ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2013年6号
物流行政を斬る
第27回 空港民営化法案が閣議決定国は民間の力を頼る前に航空行政のビジョンを示せ

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JUNE 2013  76 地方からは歓迎の声  四月五日、空港運営の民間委託を可能にする「民 間の能力を活用した国管理空港等の運営等に関する 法律案」が閣議決定された。
今国会で成立すれば、 早ければ夏にも施行される見通しだ。
同法案の目的 はその名の通り、空港運営に民間の経営能力や資金 を投入することで効率化を図ることにある。
 対象となる空港は羽田、新千歳、仙台、広島、 高松、松山、北九州など、現在国が管理している二 八空港。
さらに、地方自治体が管理する六七空港に ついても、民間の活用が可能となるよう法制措置を 採る方針を固めている(※成田、関空、中部の三空 港は既に民間の空港会社が管理を行っている)。
 国が空港を管理する現状には様々な課題がある。
その一つが、お役所仕事から来る経営感覚・地元感 覚の欠如だ。
これまでコスト意識の全くない状況が 長年続いてきた可能性が高い。
会計システムも?ど んぶり?と言わざるを得ない。
現在、国が管理する 二八空港の収入は全て合算されるプール管理(特別 会計)となっていて、空港ごとの収支管理はなされ ていない。
空港民営化法案が閣議決定 国は民間の力を頼る前に 航空行政のビジョンを示せ  空港運営の民間委託を可能にする法案が閣議決定され た。
民間の資金と経営能力を活用し、従来の非効率を排 除するという。
確かにコスト削減では大きな効果を期待で きるだろう。
しかし、航空行政が抱える問題の根本的な 解決にはつながらない。
国は民間企業をあてにする前に、 空港の統廃合を含めた大胆な抜本改革に着手するべきだ。
第27回  また、現状では各空港の土地は国が所有し、滑走 路や駐機場等を管理している一方で、ターミナルビ ル等の運営は、多くの場合、民間企業が行っている。
運営主体が分離していることにより、多くの非効率 が生じている。
 国土交通省はこうした課題を法案資料の中で列挙 した上で、改善に向けた基本スキームを示している。
PFI法(民間資金等の活用による公共施設等の整 備等の促進に関する法律)に基づいて公共施設等運 営権を設定し、その運営権を民間企業に委譲すると いうものである。
運営権を得た運営会社は国と事業 契約を結び、その上で、航空会社や利用者に対して 利用料金を設定する(図)。
 これまで日本の空港の着陸料は諸外国に比べて割 高であったが、民間企業にその価格決定権を委譲す ることで、より弾力性に富んだ料金の実現が期待さ れている(※国交省によると、空港運営は地域独占 的な事業であるため、着陸料の引き下げは認めるが、 引き上げは原則認めない方針とされる)。
同時にこ れまでのプール会計を改め、地域特性とニーズに対 応した個別空港ごとの経営を志向する。
土地と建物 の効率的な一体経営も目指すという。
 この法案に対して地方からは歓迎の声が挙がって いる。
例えば宮城県は被災地復興の象徴的事業とし て、仙台空港の民間運営化の早期実現を提唱して いる。
仙台空港の運営を民間に委託することで、利 用者をこれまでのピーク時の二倍に当たる六〇〇万 人に引き上げたい考えだ。
そして早くも、その運営 には関空を運営する新関西国際空港会社や大手総合 商社が名乗りを上げている。
仙台のほかにも、釧路、 松山、高松、広島、熊本等の各空港が民営化に前 向きな姿勢を示している。
 背景には空港の厳しい経営状態がある。
二〇一 〇年度の収支を見ると、国が管理する二八空港のう ち一六空港は赤字であった(※特殊事情により単年 度限りの異常値を示した四空港を除く。
従って実質、 二四空港中一六空港が赤字)。
福岡空港に至っては、 五二億円の大幅赤字だ。
いかに空港経営が難しいか が分かる。
 今回、閣議決定した法案は、これまで赤字経営に 悩んでいた空港関係者にとって救世主のような存在 だ。
早急に民間企業の活力やノウハウを用いること で、建て直しを図りたいというのが彼らの本音だろ う。
またLCC(ロー・コスト・キャリア)を含む 物流行政を斬る 産業能率大学 経営学部 准教授 寺嶋正尚 77  JUNE 2013  航空会社やそれを利用する消費者にとっても、従来 に比べて安く利用できる空港が増えることは大歓迎 といって良いだろう。
大胆な統廃合の検討を  こうした空港の運営を民間企業に任せる方向性は 正しいものであるが、筆者には心配もある。
確かに 民間企業への委託を開始することで、非効率かつ多 くの課題を抱える現状の空港運営は改善の方向に向 かうだろう。
とりわけコスト削減には大きな進展が 期待できる。
しかし、それは延命措置を施しただけ にすぎない。
筆者が危惧するのは、その延命措置に 国や関係者が満足してしまい、抜本的な改革が行わ れなくなる点である。
 そもそも空港運営は莫大な固定費用が掛かるビジ ネスである。
損益分岐点を超えて利益を確保するた めには、当然ながらコスト削減と同時に、利用客の 増加が不可欠である。
民間委託によるコスト削減ア プローチだけでは、乾いたぞうきんを絞るかのごと く、いずれ必ず限界が訪れる。
 利用客の増加を図るためには、利用者そのものの 数を増やすか、利用者一人当たりの利用回数を増や すかのどちらかのアプローチが欠かせない。
しかし 現在の人口減少社会にあっては、いかに民間企業が 努力をしても利用者数の増加は期待できず、また利 用回数に関しても飛躍的な拡大は望めない。
 ではどうすればよいのか。
筆者は空港行政の課題 に関して、これまで本コーナーでも何度か取り上げ てきた。
参考までに過去二回分のタイトルを紹介し ておく。
●「根拠無き日本の航空行政、羽田・成田は統合し、 ハブ機能の回復を図るべき」(一一年八月号) ●「日本には九八の空港が乱立、関空・伊丹の統合 を契機に航空行政の抜本的見直しを」(一一年一 〇月号)  筆者の意見は、これらを執筆した当時と変わらな い。
国が何より最初に着手しなければならないのは、 空港の統廃合にほかならない。
日本は狭い国土に九 八もの空港が乱立している。
もちろん沖縄をはじめ とする離島の空港も多く、必要不可欠な空港も存在 する。
しかしそうした事情を考慮したとしても、必 要性に疑問符の付く空港が多数存在している事実は 否めない。
 まず空港の数を集約し、その上で一空港当たりの 利用客数を増やし、効率性を追求していくべきだろ う。
一つ具体例を挙げるとすれば、関西エリアに集 中している関空、伊丹、神戸の三空港は早急に統合 すべきである。
さらに、基幹空港は札幌、仙台、羽 田、関空、広島、福岡、那覇の七空港程度に絞る ような思い切った戦略はできないものだろうか。
そ して、それら基幹空港に十分な税金を投入すること で着陸料を大幅に引き下げるのである。
 国は民間委託を考える前に、空港ネットワークを どのように再編・構築するのか、諸外国の空港に対 する競争力をどう維持していくか等、空港行政の明 確なグランドデザインを描かなければならない。
特 に諸外国との競争においては、中国の上海浦東、北 京、香港、韓国の仁川などの各空港に比べた場合の 不利な点を認識し、アジアにおけるハブ空港として 人や物の往来が盛んになる構想を早期に提示してほ しいものである。
 こうした空港行政の指針や全体像が固まった上で、 民間企業の能力や資本が活用されていくことが望ま しい。
今回の法案の内容に関して異を唱えるつもり はないが、まず空港行政のあり方に関する議論を十 二分に行ってから進めるべきだったのではないだろ うか。
てらしま・まさなお 富士総合研究所、流通経済研究所を 経て現職。
日本ロジスティクスシステ ム協会調査研究委員会委員、日本ボ ランタリーチェーン協会講師等を務め る。
著書に『事例で学ぶ物流戦略』(白 桃書房)など。
法案の概要 現状と課題 改革の方向性 【基本スキーム】:国管理空港におけるPFI法の公共施設等運営権制度の活用 国土交通大臣空港運営権者航空会社・利用者 事業契約 (土地等の所有権) (公共施設等運営権) 利用契約 適切な空港運営を確保弾力的な利用金額の設定 全国28 空港の着陸料収入 をプール管理(特別会計) 滑走路等(国)と空港ビル等 (民間)の運営主体が分離 国が運営することによる 地元感覚、経営感覚の不足 地域特性とニーズに対応した 個別空港ごとの経営 空港と空港関連企業との 経営一体化 民間の資金 経営能力の活用 地域の実情に応じた民間による経営の一体化 災害復旧等に国が適切に関与できる仕組みが必要 多様な空港管理形態の1つの選択肢として、国が土地等を所有した上で 対象空港・事業者を選定できるPFI法の公共施設等運営権制度を活用できる仕組みを創設 ※国交省資料より抜粋

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