ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2013年6号
特集
第1部 サプライチェーンの設計

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JUNE 2013  18 サービスレベルの設定  セブン─イレブンの物流を語る上で最も重要なこ とは、誰のために、どのようなサービスが必要と されているのかを、彼等が徹底して考えているこ とだ。
物流サービスレベルを考える際には、どう しても現行の拠点の立地や店舗の配置などを前提 としてしまいがちである。
しかし、セブン─イレブ ンは違う。
 一般的な小売り・流通では考えられないことか もしれないが、セブン─イレブンでは出店可能エリ アを最終的には物流部門が決定している。
物流部 門がノーと言えば、たとえマーケットが大きいこ とが分かっていても出店できない。
 セブン─イレブンで最も重要な米飯やサンドイッ チなどの「デイリー商品」の供給には、配送セン ターと店舗間で一日に納品車両を四回転させる必 要がある。
それが可能な範囲に出店エリアを限定 している。
つまり、出店可能=安定的に商品供給 が可能ということなのである。
 そして「お客様に最も良い状態の商品を定期的 に運べること」こそが、セブン─イレブンの物流に おける最も基本的なサービス条件である。
そこか ら発生するのが、製造から納品までのプロセスを 徹底的に考え抜いた「時間」の概念である。
 具体的に説明しよう。
デイリー商品、とりわけ 米飯やサンドイッチは、保存料などを無添加にして、 なおかつ食の安全・安心を追求しているため、賞 味期限が非常に短い。
従って、製造してから店頭 に並ぶまでの時間を極力短くしなければ店舗での 販売時間が短くなり、それだけ経営に負担が掛か ってしまう。
 加えて、一日三食の食生活に合わせた納品回数 と、お客様が多く来店するピークタイムに入る前 までに、店舗に納品された商品の検品ならびに品 出し作業を終えている必要がある。
つまり、最も 売れる時間帯に合わせて納品態勢を構築する必要 があるのである。
 昼食時間であれば、おおよそ十二時〜十三時が コンビニの来店客が最も多くなるピークタイムと なる。
店舗面積の限られたコンビニではピークタ イム中に品出しなどできない。
事前に品出しを完 了させるには十一時までの店舗納品が条件だ。
 それを前提に、車両の大きさ(狭い路地などを 通行する観点から二トン車までが限界となる)と 積載物量から逆算して、配送センターからトラッ クが出発する時刻が決まる。
 さらには「製造」について考えなければならない。
店舗への納品時刻に合わせて、米飯であれば、配 送センターへの持ち込み時間、横持ちの時間、仕 分け、パッキング、盛り付け、製造、炊飯、そし て清掃の着手時間をそれぞれ設定する。
つまり十 一時までに店舗が発注した商品を全て納品できる ように、製造の前段階となる清掃や炊飯までも厳 格にスケジューリングするのである。
 しかも、セブンイレブンは全国一万五〇〇〇店 のどの店でも同じ品質の商品を購入できることを お客様に約束している。
都心部であっても郊外で あっても同じ看板で商売をしている以上、同じ品 質の商品、同じサービスを提供する。
これは創業 以来一貫して守られている経営の基本である。
 そのつもりでお客様も来店している。
その期待 に応えられなければ、店に対する信頼は大きく低 下してしまう。
サプライチェーンの設計  サプライチェーンの設計はサービスレベルの設定か らスタートする。
最も良い状態の商品を常に店頭に 並べるためには、どのような仕組みが必要なのか。
そこから逆算して、調達から生産、店舗納品にい たる全てのプロセスが設計されている。
19  JUNE 2013 特集 三〇坪の売り場と一五坪のバックルームに二八〇 〇アイテムもの商品を置いて日々の商売をしている。
 しかも、常温商品などでは商品回転率を高め、 絶えず新しい商品に入れ替えることで、顧客の商 品に対する「飽き」を防止する対策を採っている。
また米飯などは先述の通り販売可能時間が極端に 短いため、売れ残った商品を一日数回にわたり廃 棄処分している。
 店舗に対する物流サービスについても同じである。
エリアによっては一日に四回もの納品をすることが、 売上的にも配送距離からも難しいこともある。
し かし、それは本部側の事情であってセブン─イレブ ンの看板を信用して買物に来るお客様やフランチ ャイズオーナーにとっては関係ない話なのである。
ネットワークシステムの設計  セブン─イレブンでは、雑誌を除くほとんど全て の商品が、店舗からの発注によって品揃えされる。
店主の意図しない商品を本部が独自に買い付けて 店舗に送り込むということは一切行われない。
こ れはセブン─イレブンの全ての加盟店が独立した事 業主であることに起因している。
 各店舗は自らの経営判断によって店頭に並べる 商品の種類とその量を決定している。
独立した事 業主として店主はその「権利」を持ち、また来店 されたお客様に満足のいく買い物をしてもらえる だけの品揃えを行う「義務」を負っている。
 そして各店舗では「発注した商品は完全な数量 と時間に届けられる」ことを前提に、納品日カレ ンダーに基づいて発注している。
これはセブン─イ レブンの専用工場で日々製造されているデイリー 商品も、外部のベンダーから仕入れている常温や フローズン商品でも同様である。
 店舗からの発注を受けたセブン─イレブンは、そ の質、量、価格などの要求に対応できるベンダー を本部として推奨し、さらに商品部が中心となっ て日々の商品供給が滞りなく行われているか、各 ベンダーや工場の作業の進捗を管理している。
 セブン─イレブンに限らず、コンビニエンススト アの店舗はバックルームも含めて狭小である。
約  そのため店舗側には注文後すぐに商品を持って きてほしいという強いニーズがある。
その要請に 応えるための仕組みがセブン─イレブンにとっての 「物流」であり、それを支えているのが店舗と本部、 配送センター、そしてベンダーを結ぶ「ネットワー クシステム」である。
 店舗から発注されたデータはセブン─イレブンの ホストシステムで処理されて、発注締め切り後直 ちにベンダーや製造工場、ならびに配送センター の全てに伝送される。
 米飯関連商品は発注締め切り後わずか九分で全 工場に対して、店舗ごとの発注の明細と商品ごと の製造数合計、さらに納品便などの必要な情報を 加味したデータを伝送する。
各工場では受信した データを原材料の計算データに落とし込み、一斉 に仕込みを始める。
 配送センターで在庫を持つ常温商品に関しては、 発注締め切り後二四分で、やはり全てのセンターに、 店舗ごと、商品ごとの発注データを伝送する。
こ のデータを元に配送センターはデジタルピッキング システムによる店別の仕分け作業を開始する。
こ れによって、発注締め切りから最短五時間半後の 店舗への納品を実現している。
 このようにしてセブン─イレブンにおいては物流 とネットワークシステムが、日々の営業を支える両 輪となっている。
どちらか一方が先に出るという ことはなく、両者は常に同期をとりながら、同じ タイミングで進化を続けてきたのである。
 セブン─イレブンの物流の歴史は「共同配送の歴 史」だったと言える。
現在は、雑誌とたばこ、そ して山崎製パンの商品を除く全ての商品について の店舗納品が共同化されている。
この仕組みをメ 図1 ネットワークシステムの構築 店舗セブン─イレブン本部 メーカー 取引先端末システム 店舗会計エントリー 店舗従業員管理 情報発信 共配センター レジ 発注/販売 スキャン検品 情報分析/参照 GOT 分析データ 伝票レス納品 情報:販売・納品 情報:販売・納品 店発注 センター発注 納品 取引先端末システム 入出庫業務 在庫管理 売掛・買掛管理 通過型在庫型 納品 納品 納品 発注 メーカー端末システム 商品開発 原材料発注 製品受注 出荷指示 生産/在庫管理 売掛管理 メーカー発注 ベンダー(デイリーメーカー) 取引先端末システム デイリーメーカーベンダー センター発注 情報:販売・納品 店発注 店発注 情報:販売・納品 分析データ ホスト 等 コンピュータ 等 等 店発注 情報:販売・納品 JUNE 2013  20 ーカー、ベンダー、店舗がそれぞれ活用すること で全員が大きな効率化を享受している。
 セブン─イレブンの物流の最も重要な思想は、お 客様が欲しい商品を欲しい分だけ、しかもタイム リーに配送することに尽きる。
しかし、このシン プルな目標を達成するために、セブン─イレブンは 創業期から並々ならぬ苦労を強いられてきた。
そ れまでの伝統的な商習慣が大きな壁となって立ち はだかったのだ。
共同配送=専用配送網の構築  セブン─イレブンが創業した昭和四九年(一九七 四年)当時の日本は、まだまだメーカーや卸の発 言力が強い時代であった。
物流もそれぞれの卸が バラバラに店舗に納品するのが一般的だった。
 セブン─イレブンの店舗にも一日二四時間の営業 時間中に七〇台を超える車両が納品に来ていた。
平均すると約二〇分おきに納品作業を行っている 計算だ。
しかも当時は店舗の従業員と配送員が立 ち会って、伝票と商品を突き合せての検品作業だ った。
 店舗従業員の仕事は、もちろん納品処理や伝票 照合だけではない。
レジや清掃、フェイスアップ など、非常に多くの仕事を抱えている。
たばこや コーヒーなどカウンターで販売する商品もある。
店 舗従業員がレジ接客に追われ、立会い検品にまで 時間を避けない場面が頻繁にあったであろうこと は想像に難くない。
 店舗の近隣では納品車両による渋滞も発生して いたはずだ。
当時はまだ現在のように駐車場スペ ースを大きく取った店舗は例外的で、都心部など では酒屋からの業態転換も多く、駐車場のない店 舗が大半だった。
 各ベンダーがそれぞれ納 品を行っていたために、納 品数量にも偏りがあった。
とりわけ惣菜や麺、生鮮品 などの日配品のベンダーに は各地の小規模な惣菜屋や 小間物屋が多く、単独での 店舗配送が大きな負担とな っていた。
この問題を解決 するための仕組みが共同配 送だった。
 まずは神奈川県下の店舗 に納品する惣菜や麺類の配 送(「生鮮配送」と呼ぶ) から共同化の取り組みがス タートした。
その効果は絶 大で一日七〇台を数えた納 品車両が一気に四二台にまで削減されたのである。
 この成功を見てほかのカテゴリーへの横展開を 開始した。
次の対象は牛乳・乳飲料関係であった。
チルド温度帯(五℃)の中心となる商品である。
先に進めた生鮮配送をさらに効率化するためにも、 牛乳・乳飲料を共同配送に巻き込むことは必須で あった。
 ところが当時の牛乳・乳飲料業界は、各メーカ ーがエリア別に特定の卸を指定する「特約店制度」 が根強く残り、メーカー同士のライバル意識が非常 に強かった。
あるメーカーに共同配送を打診した ところ「あそこのメーカーの牛乳は充分に消毒で きていないからうちの商品と一緒に運ばれては困る」 と断ってきたという逸話も残っているほどである。
 実は共同配送は、物流の効率化のほかにもう一 つ狙いがあった。
商慣行の改善である。
当時はま だ特約店の営業マンが商品を車両に積んで店舗を 回る「ルートセールス」が盛んな時代であった。
 特約店の営業マンとの交渉次第で、売れ筋を仕 入るために売れ残りの在庫品なども一緒に仕入れ なければならなかったり、営業マンが自分の売り たい商品を勝手に棚に並べてしまうということな どが多々あった。
これを放置すれば、「お客様が 欲しい時に欲しいものを欲しいだけ」買える売り 場にはならない。
 返品可能な取引条件がそれを許していた。
店舗 にとっては売れ残りの廃棄リスクがないという利 点はあるが、その分だけ粗利率も低く設定されて 図2 発注から納品までのタイムスケジュール 11:00 店舗発注締切 11:09〜12:00 発注データ配信 チルド米飯 米飯・焼成パン 生鮮・牛乳 2便 米飯・調理パン 生鮮 1便 上記と同じ パターン 1便3便 焼成パン・ 牛乳 4便 米飯 生鮮・加工肉 店別仕分け(牛乳・加工肉) 常温 店別仕分け 小分け 店別仕分け 配送 加食・酒類 菓子・雑貨 前半 加食・酒類 菓子・雑貨 後半 配送 積み込み フローズン 1 回転目 フローズン 2 回転目 フローズン 3 回転目 フローズン 4 回転目 12:00 15:00 18:00 21:00 24:00 03:00 06:00 09:00 12:00 15:00 18:00 ※米飯・焼成パン・ 生鮮は工場で店 別仕分け済み 加食・酒類 菓子・雑貨 前半 配送 店別仕分け 店別仕分け フローズン 21  JUNE 2013 特集 いた。
売れた商品の粗利をチェーン本部と店舗で 分け合う「粗利益分配方式」を採るセブン─イレブ ンにとっては、これも看過できない問題だった。
 お客様に求められる商品が求められる分だけ並 ぶ売り場を作るには、店舗が自分の意思で品揃え を考え、必要な数量を発注し、返品にも責任を持 つことが必要だとセブン─イレブンは判断した。
そ のためにも専用の物流インフラ、すなわち共同配 送が必要だったのである。
 本特集第二部でその詳細は解説するが、生鮮配 送と牛乳配送の共同化は、セブン─イレブンが不退 転の決意で粘り強い交渉を繰り返した末の成果で あった。
その後、さらに加工肉の関連商品がそこ に加わり、配送の回数も一日一便から二便へ、そ して現在の三便体制へと進化していった。
顧客ニ ーズの変化に応じて商品内容が変化し、それが物 流体制に修正を促していったのである。
配送頻度の最適化  現在のチルド共配センターからの一日三回の納 品は、各便によって運ぶ商品が違う。
早朝の「一 便」では、早朝〜午前中に需要が多くなる商品を 納品する。
牛乳関連、サンドイッチなどの調理パ ン、漬物などである。
午前中納品の「二便」は、 調理パンのほか、調理麺や惣菜、サラダなど。
夕 方の「三便」は、調理麺、惣菜、おつまみ、サラ ダのほか、夜の需要に応じた牛乳・乳飲料、そし て調理パンなどである。
 サンドイッチをはじめとする調理パンは、米飯 類と同様に販売可能時間が非常に短いため、一日 三回の全便で納品している。
反対に販売時間が長 いハムやソーセージなどの加工肉は一日一回の納 品。
調理麺や惣菜などは昼の時間帯と夜の時間帯 に販売ピークがあることから一日二回としている。
 このチルド温度帯の配送パターンをベースにし て、米飯とフローズンでも商品特性に合わせた納 品頻度を設定し、製造から店舗の陳列棚に並ぶま で米飯は二〇℃、フローズンはマイナス二〇℃の 温度が維持されるように管理している。
 常温商品は、セブン─イレブンで最後に配送が共 同化されたカテゴリーである。
常温商品は日用雑 貨、菓子、加工食品、酒ドリンクなどアイテム数 が膨大で、重量、容積とも非常に入り乱れている。
 納品形態の違いも大きい。
ソフトドリンクやビ ール、スナック菓子など一定量の販売が見込める 商品はケース単位の納品が有効だ。
一方、筆記具 や化粧品、農海産物をケースで納品すれば不良在 庫化しかねない。
小分けにして最小限度の納品数 にする必要がある。
 そのような商品特性に基づく納品形態を前提に、 店舗における在庫量の最小化と、納品回数を減ら すことによる車両積載率の最大化のトレードオフ を調整した結果が現在の週三回納品だ。
菓子と雑 貨・加工食品をそれぞれ週に三回、月・水・金と 火・木・土という裏表で納品している。
 ただし、ソフトドリンクとビールは、販売が安 定的であり、重量も重いことから、一日一回、毎 日納品している。
従ってドリンク+ビールと、菓 子ないし加工食品・雑貨が日によって交互に納品 されるのである。
 ほかのコンビニチェーンでは全ての常温商品を 毎日配送しているところもある。
しかし、それで は物量が平準化されない。
多くの場合、火曜日に 集中する新商品の発売日の納品と、それ以外の曜 日で納品数量に大きな格差が生じてしまう。
結果 として配送車両の効率が悪化する。
 また発注が週に三回しかないと、品切れをした 場合には最長で四日間、店頭から商品がなくなっ てしまうことになる。
空いた棚の目立つ店は非常 に寂れて見える。
そのため店舗側の発注に緊張感 が生じることも店舗運営の高度化にはプラスにな ると、同社では判断している。
   (信田洋二) 図3 共同配送の進化に伴う店舗への納品車両台数の推移(1店1日当たり) 80 70 60 50 40 30 20 10 0 (台) (年) 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 42 台 34 台 31 台 26 台 22 台20 台 15 台12 台 11 台10 台 セブン-イレブン創業 生鮮共同配送開始 常温混載完了 牛乳 加工肉 雑貨 加工食品 米飯 フローズン 70 台 9 台 共同配送の進化 車両台数の削減 =

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