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MAY 2013 56
市場からの三つの懸念
日立物流は二〇〇〇年以降、3PLの先駆者
的な存在として顧客企業からの物流委託を受け
てきた。 その結果、顧客企業の物流費削減に貢
献し、下請け的存在ではなく、パートナー的な
関係を構築できたと言えよう。 以降、国内物流
の収益性は向上し、株式市場からの評価も高ま
っていった。 ただ、当時の安定的な利益成長の
裏側には将来の懸念も潜んでいたと言えよう。
メリルリンチでは、?景気変動に対する業績
感応度の高まり?企業買収や一括物流を受託し
た大型案件の収益性改善の遅れ?日立グループ
企業からの物流受託に含まれる潜在的なリスク
──の三点が、日立物流の企業価値に対する不
安感になっていると考える。
まず、既存顧客の増加に伴い、当然ながら景
気変動の影響を受けやすい収益構造に変化して
きたことは事実だ。 それは鉱工業生産指数との
連動性が従来以上に増したことからも検証でき
る。
既存の主な顧客はヘルスケアやアミューズメン
トなど、比較的景気変動の影響を受けにくいデ
ィフェンシブな業種が多かった。 しかし、それで
もリーマンショックや東日本大震災の影響で、景
気敏感な顧客企業の取り扱い数量の減少が顕在
化した。 過去二年間、主力の国内物流でも利益
成長力がやや鈍化傾向を見せている。
日立物流の強みは3PL物流企業の中では相
対的にカバレッジの広い国内ネットワーク、顧客
企業の物流コスト削減力、積極的な営業提案な
どにある。 しかし同業他社も物流コスト効率化
のノウハウを十分に習得し、品質ギャップが縮小
してきた。 景気変動による数量減だけではなく、
ほかの3PL企業との競争激化も利益成長の妨
げになっている可能性がある。
実際、同業他社の中には厳しい事業環境下で
も着実な利益成長を達成しているケースも見ら
れる。 既存顧客の収益管理、同業他社との競争
環境の悪化という条件の中、再び安定的な利益
成長性が評価されるか否か、現状はその分水嶺
にあると考えられるだろう。
次に、企業買収や一括物流受託に関する懸念
だ。 〇七年以降、物流子会社の買収や、物流の
一括受託など複数の大型物流案件を手掛けてき
た。 国内物流では「旧資生堂物流(現日立物
流コラボネクスト)」や「DIC」、「内田洋行」、
「ホーマック」、「バンテック(現連結子会社)」な
どがある。 国際物流でも、米国の「JPH」、イ
ンドの「FLYJACK」などを連結子会社化
し、事業領域を拡大している最中だ。
これらのM&Aをした企業や物流一括受託を
した案件の業績開示はないものの、連結業績を
見る限り、収益性が改善しているという兆しが
日立物流
一四年三月期は大幅な増益を予想
新経営陣のメッセージに市場も注目
ここ数年、景気変動の影響で利益成長力が鈍
化していた日立物流だが、二〇一四年三月期は
本来の成長力を取り戻すことになりそうだ。 3P
L事業は激しい競争に晒されながらも、比較優
位を保てている。 株式市場の期待する収益性改
善を新経営陣がどこまで進められるのかが、今
後の株価を占うポイントとなりそうだ。
第84回
土谷康仁
メリルリンチ日本証券 調査部
シニアアナリスト
57 MAY 2013
見られない。 最近では、「日立電線」のように
日立製作所のグループ会社のM&Aや物流一括
受託が増えてきており、今後も増加すると予想
される。
日立グループの物流受託を受けることは増収
につながる案件であり、ポジティブに評価したい。
しかし、重要なのは収益性の改善だ。 そもそも、
企業の機密情報が多い物流を一括委託する背景
には、?物流業務を企業経営の重要事項と捉え
て戦略的に委託するケース?顧客企業の業績が
苦戦しており、救済的に委託を求めるケース─
があると考えられる。 後者の場合には顧客企業
の業績が回復し
なければ、取引
条件の改善や業
務領域の拡大な
どが見込み難い
だろう。 それど
ころか、むしろ、
当社の連結業績
の収益性を低下
させる要因にな
るリスクがある
だろう。
もっとも、経
営陣が収益性よ
りも売上高や営
業利益の規模を
優先するのであ
れば問題はない。
ただ、株式市場
では規模拡大だけでなく、収益性改善を求める
声が強いのは事実だ。 企業価値を高めるために
は、これらの物流案件の収益性改善の効果を示
すこと、全体最適(連結業績のROE改善など)
を考えた企業統治の手法などを株式市場に示す
必要があるだろう。
今期は営業利益一四%増を予想
業績に目を転じると一三年三月期は景気変動
に翻弄された年度と言うことができるかもしれ
ない。 メリルリンチは日立物流の一三年三月期
の売上高を前期比二%減の五四二八億円、営業
利益を同一八%減の一八九億円、純利益を同一
七%減の一〇四億円だったと予想している(四
月一日現在)。 会社の営業利益計画が二二〇億
円のため、約三〇億円の計画未達成を予想して
いることになる。
計画が未達成になる可能性が高いと考えられ
るのは、?連結子会社バンテックの売上不振(国
際航空貨物、及び国内自動車輸送の減)?国際
物流(3PL)の低迷?景気敏感な既存顧客の
数量減──などが想定されるためだ。
特に十〜十二月の既存顧客の減収額は多額と
なり、中でもバンテックの減収幅が直近四半期
では最も多額だったと推定される。 ただし、バ
ンテックの航空貨物や、トラック輸送の数量減
は景気要因とみられ、構造的な問題ではないと
判断している。 当該時期の減収には、一一年の
タイの洪水による航空の緊急輸送や日産(バン
テックの日産向け売上比率は約二〇%、自動車
関連売上比率は約六〇%)における国内販売の
好調などの反動減が影響したとみられる。 従っ
て、一四年三月期にはこれらの一過性の減収要
因がなくなり、本来の収益性を取り戻す局面に
入ってくるだろう。
メリルリンチでは、一四年三月期の売上高を
前期比五%増の五七一三億円、営業利益を同一
四%増の二一六億円、純利益を同一七%増の一
二二億円と予想している。
飛躍的な業績改善の背景には、?一三年三月
期に稼動した3PL案件が近年でも相対的に多
く、これら案件の通期稼動による増収・増益効
果が予想される点?鉱工業生産指数と連動性の
高い既存顧客向けの売上高が緩やかに改善して
くる点?一三年三月期に一時費用で計上したB
CPコストや新規案件の立ち上げ費用がなくな
る点──などがあり、増益要因は多いと考える。
また、構造的に景気変動の影響を受けやすい収
益構造に変わったことは事実だが、コア事業で
ある3PL事業は引き続き優位性を保っている
と考えられる。
一三年は経営陣の交代もあり、日立物流生え
抜きの社長が陣頭指揮を執ることが予定されて
いる。 株式市場は、業績改善の確度、新経営陣
の投資家へのメッセージなどを注視しているだ
ろう。
つちや やすひと
一九九七年三月神戸大学大学院卒、
九八年四月和光証券入社。 三菱証券
などを経て、二〇〇五年一〇月にメ
リルリンチ日本証券に入社。 運輸セ
クター担当アナリストとして活躍し
ている。
《出来高》
過去10年間の株価推移
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