ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2013年6号
物流指標を読む
第54回 円安がトラック業界を直撃 「石油製品価格調査」 資源エネルギー庁「燃料価格の高騰と運賃転嫁に関する調査」 全日本トラック協会「企業物流短期動向調査」 日通総合研究所

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

  物流指標を読む 第1 回 JUNE 2013  74 円安がトラック業界を直撃 第54 ●円安進展で燃料価格が高騰 ●運送費は2%近く上昇か ●運賃への転嫁も期待できず さとう のぶひろ 1964 年 生まれ。
早稲田大学大学院修 了。
89年に日通総合研究所 入社。
現在、経済研究部担当 部長。
「経済と貨物輸送量の見 通し」、「日通総研短観」など を担当。
貨物輸送の将来展望 に関する著書、講演多数。
アベノミクスの副作用が顕在化  いわゆる?黒田バズーカ?の影響に加え、米国 の景気回復期待もあって、為替(円ドル)レート は約四年ぶりに一ドル=一〇〇円の壁を突破した。
こうした円安の進展に伴う輸出企業の業績回復期 待などから、五月一〇日には、日経平均株価の終 値は一万四六〇七円五四銭と約五年四カ月ぶりの 高値で引けた。
 その一方で、輸入品の価格がじりじり上昇する など、アベノミクスの副作用も現れ始めている。
静 岡新聞など複数のマスコミは、土居英二・静岡大 学名誉教授(経済統計学)が試算した「円安が家 計に与える影響」について報じている。
それによ ると、安倍政権発足前の円ドルレートの一ドル= 七九・三円(二〇一二年一〜九月の平均)が、現 在の一〇〇円近くに変化した時、二人以上の平均 的な世帯(年収五九九万円)の支出増は年九万六 〇〇〇円以上に上るそうだ。
項目別の消費者物価 を見ると、ガス代が八・九%増、ガソリンなど自 動車関係費が七・四%増など、エネルギー関係費 が上昇している。
また、来年四月に予定される消 費税率のアップを加味すると、負担増分は一八万 八〇〇〇円に上り、特に年収の低い世帯で負担割 合が高くなる。
 土居氏は、円安効果について、「家計に対しては 輸入物価上昇による負の影響が大きく、需要を縮 小させる可能性がある」と話している。
また、国 内経済は円安に伴う企業業績の回復や、株高の資 産効果による消費マインドの回復が注目されてい るが、土居氏は「プラス効果よりも、マイナス効 果が優勢になるとGDPの大部分を占める消費へ の影響が拭い去れない」と話している。
 と言うことは、安倍首相の目論見に反し、給与 水準がなかなか上がらず、一方で輸入物価が高騰 することになると、株や土地などの資産を多く保 有している大金持ちはともかく、我々一般庶民の 生活は苦しくなるということだ。
 様々な識者の話を聞いていると、給与水準の上 昇が広範囲に行き渡るまでに一年半程度掛かるら しい。
すなわち、来年末ごろということだ。
目先 の企業業績が回復したところで、経営者はそれが 一時的なものではないかと疑う。
おそらく、為替 レートが一ドル=一〇〇〜一一〇円程度で安定し て、景気も目に見えて回復し、かつ将来を多少な りとも楽観できるような状態になって、経営者は 初めて社員の給与を引き上げようと考えるだろう。
そこに至るまで、一年半ほど掛かっても不思議で はない。
もちろん、業種等により、給与の上昇の 時期や上昇率にはかなりの相違が発生しそうだ。
 ちなみに、金融政策を実施してから、その効果 が出現するまでにタイム・ラグが発生することは 常識である。
たとえば、ノーベル経済学賞受賞者 であり、マネタリズム(monetarism)の主唱者で ある故ミルトン・フリードマン教授は、金融政策 の効果が出現するのに、時間が半年から二年掛か ると主張していた。
金融政策とは、簡単に言えば 利子率や貨幣供給量などを変化させる政策である。
一般的に、企業の投資には、投資計画の立案、関 係部門の承認、業者選定などかなりの時間が掛か ることから、不況期に金融当局が金利の引き下げ などの金融緩和策を実施しても、企業はすぐには 「石油製品価格調査」 資源エネルギー庁 「燃料価格の高騰と運賃転嫁に関する調査」 全日本トラック協会 「企業物流短期動向調査」 日通総合研究所 75  JUNE 2013 上昇している。
運送費に占める軽油費の割合を二 〇%程度、かつほかの経費が不変であったと想定 すると、運送費はこの四カ月間で二%近くも上昇 した計算になる。
 全日本トラック協会が今年三月に実施した「軽油 価格の高騰と運賃転嫁に関する調査」(図1〜3) によると、昨今の軽油価格の高騰が収益の悪化に 影響しているかどうかについては、六六・四%の 事業者が「大きく影響している」と回答しており、 「やや影響している」(三〇・九%)を合わせると、 九七・三%が影響を受けていることになる。
 主たる荷主との交渉において、軽油価格の高騰 分(コスト上昇分)を運賃に転嫁できているかど うかについては、「全く転嫁できていない」との回 答が八七・八%に上る。
一方、「ほぼ転嫁できて いる」は〇・七%、「一部転嫁できている」は十 一・五%にすぎない。
ちなみに、〇八年九月 【注】 調査においては、「ほぼ転嫁できている」が三・ 五%、「一部転嫁できている」が四七・六%であ り、過半数の事業者が転嫁できていたという結果 になっている。
 また、軽油価格の高騰分の一部を転嫁できてい る事業者が、どのくらい運賃に転嫁できているか については、「一%以上二〇%未満」が六〇・〇%、 「二〇%以上四〇%未満」が一九・四%となって おり、軽油価格の高騰分を運賃に転嫁できている 割合は相対的に低い状況となっている。
 以上のように、大半のトラック運送事業者(注: 中小零細事業者が多いと推測される)は、足元に おいて荷動きが停滞する中で、コストが上昇して いるにもかかわらず、その上昇分を運賃に転嫁で きない、もしくは転嫁できても、上昇分の一部し か転嫁できないでいることが分かる。
 なお、日通総合研究所「企業物流短期動向調 査」により、一般トラックの運賃動向指数の推移 を見ると、一二年一〇〜十二月実績がマイナス二、 一三年一〜三月実績がマイナス一、一三年四〜六 月見通しがプラス五となっている。
運賃動向指数 がプラスとなるのは三期ぶりであり、荷主企業は 緩やかな運賃上昇を予想しているようだ。
ただし、 〇八年の軽油価格高騰時においては、一般トラッ クの運賃動向指数はプラス三〇台〜プラス四〇台 と非常に高かった。
その時期と比較すると、プラ ス幅は小幅なものにすぎず、運賃の上昇圧力はそ れほど大きくない。
 以前本欄で、「過去のトレンドを見ると、国内 企業物価指数が前年同期比でマイナスである時 は、貨物輸送量が増加していても、運賃は上昇し ていない場合が多い。
国内企業物価指数がマイナ スという状況下では、荷主の売上高も伸びないた め、当然荷主からの運賃引下げ要求が厳しくなる。
その結果、需給が多少タイトになっても、運賃は 上昇しないということである」と書いた。
三月の 国内企業物価指数は、前年同月比でマイナス〇・ 五%と引き続き低下傾向で推移している。
 トラック運賃が上昇に向かうには、まだ時間を 要しそうだ。
投資を増やすことはしない。
そのため、効果は半 年から二年後に出てくることになる。
軽油価格が約一〇%上昇  さて、話を元に戻すと、円安は、輸入品を多く 使用し、かつ国内市場を主戦場とする企業にはマ イナスに働くことになる。
たとえば、トラック運 送事業がこれに該当する。
原油価格が高止まりす る一方、円安の 進展に伴い、燃 料油価格は上昇 しており、これ が経営を圧迫し ているものと推 測される。
 資源エネルギ ー庁「石油製品 価格調査」によ ると、今年三月 の軽油インタン ク納入価格(全国 平均:消費税抜 き)は、一リット ル=一一六・三 円となっており、 為替レートが円 安に振れ始めた昨 年十一月(同一 〇六・〇円)よ り約一〇円(率 にして九・七%) 【注】地政学的リスクの増大などに加え、投機マネーの流入もあ って、原油価格がピークとなっていた時期である。
WTIは、〇 八年七月十一日に、瞬間ベースで一バレル=一四七・二七ドル をつけた。
こうした原油価格の上昇を受けて軽油価格も高騰し た。
資源エネルギー庁「石油製品価格調査」によると、〇八年 七〜九月平均の軽油インタンク納入価格(全国平均:消費税抜 き)は一リットル=一四二・七円であった。
軽油価格の高騰と運賃転嫁に関する調査(13 年4月調査結果) 図1 軽油価格の高騰による 収益悪化への影響有無 大きく影響 66.4% やや影響 30.9% 影響していない 2.7% 図2 軽油価格高騰分の 運賃転嫁の有無 全く転嫁できていない 87.8% 一部転嫁できている 11.5% ほぼ転嫁できている 0.7% 図3 軽油価格高騰分について 運賃転嫁できた割合 80%以上 1.1% 1%以上 20%未満 60.0% 20%以上 40%未満 19.4% 60%未満 11.1% 40%以上 80%未満 8.3% 60%以上

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