ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2013年6号
物流不動産Biz日記
第3回 優先順位のない物件選びは失敗する69 

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

 東日本大震災以降、物流不動産に対して 免震や制震といった地震対応機能を求める 声が大きくなっています。
特にBCP(事 業継続計画)を重視する大手企業ほど、そ の意識は高くなっています。
 それに伴って、最近では建物の?地震P ML?にも注目が集まっています。
地震P MLとは、予想される最大規模の地震が発 生した際の建物リスクを表す指標で、次の 計算式で求めることができます。
【地震PML計算式】 予想される最大の損失額(補修費)/再調 達費×一〇〇(%)  例えば、地震発生時の予想最大損失額 が一〇億円で、現時点で建物を新築した場 合の金額(再調達費)が一〇〇億円の場合、 地震PMLは一〇%となります。
PMLが 小さいほど、リスクの低い優良な物件と判 断することができます。
 さて、物流不動産の仲介をする中で、最 近この地震リスクに関して少々苦い経験をし ました。
今回はそのことをお話します。
 あるお客さんが、建材の保管・配送センタ ーとして利用する七〇〇坪ほどの物流施設を、 千葉から東京にかけての湾岸地域で探して いました。
建材は各地の工事現場に、工事 の進捗に合わせてJIT(ジャスト・イン・ タイム)で配送する必要があります。
各方 面にアクセスが良好な湾岸地域は、その物流 拠点としてまさに打ってつけの立地です。
 当社は早速、物件探しに入りました。
ま ず建材は長尺物・重量物が多いため、縦搬 送が不要な平屋倉庫が良いと判断。
また現 場へのJIT配送に伴うトラックの出入りが 頻繁にあるので、前面道路の幅があり、バ ースの数も多い施設を想定しました。
そし て条件に合ういくつかの候補物件を選定し、 お客さんに提案しました。
 先方の担当者がそのうちの一つを気に入 ってくれて、社内で検討することになりま した。
その担当者も良い物件が見つかった ことで一安心したのでしょう。
「細かな交渉 はあるけども、賃料も予算の範囲内に収ま っているから大丈夫だろう」と、まるでも う決まったかのような口ぶりでした。
 当社もすぐに条件調整の段取りから重要 事項説明書、契約書の作成などの準備に取 り掛かることにしました。
しかし、その矢 先に思わぬ出来事が。
東京都から、巨大地 震による関東への津波や浸水の被害想定が 発表されたのです。
湾岸地域は非常に高い リスクにさらされているという内容でした。
 この情報に驚いたお客さんは、慌てて希 望エリアを湾岸地域から内陸部へと変更し てしまいました。
私はてっきり、地震のリ スクも考慮した上で湾岸地域を指定されて いるものと思っていたのですが、そういっ たことは一切考えていなかったようです。
 湾岸地区は利便性が高い一方で、リスク が存在するのもまた事実です。
東日本大震 災の際、千葉県浦安市の湾岸エリアが液状 化の被害を受けたのは記憶に新しいところ でしょう。
BCPの観点から湾岸地域をあ えて敬遠する荷主企業も少なくありません。
 交渉は白紙に戻りましたが、当社は改め て内陸部でも比較的利便性の高い埼玉地域 の物流不動産を提案しました。
しかし、今 度は賃料が高いと言い始め、より安い千葉 や茨城の物件情報を求めてきたのです。
 物件選び当初、このお客さんは利便性を 最重視していました。
それが地震リスクの 回避に移り、最後はコストへと場当たり的 に次々と変節していったのです。
ここで私は、 このお客さんが物件選びに明確な判断基準 を持っていないことに気が付きました。
案 の定、要望通り賃料の安い物件を紹介しても、 利便性を捨てきれないとの理由で、いまだ に物流施設を決めあぐねています。
 物流不動産を選ぶ際に最も重要なことは、 利便性やリスク、賃料といった要素の優先 順位を持つことです。
高いリスクや賃料を のんででも利便性を重視するのか、あるい はその逆か。
明確な戦略がなければ、目先 の情報に踊らされて正しい判断ができなく なるので、注意が必要です。
大谷巌一(おおたに・いわかず) 1957 年生まれ。
高千穂商科 大学卒。
81年東京倉庫運輸入 社。
同社物流部門、不動産部 門を経て2003 年イーソーコ副 社長就任(現職)。
2010年イ ーソーコドットコム会長に就任。
現在に至る。
著書に『これから は倉庫で儲ける!! 物流不動 産ビジネスのすすめ』(日刊工 業新聞社)など。
PROFILE 第3回 優先順位のない物件選びは失敗する 69  JUNE 2013

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