ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2013年3号
SOLE
個別受注生産の?見える化?

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

SOLE 日本支部フォーラムの報告 The International Society of Logistics MARCH 2013  76  個別受注生産の製造現場には改善 課題がいまだ山積している。
ITを 活用して各種の問い合わせ業務や停 滞を削減することで、さらなるリード タイムの短縮や稼動率の向上、原価 低減などが可能になる。
ただし、そ のアプローチは繰り返し生産型とは大 きく異なる。
本稿では個別受注生産 に特化した生産管理の改革手法を解 説する。
(構造計画研究所 野本真輔、 シムトップス 伊藤昭仁) 個別受注生産の現場の実態  個別受注生産とは、顧客の要求 した仕様に従って、その都度、製品 を設計して製作する生産形態である。
繰り返し生産とは異なり、顧客から の引き合い・内示に始まり受注・仕 様打ち合せ・設計・調達・生産・納 品へと続く一連の業務プロセスが一品 ごとに流れる。
 設計情報は時々刻々と変化し、 様々な要因によって計画に遅れが生じ る。
その結果、納期が近付くにつれ て、残業や特急扱いなどのドタバタが 発生し、品質、コストに深刻な影響 を与える。
 それにも関わらず金額と納期の見 積もりは引き合いの時点から必要であ る。
それをどのように管理している のであろうか。
 多くは、班長、職長、現業スタッ フ、ボースン、あるいは進行さん等と 様々に呼ばれる進捗管理の担当者が 現場を走り回って情報を収集し、計 画全般の調整業務に追われているの が現状である。
「大日程」の計画担当 者から、「中日程」、さらには各工程 の「小日程」の計画担当者に至るま で、多くの人員と工数がそこに費や されている。
 班長や職長と呼ばれる現場責任者 は、常に計画全般の調整業務に追わ れている。
現場責任者の日々の業務 時間の七五%が調整業務に費やされ ているという調査報告もあるほどだ。
 現場責任者の本来の仕事は、当然 ながら計画の調整ではない。
業務の 改善、ものづくりの現場から設計部 門へのフィードバック、突発的な変更 や不具合への対応など、豊富な経験 を持つ人間の判断が必要な業務を行う ことである。
また、人材育成や現場 力の向上に時間を費やすことである。
 日々の調整業務は現場責任者の手 を煩わせずとも、ITを活用した「見 える化」の仕組みを構築することに よって十分対応できる。
日本の製造 現場の宝とも言うべき豊富なノウハウ を持つ熟練スタッフの無駄な調整業務 を減らし、本来の業務に当てる時間 を作ることが、我々のシステム開発に おけるテーマとなっている。
 個別受注生産における工程管理は、 初期段階から納品に至る一貫した生 産管理と原価管理が重要である。
そ れがうまく機能しないと、納期遅れ や原価超過などのトラブルが発生して しまう。
そうした現場では往々にし て次のような混乱が見られる。
●仕様打ち合せの内容が正確に設計 部門に伝わらず、齟齬や誤解が生 じる。
●過去に設計した図面の活用が不十 分で、類似した新しい図面を多量 に起こしている。
●設計段階で、仕様の無理や矛盾を 発見し、顧客と再調整が必要にな る。
●設計部門が多忙を極めていて、図 面の制作が遅れる。
●初期段階と設計完了段階の見積も り差異が説明できない。
●調達品のリードタイムが確保できな いため、見込み発注で凌いでいる。
●設計変更と工程変更・工数変動が 連動せずに、工数が確保できない。
●生産途中でも設計変更が頻発し、 仕様の混乱や手戻りが発生してい る。
●仕様違いではないが、顧客の意図 に沿っていないグレーゾーンのクレ ームが多い。
 このうち四項目以上思い当たる節 のある現場は、いつトラブルが発生し てもおかしくない状態だと考えたほ うがよいであろう。
トラブルまでには 至らなくとも、このような現場では、 監督者層が相当な工数を掛けて対応 や調整に追われているはずである。
 対症療法的な改善を繰り返しても 混乱はなかなか収まらない。
設計図 面管理や、工数管理などの単発の管 理ではなく、引き合いから設計・生 産までの一貫した管理体制を構築す る必要がある。
 図1は、個別受注生産における情 報の連関図である。
製品の仕様から、 図面、工程までの一繋がりの流れを 表している。
図は未定の仕様も残され ている状態を示しているが、決定し た仕様については、それによって確定 する図面、部品、着手可能な工程を 識別できる。
このように、打ち合わ せを経て順次決まっていく製品仕様を、 仕様・図面・工程を連鎖させた三位 個別受注生産の?見える化? 77  MARCH 2013 れでも、設計は自由に記入された部 分だけに注力し、その他を自動選定 に任せることにより、効率化を促進 できる。
スケジューリングのポイント  また作業手順や作業工数が常に変 わっていくのが、個別受注生産の大 きな特徴である。
計画策定のベース となる情報が時間軸と共に変化して しまう。
とりわけそれが新作品であ る場合は内示や受注等のタイミングで は設計が完了していないため、工程 計画が作れない。
そのため従来は大 日程や中日程などの大まかな計画を 立て対応していたが、日程や負荷な どの情報精度は曖昧であった。
 しかし、過去に類似品が存在しな い新作品の場合でも、部品ごとに見 れば類似品を見つけられることは多 い。
つまりコンフィグレータとスケジ ューラを連携させることで、新作品 であっても、内示や受注のタイミング で、初期計画を立てることは可能で ある。
その後も出図や仕様変更、設 計変更のタイミングで、コンフィグレ ータとスケジューラを連携させて計画 をタイムリーに更新すればいい。
 個別受注生産においては、仕様変 更、設計変更に加え、補正、補修 といった突発作業も頻繁に発生する。
いくら精度の高い計画を立案しても、 加したものだと考えてもらえばいい。
 これを運用するに当たって一つ大き な問題に直面する。
仕様の制約条件 や、仕様にマッチした既存の図面を選 ぶためのルールをどのように設定すれ ばよいかという問題である。
「個別受 注生産は顧客ごとの要求に従うのだ から、仕様の選定範囲を標準化する ことはできないし、図面の選定ルール を設定するのも難しい」と尻込みし てしまうことが多い。
 このような場合には、既存の図面 の整理から始めることを薦めている。
部位ごとに仕様の異なる図面が何種 類あるのか、図面ごとの仕様の違い は何なのかを整理する。
それだけで も図面の選定が容易になり、既存図 面の活用率が向上する。
 さらに図面ごとの仕様の違いを顧 客視点で整理すれば、すなわちそれ が既存の図面で対応可能な仕様の範 囲を示すことになる。
仕様と図面の 対応関係が自ずと明確になる。
 ただし、こうして定めた仕様範囲 以外に、自由に記入できる余地を残 しておくことが重要である。
過去に 対応したことのない顧客の要望も受 け付ける自由度を担保するのである。
もちろん、この場合には図面の自動 選定はできない。
従来通り設計者が 判断して図面を選定するか、新しい 図面を起こさなくてはならない。
そ 一体で一環管理するのが望ましい。
 筆者らは二つのシステムを連携させ て、このような管理の実現を図ってい る。
仕様の選定・図面の決定・工程 変更の情報を「コンフィグレータ(後 述)」と呼ぶシステムで管理し、最新 の工程情報に基づく計画立案と進捗 管理を、個別受注生産に特化した生 産管理システムで処理している。
 コンフィグレータは、仕様の選定、 見積もり、図面の選定、工程の選定 を処理するシステムだ。
仕様の制約 条件や既存の図面の利用条件、事前 に決めた選定ルールに則って、製造可 能性の保証された正しい仕様を導く ことができる。
購入するパソコンの仕 様をユーザーが自分で入力して価格を 確認できるインターネットサイトがあ るが、それを大規模にして、その裏 側に図面と工程を選定する機能を付 図1 個別受注生産の情報関連図 機能 仕様 設計 図面 部品調達加工サブ組立組立・検査 型式 電源電圧 回転速度 操作盤 非常停止 防爆仕様 パトライト 注 文 製 品 製 品 納 品 総組立 出荷梱包 T50 可変 赤・黄 センサー ? ? 200V 立合 凡例 調達 加工 サブ組立 総組立 確定 決 決 決 決 決 決 決 決 決 新 新 新 新 決 決 決 その通りには作業を進捗できないこ とがある。
事前に予測することが不 可能な要因によって、全体の日程が 前後してしまう。
 作業の中には、検査、立会など日 程の変更が難しいものや、後工程で ある組立、現地調整等、日程の遅れ が許されないものもある。
そのため、 すべての作業工程に対する監視と調 整が必要になる。
 とは言え、重工業プラント設備の ように工期が長く、一つの注文の作業 工程数が数万もあるような場合、作 業工程単位の監視・調整は現実的で はない。
そのために個々の工程や日 程には当初からある程度の余裕を見 ているが、その余裕の消費状況が後 工程にどのぐらいの影響を与えるの かを把握することさえ難しいのが実 情である。
「バッファ管理」で混乱を防ぐ  これに対応するには、各工程に含 まれている余裕を削除して、製造途 中にある検査や立会など、日程を遅ら せることができないマイルストーンや、 重要な部品が合流するポイントだけに、 バッファを割り当てることである。
 それによってバッファだけをモニタ リングすれば状況が把握できるように なる。
そして、このバッファをコント ロールすることで、一部の工程に遅れ や外乱などの変動が発生しても、そ の伝播を防止し、工程変更を回避す るのである(図3)。
 仕様変更、設計変更、修正、補修 など、事前に予測不可能な事象が発 生すると、ワーク、治具、図面など を探したり、次にどの作業を行うの かを管理者に聞きに行ったりと、い わゆる「問い合わせ」と呼ばれる作 業が頻発する。
それらが作業の円滑 な進行を阻害し、計画に対する実績 を入力できないケースが発生する。
製 造現場の見える化が失われ、責任者 が現場を走り回ることになる。
 こうした事態を避けるには決めら れたタイミングで進捗を報告する必要 があるのだが、進捗の報告は「着手」、 「完了」だけでは不十分である。
再ス ケジューリングには大きく三つの情報 が必要である。
すなわち?作業が完 了しているか、?未着手か、?作業 が仕掛かっている場合には、今使用 しているリソース(資源)の情報と、 該当の作業があとどれだけ工数が必 要か──という情報である。
 スケジューラが終了予定日を計算 し、作業指示をフィードバックするに は、これらの情報が必要であり、作 業を実施した結果を報告するだけの 日報報告や実績工数の収集だけでは 不十分である。
 以下、スケジューラに必要な機能 をいくつか列記する。
●作業着手後の残工数を入力する機 能(初期設定した計画工数〈見積 工数〉が正確ではない場合が多い ために必要になる) ●残りの作業分を未来に再スケジュー ルする「保留機能」(いったん作業 に着手したものの、仕様変更や設 計変更により、残りの作業をすぐ には行わなくなった場合に必要に なる) ●不具合情報や作業やり直し等の作 業履歴の情報入力機能 ●突発作業などの計画外作業の入力 機能 ●複数の作業を同時に行った場合に 工数を按分する機能 ●計画上の作業に対して、実際に行 った作業明細を入力する機能 ●複数の作業者が交互に作業した場 合や補助した場合など、実際に行 った作業実績をスムーズに入力す る機能  そして実績情報の入力を、いかに MARCH 2013  78 部品B 部品C 部品D 図2 工程計画データ 最終製品 部品A 部品A1 部品A2 部品D1 部品D2 部品D2-1 部品E1 部品E 部品構成情報作業アクティビティレベルでの情報 部品間の数量 構成の上での 親子関係 各構成部品の作業、作業工数、必要資源、 作業の前後関係、作業間の移動リードタイム、 日程制約条件、スケジューリング上の制約条件 部品間の作業の前後制約関係 部品の構成情報と作業及び作業間の前後制約関係 (実際の加工方法の実現手段としての製造作業の関係) 情報を統合してスケジューリングデータを持つ 作業間の前後関 係は、部品の親子 に関係なく実際の 製造手順で接続 容易に、現場作業者に負担を掛けず にできるかが鍵になる。
そのために は以下のような機能が有効となる。
●バーコード付きの現品票(トラベル シート)を出力しておき、実績入 力時にバーコードリーダーを使用し、 簡単な操作手順で実績を入力する 機能 ●専用のハンディターミナルを用いて 作業指示と連動してワンクリック で実績を入力する機能 ●加工機械などから自動的に実績を 収集する機能 ●設計部門、加工部 門、組立部門等実 績入力の頻度や作 業者環境に合わせ た入力形態に対応 した操作を混在し て使用できる機能  実績入力だけでも 対応すべき機能は多岐 にわたっていることが 分かるだろう。
 実績入力した結果 は、作業指示とリア ルタイムに連動させる 必要がある。
前工程 は計画通りに進捗して いるのか、遅れている としたらいつ終わるの か、誰が作業している のか等の情報を常に参照できなければ ならない。
 さらには、製造したモノの測定、 検査などの膨大な品質情報を記録す る必要もある。
筆者らはこの分野に おいても「iPad」等のタブレット を用いたソリューションを開発してい る。
全ての帳票を帳票データベースで 一元管理し、バックエンドで生産管 理システムや品質管理システムと自動 で連携する。
 製造現場でそんなに頻繁に実績入 力を行うのは難しいといった声を耳に することも多い。
しかし、見える化 の恩恵は計り知れない。
すべての作業 の進捗状況が把握できれば、全ての 「問い合わせ」業務が無くなるのであ るから。
「見える化」の三つのレベル  「見える化」という言葉は、我々の ようなITベンダーだけではなく、今 や工場内にも氾濫している。
見える 化のために製造現場の責任者やスタッ フは日々の業務とは別に膨大な管理資 料を作成しなければならず、しかも、 そのアウトプットとして得られる情報 が過去のものであり、現状を表して ないということも多い。
 我々は「見える化」には以下の三つ のレベルがあると考えている(図4)。
1.うその見える化  パッと見だけだと、整然とした表 やグラフが端末画面に表示されて「見 えている」ようでも、実際には絵に 描いた餅であり、そこには現状が反 映されていない。
実績、進捗を反映 するのに時間が掛かり、再計画には もっと時間と労力が掛かる。
このよう な状態を筆者らは「うその見える化」 と呼んでいる。
2.不十分な見える化  オーダーごとの進捗は把握できるも のの、負荷状況や進捗を反映した未 来の予定が見えない。
作業者、設備 などの負荷やアイドル時間、余裕が分 からないので、設計変更、仕様変更、 急な飛び込みなどが発生した場合に即 座に対応できない。
この状態を「不 十分な見える化」と呼ぶ。
3.本当の見える化  現在の進捗、進捗状況を反映して 再計画した未来の予定、現状と未来 の負荷状況など、製造現場の実態を 常に把握し、設計変更、仕様変更、 計画外の飛び込みなどに即座に対応 できる状態である。
 さらには、熟練の計画担当者の頭 の中を「見える化」していく仕組みが 求められる。
熟練の計画担当者のノ ウハウや管理技術を尊重しつつ、そ れを製造現場の作業者全員で共有で きるようにして、次世代へ伝えてい くのである。
 日本のものづくりにおける個別受 注生産は、熟練者たちの職人的かつ 高度な管理技術によって成立してい る。
他の国にはなかなか真似のでき ない、日本人だからこそ可能な生産 形態だと言える。
そして日本メーカー の多くは、コストを犠牲にしても品質 と納期は厳守するという厳しい姿勢 でものづくりに取り組んでいる。
 そのような日本のものづくりの世 界に誇れる部分をサポートし、次の若 い世代へ伝えていくことを我々は自ら の使命だと考えている。
79  MARCH 2013 図3 バッファ管理 ●バッファ管理により後続工程への影響を回避 「バッファによる後れ、外乱等の吸収」 「進捗モニタリングの簡素化と早期アクション提示」 何が、どこまで進んでいるのか、遅れているのかを 作業進捗とバッファの消費状況をモニタリングすることで把握できる仕組み 基準計画 (ベースライン) 進行中の計画 基準計画に対する遅れを検知 BUF BUF BUF BUF BUF BUF BUF バッファグループA バッファグループB バッファグループC バッファ消費率 バッファグループ 進捗率 バッファ消費率 バッファグループ 進捗率 バッファ消費率 バッファグループ 進捗率

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