ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2013年4号
物流行政を斬る
第25回 新総合物流施策大綱には検証可能な数値目標と法的拘束力の強化を

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

APRIL 2013  88 誰も評価できない  前回の本稿において、わが国の物流行政の枠組み や方向性を規定する最も包括的な指針である「総合 物流施策大綱(以下、大綱)」について取り上げた。
現在は二〇〇九年に策定された大綱が実施中であり、 今年はその最終年に当たる。
そして二〇一四〜一八 年を対象にした「新しい総合物流施策大綱」の策定 に向け、現在、有識者検討委員会が開催され、議 論されている。
今月もこの大綱について考えてみる ことにする。
 前月号でも述べたように、大綱は国土交通省、経 済産業省、総務省といった各省庁の縦割りを廃し、 物流政策の総合的かつ一体的な展開を目指すという ものである。
もちろん、このコンセプトに異論はな い。
筆者が疑問を抱くのは、その位置付けについて である。
 大綱は有識者検討委員会によって作成・発表され るが、罰則規定などの法的拘束力が一切ない。
拘束 力が働かなければ、是が非でも実現しようというモ チベーションはわき上がってこない。
また具体的な 数値目標もほとんど示されていないため、大綱が成 新総合物流施策大綱には 検証可能な数値目標と 法的拘束力の強化を  これまでの総合物流施策大綱には、数値目標がほとん ど示されていなかった。
そのために大綱が成功だったのか 失敗だったのか、誰も評価することができない。
来年から スタートする新たな大綱では、明確な大局観とともに具体 的な施策を掲げ、検証可能な体制を整えるべきだ。
さらに、 大綱の法的拘束力を強めて推進力の強化を図ることが望ま しい。
第25回 功だったのか失敗だったのか、誰も評価することが できない。
 例えば現在の大綱(〇九〜一三年)では次の三つ の柱が重点政策として掲げられている。
 ?グローバルサプライチェーンを支える効率的物流 の実現  ?環境負荷の少ない物流の実現等  ?安全・確実な物流の確保等  しかし、?の効率的物流とはどのような状況を指 すのだろうか。
?の環境負荷の大小は、何を基準に 決めるのだろうか。
?の安全・確実な物流と、そう でない物流の違いは何だろうか。
これらは何も示さ れていない。
 もちろん大きなビジョンを掲げることは大切だが、 その上で具体的な数値目標に落とし込んだ施策を設 けなければ意味がない。
現在策定中の大綱では、わ が国が目指す物流の方向性とともに、それを実現す るための具体的な目標も示されるべきだ。
さらに、 実現に向けて強制力を今まで以上に働かせ、結果に 対して明確な評価を下せる体制を整えることが望ま しい。
 具体的に大綱を策定するに当たり、まずアジアの 近隣諸国がどのような状況に置かれ、どのような 物流行政を実施しているのかを把握しなければなら ない。
これまではアジア諸国に比べてわが国経済の 規模が大きく、また成熟化のレベルも高かったため、 どちらかというと欧米諸国にベストプラクティスを 求めていた。
 しかし近年、わが国物流の競合相手は韓国や中国、 またそれらの国の企業になっている。
例えば、荷主 企業が韓国の仁川経由で欧米諸国に商品を輸出して いる現状を考えると、明らかに後塵を拝していると 認めざるを得ない。
 このままいくと、わが国の物流は空洞化してしま う。
これは絶対に避けなければならない。
物流業界 は労働集約型の産業である。
トラックや倉庫に代表 される物流事業者は、大量の社員やアルバイト、パ ートタイマーを使用している。
物流が空洞化すれば、 企業による雇用は一気に衰退してしまう。
同時に、 ジャストインタイムに代表される高度な物流ノウハウ も失ってしまうことになる。
 諸外国の企業がわが国において物流業務を行うに ようにするには、それなりの?仕掛け?が必要だ。
方向性としては二つ。
?低価格での提供、?物流サ 物流行政を斬る 産業能率大学 経営学部 准教授 寺嶋正尚 89  APRIL 2013  ービスレベルの向上、である。
これら二つはトレー ドオフの関係にあるが、そのバランスを取ることが 重要である。
 まず?であるが、諸外国に比べた場合の料金の低 廉さを出すには、その国の物価水準全般が安い必要 があるが、これは中国や韓国に比べて不利な状況に ある。
しかしわが国は、中国を初めとするアジア諸 国と米国の間に位置し、また広大な領海を有するな ど、地政学的な強みを持っている。
これをベースに ?の物流サービスレベルの高さで迎え撃ち、?に関 しては中国や韓国との競争に耐え得るものになるよ う、必要な税金を投入していきたいところである。
ロジスティクス立国を目指せ  筆者は前回、単なる物流ではなく戦略的志向を持 たせる意味で、「総合物流施策大綱」改め「ロジス ティクス大綱」に名称を変えるべきだと述べた。
国 として「物流立国」「ロ ジスティクス立国」を 目指すべきだとの考え からだ。
その構想は表 に示す通りである。
 まず、全ては消費者 の効用を最大化するた めに行われるものであ る点を忘れてはならな い。
戦略レベルとして は、ロジスティクス立 国を目指すものとした。
そのために戦術レベル として、次の五つの分 野における政策を提案する。
?公正な競争が行われるための政策  消費者の効用を最大化するためには、市場メカ ニズムを働かせる形で、前述したサービスレベル及 びコスト水準を適正な状態に保つ必要がある。
そ の意味で、物流サービスを提供する事業者による 競争は不可欠である。
 競争政策としては、 (1) 独占禁止法の厳格な適用 (優越的地位の濫用の禁止)、 (2) 書面化されていな い取引の禁止(特に立場の弱いトラック事業者に対 するもの)、 (3) ロビンソン・パットマン法のような 法律の施行(商流面での変革を促すもの)、などを 検討する必要があるだろう。
?中小物流事業者の保護・振興に関する政策  物流サービスは、規模の経済、範囲の経済が働 くものであるため、一般的に大企業であればある ほど有利になる。
しかし、一部の大企業によって 寡占化された状態が繰り広げられれば、上述した ?にも関係するが、適正な競争が行われなくなっ てしまう。
こうした意味からも、中小事業者の保 護を検討する必要がある。
ただし、あまりに非効 率な零細事業者を保護する必要はない。
?まちづくりや都市化への貢献するための政策  まちづくりや都市化を進める上で、物流の機能 はなくてはならない存在である。
こうした側面に 焦点を当て、物流のあるべき姿等を考えるべきだ。
例えば、過疎化が進む北陸の富山市では、まちを 挙げて「コンパクトシティ化構想」を進めているが、 路面電車を積極的に活用するなど、効率的な物流 のあり方に関する取り組みを多数行っている。
ま た、物流活動を営む上では住民への配慮等も欠か すことができない。
これからの時代、こうした視点 に立った物流政策の重要性は増していくものと思わ れる。
?環境問題に対する政策  主としてトラック事業者に対するものであるが、排 ガス規制など、環境問題の視点からのものである。
?物流基盤の整備に関する政策  高速道路及び一般道路、空港、港湾、駅など物 流基盤に関するものである。
近年、こうしたインフ ラへの投資がどれくらいの経済効果を生み出すかと いった景気対策としての側面ばかりが注目されがち だが、本来、利用者の立場に立った考察が必要であ る。
これまで見てきた?〜?のすべてに関係するが、 物流基盤が整備されることで、住民の暮らしはどう 変わるか、企業活動にどのようなメリットが生まれ るか、まちづくりや都市化にどのような貢献がある か等を考えなければならない。
 以上、簡単にではあるが大綱のあるべき姿につい て筆者なりに論じてきた。
残念ながら、現状の大綱 の中身は不十分と言わざるを得ない。
今後は有識者 検討委員会のみならず、マスコミや学識経験者、実 務家、行政担当者など、様々な立場の人が関与する 形で活発な議論がなされ、それが最終的には実行力 を伴う形態で、ロジスティクス立国を目指すものと なるよう期待したい。
てらしま・まさなお 富士総合研究所、流通経済研究所を 経て現職。
日本ロジスティクスシステ ム協会調査研究委員会委員、日本ボ タンタリーチェーン協会講師等を務め る。
著書に『事例で学ぶ物流戦略(白 桃書房)』など。
筆者が掲げる「ロジスティクス大綱」の構想 理念レベル 戦略レベル 戦術レベル 消費者起点であること ロジスティクス立国を目指すものであること ?公正な競争が行われるための政策 ?中小物流事業者の保護・振興に関する政策 ?まちづくりや都市化に貢献する政策 ?環境問題に関する政策 ?物流基盤の整備に関する政策

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