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JUNE 2013 42
分散していた三つの物流拠点を統合
東京都世田谷区の成城を発祥の地とする高
級食品スーパーの成城石井は、二〇一二年四
月、それまで温度帯別に三カ所に分散してい
た物流拠点を一カ所に集約した。 海外から直
輸入するワインなどを保管する大黒ふ頭(横
浜市)の定温定湿倉庫と、神奈川県厚木市の
チルドセンターを、ドライセンターを構える神
奈川県寒川町の施設に統合した。
三温度帯施設として新たに稼働した「関東
物流センター」について成城石井の原昭彦社
長はこう説明する。 「部外者がこのセンターを
見ると、すごく癖のある施設だと言う。 うち
は輸入を自分でやり、外卸も手掛け、セント
ラルキッチンを持つメーカーでもあり、小売
業もやっている。 全てを一社でコントロール
している例はほかにはない。 独特な物流セン
ターにならざるを得なかった」
確かにこの施設は一般的な小売りチェー
ンの一括物流センターとは少し様相が異なる。
庫内に自動仕分け機などの自動化機器は一切
ない。 その一方で輸入業務のために保税蔵置
場の許可を取得し、ほかでは考えられないほ
ど高機能の定温定湿倉庫を備えている。
現場の運営は日立物流が担っている。 〇八
年の夏に、成城石井が温度帯別の一括物流を
導入するためのコンペを開催したときからの
付き合いだ。 このとき成城石井は物流専業者
や食品卸など十数社に声を掛けた。 それをま
ず物流部門が有力3PL四社と食品卸三社に
絞った上で、正式に提案を募った。
この時点では食品卸も有力なパートナー候
補だった。 だがコンペを進めるうちに断念し
た。 独自の業態を取る成城石井が、食品卸
のノウハウを活用できる領域は限られていた。
全ての業務を一つのセンターで処理し、物流
全体を効率化するには、商流とは完全に切り
離された3PLの方が適する。
結果的に有力3PL二社が最終候補に残
った。 うち一社は物流現場の運営力を武器に、
圧倒的なコスト競争力を提示してきた。 しか
し成城石井は、当面のコスト以上に情報シス
テムの開発力などの総合力を重視した。
このコンペを実務部門として仕切った成城
石井の田口太機物流戦略部部長代理は、「当
社のビジネスに対して、システム構築も含め
て将来的に一番、恩恵を受けられるのはどこ
か。 そう考えたとき日立物流ということにな
った」と振り返る。 最終決断を下したのは、
当時、社長を務めていた大久保恒夫氏(現セ
ブン&アイ・フードシステムズ社長)だった。
この〇八年の時点で、既に成城石井は拠
高級食品スーパー100店舗余りをチェーン展開
するほか、自社以外の小売業やレストランを対象
とする卸売業、セントラルキッチンでオリジナル商
品を生産するメーカーという3つの顔を持つ。 複雑
なサプライチェーンの中核を担う物流センターの運
営を、2009年から日立物流に任せている。
3PL
成城石井
3PLをパートナーに物流網を再編
「最高の定温定湿倉庫」で差別化図る
成城石井の原昭彦社長
43 JUNE 2013
点を一カ所に集約することまで構想していた。
しかし、当時の店舗数はまだ五〇店舗余り。
規模がネックになったのに加え、事業環境の
変化にも直面していたことから、一気に統合
拠点を構えるには至らなかった。
当面は大きな投資を避け、大黒ふ頭の定温
定湿倉庫を引き続き活用。 ドライセンターを
日立物流の神奈川県寒川町の拠点内に設け、
別にチルドセンターは日立物流の厚木市の拠
点内に構えるというかたちで、新体制をスタ
ートさせた。 その後、事業拡大が順調に推移
したことから、冒頭で述べた通り、一二年に
三拠点の集約に踏み切った。
ワインの専門家が羨む定温定湿倉庫
成城石井の二〇一一年一二月期の連結売
上高は四八七億円。 近年は中部や関西にも積
極的に出店し、順調に事業規模を拡大させて
いる。 しかし、その経営基盤は過去一〇年近
くにわたって大きく揺れ動いてきた。
社名が示す通り同社は、一九二七年に世田
谷区の成城で石井家によって設立され、長ら
く創業者一族の下で事業を運営してきた。
その後、〇四年に焼肉チェーン「牛角」を
手掛けるレインズインターナショナル(現レッ
クス・ホールディングス)に石井家が株式を
譲渡。 ところが〇六年末にレックスが経営不
振に陥り、企業再生ファンドのアドバンテッ
ジパートナーズ(AP)の傘下に入った。 そ
して一一年五月には、APがレックスの保有
する成城石井の株式を三菱商事系の丸の内キ
ャピタルに譲渡した。
前出の大久保前社長は、レックスによる経
営関与で混乱していた成城石井を立て直すた
め、〇七年にAPが送り込んだ再建人だった。
イトーヨーカ堂出身でファーストリテイリン
グ(ユニクロ)など複数の小売業の経営改革
に関与してきた大久保氏は、成城石井一筋に
一六年以上の社歴を積んでいた原氏を右腕と
して経営改革を推進。 オリジナル商材にこだ
わる本来の強みを伸ばすことで成長を加速さ
せながら、物流や情報システムなどの高度化
を図った。 〇九年の一括物流の導入も、そう
した経営改革の一環だった。
もっとも物流を重視する姿勢は同社の伝統
でもあった。 九一年入社の原社長は「九〇
年代初めにまだ二店舗しかないとき、当社は
?共配?をスタートしている。 店舗ではそれ
まで問屋さんが納品に来ては品出しするとい
うことを一日中繰り返していた。 それを共配
成城石井・営業本部物流戦
略部の田口太機部長代理
オーナー交代が続いた8年間に店舗数は急増
120
100
80
60
40
20
0 05
年
06
年
07
年
08
年
09
年
10
年
11
年
12
年
13
年計画
FC 店
直営店
24
32
37
46
54
65
115
75
84
9
9
10
11
12
12
13
14
33
47
57
66
77
115
41
88
98
2012 年4 月に稼働した「関東物流センター」の作業概要
発注
横持ち
ルート配送
中部中継センター
浜松デポ
関西物流センター
引取
路線
宅配
路線 宅配
チャーター
ドレージ
各ベンダー
自社
惣菜工場
関東物流センター(ドライ/チルド/定温)
発注
TC
ステージング
DC 輸入
荷降し
検品
店別仕分
カゴ車積付
荷降し
検品
格納・保管
ピッキング
デバン
通関
流通加工
成城石井
本部
外販納品先
成城石井
各店舗
成城石井
成城石井
センターから一回で持ってきてくれるという。
こんな便利なことはなかった」と述懐する。
成城石井の店舗は一見すると高級スーパー
らしからぬ印象を受けるかもしれない。 一般
のスーパーと比べて際立って豪華な内装が施
されているわけではなく、スペースに余裕も
ない。 「良いものを、お買い求めやすい価格
で」という経営方針を実践するため、余計な
コストは掛けない方針を取っている。
ただし商品へのこだわりは徹底している。
その多くは、バイヤーが国内外から直接仕入
れたオリジナル商品や、自営のセントラルキ
ッチンで生産した惣菜などで、国内メーカー
のナショナルブランド商品よりワンランク上の
品質を誇っている。 中でも最大の強みとする
のがワインだ。 九五%以上を海外から自社輸
入しており、現地のワイナリーから定温管理
のできる海上コンテナで輸送し、これを国内
の定温定湿倉庫で保管している。
一二年に三つの物流拠点を統合したときの
ポイントも、より保管レベルの高い定温定湿
倉庫をいかに実現できるかにあった。
ワインはボトルに冷気が直接当たると品質
ング(熟成)も行う。 その際には管理状況の
履歴が残っていることが有利に働く。
こうして成城石井が「最高の定温定湿倉庫」
と胸を張る施設が完成した。 国内の同業者だ
けでなく、ワインの本場のフランス人が見て
も驚くというハイレベルな施設になった。
こうして物流インフラの高度化にめどをつ
けた成城石井は、新拠点を舞台に現在、在庫
管理や物流コストの最適化などに取り組んで
いる。 同社の店舗では規模に応じて約四〇〇
〇から一万五〇〇〇品目程度を、NB商品
も含めて扱っている。 このうち一二八品目を、
チェーン本部が「一二八(イチニッパー)」と
にムラが生じてしまう。 このため保管庫全体
で温度と湿度をコントロールする必要がある。
それまで大黒ふ頭に構えていた定温定湿倉庫
も、稼働時には最先端だった「ソックダクト
方式」の空調設備を配備していた。
だが同方式はメンテナンスに手間が掛かる
上、既に目新しいやり方ではなくなっていた。
多くのワイン保管庫や工場、穀物庫などを見
学したが、決め手となるような管理方法には
なかなか出会えなかった。
それでも原社長は「一五〇万本のワインを
保管する定温定湿倉庫での品質コントロール
については絶対に譲れなかった」という。 結
局、トップランナーとしてワインの新しい保管
施設を自ら開発することにした。 室温が常に
一五度前後で、湿度も六〇〜七〇%に保たれ、
冷気にムラが生じない空調を実現できること
が、新センターの条件になった。
この厳しい要求に日立物流が応えた。 同社
でこの案件に長らく携わっている相良光爾神
奈川県央営業所副所長は次のように説明する。
「当社としても定温で加湿もする施設は手掛
けた経験がなかった。 検討を重ねた結果、天
井裏に加湿器を置き、そこで一五度にした空
気を庫内にムラなく排出して自然対流方式で
空気を循環させるようにした。 結露を防止す
るため壁には吹き付けを施している」
日立物流は倉庫の管理状況を二四時間・三
六五日記録できる仕組みも作った。 成城石井
はこの倉庫で、ワインの価値を高めるエイジ
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湿度60%・15℃を常にキープ 移動ラックで庫内を有効活用
一部を保税蔵置場として運用 天井裏ダクト方式で自然対流
ワインの専門家も驚く最先端の定温定湿倉庫
日立物流・首都圏第一営業
本部の高木宏明副本部長
勢などを高く評価し、同社向けの投資などを
日立物流の役員会で熱心に働き掛けた。
現在、飯田氏の後任を務めている首都圏第
一営業本部副本部長の高木宏明理事は「当社
のスタンスはパートナーとして一緒に歩めるか
どうかが第一。 成城石井さんとは長いパート
ナーシップを組めると確信できたからこそ投
資にも踏み切った」と強調する。
東日本大震災のときには両社のパートナー
シップの真価が問われた。 このとき成城石井
は、非常時こそ商品供給を止めるわけにはい
かないと躍起になった。 日立物流も極限状態
の中で現場を動かした。 停電下に発電機でW
MSを回し、乗用車のライトで庫内を照らし
ながら出荷作業に当たった。 こうした経験が
両社をより強く結び付けていった。
現在では、物流拠点を集約した効果も多く
の面で現れている。 JANコードでは管理し
きれない年代別のワインなどをシステムでき
め細かく管理できるようになったことで、ワ
インの棚卸誤差率を〇・〇〇〇七%という低
水準に抑制できるようになった。 配送効率の
向上では年間一〇〇〇万円以上のコスト削減
を実現した。
今後も両社は協力しながら改善活動などを
進めていく方針だ。 日立物流の神奈川県央営
業所で成城石井のセンターの現場運営を担当
している藤本慎太郎CSグループ主任は「多
品種小ロットをいかに無駄なく出荷できるよ
うにするかが課題」と効率化に意欲を示す。
現状では日立物流の当該施設の約半分を成
城石井が使っている。 約二〇〇店舗まではこ
こで対応できると両者は見込んでいる。 その
前に、今は通過型となっている中部や関西の
物流拠点を在庫型に格上げする必要が生じる
はずだ。 そこでも日立物流は3PLパートナ
ーとして貢献していきたい考えだ。
一方の成城石井の原社長も「高機能の物流
センターとデリバリーの仕組みがあるからこ
そ、当社の複雑なビジネスモデルを運用でき
る。 オペレーションはほかの小売業に絶対に
負けない武器の一つ」と自信を深めている。
(フリージャーナリスト・岡山宏之)
呼ぶ注力アイテムに常時設定。 その販売実績
を店舗の評価に組み込むなどして売れ筋商品
の動きをコントロールしている。
特定の商材に重点を置くことで販売力を強
化し、同時に物流センターにおける在庫のコ
ントロールや平準化につなげている。 日常の
オペレーションは、商品を仕入れるバイヤー
と、POSデータを見ながら在庫量を細かく
管理する「ディストリビューター」と呼ぶ担当
者、そして物流戦略部の三者が密接に連携し
ながら遂行している。
とはいえ、物流戦略部のスタッフは責任者
の田口氏を含めて三人のみ。 小所帯で物流管
理を手掛けていく上で、パートナーの日立物
流が「多くの人数を割いてくれていることが
大きい」と田口部長代理は評価する。
現在、日立物流は成城石井の専任として三
人を配置し、物量の季節波動への対応や、将
来の店舗増に伴う作業やインフラの見直しと
いった業務に当たっている。 このほかに子会
社の南関東日立物流サービスの約二〇人が、
ほぼ専属で現場運営に携わっている。
棚卸誤差率〇・〇〇〇七%
両社のパートナーシップは互いの経営層が
意気投合したことを契機に深まってきた。 中
でも〇八年に物流コンペを開催した当時、日
立物流の首都圏第一営業本部の幹部だった飯
田邦夫氏(現執行役常務西日本営業本部長)
の存在が大きい。 飯田氏は成城石井の企業姿
45 JUNE 2013
ドライセンターは上層階に入居 東西2棟の間の屋根付き通路
チルドセンターも1階に入居 成城石井のために施設を刷新
日立物流の汎用施設(神奈川県寒川町)に入居
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