組んできた。
その結 果、現在は国内ビジネスの割合が、エクセル・ ジャパンの全収益の一五%を占めるに至って いる。
それを五〇%にまで引き上げることが目 標だ。
国際ビジネスが五〇%、国内が五〇%。
エクセルがビジネスを展開しているほとんどの 国で、このバランスを保っている」 ――富士通ロジスティクスを買収した狙いもそ こにあるのか。
「日本国内のビジネスを伸ばして目標を達成 するためには、M&Aを実行する必要があると 判断した。
当社は国際貨物輸送においては認 知度も高く、日本の競合に対しても優位性を 発揮している。
しかし外資系企業が日本国内 でビジネスを成長させることは一般に容易なこ とではない。
時間もかかる。
そのため我々は過 去三年間にわたって、日本においてどこが適 切な企業か選別を行ってきた。
それが富士通 ロジスティクスの買収という結果になった」 ――買収対象は物流子会社だけか。
物流専業 者は買収対象になるか。
「物流専業者が売りに出された事例を私は知ら ない。
また我々は物流専業者のアセット(資 産)には興味がない。
従来から我々は日本の メーカーがロジスティクス機能をアウトソースする方向に進むのは時間の問題だと考えてき た。
物流子会社を引き続き所有する必要があ るのか判断を迫られる時が来ると考えてきたわ けだ。
物流子会社を当社に売却した富士通は、 進んだ考え方をしていると言えるだろう」 ――アセットではなく、ビジネスが欲しいとい うわけか。
「そうだ」 ――富士通ロジスティクスもアセットは持って いるはずだ。
「比較的、少ない。
最低限の所有物と輸送オペ レーションしか所有していない。
とても良いビ ジネスモデルだ」 英国大手3PLのエクセルが富士通ロジスティクスを買 収する。
4月、エクセルは富士通が所有する富士通ロジ の全株式を取得。
エクセル・ロジスティクスと社名を 変更し、富士通の国内物流の大半を担う3PLとして再出 発させる。
外資系3PLによる日本国内市場への参入が、 いよいよ本格化する。
富士通ロジスティクス 買収の狙い エクセル・ジャパン サイモン・ミリントン社長 51 APRIL 2004 ――既存従業員の処遇の問題は? 「それを問題だとは認識していない。
そもそ も富士通ロジスティクスを買収するということ は、既存の社員も契約社員もついてくるとい うことだ。
我々は彼らが仲間に加わることをと ても喜んでいる。
メーカーの物流子会社の社 員である彼らが物流に特化した企業の一員と なることは、彼らがキャリアを構築する上でも とてもよい機会になると考えている」 ――買収しても富士通の仕事がついてこないと いうリスクはないか。
「富士通ロジスティクスのビジネスは一〇〇%、 富士通のグループ会社とリンクしている。
そし て、それらグループ会社へのサービスを継続す るアウトソーシング契約も買収契約に含まれて いる」 ――子会社の買収は値段の付け方が難しいと 言われている。
買収金額はどのように評価した のか。
「現段階で具体的な金額は答えられない。
二 週間前に両社が出した共同プレスリリースで 発表したように、トランザクションが完了して いないからだ。
数週間で完了する予定なので、 その時点でコメントしたい。
ただし、一般論と しては物流子会社の業務内容を理解し、それ に対し値段を付けることは可能だ」 物流子会社の買収が活発化する ――物流子会社のM&Aは日本ではまだ珍し い。
今後はこうした事例が増えていくのだろう か。
「確かに日本ではまだ事例がほとんどない。
過 去五年間で思いつくのは二つだけだ。
一つは 日産自動車のバンテックとゼロ。
そしてもう一 つが現在、我々が手掛けている案件だ。
我々 はまだ第一段階にいるのだ。
しかし今回のトラ ンザクションが完了し、一年から一年半後に 市場が成功事例として認知するようになれば、 新しい事例が続くと確信している。
そしてそれ らの事例のいくつかに我々は関わっていきたい と考えている。
我々は日本のロジスティクスお よび貨物輸送市場において重要な存在になり たいと思っている」 ――欧米と比較した場合、日本の物流市場に はどのような特徴があるか。
「一つは(包括的な)アウトソーシングの割 合だ。
現在、日本でアウトソースされているの は全体の三%程度でしかないと推測される。
そ れに対し、欧米市場では恐らく一六.一七% がアウトソーシングされている。
日本と他のG 8諸国のロジスティクス業界におけるアウトソ ーシング率にはかなりの開きがある」 ――それには物流子会社の存在も影響してい るのだろうか。
「そうだ。
アウトソーシング率がこれほど低 い理由の一つは、日本では物流子会社がロジ スティクスを手掛けているからだ。
物流子会社 が動けば、アウトソーシングの比率も上がる。
我々は今後、日本のアウトソーシング率も他 国のそれに近づいてくると見ている。
それほど 時間はかからないだろう」 ――エクセルが日本国内で提供しようとしてい るサービスでは、どこが競合になるのか。
国際 フォワーダーではないのか。
「国内の専業者だろう。
我々の日本での計画は、 欧米市場でエクセルが強みを持つ業界、自動 車業界や日用雑貨品業界に、我々のノウハウや配送センター、輸送ネットワークといったプ ラットフォームを提供していくことだ。
したが って現在、それらの業界に対してロジスティク スを展開している国内企業が我々の競合にな るだろう」 ――国内専業者に対して、エクセルは何を差 別化手段にするのか。
「当社は一つの国で構築した運営モデルを他 国に移管するスキルを培ってきた。
過去に多く の事例もあり、時間もあまりかけずに導入する ことができる。
つまり欧米の最新のロジスティ クスを、日本の同じ業界の企業へ、新しいソ EXEL plc 本社 英国バークシャー州 売上高 約51億ポンド(約1兆円) 従業員数 約7万4000人  国内市場のオペレーションに強みを持つノンアセット 型3PLの大手。
世界120カ国に1600拠点を構える。
エクセル・ジャパン 本社 東京 売上高 非公開 従業員数 370人  MSASを前身とするエクセルの日本法人。
2000年に エクセルとMSASの経営統合により現社名に変更。
富士通ロジスティクス 本社 神奈川 売上高 380億円(本誌推定) 従業員数 473人  富士通が100%の株式を所有する物流子会社として 1988年に設立。
資本金4億円。
APRIL 2004 52 リューションとして提示することができる」 ――そうしたニーズが実際にあるのか。
「多くのグローバル企業から『日本市場にも 対応できるか。
できるのなら仕事を任せたい』 と言われている。
彼らは世界中どこでも同じシ ステムで管理しているため、パートナーも一社 に絞ることが望ましいのだ。
それによってモノ の動きと並んで重要なデータと情報のコントロ ールが容易になることに彼らは気づいている」 「当社が富士通ロジスティクスを買収した目 的の一つは、こうした声に応えるための日本国 内におけるネットワークの獲得だった。
今回の 買収によって、当社は国内五〇カ所の拠点と、 広範囲の輸送ネットワークを手に入れた。
これ をベースにITシステムによってリンクされた 流通センターや輸送サービスのネットワークを 構築する。
ネットワークを持つことによって国 内全域に渡るロジスティクス管理能力を顧客 に提供することが可能になった」 アセット型は通用しない ――アセットは不要なはずでは? 「アセットとして所有しているわけではない。
富士通ロジスティクスの運用するトラックのほ とんどはチャーターかリースだ。
また当社自身 も、従来からかなりのボリュームの輸送を行っ ているが、国内輸送のためのトラックは一台も 保有していない。
全て我々と契約を結んでい る3PL業者が手掛けている。
我々は3PL 業者を管理するだけだ。
繰り返すが、我々に アセットは必要ないのだ」 ――欧米でもアセットは持っていないのか。
「何台かのトラックは保有しているが、欧米 でもモデルは同じだ。
我々は大規模な輸送運 営を管理しているが、全てのトラックは協力会 社契約したものだ」 ――日本にはノンアセット型の物流業が馴染 まないという声もある。
「日本は未だとても保守的な市場であり、ア セットを持つことが委託に結びつくと考える顧 客がいるのは確かだ。
サービスプロバイダーは 顧客に対して、より多くの倉庫やトラックなど を持っていると強調しなければならないのが実 情だ。
しかし、こうした状況も徐々に変化して いくだろう」 「既に(アセット型の)ビジネスモデルは他 の先進国市場ではモデルとして通用しなくなっ ている。
アセットには巨額の資金がしばりつけ られている。
いずれ日本企業も現況を変化さ せたいと感じるようになるはずだ。
ウェアハウ スなどのアセットを持つ物流子会社を抱える 企業や、負債を減らしてバランスシートを正常 化したいと考えている企業は特に、多額の資 金が凍結されている施設の処分に着目するよ うになるだろう」 ――欧米型の3PLが日本市場にも根付くの だろうか。
「一、二年以内ということはない。
時間はか かるだろうが、最終的にはそうなるだろう。
実 際、ここ数年で日本の大手メーカーは我々の ような外資系のプロバイダーに対して、より開 放的になってきた。
私は日本に滞在して一〇 年ほどになるが、四.五年前とは明らかに対 応が違う」 「もう一つ例を挙げよう。
あなたの雑誌をみ ると、今や誰もがVMIについて語っている。
しかし、三年前まで日本では誰もその言葉を 口にしていなかった。
日本企業が海外の事例 を検証している証拠だろう。
その結果、3P Lや我々のような外資系プロバイダーに対する 理解も深まっている。
我々はそんな日本市場 に適応したいと考えている」 本誌解説 今回の富士通ロジスティクスの買収によ って、エクセル・ジャパンの日本国内の事 業規模は従来の三倍以上に拡大するという。
英国に本拠を置くエクセル(EXEL plc )は 国内オペレーションの分野では世界で最も強力な3PLの一つだ。
地元ヨーロッパだ けでなく、米国でも既に3PL市場の勝ち 組としての評価が定着している。
ダイムラ ークライスラーやフォードなどの自動車業 界を始め、P&G、ユニ・リーバなどの日 雑業界、流通業界の有力企業を顧客に抱え ている。
それが日本の国内市場に本格上陸 することになる。
しかし欧米のモデルがそ のまま日本の国内市場でも通用するか。
予 断は許さない。
今回の買収が格好の試金石 となる。
成功すれば、物流子会社の売却と 外資系3PLの台頭が日本市場で一気に進 む可能性がある。
(大矢昌浩)

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