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るようになってきた。 日本からの製品
輸出が息を吹き返す可能性は今の為替
レートであれば十分ある」
「ただし、昨年まで三年余り続いた
超円高の影響で、日本のメーカーはど
こも生産の海外シフトを相当に進めま
した。 いったん現地に工場を作った以
上、そこから撤退するということには
さすがにならない。 それでも現地の生
産量を抑えて日本の生産量を増やすと
いったバランスの調整は今後起こって
きます」
──グローバルロジスティクスの管理
が、ますます複雑化していきます。
「結果としてアジアではシンガポール
や香港の重要性が高まってくる。 日系
企業でもシンガポールや香港に物流の
本部機能を置いて、そこでグローバル
物流を管理するという動きが顕著にな
ってきました。 アジアの最大消費地は
中国でも、ハブを置くのは先進国でな
いと駄目なんです。 英語圏かつ文化や
歴史も含めてインターナショナルなルー
ルの通用するところ、通関や関税の運
用が安定しているところでないとハブ
は置けない」
──日本からシンガポールや香港に物
流本部を移すことで何が違ってくるの
でしょうか。
「情報量です。 今やあらゆる産業が
情報産業の側面を持っている。 情報
ポスト中国物流の行方
──尖閣問題以降、日系企業の中国
戦略が大きく変化しています。
「チャイナリスクがはっきりと表面化
したことで、少なくとも日系企業にと
っては一つの時代が終わりました。 毎
年のように反日運動が起きていますか
らね。 これまでは何とか持ちこたえて
きたとしても今後もそうできるとは限
らない。 そのためにどこも事業戦略を
見直している。 体力のない中小だと中
国からリタイアするところも増えてき
た」
──とはいえ、消費市場としての中国
は今後も無視できません。
「今後ますます重要になってきます。
中国で農村部の都市化が進めば、AS
EAN一カ国分くらいの需要がすぐに
生まれますから。 ただし当社としても
中国で汎用型の営業倉庫にどんどん投
資するということはもうできない。 コ
ールドチェーンや医薬品物流など、ワ
ンランク上の付加価値を提供できる仕
事にターゲットを絞らざるを得ません」
──日系企業のグローバル化は過去一
〇年にわたって中国を中心に動いてき
ました。 今後はどう変化していくので
しょうか。
「一つはアメリカ市場の復活に注目し
ています。 そのため今年五月にメキシ
コに新会社を立ち上げました。 メキシ
コに進出している日系の自動車部品メ
ーカーの物流を請け負って、北米や南
米に部品を供給する。 それを受けるア
メリカ側でも物流機能を整備する必要
もあるので、今それをやっています」
「アジアだとやはりインド、アセア
ン。 なかでもタイを中心とする『旧・
バーツ経済圏』(タイ、ベトナム、ラオ
ス、カンボジア、ミャンマー)の台頭
が大きい。 とりわけ自動車物流はここ
に注目しなければなりません。 インド
ネシアも少なくとも今後数年は確実に
経済成長が続く」
──割安な労働力を求める生産シフト
が、カンボジアやミャンマーまで来た
となると、もうアジアでは他に移す先
がありません。 いわゆる雁行型の経済
発展が一段落することになります。 一
方で、貿易の自由化が急速に進んでい
ます。 各国の事業規制の緩和も進んで
いる。 生産拠点や在庫を国ごとに置く
必要がなくなっていきます。
「消費地生産や現地調達率の制約が
なくなると、改めて『メイド・イン・
ジャパン』が復活する可能性がありま
す。 既に一部の製品ではそうした傾向
が出てきている。 同じブランドでも日
本製にしてくれと、顧客から指定され
伊藤忠ロジスティクス 佐々和秀 社長
「グローバル物流は転換期を迎えた」
生産の中国シフトが終わり、グローバル物流は新たな時代に入った。
アジア内需の拡大と貿易の自由化は荷主企業に拠点網の再編を促す。
国際輸送から各国内の販売物流までをカバーしてサプライチェーンを最
適化するグローバル3PLのニーズが生まれる。 (聞き手・大矢昌浩)
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が公になってから動いているのでは遅
い。 今後は日本を経由しない三国間取
引がますます増えてきます。 日本に居
て、日本流でビジネスを進めていては
立ち遅れてしまいます」
「物流会社も同じです。 先ほどのメ
キシコの新会社にしても数年前まで
メキシコなど誰も気にしていなかった。
当社が注目したのも二〇一一年秋のこ
とです。 どうもこれからメキシコが伸
びそうだという感触があったので、試
しに現地のパートナー企業に日本から
一人送り込んだところ、引き合いが来
るわ来るわ。 これは行けると判断して、
すぐに手を打ちました」
グローバル3PLが本格化
──物流会社に期待するサービス内容
も変わってきますね。
「単純なフォワーディングではなく、
各国の国内物流まで含めたグローバル
な最適化が求められています。 それに
よって荷主と物流会社の関係も大きく
変わる。 エリア別やルート別にコンペ
を開いてそれぞれ一番安い業者を選ぶ
というスタイルから、世界市場をベー
スとした3PLと一対一で手を組んで
戦略的に取り組むかたちに変わる」
──しかし荷主は特定の3PLに依存
してしまうことを嫌がる。 これは日本
だけでなく欧米でも同じです。
があります」
──しかし総合商社でなくても、外資
系にとって新興国の国内物流は単価が
低くて利益を出すのが難しい。 日本の
感覚からすれば売上規模は小さくても、
取り扱っている物量は大きいので、オ
ペレーションに手間が掛かる。
「確かに新興国の内需型物流となる
と外国人の我々には読めないところが
たくさんある。 人脈、政治力など我々
が前に出て行かないほうがいい場面も
多い。 そのため内需型は現地のパート
ナーとの合弁が前提になります」
──出資せず業務提携や業務委託では
駄目なのですか。
「出資して経営の中に入り込まないと、
やはり中身が見えてこない。 事業の採
算や勝算を判断できません。 各国の規
制や相手側の問題はあるものの、出資
比率も過半数は欲しい。 合弁でも主導
権は握っておく必要があります」
「そんなことはありません。 既に当
社は一〇社ほどのグローバル企業とそ
うした関係を結んでいます。 そのうち
一社は当社と組むことでトータル物流
コストを三割削減することができまし
た。 その会社は中国、タイ、ベトナム
に生産工場を置いて、世界二十カ国で
製品を販売しています。 従来は各工場
でそれぞれ物流を管理し、販売国側で
もそれぞれ倉庫を持っていた。 使って
いる物流会社もバラバラだった。 それ
を当社に集約したんです」
「アジアの三カ国で生産している製品
をすべて香港に集めて保管し、そこか
ら世界中に貨物航空機を使ってジャス
ト・イン・タイムで供給するようにし
ました。 船便と比べれば当然ながら輸
送費は高くつく。 しかし、エアで顧客
に直送することで、各消費地に在庫を
置く必要がなくなった。 当然、倉庫も
いらなくなった。 その結果、輸送費は
増えたけれどもトータルコストは三割
下がった」
──しかし、そうやってネットワーク
を最適化した後は、改めて地域別・ル
ート別に安い物流会社を探して、そこ
に切り替えるということになってしま
いませんか。
「我々はピンポイントの単価ではなく
トータルコストの削減を提案していま
す。 我々自身もトータルで採算を管理
しているわけですから、そこは荷主に
も理解してもらうしかない。 仕事を奪
うために安値攻勢をかけてくる物流会
社はいくらでもいます。 しかし長続き
はしない。 我々は荷主と心中するくら
いの気持ちで臨んでいます。 社長同士
で手を結び、部長クラス同士がタスク
フォースを組んで、検討とトライアル
を重ねて時間を掛けて本番に入ってい
る。 それだけ強く結びついている」
──海外ネットワークの厚みや事業規
模の点では、伊藤忠ロジスティクスよ
り大きな物流会社は日本にも複数あり
ます。 どう差別化しますか。
「組織が大きくなり過ぎると横串が
刺せなくなるケースがあります。 縦割
りが目立つようになって、柔軟な対応
が取れなくなる。 会社同士でパートナ
ーシップを組むことが難しくなってき
ます。 そのことは荷主自身がよく分か
っています」
──荷主と物流会社が一対一で手を組
む本格的なグローバル3PLの事例は
欧米でもまだ限られています。 しかし
見方によっては日本の総合商社は、従
来からそこにドメインを置いていたと
は言えませんか。
「そうかも知れません。 しかし総合
商社もまた巨大企業です。 物流事業も
インフラ投資がメーンになる。 自分で
現場のオペレーションをやるのは無理
企業プロフィール
伊藤忠商事の物流子会社。
1961年設立、94年に東証2部
上場。 (当時の社名は伊藤忠倉庫)
2001年、伊藤忠倉庫、ニュージャ
パンエアサービス、伊藤忠エクスプレ
スが合併し、アイ・ロジスティクスに
社名変更。 09年、伊藤忠商事によ
る株式公開買付で上場廃止。 10年、
商号を現在の伊藤忠ロジスティクス
に変更。 2012年3月期の業績は売
上高が前期比6.9%増の433億円、
経常利益は同32.6 %増の13億円。
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