2013年5月号
特集
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第3部 タ イ──「メコン経済圏」のリーダー 洪水後も輸出拠点の地位は不動
MAY 2013 26
「洪水はもう過去の話」
二〇一一年の夏から秋にかけてタイで発生した
大規模な洪水は、七つの工業団地に入居する日系
企業約四五〇社に、金型が水に浸かるといった甚
大な被害を及ぼした。
ホンダやパイオニアなどの日 系企業を含め二三〇社超が入居するタイ中部アユ タヤ県のロジャナ・アユタヤ工業団地(約一五五 〇万?)も浸水し、製造機器や在庫の搬出、敷地 内の排水作業などに大わらわとなった。
あれから約一年半。
同団地内は多くの作業員が 行き交い、敷地内の工場には頻繁に大型トラック が出入りし、活気に溢れている。
洪水対策として 工業団地の周囲七七キロをぐるりと囲った高さ一・ 四メートルのコンクリート製防水壁を除けば、一 見しただけでは洪水が猛威を振るったと分かるも のは見当たらない。
「サプライチェーンは復旧し緊 急時の対策も講じている。
洪水はもう過去の話で す」。
ある日系製造業の関係者はそう言い切る。
住金物産とタイ財閥などの合弁による同団地の 運営会社ロジャナ・インダストリアル・パーク・ パブリック(以下、RIPP)の林邦亮ゼネラル マネージャーは「八〜九割のお客様は同じ場所で 操業を再開した」と明かす。
洪水のリスクが判明 したものの、大半の日系企業にとって、ほかの東 南アジア諸国より産業集積やインフラ整備が進み、 良質の部品を迅速に調達できる点はやはり捨てが たい。
建材・住宅用設備機器最大手LIXIL グループ傘下でアルミサッシを製造しているトス テムタイの荒木勇誠ファクトリー・マネージャーは 「サプライヤーはタイ国内で代替することができる。
ほかのアジア諸国よりその点はすごく優位だと思う」 と評価する。
タイ政府機関 のタイ投資委員 会によれば、日 本からタイへの 直接投資申請 額は一二年が前 年比九割増の三 七四〇億バーツ (約一兆二七〇 〇億円) と大 きく伸びた。
海 外からの投資申請額全体の六割近くに達する。
ジ ェトロ(日本貿易振興機構)本部の小野澤麻衣・ 海外調査部アジア大洋州課長代理は「洪水からの 復旧だけでなく新規や増産の投資も好調」と分析。
尖閣問題による日中関係の緊張も日系企業の目を タイに向かわせている。
海上・航空輸送や倉庫運営などを手掛ける商船 三井ロジスティクスの子会社「MOLロジスティク ス(タイランド)」の植木達也マネージング・ダイ レクターは「今でも中堅部品メーカーなどの進出 が続いている」と語る。
こうした企業を物流面で サポートする事業は今後も有望と見て対応を強化 する構えだ。
SBSホールディングス傘下のティーエルロジコ ムは、一一年にSBSグループ入りしたインドの アトラスロジスティクスなどと連携、アジア地域で 国際物流の拡大を図っている。
吉瀬文隆取締役常 務執行役員VL本部長は「カントリーリスクが小 さく、日系のグローバル企業は生産、販売、物流 がこれからも伸びていくのが確実。
我々は後発組 洪水後も輸出拠点の地位は不動 大洪水に見舞われても、日系企業にとって重要な製造・ 輸出拠点の位置付けは揺るがない。
タイ政府は自国を中心 とする製造業の国際分業体制を後押しし、メコン川流域諸 国の「メコン経済圏」のリーダーとなることを視野に入れ ている。
こうした動きを受け、日系物流企業は経済圏内の 越境物流増加をにらんで布石を打っている。
( 藤原秀行) MOLロジスティクス(タ イランド)の植木達也マ ネージング・ダイレクター トステムタイの荒木 勇誠ファクトリー・ マネージャー 3 タ イ──「メコン経済圏」のリーダー ロジャナ・アユタヤ工業団地 の周囲77 キロに建設された 高さ1.4 メートルの防水壁 27 MAY 2013 特 集 中国物流 の、今後の市場拡大に期待する向きは多い。
タイの自動車市場は九割を日本車が占める独壇 場だけに、日系自動車メーカー各社は、アジアや 中東などへの輸出とタイ国内市場の双方をにらみ、 相次いで生産能力向上に乗り出した。
日産自動車 はタイで二〇一四年に第二工場を立ち上げ、既存 工場の生産を補完する。
タイ日産の木村隆之社長 は「一六年までにタイ国内の市場シェアを(約二 倍の)一五%獲得することを目指している」と言 う。
トヨタ自動車は一三年中に四つ目の工場が稼 働予定。
豊田章男社長は近い将来、タイの生産を 日米並みの年間一〇〇万台に引き上げる方針を示 している。
日系自動車メーカーで唯一直接の洪水被害に遭 ったホンダは、復旧したアユタヤ工場の増強に加え、 前述のRIPPがプラチンブリで造成している団 地内で一五年にも新工場を立ち上げる。
比較的標 高が高いプラチンブリへの進出は洪水リスク回避 の意味合いもある。
二つの工場で年間生産能力を 一・八倍の計四二万台に高める計画だ。
自動車以外の 分野でも周辺国 などへの輸出と、 タイ国内市場の 両方をにらんで 増産・進出する 動きが続いてお り、日系物流企 業は体制強化や サービス品質向上 に注力している。
タイ日本通運倉 だがその動きに遅れず乗っていく」と自動車産業 などへの食い込みを狙う。
RIPPは自動車産業が多く進出している東部 のラヨン県と、まだ工業団地が少ないプラチンブリ 県の二カ所でいずれも年内の稼働を目指し、新た な団地を開発中だ。
プラチンブリはホンダが入居を 決めるなど分譲地の八割が契約済みで、早くも拡 張を準備中。
ラヨンも既に引き合いが来ていると いい、日系企業の旺盛な投資意欲を裏付けている。
国内新車販売は八割増 日系企業にとって重要な生産・輸出拠点の地位 は揺るがないタイ。
経済成長で中間所得層が増え、 内需が拡大していることも日系企業にとっては魅 力だ。
主力産業の自動車は、一二年の新車販売台 数が洪水後の落ち込みの反動に加え、政府の購入 支援策が追い風となり、前年比八割増の一四三・ 六万台と大きく伸びた。
昨年末で支援策が終了し、 一三年は成長の勢いが鈍化すると見込まれるもの 庫は昨年四月、自動車部品メーカーなどが集まる タイ最大の国際港レムチャバン港の近隣に五万七 五〇〇平方メートルの大型倉庫を開設。
現在は日 本の自動車メーカー向けミルクランの拠点などと して活用している。
倉庫の事務所内に各トラックの運行状況が一目 で分かるトレーシングボードなどを導入。
担当者 が二四時間体制で張り付いて遅れが生じていない か随時監視し、日本並みの物流品質確保に努めて いる。
有川裕之社長は「ローカルスタッフに現場 作業の改善策を考えてもらうなど、人の教育にも 力を入れていく」と明かす。
タイで四〇年以上の歴史を持つ川崎汽船子会社 の「泰国川崎汽船」は、部品物流などの需要拡 大に対応するため、国内配送トラックの増車や、 工場近隣で部品を保管しオンタイムの納入を支え る新たなデポの確保に取り組んでいる。
定時到着 率を高めようと、トラックにビデオカメラを据え 付けてインターネット経由で道路の混雑状況を把 握、渋滞回避に役立てる試みも始めた。
石田信夫 社長は「時間厳守、品質向上の要求が厳しくなっ ている。
我々もいろいろな取り組みを顧客にアピ ールする必要がある」と話す。
郵船ロジスティクスの現地法人「郵船ロジステ ィクス(タイランド)」は、タイに持つ倉庫面積を 現行の約二〇万平方メートルから一四年中に三〇 万平方メートルまで広げる予定だ。
「自動車や電機、 化学品の分野で倉庫の需要が盛り上がっている」(佐 藤実前社長)ことに対応する。
バンテックの現地法人「バンテックワールドト ランスポート」は日産自動車や関連部品メーカー、 電機業界に強みを持つが、大沢廣之社長は「親会 TLロジコムの吉瀬文 隆取締役常務執行役 員VL本部長 泰国川崎汽船の 石田信夫社長 タイ日本通運倉庫が大型倉庫に導入している トレーシングボード。
トラックのミルクラン 配送状況を見える化している MAY 2013 28 ている。
現地スタッフ の多能工化を後 押しし、能力の レベルに応じて 給与をアップし たり、不良率や 生産性などの指 標を基に毎月一 回、優秀な生産 ラインの従業員 を表彰したりと、 生産現場の改革 はタイ人の自主 性を重んじてい るのが特色だ。
望月克取締役プ リンター工場長 兼管理本部長は「自発的に取り組んでもらうこと でやる気が増している」と強調する。
ただ、タイ進出企業が業容を拡大する上でアキ レス腱となっているのが、人手不足と人件費の上 昇だ。
ジェトロの調査によると、アジア主要都市 の一般工員の月額基本給(一二年一月時点)はバ ンコクが二八六ドル。
ミャンマーのヤンゴン(六八 ドル)、カンボジアのプノンペン(八二ドル)、ラ オスのビエンチャン(一一八ドル)といった近隣 都市を引き離している。
特に中小企業にとっては 厳しい状況だ。
このため、日系製造業の間では、タイの主力生 産拠点は維持しつつ、人件費が安い隣国に衛星工 場を作り、人手が不可欠な部分の工程をそちらに 場を抱える。
LIXILは海外売上高を一兆円に 引き上げる目標を掲げ、アジアの事業基盤強化が 重要課題の一つ。
アジア地域のサプライチェーン を統括するチーフ・サプライチェーン・オフィサー のダナンジェイ・グプテ氏は「タイは中心的な役 割を占めており、周辺国への製品供給をさらに増 やしていく」と強調する。
アメリカンスタンダードのタイ工場では、各原料 の消費量などの細かなデータを駆使して生産プロ セスを抜本的に見直し、製品の歩留まりを二年間 で十二%改善。
金具などのベンダー数を絞り込み、 調達コストを抑えた。
トステムタイもアルミサッシ を船積みする際の積載効率アップなどを推進して いる。
OKIデータの業務用プリンター生産の半分を 担うタイ子会社の「OKIデータマニュファクチャ リング」は、生産・物流改革に継続して取り組ん でいる。
最近力を入れているのがプリンター出荷 時の梱包の見直しだ。
箱詰めしたプリンターを従 来は二〇フィートコンテナ一台当たり二八六個積 んでいたが、コンテナの上部に約五五センチの空 間が生じ、非効率だった。
現在は二〇フィートの ハイキューブコンテナに切り替えて積み方も変更、 積載個数を四三二まで増やしている。
佐藤正徳生 産管理部長は「細かな効果は検証中だが、今のと ころコンテナ変更に伴う増コスト分を補えている ようだ」と言う。
工場の現場ではトヨタ生産方式に沿って〇八年 から現場のムダとり活動を展開。
「活人」「活スペ ース」の具体策を講じ、一二年度上期までに延べ 約一万四六〇〇平方メートルの空きスペースを工 場内に生み出して有効活用するなどの成果を上げ 社の日立物流が3PLを手掛ける荷主企業の国際 輸送も取り込んでいきたい」と意欲を見せる。
ホンダへの部品納入や完成車輸送などを請け負 っている日本梱包運輸倉庫のタイ法人「ANIロ ジスティクス」の斉藤清市社長は「例え同規模の 洪水が起きても迅速に対応できる経験を蓄積でき た。
ホンダさんの新工場建設にも物流面でしっか り対応していく」と宣言。
今年一月に東部のラヨ ン県で二万?の倉庫を持つ営業所をオープンした ほか、グローバル食品企業の原材料保管業務を獲 得するなど、自動車物流で培った高品質のサービ スを武器に、業容拡大に挑んでいる。
人手必要な工程を隣国に移管 日系メーカーも、タイの拠点を重要視し、生産 の効率化などを加速している。
LIXILはトス テムタイのほか、〇九年に買収した水回り機器大 手アメリカンスタンダードのアジア大洋州部門の工 LIXILのチーフ・サプライチ ェーン・オフィサー ダナ ンジェイ・グプテ氏 バンテックワール ドトランスポート の大沢廣之社長 ANIロジスティク スの斉藤清市社長 ロジャナ・アユタヤ工業団地にあるANI ロジスティクス の作業拠点。
洪水時は全体に浸水した 29 MAY 2013 特 集 中国物流 の地域の工業団地開発を推進する計画を打ち出す など、自国を中核とする分業を後押しすることで、 メコン経済圏のリーダーを目指そうとする姿勢が にじみ出ている。
ジェトロバンコク事務所の浅野 義人ディレクターは「国内だけでなく周辺国の力 も積極的に活用しないと新たな成長のステージに 進めないと考えているのだろう」との見方を示す。
物流企業も、タイが絡む越境物流が将来的に 増えることへの布石を打っている。
タイ日本通運 倉庫は〇九年にタイとベトナム、一一年にタイと カンボジアを陸路で結ぶ輸送サービスを開始した。
ドア・ツー・ドアで船便よりリードタイムを二〜 七日短縮できるのが売り物だ。
有川社長は「タイ 国内の配送はもちろん、ASEAN域内全体を見 据えた物流も考えていくことが重要だ。
AEC創 設を契機に通関手続きの見直しなどが進めば、タ イを中心とした国境間ミルクランも可能になるか もしれない」と予想する。
日新の現地子会社、タイ日新では「従来は日本 とタイの往復がメーンだったが、ASEAN域内で 国境をまたいだ仕事が増えている」(生田博一副社 長)という。
今春にはバンコクとハノイを積み替え なしで運ぶ混載の陸送サービスを週二便、本格的 に運行する予定。
日系の大手メーカー向けに同じル ートで陸送を実施、経験を積み重ねてきた。
海上 輸送よりコストは高くなるものの、リードタイムは 二泊三日と、一〇日程度短縮できるのがメリット だ。
美濃聡副社長は「輸送コストが船より高くな ってもリードタイムが短くなる陸送へのニーズは必 ずある。
積み替えなしというオリジナルの商品で品 物をきっちりと運び、採算ベースに乗せていきたい」 と事業拡大に強い意欲を示している。
輸入し、ワイヤーハーネスを同工場で組み立て、 タイの自動車メーカーに供給している。
ニコンは 年内にラオスで新工場を開設し、現在タイで生産 しているデジタル一眼レフカメラなどの一部工程 を移管する予定だ。
RIPPの林氏は「電機・電子部品などはタイ をマザー工場として一部の工程を隣国に移す形が 増えていくと見ている。
カンボジアやラオスに加え、 生産人口が多いミャンマーに期待する企業は多い」 との見方を示す。
RIPPもこうした製造業の動 きを受け、タイに加えてカンボジアやミャンマーに 新たな工業団地を開設することを検討中だ。
国境沿いの工業団地開発を推進 一九九〇年代ごろから、インドシナ半島のメコ ン川周辺に位置するタイやカンボジア、ラオス、 ミャンマー、ベトナムは将来有望な「メコン経済圏」 として注目されてきた。
この地域では、ミャンマ ー〜タイ〜ラオス〜ベトナムを横断する「東西経 済回廊」といった国際幹線道路の整備が進むほか、 昨年六月にタイとカンボジアの間の通関手続きが 簡素化されるなど、人やモノの移動円滑化につな がる動きが広がっている。
一五年の「ASEAN経済共同体」(AEC) 創設で域内関税の原則撤廃などが実現し、タイ周 辺国のインフラも徐々に整えば、日系企業にとっ てタイを挟んだ国 際分業体制を取り やすくなる。
タイ 政府もカンボジア やラオス、ミャン マーとの国境沿い 移すことで製造コストを抑え、生産を効率化しよ うとする動きがじわじわと広がっている。
ベアリングや小型モーターを得意とするミネベア は一一年四月、プノンペンの経済特区内の工場が 操業を開始。
タイやマレーシアの工場から部品を 受け取ってデジタルカメラ用の小型モーターなどを 組み立てている。
ワイヤーハー ネス(自動車用 組電線)で世界 トップの矢崎総 業は昨年末、タ イとの国境から 二キロほどのカ ンボジア・コッ コンに新工場を 立ち上げた。
原 材料はタイから タイ日新の 美濃聡副社長 OKI データマニュファクチャリングの工場。
タイ人従業 員が一人でプリンターを組み立てる「屋台生産方式」の拡 大を進めている (左から)OKI データマニュファクチャリング 望月氏、佐藤氏
ホンダやパイオニアなどの日 系企業を含め二三〇社超が入居するタイ中部アユ タヤ県のロジャナ・アユタヤ工業団地(約一五五 〇万?)も浸水し、製造機器や在庫の搬出、敷地 内の排水作業などに大わらわとなった。
あれから約一年半。
同団地内は多くの作業員が 行き交い、敷地内の工場には頻繁に大型トラック が出入りし、活気に溢れている。
洪水対策として 工業団地の周囲七七キロをぐるりと囲った高さ一・ 四メートルのコンクリート製防水壁を除けば、一 見しただけでは洪水が猛威を振るったと分かるも のは見当たらない。
「サプライチェーンは復旧し緊 急時の対策も講じている。
洪水はもう過去の話で す」。
ある日系製造業の関係者はそう言い切る。
住金物産とタイ財閥などの合弁による同団地の 運営会社ロジャナ・インダストリアル・パーク・ パブリック(以下、RIPP)の林邦亮ゼネラル マネージャーは「八〜九割のお客様は同じ場所で 操業を再開した」と明かす。
洪水のリスクが判明 したものの、大半の日系企業にとって、ほかの東 南アジア諸国より産業集積やインフラ整備が進み、 良質の部品を迅速に調達できる点はやはり捨てが たい。
建材・住宅用設備機器最大手LIXIL グループ傘下でアルミサッシを製造しているトス テムタイの荒木勇誠ファクトリー・マネージャーは 「サプライヤーはタイ国内で代替することができる。
ほかのアジア諸国よりその点はすごく優位だと思う」 と評価する。
タイ政府機関 のタイ投資委員 会によれば、日 本からタイへの 直接投資申請 額は一二年が前 年比九割増の三 七四〇億バーツ (約一兆二七〇 〇億円) と大 きく伸びた。
海 外からの投資申請額全体の六割近くに達する。
ジ ェトロ(日本貿易振興機構)本部の小野澤麻衣・ 海外調査部アジア大洋州課長代理は「洪水からの 復旧だけでなく新規や増産の投資も好調」と分析。
尖閣問題による日中関係の緊張も日系企業の目を タイに向かわせている。
海上・航空輸送や倉庫運営などを手掛ける商船 三井ロジスティクスの子会社「MOLロジスティク ス(タイランド)」の植木達也マネージング・ダイ レクターは「今でも中堅部品メーカーなどの進出 が続いている」と語る。
こうした企業を物流面で サポートする事業は今後も有望と見て対応を強化 する構えだ。
SBSホールディングス傘下のティーエルロジコ ムは、一一年にSBSグループ入りしたインドの アトラスロジスティクスなどと連携、アジア地域で 国際物流の拡大を図っている。
吉瀬文隆取締役常 務執行役員VL本部長は「カントリーリスクが小 さく、日系のグローバル企業は生産、販売、物流 がこれからも伸びていくのが確実。
我々は後発組 洪水後も輸出拠点の地位は不動 大洪水に見舞われても、日系企業にとって重要な製造・ 輸出拠点の位置付けは揺るがない。
タイ政府は自国を中心 とする製造業の国際分業体制を後押しし、メコン川流域諸 国の「メコン経済圏」のリーダーとなることを視野に入れ ている。
こうした動きを受け、日系物流企業は経済圏内の 越境物流増加をにらんで布石を打っている。
( 藤原秀行) MOLロジスティクス(タ イランド)の植木達也マ ネージング・ダイレクター トステムタイの荒木 勇誠ファクトリー・ マネージャー 3 タ イ──「メコン経済圏」のリーダー ロジャナ・アユタヤ工業団地 の周囲77 キロに建設された 高さ1.4 メートルの防水壁 27 MAY 2013 特 集 中国物流 の、今後の市場拡大に期待する向きは多い。
タイの自動車市場は九割を日本車が占める独壇 場だけに、日系自動車メーカー各社は、アジアや 中東などへの輸出とタイ国内市場の双方をにらみ、 相次いで生産能力向上に乗り出した。
日産自動車 はタイで二〇一四年に第二工場を立ち上げ、既存 工場の生産を補完する。
タイ日産の木村隆之社長 は「一六年までにタイ国内の市場シェアを(約二 倍の)一五%獲得することを目指している」と言 う。
トヨタ自動車は一三年中に四つ目の工場が稼 働予定。
豊田章男社長は近い将来、タイの生産を 日米並みの年間一〇〇万台に引き上げる方針を示 している。
日系自動車メーカーで唯一直接の洪水被害に遭 ったホンダは、復旧したアユタヤ工場の増強に加え、 前述のRIPPがプラチンブリで造成している団 地内で一五年にも新工場を立ち上げる。
比較的標 高が高いプラチンブリへの進出は洪水リスク回避 の意味合いもある。
二つの工場で年間生産能力を 一・八倍の計四二万台に高める計画だ。
自動車以外の 分野でも周辺国 などへの輸出と、 タイ国内市場の 両方をにらんで 増産・進出する 動きが続いてお り、日系物流企 業は体制強化や サービス品質向上 に注力している。
タイ日本通運倉 だがその動きに遅れず乗っていく」と自動車産業 などへの食い込みを狙う。
RIPPは自動車産業が多く進出している東部 のラヨン県と、まだ工業団地が少ないプラチンブリ 県の二カ所でいずれも年内の稼働を目指し、新た な団地を開発中だ。
プラチンブリはホンダが入居を 決めるなど分譲地の八割が契約済みで、早くも拡 張を準備中。
ラヨンも既に引き合いが来ていると いい、日系企業の旺盛な投資意欲を裏付けている。
国内新車販売は八割増 日系企業にとって重要な生産・輸出拠点の地位 は揺るがないタイ。
経済成長で中間所得層が増え、 内需が拡大していることも日系企業にとっては魅 力だ。
主力産業の自動車は、一二年の新車販売台 数が洪水後の落ち込みの反動に加え、政府の購入 支援策が追い風となり、前年比八割増の一四三・ 六万台と大きく伸びた。
昨年末で支援策が終了し、 一三年は成長の勢いが鈍化すると見込まれるもの 庫は昨年四月、自動車部品メーカーなどが集まる タイ最大の国際港レムチャバン港の近隣に五万七 五〇〇平方メートルの大型倉庫を開設。
現在は日 本の自動車メーカー向けミルクランの拠点などと して活用している。
倉庫の事務所内に各トラックの運行状況が一目 で分かるトレーシングボードなどを導入。
担当者 が二四時間体制で張り付いて遅れが生じていない か随時監視し、日本並みの物流品質確保に努めて いる。
有川裕之社長は「ローカルスタッフに現場 作業の改善策を考えてもらうなど、人の教育にも 力を入れていく」と明かす。
タイで四〇年以上の歴史を持つ川崎汽船子会社 の「泰国川崎汽船」は、部品物流などの需要拡 大に対応するため、国内配送トラックの増車や、 工場近隣で部品を保管しオンタイムの納入を支え る新たなデポの確保に取り組んでいる。
定時到着 率を高めようと、トラックにビデオカメラを据え 付けてインターネット経由で道路の混雑状況を把 握、渋滞回避に役立てる試みも始めた。
石田信夫 社長は「時間厳守、品質向上の要求が厳しくなっ ている。
我々もいろいろな取り組みを顧客にアピ ールする必要がある」と話す。
郵船ロジスティクスの現地法人「郵船ロジステ ィクス(タイランド)」は、タイに持つ倉庫面積を 現行の約二〇万平方メートルから一四年中に三〇 万平方メートルまで広げる予定だ。
「自動車や電機、 化学品の分野で倉庫の需要が盛り上がっている」(佐 藤実前社長)ことに対応する。
バンテックの現地法人「バンテックワールドト ランスポート」は日産自動車や関連部品メーカー、 電機業界に強みを持つが、大沢廣之社長は「親会 TLロジコムの吉瀬文 隆取締役常務執行役 員VL本部長 泰国川崎汽船の 石田信夫社長 タイ日本通運倉庫が大型倉庫に導入している トレーシングボード。
トラックのミルクラン 配送状況を見える化している MAY 2013 28 ている。
現地スタッフ の多能工化を後 押しし、能力の レベルに応じて 給与をアップし たり、不良率や 生産性などの指 標を基に毎月一 回、優秀な生産 ラインの従業員 を表彰したりと、 生産現場の改革 はタイ人の自主 性を重んじてい るのが特色だ。
望月克取締役プ リンター工場長 兼管理本部長は「自発的に取り組んでもらうこと でやる気が増している」と強調する。
ただ、タイ進出企業が業容を拡大する上でアキ レス腱となっているのが、人手不足と人件費の上 昇だ。
ジェトロの調査によると、アジア主要都市 の一般工員の月額基本給(一二年一月時点)はバ ンコクが二八六ドル。
ミャンマーのヤンゴン(六八 ドル)、カンボジアのプノンペン(八二ドル)、ラ オスのビエンチャン(一一八ドル)といった近隣 都市を引き離している。
特に中小企業にとっては 厳しい状況だ。
このため、日系製造業の間では、タイの主力生 産拠点は維持しつつ、人件費が安い隣国に衛星工 場を作り、人手が不可欠な部分の工程をそちらに 場を抱える。
LIXILは海外売上高を一兆円に 引き上げる目標を掲げ、アジアの事業基盤強化が 重要課題の一つ。
アジア地域のサプライチェーン を統括するチーフ・サプライチェーン・オフィサー のダナンジェイ・グプテ氏は「タイは中心的な役 割を占めており、周辺国への製品供給をさらに増 やしていく」と強調する。
アメリカンスタンダードのタイ工場では、各原料 の消費量などの細かなデータを駆使して生産プロ セスを抜本的に見直し、製品の歩留まりを二年間 で十二%改善。
金具などのベンダー数を絞り込み、 調達コストを抑えた。
トステムタイもアルミサッシ を船積みする際の積載効率アップなどを推進して いる。
OKIデータの業務用プリンター生産の半分を 担うタイ子会社の「OKIデータマニュファクチャ リング」は、生産・物流改革に継続して取り組ん でいる。
最近力を入れているのがプリンター出荷 時の梱包の見直しだ。
箱詰めしたプリンターを従 来は二〇フィートコンテナ一台当たり二八六個積 んでいたが、コンテナの上部に約五五センチの空 間が生じ、非効率だった。
現在は二〇フィートの ハイキューブコンテナに切り替えて積み方も変更、 積載個数を四三二まで増やしている。
佐藤正徳生 産管理部長は「細かな効果は検証中だが、今のと ころコンテナ変更に伴う増コスト分を補えている ようだ」と言う。
工場の現場ではトヨタ生産方式に沿って〇八年 から現場のムダとり活動を展開。
「活人」「活スペ ース」の具体策を講じ、一二年度上期までに延べ 約一万四六〇〇平方メートルの空きスペースを工 場内に生み出して有効活用するなどの成果を上げ 社の日立物流が3PLを手掛ける荷主企業の国際 輸送も取り込んでいきたい」と意欲を見せる。
ホンダへの部品納入や完成車輸送などを請け負 っている日本梱包運輸倉庫のタイ法人「ANIロ ジスティクス」の斉藤清市社長は「例え同規模の 洪水が起きても迅速に対応できる経験を蓄積でき た。
ホンダさんの新工場建設にも物流面でしっか り対応していく」と宣言。
今年一月に東部のラヨ ン県で二万?の倉庫を持つ営業所をオープンした ほか、グローバル食品企業の原材料保管業務を獲 得するなど、自動車物流で培った高品質のサービ スを武器に、業容拡大に挑んでいる。
人手必要な工程を隣国に移管 日系メーカーも、タイの拠点を重要視し、生産 の効率化などを加速している。
LIXILはトス テムタイのほか、〇九年に買収した水回り機器大 手アメリカンスタンダードのアジア大洋州部門の工 LIXILのチーフ・サプライチ ェーン・オフィサー ダナ ンジェイ・グプテ氏 バンテックワール ドトランスポート の大沢廣之社長 ANIロジスティク スの斉藤清市社長 ロジャナ・アユタヤ工業団地にあるANI ロジスティクス の作業拠点。
洪水時は全体に浸水した 29 MAY 2013 特 集 中国物流 の地域の工業団地開発を推進する計画を打ち出す など、自国を中核とする分業を後押しすることで、 メコン経済圏のリーダーを目指そうとする姿勢が にじみ出ている。
ジェトロバンコク事務所の浅野 義人ディレクターは「国内だけでなく周辺国の力 も積極的に活用しないと新たな成長のステージに 進めないと考えているのだろう」との見方を示す。
物流企業も、タイが絡む越境物流が将来的に 増えることへの布石を打っている。
タイ日本通運 倉庫は〇九年にタイとベトナム、一一年にタイと カンボジアを陸路で結ぶ輸送サービスを開始した。
ドア・ツー・ドアで船便よりリードタイムを二〜 七日短縮できるのが売り物だ。
有川社長は「タイ 国内の配送はもちろん、ASEAN域内全体を見 据えた物流も考えていくことが重要だ。
AEC創 設を契機に通関手続きの見直しなどが進めば、タ イを中心とした国境間ミルクランも可能になるか もしれない」と予想する。
日新の現地子会社、タイ日新では「従来は日本 とタイの往復がメーンだったが、ASEAN域内で 国境をまたいだ仕事が増えている」(生田博一副社 長)という。
今春にはバンコクとハノイを積み替え なしで運ぶ混載の陸送サービスを週二便、本格的 に運行する予定。
日系の大手メーカー向けに同じル ートで陸送を実施、経験を積み重ねてきた。
海上 輸送よりコストは高くなるものの、リードタイムは 二泊三日と、一〇日程度短縮できるのがメリット だ。
美濃聡副社長は「輸送コストが船より高くな ってもリードタイムが短くなる陸送へのニーズは必 ずある。
積み替えなしというオリジナルの商品で品 物をきっちりと運び、採算ベースに乗せていきたい」 と事業拡大に強い意欲を示している。
輸入し、ワイヤーハーネスを同工場で組み立て、 タイの自動車メーカーに供給している。
ニコンは 年内にラオスで新工場を開設し、現在タイで生産 しているデジタル一眼レフカメラなどの一部工程 を移管する予定だ。
RIPPの林氏は「電機・電子部品などはタイ をマザー工場として一部の工程を隣国に移す形が 増えていくと見ている。
カンボジアやラオスに加え、 生産人口が多いミャンマーに期待する企業は多い」 との見方を示す。
RIPPもこうした製造業の動 きを受け、タイに加えてカンボジアやミャンマーに 新たな工業団地を開設することを検討中だ。
国境沿いの工業団地開発を推進 一九九〇年代ごろから、インドシナ半島のメコ ン川周辺に位置するタイやカンボジア、ラオス、 ミャンマー、ベトナムは将来有望な「メコン経済圏」 として注目されてきた。
この地域では、ミャンマ ー〜タイ〜ラオス〜ベトナムを横断する「東西経 済回廊」といった国際幹線道路の整備が進むほか、 昨年六月にタイとカンボジアの間の通関手続きが 簡素化されるなど、人やモノの移動円滑化につな がる動きが広がっている。
一五年の「ASEAN経済共同体」(AEC) 創設で域内関税の原則撤廃などが実現し、タイ周 辺国のインフラも徐々に整えば、日系企業にとっ てタイを挟んだ国 際分業体制を取り やすくなる。
タイ 政府もカンボジア やラオス、ミャン マーとの国境沿い 移すことで製造コストを抑え、生産を効率化しよ うとする動きがじわじわと広がっている。
ベアリングや小型モーターを得意とするミネベア は一一年四月、プノンペンの経済特区内の工場が 操業を開始。
タイやマレーシアの工場から部品を 受け取ってデジタルカメラ用の小型モーターなどを 組み立てている。
ワイヤーハー ネス(自動車用 組電線)で世界 トップの矢崎総 業は昨年末、タ イとの国境から 二キロほどのカ ンボジア・コッ コンに新工場を 立ち上げた。
原 材料はタイから タイ日新の 美濃聡副社長 OKI データマニュファクチャリングの工場。
タイ人従業 員が一人でプリンターを組み立てる「屋台生産方式」の拡 大を進めている (左から)OKI データマニュファクチャリング 望月氏、佐藤氏
