*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。
MAY 2013 80
物流の業務契約では荷主と物流会社が直
接交渉をするのが一般的です。 それに対して、
物流不動産の賃貸借では、テナント(荷主)
と施設オーナーの間に不動産会社が入るこ
とがあります。 当社が行っている物流不動
産Bizでも、不動産会社から物件やテナ
ントの情報提供を依頼されることが一般的
です。
不動産会社にも二種類の立ち位置があり
ます。 倉庫を貸したいオーナー側から依頼
を受けた不動産会社と、倉庫を借りたいテ
ナント側から依頼を受けた不動産会社です。
オーナー側の不動産会社を「元付」、テナン
ト側の不動産会社を「客付」と呼びます。
実は、不動産会社はお互いに依頼主の
情報を出そうとしません。 出してしまった
ら、自分が交渉から外される可能性がある
からです。 想像してみて下さい。 もし元付
不動産会社の担当者がテナント候補に「お
たくのところの不動産会社を外してくれたら、
手数料を減らすよ」。 そんな甘言をささやか
れたら、客付不動産会社は堪りません。 不
動産業界ではときおり、こういったことが
行われているんです。
マンションやオフィスなどの一般不動産だ
ったら、お互いの不動産会社がそれぞれの
依頼主の詳しい情報を知らなくても問題あ
りません。 予算と場所、広さが合えば、大
抵はうまく仲介できるからです。 しかし、
物流不動産では問題が大あり。 そんな事例
を紹介します。
まだ、物流不動産Bizを始めて間もな
いころです。 ある不動産会社から、五〇〇
坪の倉庫を東京西部の地域で探すように依
頼がありました。 かなり急いでいたようで
「一週間後にはテナント候補企業の社長を案
内するから、いくつか物件を用意してほしい」
とのこと。 私は困ってしまいました。
というのも、該当地域に五〇〇坪の倉庫
は複数ありましたが、どんな荷物を入れる
のかが分かりません。 それどころか、荷物
の形態や性質、車両の出入りの有無も分か
らないのです。 不動産会社に「お客の情報
を少しでも教えてくれ」と言っても、「あん
たは言われたとおり五〇〇坪の倉庫を探し
てくれればいい。 良い悪いを決めるのはお
客さんなんだから」の一点張りです。
テナントの情報が全く分からないまま案内
の当日になりました。 結果は、懸念してい
た通り最悪のものでした。 当社は急ぎにも
かかわらず五つも物流施設を用意し、案内
の順番も時間も決めていたのですが、テナ
ント候補企業の社長は最初の施設を車の中
から見るなり怒って、車から降りてこよう
ともしません。 そして、そのまま帰ってし
まったんです。
不動産会社を詰問して判明したのですが、
そのテナントの荷物は精密機械。 ほこりは厳
禁です。 一方で、一件目に案内した倉庫は
建材や鉄工材などを保管する?吹きっさら
し?の倉庫でした。 これでは怒るのも当た
り前ですよね。 荷物が精密機械と聞いてい
たらそんな倉庫を案内するわけがなく、ト
ラブルは回避できたんです。
この事例を見て分かる通り、賃貸借を核
とする物流不動産Bizでは物流施設の目
利きとともに、物流のコンサル能力も重要に
なります。 物流不動産の場合、広さや賃料
だけでは本当のニーズはつかめません。 同
じ広さでも、荷物の種類によって必要な天
井高や床荷重、低床/高床、エレベーター能
力などが違ってきます。 トラックの大きさ
や出入りの頻度によって、必要なヤードの広
さも異なります。 ニーズを見極めて最適な
物流施設を探索・紹介するためには、物流
の知識が絶対に欠かせないんです。
実は、多くの不動産会社が過去に物流不
動産Bizに挑戦してきて、そのほとんど
が失敗に終わっています。 原因は今回出て
きた不動産会社のように?物流?の知識が
なかったからです。 物流不動産Bizは賃
貸借を行うため不動産仲介業の印象が強い
ですが、実は、物流を熟知している物流企
業が行ったほうがよっぽど効率的で、成功
率は高いものなんです。
大谷巌一(おおたに・いわかず)
1957 年生まれ。 高千穂商科
大学卒。 81年東京倉庫運輸入
社。 同社物流部門、不動産部
門を経て2003 年イーソーコ副
社長就任(現職)。 2010年イ
ーソーコドットコム会長に就任。
現在に至る。 著書に『これから
は倉庫で儲ける!! 物流不動
産ビジネスのすすめ』(日刊工
業新聞社)など。
PROFILE
第2回 不動産会社に物流施設の仲介はできない!
|