ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2013年3号
物流指標を読む
第51回 眉唾の中国経済指標 「全国鉄道主要指標完成情況」中華人民共和国鉄道部

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

  物流指標を読む 第1 回 MARCH 2013  72 眉唾の中国経済指標 第51 ●中国GDPは7.8%の成長と当局が発表 ●次期首相など中国要人から懐疑の声も ●信頼度の高い鉄道貨物輸送量は大幅減 さとう のぶひろ 1964 年 生まれ。
早稲田大学大学院修 了。
89年に日通総合研究所 入社。
現在、経済研究部担当 部長。
「経済と貨物輸送量の見 通し」、「日通総研短観」など を担当。
貨物輸送の将来展望 に関する著書、講演多数。
「虚偽データ」と大御所が喝破  中国国家統計局の発表によると、二〇一二年の 中国の実質経済成長率は七・八%増で、アジア通 貨危機の影響を受けた一九九九年(七・六%増) 以来十三年ぶりに八%を下回った。
欧州債務危機 の影響に伴い、輸出が低迷したことなどが響いた ものとみられる。
 ただし、年後半以降、政府が進めていた鉄道、 橋梁、道路等のインフラ投資の加速など、景気対 策の効果が顕在化する中で、一〇〜十二月期の成 長率は前年同期比で七・九%増と、七〜九月期 (同七・四%増)を上回ったほか、十二月の鉱工 業生産や小売売上高の伸び率も前月を上回ったこ とから、中国経済は緩やかな回復に向かっている という見方が強まっている。
 以上は、マスコミが報じたニュースを大まかに まとめたものであるが、筆者は眉に唾を付けて読 んだ。
胡錦鋳・温家宝政権が自分たちの経済運営 の失敗をごまかすために、成長率の数字を粉飾し たのではないか、と。
以前も書いたように、GD Pを始め、中国の統計が正しいと信じている日本 人は、恐らくごく少数であろうし、中国人だって、 良識のある人たちは信じていないだろう。
何しろ、 次期首相が信じていないのだから。
 今年三月の全国人民代表大会(全人代)で首相 に就任する予定の李克強氏は、遼寧省の共産党委 員会書記だった〇七年三月に、C・ラント駐中国 米大使に対し、「中国のGDP統計は人為的で信 頼できない」と話したことが内部告発サイト「ウ ィキリークス」によって暴露されている。
経済通 として知られている李氏は「電力消費、鉄道貨物 輸送量、銀行融資の三指標を基に実際の経済成長 を測定しており、中でも鉄道貨物輸送量はかなり 正しい」と述べたそうだ。
 また、昨年五月号の本欄で、経済学者で香港中 文大学の郎咸平(ろうかんへい)教授が、中国瀋 陽市での講演(一一年一〇月)において、自ら の統計によれば、中国の国内総生産は政府公表の 九%ではなく、マイナス一〇%であると明言した ほか、中国は日本のバブル経済崩壊の過ちを繰り 返すと予測したという話を紹介したことがある。
 講演の主なポイントは、?中国体制の内部は上 から下まで全部虚言を繰り返しており、全てのデ ータは捏造されたものである?中国の借金は三六 兆元(約四三二兆円)に達しており、必ず破綻す る?中国統計局がこのほど公表した九・一%の経 済成長率は虚偽データである。
インフレ率の六・ 二%も偽りであり、少なくとも一六%である?政 府の全ての政策は、病を患っている経済に強心剤 を注射し、解熱剤を飲ませているだけだ。
病の根 源を突き止めていないため、これからは重体に陥 る。
中国経済は既に非常に危険な境地に陥ってい る──などであった。
 ちなみに、筆者は香港中文大学や郎教授につい て全く知らなかったので、明治大学商学部の町田 一兵専任講師に聞いてみたところ、「香港中文大 学は歴史のある文系の名門大学で、日本の大学に 例えるならば東京大学の文系のイメージ。
郎教授 は、中国では新聞・雑誌にもてはやされている大 御所。
しかも、分かりやすく経済状況を説明する ことで有名で、より広く一般的に知れ渡っている 「全国鉄道主要指標完成情況」中華人民共和国鉄道部 73  MARCH 2013 八月、九月は一桁台後半のマイナスとなっている (注:スペースの関係で、グラフ上では鉄道貨物輸 送量を四半期ごとにまとめて示した)。
 中国において、鉄道貨物輸送量がこれだけ大き く落ち込んだのは、リーマンショックに見舞われ た〇八年末〜〇九年中頃以来のことである。
一方、 GDP成長率はと言えば、四〜六月期から一〇〜 十二月期まで七%台の伸びを維持している。
仮に、 経済成長を測定する上で鉄道貨物輸送量の方が信 頼できるとすれば、六月から十一月までの実際の 経済成長率はマイナスであった可能性もある。
真 偽のほどは定かではないが、中国関係のニュース に接する時は、あまり鵜呑みにし過ぎない方が良 いだろう。
国民の反発恐れ隠蔽か  さて、中国の鉄道貨物輸送について若干の補足 をしておきたい。
中国の鉄道貨物輸送においては、 石油、鉱産物、煤炭(注:石炭)のウエイトが高 く、輸送量全体の約七割を占めている。
生産動向 に関連する品目が中心であり、鉄道貨物輸送量の 減少は、やはり生産の減少を疑わせるものである。
 また、中国の国内貨物総輸送量に占める鉄道 貨物輸送量の割合(分担率)は、一一年におい て、トン数ベースで一〇・八%、トンキロベース で二六・八%と比較的大きなウエイトを占めてい る。
ただし、〇九年から一一年までの三年間の 推移を見ると、トン数ベースでは、十二・〇%⇒ 十一・四%⇒一〇・八%、トンキロベースでも三 〇・六% ⇒ 二八・九% ⇒ 二六・八%と徐々に低下 している。
もっとも、鉄道貨物輸送量自体は、一 二年こそ前年比で若干減少した(トン数:マイナ ス〇・七%、トンキロ:マイナス〇・九%)ものの、 一〇年、一一年はいずれもトン数、トンキロとも 一桁台後半の高い伸びを示した。
従って、近年に おける鉄道の分担率の低下は、輸送量自体の減少 によるものではなく、自動車の輸送量の伸びが鉄 道を大きく上回ったことによるものである。
 ところで、前述のとおり、約一年前に本欄で 「チャイナ・リスク再考」と題し、中国経済の変調 について書いたが、それこそ眉に唾を付けられた 読者諸兄が多かったのではなかろうか。
マスコミ の報道では、中国経済はやや減速しているものの、 八%前後の成長率は維持するだろうと言われてい たからだ。
筆者は、講演会の席で何度かこの話を したが、聴衆の反応は「この人何を言ってるの?」 という感じだった。
また、別の媒体でこの話を書 いたところ、編集者に「反中思想だという批判が 来るのでは」と心配されたほどである。
 しかし、現在では納得される向きも多いのでは なかろうか。
なぜ、中国は反日姿勢を崩さないの か。
日本政府が尖閣諸島を国有化したことが主因 ではない。
中国は少数民族問題、貧富格差の拡大、 インフレ、政治家や役人の腐敗など様々な内政問 題を抱えており、国民の不満のマグマが相当大きく なっているものと想像できる。
そうした中で、経 済がボロボロになっているということは絶対に隠蔽 したい事実であろう。
国民の不満が富裕層にまで 広がってしまうと、もう統制は困難になるかもし れない。
ゆえに、仮想敵国である日本を叩くこと により、国民の目を国内からそらそうとしている のだ。
学者」とのことであった。
 怪しげな夕刊紙や週刊誌でコメントを述べてい る二枚舌ジャーナリストなどとは違い、中国経済 の裏事情まで熟知している大御所の話なのだから、 信憑性は高いのかもしれない。
とすれば、中国経 済の病巣は、一二年にはさらに悪化している可能 性がある。
 そこで、前出の李次期首相が信頼している中 国の鉄道貨物輸送量はどうなっているのかと思い、 調べてみた。
グラフは鉄道貨物輸送量(トンキロ ベース)とGDPの前年同期比増減率を示したも のである。
鉄道貨物輸送量は、一二年六月から十 一月まで六カ月連続の前年水準割れで、特に七月、 中国のGDP 成長率と鉄道貨物輸送量の推移 7〜9 月期 4〜6 月期 1〜3 月期 1〜3 月期 1〜3 月期 1〜3 月期 1〜3 月期 4〜6 月期 4〜6 月期 4〜6 月期 4〜6 月期 7〜9 月期 7〜9 月期 7〜9 月期 7〜9 月期 10 〜1 2月期 10 〜1 2月期 10 〜1 2月期 10 〜1 2月期 10 〜1 2月期 20 15 10 5 0 -5 -10 (%) GDP 成長率(前年同期比) 鉄道貨物輸送量(トンキロ)増減率(前年同期比) 2008 年2009 年2010 年2011 年2012 年

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