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APRIL 2004 68
日通本社で三〇〇人相手に講演
連載は今回でちょうど十三回目を迎えた。 と
うとう今月号で終わり――。 当初はそのつもり
だったが、延長することが決まった。 編集担
当者に「社長の連載が好評です。 引き続きお
願いします」と頭を下げられた。 オレ、そうい
うのに弱いんだ。 ついつい引き受けてしまった
よ。
彼もうまいよな。 お世辞だということは十
分承知している。 しかし、本当に多くの人に
この連載が読まれているのであれば、それはと
ても嬉しいことだね。 毎回とりとめのない話ば
かりで申し訳ないが、もうしばらくお付き合い
ください。
さて、今回は最初に講演会の話をしようか。
実は最近、オレに講演してもらいたい、という
依頼が増えている。 この連載を始める前から
少しずつ呼ばれるようになり、今では月に一
回か二回そういう機会をもらっている。
来るものは拒まず、去るものは追わずでスケ
ジュールさえ合えば、極力引き受けるようにし
ている。 オレの話はそんなにおもしろいのか?
どちらかというとトークには自信がないほうな
んだけど。
実は昨年末には日本通運で講演する機会が
あった。 岡部正彦社長に頼まれて引き受けた。
東京・汐留の新社屋の会議室で三〇〇人の社
員を前に、あれこれと話をしてきたんだ。 緊張
はしなかった。 しかし、あんなにたくさんの人
が集まるなんて聞いていなかったから、始まる
直前にはちょっと驚いたけどね。
はじめは断ったんだ。 忙しいからといって。
それなのにどうして講演することになったのか。
今回はいい意味で騙された。 「夏に新社屋が完
成した。 案内したいから遊びに来てほしい」と
誘われた。 それでお邪魔したら「せっかくだか
らちょっと話をしてくれ」ということになったんだ。 日通側に一本取られたっていう感じだ
な。
まあいい。 少し話をするくらいなら。 相手は
多くても三〇人程度だろう。 そう高をくくっ
ていたんだ。 東京までお供してくれた日通の
浜松支店長さんは、本社で三〇〇人が待って
いるなんてことは講演直前まで一切口にしな
いんだな。 本社に到着して岡部社長と三〇分
ほど会談した後、会場に行ってみてビックリ
さ。 聞いたら「今日は三〇〇人集まっていま
す」って言うんだから。
もちろん話す内容なんて考えていなかった。
いつものように「日替わり班長制度」とか「収
第13回「
月
一
回
ペ
ー
ス
で
毒
舌
講
演
会
」
オレの話を聞いてみたい。 そして社員たちにも聞かせたい。
最近なぜか講演の依頼が増えている。 ハマキョウを知っても
らういい機会だ。 なるべく引き受けるようにしている。 台
本? そんなもの用意するわけないだろう。 毎回、思いつく
ままに話すのがオレの講演スタイルだ。
大須賀正孝ハマキョウレックス社長
――ハマキョウ流・運送屋繁盛記
《前回までのあらすじ》
合同勉強会を通じて現場社
員たちと接したことで、物流センターのセンター長候
補が社内にたくさんいるという感触を掴んだ。 しかし
彼らが本当に実力を持っているのかどうかは分からな
い。 そこで今年から新たにセンター長資格制度を導入
することにした。
69 APRIL 2004
支日計表」の話をした。 会場に集まっていた
のは管理職の連中が中心だったから、「現場で
部下に対して威張っているヤツは仕事ができ
ないヤツだ」といってやったんだ。 そうしたら
下向いた人が何人かいたよ。
日通のような大企業がどうしてオレなんか
に講演を依頼したんだろう。 経営規模や生い
立ちがまったく違う会社のトップの話が役に
立つのだろうか。 昔の日通ならオレみたいな人
間をスピーカーに選ばなかったはずだ。 何かが
日通の中で変わろうとしているんだろうな。
それにしても今回訪れた日通の新社屋は立
派だったなあ。 汐留と言えば東京でいま流行
りのスポットの一つなんだって? 社長室の
真下には浜離宮が見える。 レインボーブリッ
ジや東京港もバッチリさ。 夏には東京湾の花
火大会の花火が目の前で上がるそうだ。 訪問
したのは昼間だったけど、夜景はもっと綺麗
なんだろうな。
岡部社長が強調していたけど、日通は贅沢
するためにあの新社屋を建設したわけじゃない
そうだ。 新橋の近くにあった関東支店の土地
とバーターで汐留の土地を手に入れて、秋葉
原から移転してきたらしい。 秋葉原の本社は
だいぶ老朽化していたからな。 ちょうど建て替
えが必要な時期を迎えたのだろう。 大企業っ
ていうのは色々とお金が掛かってたいへんなん
だな。
全国各地に友人
講演を引き受けたのがきっかけで、その後
付き合いが深くなることが結構多いんだ。 お
陰様でオレの場合はトラック運送業界だけじ
ゃなくて色々な業界に、地元・浜松の会社は
もちろん、全国各地に友達ができた。 人から
話を聞くのはとても勉強になる。 とくに異業
種の話は面白い。 物流の仕事の役に立つよう
な知恵をもらうことだって少なくないよ。
オレの友達か? トラック業界では二〇〇
四年一月号のインタビュー記事に登場してい
た大薗さん(南日本運輸倉庫社長)なんかも
知り合いだよ。 彼はチルド・冷凍のトラック
運送会社を組織化して全国ネットワークを構
築している。 これに対して、オレはJTPロジ
スティックスという会社を通じてドライ貨物の
分野で全国のトラック会社を組織化している。
そんな関係から親しくなったんだ。
JTP関係では福岡運輸の山口さん(専務
取締役)やシズナイロゴス(旧・静内自動車
運輸)の伊藤さん(社長)とかとも仲良くし
てもらっている。 いま伊藤さんの会社はとても
元気がいい。 きっと伸びていくぞ、あの会社は。
だからオレは伊藤さんに言ってやったんだ。 「念
じればきっと何でも叶うから頑張れ」って。 そ
うしたら伊藤さんは「店頭公開する」と宣言
しちゃった。
しかしそれでいいと思うんだ。 宣言したらや
るしかないという状況に追い込まれる。 オレも
そうだった。 一回宣言してしまったら、それを
達成できないと赤っ恥をかく。 だからやる気が
でる。 仕事に対して一生懸命に取り組むよう
になる。
目標に向かって努力している姿をみると、不
思議なことに社員や外部の人たちがみんな応
援してくれるようになるんだ。 実はオレがそう
いう経験をした。 売上高がたったの十三億円
のときに「株式を公開する」と宣言して、そ
の後がむしゃらに仕事をして結果を出すよう
になったら、周囲が何も言わないのに応援し
てくれた。 当初は「また大きなことを言ってい
るよ、このおっさん」という顔をしていた銀行
や証券会社の人たちも、オレが頑張っている
姿をみて色々とアドバイスをくれるようになっ
たんだ。
頑張っている会社に対しては、オレ自身も
色々と応援していきたいと思っている。 自分
がそうしてもらったからな。 恩返しの意味もあ
る。 物流センターの見学を積極的に受け入れ
ているのはその一環だ。
しかし、せっかくセンターを見学してもらっ
ても、見学のポイントを誤っている人が多くて
少し残念な気持ちになることがあるんだ。 物
東京・汐留の新日通本社ビル
ている。 真面目なだけではダメなんだ。
センター長に適しているかどうか。 いまから
簡単にテストをしてみようか?
質問1
日替わり班長制度は現場に浸透し
ている。 各班のチームワークもいい。 しかし最
近、現場の社員からコストダウンのアイデアが
出なくなってきた。 どうやって現状を打破すれ
ばいいのか?
答えは簡単さ。 この班はすっかり成熟して
仕事がマンネリ化しているんだな。 そうなって
しまったら、新しい刺激を与えるために班員
たちの担当部署を変えたほうがいい。 仕事の
内容が一新されると、プロから素人へと逆戻
りする。 仕事が分からないと真剣になって頑
APRIL 2004 70
流の素人さんたちは見学時にどうしてもマテ
ハンにばかり目がいってしまう。 質問もマテハ
ンや情報システムに関するものばかり。 でもそ
れって違うんだよな。
ハイテクな機械を導入すればセンターの合
理化が進む。 ウチがコスト競争に強いのはそ
うした機械のお陰だ。 そう思われているようだ
が、それは大きな間違いだ。 本来、機械が動
いている様子なんてどうでもいいんだ。 本当に
見てもらいたいのはセンターで働いているパー
トさんたちの動きだ。 それを参考にしてコスト
削減のために何をすればいいのかを掴んでほし
いんだ。
新幹線やバスを使ってわざわざ静岡のセン
ターまで見学にやってくる。 当然、それなりに
費用だってかかっている。 だからこそ、タダで
帰ってほしくない。 せめて交通費分のコスト
削減につながるヒントを一つでもいいからお土
産として持ち帰っていってもらいたい。 ボケー
っとしてたら、単なる遠足になってしまうから
な。 現場のマンネリ化を防ぐ
いつもの調子で偉そうな言葉を並べてしま
ったが、ウチの会社が百点満点かというと、決
してそんなことはない。 恥ずかしながら、合格
点をやれる社員は全体のうちの二〇%くらい
かな。 社員ひとりひとりと膝をつき合わせて話
をすると八〇点をあげたくなるくらい知識は
豊富。 しかし残念ながら頭でっかちになってい
るだけで行動が伴っていない。 多くは四〇点
くらいの成績だ。
勉強会を毎月開いているのは現場社員のレ
ベルアップを図るため。 四〇点を八〇点にし
たいんだ。 勉強会のゴールはひとりでセンター
を切り盛りできる人材を育成すること。 ウチ
は今後数年以内に物流センターを五〇カ所に
まで増やす計画だから、それまでにセンター長
を用意しておく必要があるんだ。 最近はセン
ター長が足りなくなると繰り返し口にするよう
にしている。 社員たちを「よし、オレがセンタ
ー長になってやるぞ」という気持ちにさせるた
めだ。
頭の良い人よりも、頭の回転の速い人。 た
だ優しいだけではなく、飴とむちを上手に使い
分けることができる人。 ちょっとズル賢い性格
の持ち主。 センター長にはそんな人材が向い
社長を務めているJTPロジのホームページ
講演やスピーチでは台本を用意しない。 思ったことをしゃ
べる。
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張ろうとする。 知恵も絞るようになる。
せっかく仕事を覚えた作業員を別の部署に
移すことには勇気がいる。 移した途端、現場
が混乱してしまう可能性があるからな。 それで
もマンネリ化してきたなと感じたら本当は思い
切って異動させるべきなんだ。 一気にメンバー
を入れ替えるのが不安なら、少しずつシャッフ
ルしていけばいい。
質問2
お客さんから五%のコスト削減を
要請された。 それに伴い、物流センターの作
業員たちにも協力をお願いしたい。 どのように
この話を切り出せばいいのか。
まず現場の社員たちにはお客さんからコス
ト削減を要請されたが、返事をせずに帰って
きたと伝える。 これが最初のステップ。 すると
社員たちは「こうしたらどうだろうか」と理想
論でコスト削減のためのアイデアを話し始める。
そうしたらこう切り出すんだ。 「いま話してい
たアイデア、実際に現場に取り入れられるの?」
と。
数分前にできるといってしまった手前、現
場の連中はもう後戻りできない。 じゃあ、それ
やってみてくれないかと言われたら断れなくな
る。 最後に、「お客さんにもコスト削減できま
すと伝えるよ」と言ってダメ押しする。 これで
現場はやるしかないという雰囲気になっちゃう
んだ。
これに対して、営業マンが勝手にお客さん
のコストダウン要請を引き受けて帰ってきた
場合はどうなるか。 きっと現場は「そんなこと
できるわけがないじゃないか」といって猛反発
するはずだ。 現場に相談せずに頭ごなしでやろ
うとすると必ず失敗する。 協力を得られない。
現場で作業しているのはあなたたちだ。 私
にはどうやってコストダウンすればいいのかが
分からない。 だからどうしても知恵を貸してほ
しい――。 センター長にはそうした一歩引くよ
うな謙虚な姿勢、相手を立てる気配りが大切
なんだ。
センター立ち上げを経験する
センター長になりたければ、その前に一度、
センター立ち上げのプロジェクトを経験してお
いたほうがいい。 この経験があるのとないのと
では大きな違いがある。 もちろんプロジェクト
経験者のほうがセンターを上手に動かしてい
ける。
何故か? 立ち上げでは予想できないこと
がたくさん起こる。 マテハンが思うように動か
なかったり、パートさんを募集してもなかなか
集まらなかったり。 そうしたドタバタをひとつ
ずつクリアしていく。 それによって、センター
運営のノウハウが身に付いていくからだ。
立ち上げまで何も障害が発生しないセンタ
ーなんてない。 そもそも混乱が起こらなければ、
センター長なんていらないじゃないか。 もっと
も最終的にはセンター長が楽できるような体
制、つまりセンター長がいなくても勝手にセン
ターが動いていくような体制に持ち込むのが
理想なんだけどな。
だいたい半年くらいセンター立ち上げプロジ
ェクトに放り込むと、誰でもセンター運営のイ
ロハのようなものを掴めるようになってくる。
人の管理の仕方、経理関係の数字の計算の仕
方などを覚える。 立ち上げは苦労の連続だか
らな。 それを経験すれば、ほとんどの社員が一
皮むけるよ。
新たにセンターを立ち上げる際の重要な仕
事の一つにパートさんや社員の採用がある。 こ
れが意外に難しい。 物流業は労働集約型産業
だ。 いい人材を確保できるかどうかで仕事が
うまくいくかどうかが決まる。 それだけに採用
には慎重さが求められる。
うまくやるコツは現地の事情に詳しい人を
見つけることだ。 その土地のボスというか、リ
ーダー的な人をまず確保する。 それに成功す
れば、あとは楽チン。 ボスが仲間を呼んできて
くれる。 チームワークも築きやすくなる。 郷に
入っては郷に従えといういうヤツだな。
(以下、次号に続く)
おおすか・まさたか
一九四一年静岡県
浜北市生まれ。 五六年北浜中卒、ヤマハ
発動機入社。 青果仲介業などを経て、七
一年に浜松協同運送を設立。 九二年に現
社名の「ハマキョウレックス」に商号変
更した。 二〇〇三年三月に東証一部上場。
主要顧客はイトーヨーカ堂、平和堂、フ
ァミリーマートなど。 流通の川下分野の
物流に強い。 大須賀氏は現在、静岡県ト
ラック協会副会長、中堅トラック企業の
全国ネットワーク組織であるJTPロジ
スティックスの社長も務めている。 ちな
みにタイトルの「やらまいか」とは遠州
弁で「やってやろうぜ」という意味。
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