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JULY 2013 16
ウォルマートの契約書の中身
「商品破損」、「包装箱破損・汚損・濡損」、「指
定時間の間違い」、「商品違い」、「伝票違い」、「マ
ーク違い」、「箱サイズ違い」など、物流クレーム
には無数のバリエーションがある。 しかし、筆者
の経験から言うと、クレーム全体のおよそ半分は「包
装箱の破損・汚損・濡損」によるものだ。
包装の目的は本来、中の商品を守ることである。
しかし、商品そのものに問題はなくても、包装箱
が少しでも傷ついていたり、へこんだりしていれ
ばクレームになる。 これは日本特有の“悪習”で
あり、しかも、クレームとなる汚破損の程度や線
引きは企業や担当者によって判断が異なるので、
実に扱いがやっかいだ。 それでも顧客(納品先)
の言うことには逆らえない。
「伝票違い」は件数こそ多くないが、発生した
ときの影響は最も大きい。 特に伝票に金額が記載
されている場合は最悪だ。
筆者が精密機器メーカーの物流子会社に勤務し
ていたときのこと。 配送委託先物流事業者が、取
引先A社に届けるべき商品を取引先B社に、B社
向けの商品をA社に届けてしまった(いわゆるテ
レコ)。 悪いことにその中の納品書には単価が記
載されており、安いB社向け納品価格がA社にば
れてしまったことから、大問題となった。
このミスに顧客だけでなく、親会社の営業担当
役員も激怒した。 「こんなミスが絶対に発生しな
い体制ができるまで、全ての出荷を停止しろ」と
言う。 これには筆者もカチンと来た。 日本の配送
を担っている企業は、最終納品を孫請け企業の運
転手に任せているケースがよくあり、そうでなく
ても絶対テレコはやらないと確約できる物流企業
はどこにも存在しない。 営業担当役員の指示はそ
の実態を知らない者の妄言と言わざるを得ない。
どんなに管理を徹底してもミスをゼロにするこ
となどできない。 それよりも、伝票に金額を記載
している方が問題である。 筆者はその営業担当役
員に対し、ミスを責めるより、取引先に働き掛け
てEDI(電子商取引)などを導入し、単価記
載のない伝票に変えて重大クレームの発生を根本
その処理コストは通常納品の30倍に及ぶ
酒井路朗 エルディーシー研究所 所長
クレームの処理コストは、その商品の納品に掛か
った物流コストの30倍近くに達する。 クレームの発
生によって仕入れ値の引き下げや取引を打ち切られ
る恐れもある。 しかし、クレームのコスト負担とリ
スクを明確に把握している企業はまれだ。 いまだ大
きな改善余地が残されている。
?クレームの種類
1. 商品破損
2. 梱包箱破損・汚損・濡損
3. 指定時間違い
(遅延など)
4. 商品違い
5. 伝票違い
6. 表示等違い
7. 箱サイズ違い
……など
クレームの内容はさまざま。
最も多いのが「梱包箱破
損」と言われており、50%を
占めている場合もある。
1. コスト増
●再出荷
●返送商品検品
●返送商品入庫
●出荷伝票再発行
●再梱包
●再配送
●回収輸送
●電話等対応(社内外)
●発生原因調査会議
●営業対応
……など
2. 信用失墜
●仕切り値下げ
●取引停止
……など
悪影響は非常に根深く幅広
いが、十分認識している企
業はそれほど多くない。
?企業に及ぼす影響
基本的には地道な努力以
外にないが、対応策はさまざ
まである。
?防止・改善策
1. 荷主による原因追究
2. 荷主・物流企業合同の定期クレーム
対応会議
3. 荷主による物流企業への商品勉強
会開催
4. 納品運転手に対する出張指導
5. マニュアル整備
6. クレーム事例公知
7. 改善制度導入
8. 優秀対応事例
9. 全社啓蒙活動発表会
10.クレーム管理システム導入
11.荷主・物流企業とのSLA
(サービスレベル・アグリーメント)締結
さかい・みちろう
1971年上智大学卒、オリンパス入社。 海
外勤務を経て、帰国後、物流推進部にて国
内外のロジスティクス改革関連業務に従事。
2002年オリンパスロジテックス出向、取締
役東京センター長に就任。 08年4月、コン
サルティング会社のエルディーシー研究所を
設立し、所長に就任。 現在に至る。 http://
www.logistics-design-consulting.com/
17 JULY 2013
特集
テッカーの貼る位置が指定と一センチでも違えば
強烈なクレームを付けてくる。 罰金を要求してく
ることさえある。
それだけ細かく物流オペレーションを設計して
いる。 実際、同社との取引では初めに分厚い契約
書が作成されるが、その七割は物流関連の条件を
記載した文書である。 箱のサイズやマークの指定
はもちろん、段ボールの細かい材質までがそこで
指定されている。
これが日本であれば、そこまで細かく物流条件
的に排除する仕組みを作る必要があることを訴え
たのであった。
「表示等違い」は、納品先の物流センターなど
で読み込むバーコードやシール等の位置や形状の
違いに対するクレームだ。 これが違うと、物流セ
ンターのハンドリングに負の影響が出てしまう。 「箱
サイズ違い」も同様である。
これらのクレームに関しては、日本企業よりも
欧米企業の方がセンシティブだ。 例えば米ウォル
マートは、納品された包装箱はもちろん、各種ス
を指定されることはあまりない。 その代わり、先
ほどの包装箱のわずかな破損のように合理性を欠
いたクレームが来る。 その対応に費やされるコス
トは巡り巡って商品価格に反映される。 消費者に
しわ寄せされるわけである。
クレームが発生すれば、信用の失墜だけでなく、
その善後策として回収輸送、返送商品検品、再入
庫、在庫修正、出荷伝票再発行、再包装・再出
荷などの物流作業が発生する。 物流現場以外でも、
社内外の電話応対や発生源の調査、営業対応など
の数々の手間が掛かり、かつ、それらが通常業務
の中に埋没する。
当然、その一つ一つにコストがのし掛かってくる。
筆者の経験上、一つのクレームが発生してから代
替品を納品するまでの間に掛かるコストは、その
商品の通常の納品に掛かるコストの三〇倍近くに
も上る。 仕切り値を下げられたり、取引自体が停
止になったりすると、莫大な損失となる。
これだけ大きな影響があるにもかかわらず、実
際には物流クレームによるコスト負担やリスクを
明確に把握して、それと正面から向き合っている
企業はまれである。 つまり、クレーム管理にはい
まだ大きな改善余地が残されているのである。
クレーム管理の仕組みを作る
クレームの防止・改善活動は “モグラたたき”
のようなものだ。 全てのクレームを一掃する “逆
転満塁ホームラン” のような決定打があるわけで
はない。 クレームの原因を一つつぶせばまた、次
の問題が表に出てくる。 それでも、飽きずにモグ
ラたたきを繰り返すことで、成果は着実に上がる。
対応スピードも速くなる。
ミス発生現場
での品質会議
図2 クレーム発生後のフロー
誤出荷内容の掲示による
啓蒙活動
図3 クレーム周知ポスターの特徴
●インパクトのある大型サイズ
(111x84cm)
●「1.現象」「2.原因」「4.正しい作業」
の一般的な項目のほかに、「これだけ
損した(時間・費用)」という項目を設
け、具体的な損失影響度をアピール
●社員・パート従業員など、全作業員が
集まる社員食堂に常時掲示
●作業ミスをした人の名前は載せない
(理由:作業者の責任より、作業手順
に原因があるという認識に立つ。 また、
特定の名前を載せると、他人ごとにと
らえられがちになる)
1. 遅くとも翌日に発生作業場所で品質会議
(社長・センター長・全グループリーダー・作
業担当者)
2. 作業担当者が、ミスした作業手順を詳細に
説明
(注:作業者を絶対に責めず、手順のみチェ
ック)
3. 対策案(正しい作業)を決定して、即日展開
4. 物流クレーム対応ポスターの食堂掲示によ
る啓蒙
5. 約1カ月後に社内監査を実施して改善確認
JULY 2013 18
筆者の在籍していた物流子会社では、クレーム
が発生した場合、以下のような対応を取っていた。
まずは第一報である。 クレーム対応における最
も大事な点は、しかるべき立場の人間が早急に謝
罪することである。 ただし、クレームは必ずしも
物流部門に入ってくるとは限らない。 物流子会社
に電話がかかってくることもあれば、配送委託先
に入ることもある。 その顧客の担当営業に連絡が
入ることもある。
どのようなクレームがいつ発生したのか、対応
の進捗状況はどうなのか。 そうした情報を関係者
全員が共有していなければならない。 情報共有が
なければ「もう誰かが謝罪しただろう」という誤
解が関係者それぞれに生じ、謝罪のないまま顧客
を放ったらかしにするという最悪の対応にもつな
がりかねない。
そこで同物流子会社では情報共有の仕組み、す
なわちクレーム管理システムを構築したのである。
クレームの第一報を受けた人物は、ただちにその
管理システムにクレームの詳細と対応情況を打ち
込む。 すると、関係者全員にその内容がメールで
送られる。 これで情報の行き違いが回避できる。
簡単な仕組みなので、情報システム部門のある
会社なら、社内でプログラムを組むこともできる
だろう。 外部のシステム会社に開発を委託しても
数十万〜二百万程度の費用で済むはずだ。 それで
いて効果は大きい(図1)。
データがたまってくれば、種類別や作業者別、
配送会社別にクレームの傾向を分析したり、クレ
ームが多く発生しているポイントをあぶり出すこ
とができる。 クレーム件数などをKPIとして使
うことも容易になる。
そしてクレーム発生日の翌日までに、物流子会
社の社長、該当拠点のセンター長、クレームに関
係のない職場を含むグループリーダー、ミスをし
た作業担当者が集まり、品質会議を実施する。 場
所は会議室ではなく、クレームの元となったミス
が発生した現場だ。 そこで作業担当者にミスをし
た手順を詳細に説明してもらう。
このときに、絶対に作業者を責めてはいけない。
クレームが発生したのはミスをした作業員のせい
ではなく、ミスを誘引する仕組みのせいである。
作業員にミスの過程を説明してもらうのは、その
仕組みの問題点をあぶり出すためだ。 問題が判明
したら、今後の対策案(正しい作業手順など)を
決定し、現場で運用する(図2)。
まずは一〇〇PPM未満を目指せ
ただし、これだけでは現場に定着するのは難し
い。 そこで、発生した重大クレームの詳細をポス
ターにして、社員が集まる食堂に貼り出して周知
する。 人目を引くように、ポスターのサイズはで
きるだけ大きくした方が効果的だ(図3)。
ポスターにはクレームの内容や原因、対応策は
もちろん、クレーム対応によってロスした時間や
金額までを貼り出す。 損した金額や時間が具体的
に発表されることで、見た人全員に大きなインパ
クトを与えるとともに、再発防止への意識を高め
る。 ただし、ミスした作業員の名前や写真を貼り
出すのは論外だ。
参考までに、ポスターに掲載された具体的な事
例を紹介する。 まずは起きた現象。 定期便で当日
出荷されるべき荷物が積み残され、翌日出荷にな
ってしまった。 状況を確認すると、定期便の出荷
担当者が荷物の存在に気付いていなかったことが
判明した。
次に原因。 指定置き場スペースがほかの荷物で
溢れて置けなかったため、指定スペースとは別の
場所に荷物を置いた。 定期便の出荷担当者が不在
だったために、その連絡が行き届かずに、積み残
しが発生してしまった。
三番目に、損した時間や費用を具体的に掲載する。
このケースでは、自社のクレーム対応で失った時間
は約一三五〇分、お客様がクレームのために失っ
た時間は二四〇分以上だった。 これらを一定の計
算式で金額換算すると、約二二万円以上になる。
最後に、改善策だ。 ?手渡しによる荷渡書での
確実な申し送り作業にする?定期便の出荷担当者
は、出発前に荷置き場周辺の再確認を行う?定期
便仕分け場所の整理(白線による明確な置き場分
け、誰もが分かりやすい置き場所の案内表示等)
──を掲載した。
クレームの削減には地道な努力が必要と言った
が、ある程度のレベルまで達したら、それ以上の
努力はかえってコスト効率が悪くなってしまうケ
ースもある。 業界や業種、会社によって取り組み
レベルや目標とする数値はさまざまだろうが、筆
者はクレームの発生率がオーダー当たり一〇〇P
PM未満、つまり一万分の一未満であれば及第点
として良いと判断している。 3PL事業者を採用
する場合は、あらかじめKPIを含むSLA(サ
ービスレベル・アグリーメント)を結んでおくこと
がポイントであろう。
まだクレーム対策に手付かずの企業は、まずは
発生率を一〇〇PPM未満に下げることを現実的
な目標として掲げれば良いだろう。 (談)
19 JULY 2013
特集
その他
誤配
数量違い
送り先違い
遅延/未着
凍結/溶解
破損
品違い
紛失
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9
運送業者
顧客
営業
物流センター
8月
9月
10
月
11
月
12
月
1月
2月
3月
4月
5月
6月
7月
8月
14
12
10
8
6
4
2
0
不明
A市センター
B県センター
C県センター
D県センター
E市センター
F市センター
G県センター
( )クレームの流れ
( )入力・更新・閲覧
図1 クレーム管理システムのフローと特徴
?第一報を入力すると、関係者全員に発
生したクレームの内容が一斉メール配
信される
?対応処理等の入力がされるなどクレー
ム対応に進捗があった場合も、全員に
その情報がメールで届く
?管理画面のデータは、クレームカテゴリ
別などにEXCELにダウンロードし、自由
にソート・分析できる
?最終承認された際にも関係者へ一斉
メール。 電話連絡などの手間が掛から
ない
クレーム件数推移
クレーム起因店別発生件数
クレーム内容比較
主なフロー
第一報入力画面
回答入力画面
(第一報をスクロール)
?
?
?
クレーム管理システムから得られるデータ例
?
クレーム管理システム登録・回答・承認
|