ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2013年6号
特集
第4部 物流コストの「見える化」

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JUNE 2013  30 商物分離を執拗に推進  セブン─イレブンの物流の大きな特徴の一つが徹 底した「商物分離」である。
すなわち商流と物流 を明確に分けているのである。
 その詳細を説明する前に、セブン─イレブンの店 舗の仕入れにおける会計処理方法を伝えておいた ほうがいいだろう。
各店舗の直接的な仕入れ先は、 セブン─イレブン・ジャパン本部ではなく、本部が その店舗の仕入れ先として最も適していると判断 して推奨した各地のベンダーである。
 ただし、店舗は発注の都度、ベンダーに支払い 行為をする必要はない。
セブン─イレブン・ジャパ ン本部が月末一括で支払いを代行する。
これによ って店舗は、仕入れ代金の工面や伝票との照合作 業、月末の個別支払いなどのわずらわしい会計処 理から解放されて店舗運営に集中できる。
 たとえ店舗が売り上げ不振で赤字に陥ったとし ても、「オープンアカウント(OA)」と呼ばれる 本部から店舗への自動融資制度によって、ベンダ ーへの支払いは自動的に処理される。
 ただし、本部からOAの与信を受け、自動的に 各仕入れ先へ支払いをするためには、日々の売上 金、公共料金の預かり金などの一切を本部に送金 することが求められる。
それでも「資金繰り」や 「支払い行為」に悩まされずに済むというメリット は個人事業主の店舗オーナーにとっては非常に大 きい。
 また推奨ベンダーも与信をセブン─イレブンに任 せることができる上、店舗からそれぞれ個別の支 払いを受け、照合する作業をしなくて済む。
セブ ン─イレブンのシステムの大きな特徴の一つと言え る。
 それとは対照的に物流オペレーションで発生す る費用の決済には、セブン─イレブン・ジャパンの 本部は一切絡まない。
商品の管理温度帯別に配置 している各地の配送センターは、そのエリアのベ ンダーの共同施設として位置付けられている。
 その現場運営はすべて3PLに委託されている。
配送センターを通過した商品の物量に応じてベン ダーが3PLに費用を支払う。
ベンダー自身が店 舗に商品を配送することはない。
 ただし、三つの例外がある。
山崎製パン、雑 誌取次のトーハン、日本たばこ(JT)である。
三者はセブン─イレブンの専用配送センターを介さ ないでそれぞれ店舗に商品を納品している。
これ までセブン─イレブンから再三、共同配送化への 協力を要請してきたが、今に至るまで実現してい ない。
 このうち山崎製パンは各製造工場の配送責任エ リアを厳格に区分していて、それがセブン─イレブ ンの配送センターの配置と整合性が取れないこと が主な理由となっている。
また雑誌は通常の商品 と異なり、出版社が決めた発行部数を基に取次(ト ーハン)が各小売店鋪に送る部数を決めている。
つまり、品揃えと数量の決定が小売店側ではなく、 取次に委ねられているため、共同配送にはなじみ にくい。
たばこも税法も含め様々な制約があるた め対応が難しい。
 しかし、それ以外の商品は全てセブン─イレブン 専用の配送センターから店舗に納品されている。
最初からそうだったわけではない。
先に述べた乳 業メーカーの共同配送化と同様に、必ずしもメー カーは商物分離に諸手を挙げて賛成したわけでは 物流コストの「見える化」  セブン─イレブンの共同配送センターは全て3PLが 運営している。
その運営コストはセブン─イレブンだ けでなく、通過量に応じて委託費を支払うベンダー や商品を納品するメーカーにも、細目に至るまで公 開されている。
物流コストの透明化を徹底すること で合理的な管理を可能にしている。
31  JUNE 2013 特集 なかった。
それでも時間を掛けて交渉を重ね、店 舗数の増加によって発言力が高まっていったこと を追い風にして一歩一歩、共同配送化と商物分離 を進めていったのである。
 そこまでセブン─イレブンが商物分離にこだわる のは、それだけメリットが大きいからだ。
その一 つは効率的なドミナント展開である。
ドミナント 展開している店舗網の中心に配送センターを置く ことで、物流は最も効率的になる。
 セブン─イレブンは、お客様により良い状態で安 定して商品を配送できない地区には店を出さない。
そのため総店舗数が一万五〇〇〇店以上まで増加 した今も全国出店はしていない。
現在、青森、鳥 取、愛媛、高知、沖縄が空白県となっている。
 これまで四国には一店舗もなかったが今年三月 に香川に八店、徳島六店の計一四店を同時にオー プンした。
当面は兵庫と岡山のインフラを活用す るが今年十二月には香川、徳島の両県に工場を稼 働させる計画だという。
 全国どこの店舗においても、米飯は一日に三回 納品され、同じサービスが受けられることがセブ ン─イレブンのドミナント展開の大前提だ。
それに よって店舗は安心して経営に専念し、自信を持っ て商品を販売することができるという考え方に立 っている。
 そのため出店エリアの拡大は、工場をはじめと する各方面との綿密な調整を経た上で決定される。
新たなエリアに出店する際には、既存センターか らの距離、平時の道路事情、荒天時等の高速道路 の閉鎖実績とう回路の確保など、安定供給が可能 かどうか徹底して検討される。
 これまで四国に出店していなかったのも三ルー トある本州四国連絡橋が強風時に揃って通行止め になってしまうというリスクが高く、また橋の通 行料金がコスト負担になってしまうことが大きか った。
 また、二〇一三年四月現在、セブン─イレブン は島根県に一〇店舗を出店しているが、そのエリ アは広島県との県境付近である浜田市と江津市に 限られている。
島根県で最大の人口を抱え、県庁 所在地でもある松江には出店していない。
これも 物流上の制約があるためである。
 こうして物流が店舗の出店エリアを決めている のである。
売り上げが見込めるからといって、営 業部門の言う通りに出店エリアを広げてしまえば、 直ちに物流費に跳ね返り、コストアップの要因と なる。
効率化が阻害されて結果的に誰の得にもな らないという判断だ。
赤字センターは許されない  新センターを設置する際には、まず立地を決定し、 それから運営を任せる3PLを選ぶ。
候補企業に 基本条件や必要情報を開示した提案依頼書(R FP)を送り、上がってきた各社の運営計画を評 価する。
 使用する施設は既存の営業倉庫の利用や新設な どさまざまなケースがあるが、その採算計画の妥 当性は特に慎重に審査する。
見積りが甘いために 赤字が発生して、それを穴埋めしなければならな いような事態に陥れば大問題になるからだ。
 ベンダーやメーカーの既存施設を配送センター として使用すれば、確かに初期投資は抑えられる かもしれない。
しかし、それによって配送センタ ーの立地がドミナントの最適地から外れてしまえば、 納品 図1 セブン─イレブンの商物分離政策 商流 物流 請求請求 売買契約 代理支払 OA 与信 支払 売上送金 納品 店舗 共配センター (運営会社) ※3PL 一括 納品 メーカー工場 ベンダー倉庫 メーカー直送便 セブン─イレブン メーカー ベンダー 本部 JUNE 2013  32 効率が落ちてしまう。
「欲しい時に欲しい商品を 欲しいだけ届ける」という根本のコンセプトから 逸脱することになる。
 商物分離の二つ目のメリットは調達力だ。
セブ ン─イレブンが専用センターを持つことで、物流機 能が脆弱な小規模メーカーやベンダーの商品を調 達し、各店舗へ供給することが可能になる。
日配 品の豆腐や納豆、地域性の強い和菓子や乳製品な ど、中小ベンダーが多い商品の取り扱いは年々増 える傾向にあり、専用センターを持つ意味はます ます大きくなっている。
共同配送センターの予算管理  そして商物分離の三つ目のメリットが物流コス トの「見える化」である。
サプライチェーンにお ける物流コストはメーカー➡卸➡配送センター➡ 店舗というフローの各段階で発生している。
それ ぞれの段階でさまざまな商品と混載されることが あるため、商品別のトータル物流コストを把握す るのは容易なことではない。
 しかし、物流コストは商品原価の重要な費用項 目である。
それを正確に把握することができなけ れば、店舗への納品価格を評価できない。
効率化 の成果も明確化できないため、メーカーやベンダ ーなどにそれを還元することも困難になる。
配送 センターの正確な予算編成もできず、売り上げや 利益の計算も不可能になってしまう。
 セブン─イレブンのフランチャイズシステムにお ける契約は、店舗に対するサービスについて「公 平の原則」に立っている。
店舗ごとに有利不利が あってはならない。
そのために支払い物流費につ いては可能な限りの透明化とコストの見える化が 重要なのである。
 商流と物流を明確に分け、物流を完全に3PL に委託しているのはそのためだ。
配送センターで 発生している全てのコストを明らかにして、その 効率化を進めることで、そこで得られた利益を明 確にし、それを商品原価の低減につなげ、ベンダ ーやメーカーに還元しているのである。
そのため 配送センターを運営する3PLのコストは、ベン ダーやメーカーにも全て公開されている。
 年度の初めにはセブン─イレブン・ジャパンが各 センターの年次予算を作成する。
その際にはまず、 営業部門や商品部門と対象エリアの店舗の売り上 げやセンターの通過物量などについて打ち合せを 重ね、次年度の商品構成や出店計画、出店エリア の計画など徹底して吟味する。
 これを基に各配送センターのその年の通過物量 と納品ルートが決まる。
それを配送コース数、車 両台数、仕分け人時(仕分けに要する人数×時間 数)などの各項目に落とし込んでいく。
さらに土 地・建物の賃料、配送車両委託料金、仕分け担 当者の人件費などを当てはめていくことで、最終 的な予算が固まる。
 その年度の運営が始まると、予算と月次の結果 と照らし合わせて予実績管理を行う。
セブン─イレ ブン・ジャパンの物流担当と3PL(セブン─イレ ブンでは「センター運営会社」と呼んでいる)の 間で毎月の結果を分析し、異常が見つかった場合 にはその要因を調べ上げて、改善方法を検討し次 月以降の予算修正を行う。
 配送センターの年次の運営計画や予算には、全 国統一の基準が用いられている。
これは配送セン ター間の横の比較を可能にするためだ。
個々の配 送センターが抱えている問題点を明らかにするこ とができる。
 単品管理における「仮説」➡「実施」➡「検証」 のサイクルは物流管理においても全く変わらない。
センター運営会社にも、毎年の計画(仮説立て) から、実施(センター運営)、検証(月次をベー スに年次総計まで)の繰り返しが求められる。
 こうした過程を通して仕分け作業や配送の生産 性、在庫の現状などについてメスが入る。
その結果、 精度が高く、効率の良い配送センターの運営が可 図2 Win-Winの仕組みの構築 加盟店 本部 共同配送 運営会社 お客様の ロイヤリティ拡大 商品力の向上 品質向上 商品開発 原価低減 共同配送の運営効率化      業務精度向      信頼性向上 売上拡大 店舗数増加 取扱い物量 増加 取引先 差別化商品推奨 価値訴求 粗利益の改善 物流サービスの向上 センターフィー料率低減 拡大均衡 成果共有 33  JUNE 2013 特集 能になるのである。
センター運営会社(3PL)の役割  街角を走るセブン─イレブンの配送車両は全てセ ブン─イレブンの専用車であり、荷台には大きくロ ゴマークのシールが貼られている。
そのため多く の人が、それをセブン─イレブン・ジャパンの車両 だと考えている。
 しかし、既に説明した通り実際には資本関係も 含め、セブン─イレブン・ジャパンはセンター運営 会社の経営に一切タッチしていない。
センターの 運営にも参加していない。
センター運営会社はセ ブン─イレブン・ジャパンの物流部が戦略的パート ナーと認めた第三者であるにすぎない。
 それなのになぜセブン─イレブン・ジャパンは、 共同配送センターの運営の細部にまで入り込んで、 それを管理し、完全な統制を取ることができてい るのだろうか。
 かつて筆者がそうであったように、基本的にセ ブン─イレブン・ジャパンの物流に携わっている本 部の社員は、一部の例外を除き物流の専門家では ない。
物流センターの運営そのものを経験したこ とのある人間もごく少数である。
そんな素人集団 がなぜ「単品管理」に基づく新しい物流システム を構築することができたのだろうか。
 物流を見る「視点」が違ったからだと筆者は考 えている。
店舗にとって、そしてお客様にとって、 最適な物流対応とは何なのかという、根源的な問 いから彼等は出発した。
 物流の専門家であれば到底実施不可能だとすぐ に分かることであっても、素人であるがゆえに真 剣に検討した。
その結果、従来の物流の常識から すれば実現不可能な問題をいくつも乗り越えてき たのである。
 実際、物流の専門家は誰もが無理だと言ったN Bメーカーの共同配送化を実現し、厳寒期の北日 本で米飯を配送するため、商品管理温度の二〇度 を維持するために加温機を配送トラックに搭載す るといった対応をしたこともある。
 そして、セブン─イレブン・ジャパンの物流部は 自分たちが素人だと自覚していたからこそ、配送 センター運営会社とのパートナーシップを、創業 期から重視して、それを醸成してきた。
 セブン─イレブンの物流はセブン─イレブン・ジ ャパンの努力だけで構築されたものでは決してな い。
今もそれぞれのセンター運営会社は、コスト の最小化に向け、配送コースや積み込み方法の改 善、より効果的な車両の開発、安全運転など、プ ロの知見を活かしてセブン─イレブンの物流高度化 に日々取り組んでいる。
 そうやって配送センター運営会社をはじめとす る全ての関係者がそれぞれの役割を十分果たすこ とで、初めてセブン─イレブンの物流は機能する。
関係者全員の共存共栄を担保する全体の仕組みが それを支えている。
 繰り返すがセブン─イレブンのサプライチェーン においては物流サービスの品質向上と、共同配送 による物流費の低減によって得られた原資がメー カーやベンダーに還元される。
これは製造時間の 厳守や商品形状の標準化など、メーカーやベンダ ーの協力がなければ物流は改善できないという観 点からである。
 そしてメーカーやベンダーは物流費低減で得ら れた利益を原資に、ワンランク質の高い具材や原 料を使って商品力の向上を図る。
あるいは店舗へ の納入価格を引き下げて、店舗に利益を還元する。
その結果として、セブン─イレブン・ジャパンが手 にするロイヤリティも増える。
それがチェーン全 体の成長へつながる。
 チェーン全体の売り上げの増加は、購買力の強 化とともに物量の拡大をもたらす。
3PLにとっ ては配送センターの新しいニーズが生まれる。
店 舗の売り上げの伸びは、配送車両の積載率の改善 と生産性を向上させる。
配送センター運営会社が 最初にその恩恵を受けることになる。
そして一商 品当たりの物流コストも低減される。
 こうして好循環を回していくことが、関係者全 員の永続的な繁栄へとつながっていくのである。
それがセブン─イレブンの物流の強さの秘訣である。
(信田洋二) 「単品管理」の物流システム構築は、セブン─イレブンが 物流の“素人”だからこそ成し遂げられたと言える

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