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JULY 2013 26
新サービスに物流現場が難色
今年五月、コクヨグループでオフィス用品通販
を展開するカウネットは、顧客の声を反映した新
たなサービスを開始した。 インターネット上の注
文画面に「簡易梱包」か「段ボール梱包」を選択
できるバーを追加し、顧客自身が商品の梱包形態
を決められる体制を整えた。
顧客が注文の都度、梱包方法を選択する。 次回
の注文時の梱包形態をあらかじめ登録しておくこ
ともできる。 顧客からの指定がない場合は、カウ
ネットが梱包形態を決めて発送する。
従来はカウネットが全ての発送商品の梱包形態
を決めていた。 商品の特徴や注文ロットなどを考
慮した上で段ボール包装か簡易包装かを判断して
いた。 この数年は環境問題や物流コスト削減の観
点から、宅配袋やポリエチレン袋を使用した簡易
包装を積極的に推進し、その対象を拡大させてきた。
顧客の反応は良かった。 「商品を受け取った際
に段ボールを処分する手間が省けるので、もっと
簡易包装を進めてほしい」といった声が多く寄せ
られた。 これを受けて、カウネットの物流現場で
は「簡易梱包率」を重要指標の一つに掲げ、その
向上に奔走してきた。
ところが、次第に顧客の声に変化が見られるよ
うになった。 大多数は簡易包装を評価しているも
のの、その一方で「商品の中身に問題はないが、
外箱のダメージが気になるので段ボール梱包に変
えてほしい」「簡易包装では不安」「自分で梱包を
選びたい」といったクレームや要望が少しずつ増
えてきた。
カウネットの物流部ではこの兆候を重く見た。
顧客にも良かれと考え簡易梱包を拡大してきたが、
画一的なサービスを押し付けてしまっている面が
あることを反省した。
同部の若林智樹部長は「クレームの声が上がっ
たお客様に関しては当社のマスタでしっかり管理し、
それ以後は希望する梱包形態で送るよう徹底した。
しかし、それだけでは問題の根本的な解決にはな
らない。 一件のクレームの背後には、声には出さ
なくても同じ不満を抱えている多くのお客様が控
えている。 お客様の目線に立ち、梱包の在り方を
もう一度見直すことを確認した」と説明する。
物流部はすぐに顧客自身が梱包形態を選べるサ
ービスを打ち出す方針を決めた。 通常であればコ
スト削減につながらない改善で物流部門が評価さ
れることはない。 そのため顧客満足に貢献する改
善案を物流部門が主導することはまれだ。 しかし
カウネットの場合、物流コストや生産性だけでは
なく、品質やCSへの貢献も物流部門の重要なK
PIに組み込まれており、その比重は近年ますま
す高まっている。
しかし、梱包方法選択制の実現にはいくつかハ
ードルがあった。 一つはシステム投資だ。 顧客に
物流部主導で梱包方法を選択制に
──カウネット
今年5月末から物流部が主導して顧客自身が梱包形態を
選べるサービスを開始した。 環境負荷低減と物流コスト削
減の観点から梱包の簡素化を進めてきたが、段ボール梱包
を求める声もあることに配慮した。 これに伴い物流現場
の作業負荷は増え、システム投資も必要だったが、CS向
上を優先した。 (石鍋 圭)
ケーススタディ
簡易梱包
●宅配袋
段ボール梱包
従来は簡易梱包を推進してきた
27 JULY 2013
もないが、物流現場では早くもその難しさを実感
しているという。
カウネット東日本物流センターの飯島健センタ
ー長は「ミスが発生しにくいオペレーションを設
計したつもりだが、やはり人がやることなので徹
底させるのは難しい。 当面はデータを蓄積し、ミ
スが出やすい作業工程や作業員を抽出し、その改
善に努めていく。 まだ始まったばかりだが、なる
べく早く安定稼働できるよう現場を管理するのが
我々の使命だ」と意気込みを語る。
配送では五〇〇PPM以下を目指す
カウネットは以前から顧客の声を重視し、その
収集に努めている。 物流に関する声が入った場合
は、全国五カ所にある物流センター(東京、大阪、
名古屋、福岡、札幌)のうち、その顧客を管轄す
るセンターに即座に伝達される。 現在、物流に関
する声は月に三〇〇〇件ほど。 そのうちの五〇〇
〜七〇〇件ほどがクレームで、残りはサービスに
対する要望や質問などだ。
クレーム内容は未着や遅配、輸送破損など、顧
客への配送中に起きているものが大半を占めてい
る。 末端配送は宅配会社に委託しているが、その
数は少ない物流センターで五社、多いセンターで
約一〇社に上る。 物流部門はクレームを起こした
配送会社にその内容を伝え、原因の徹底検証と改
善を要請する。
同時に、宅配会社ごとにクレーム実績を管理し
ている。 単に件数だけを把握するのではなく、「遅配」
や「個口割れ」は一点、「未着」や「誤配」は二点、「輸
送破損」は三点といった具合に、内容ごとに重み
付けを行っている。 最も “罪” が重いのは「応対・
梱包形態を選んでもらうには、インターネットの
注文画面に選択バーを追加しなければならない。
顧客からの梱包指示を物流システムに連携させ、
梱包指示ラベルに印字される仕組みも必要になる。
当然、コストが掛かる。
これがマテハン投資であれば、費用対効果を具
体的な金額で示せるので稟議も通りやすい。 しかし、
今回のように顧客満足を目的とした投資では金額
面からの検証はできない。 カウネットの場合、そ
うした投資案件には経営陣が優先順位を付け、そ
の実現の可否が決まる。
幸い、この稟議は即座に承認された。 通販企業
だけあって、社長をはじめとする経営陣は物流の
重要性をもともと十分理解している。 物流部門が
感じた危機感や新サービスの必要性が理解される
のに時間は掛からなかった。
難色を示したのはむしろ現場だった。 全ての顧
客から梱包形態の指示を受け、それを確認しなが
ら作業をするのは、従来のオペレーションに比べ
て負担が重くなる。 ミス率が増える可能性もある。
新たな作業フロー
に困惑の色が広が
った。
それでも、顧客
満足を最優先する
という方針を貫き、
新サービスの導入
を断行した。 懸念
した通り、スムー
ズな船出とは行か
なかった。 スター
トしてからまだ間
態度不良」の一〇点だ。
この実績は宅配会社が一堂に会する月次の品質
合同会議でオープンにされる。 さらに宅配会社に
対するKPIの一つにもなっており、優秀な宅配
会社にはより多くの荷物が回ることになっている。
宅配各社は隣のライバルに遅れを取らないよう、
日々、配送品質を競い合うことになる。
効果は絶大だ。 配送のミス率はこれまで一貫し
て落ち続けている。 三年前のミス率は一〇〇〇P
PM(出荷オーダー当たり)ほどだったが、現在
は六〇〇〜七〇〇PPMにまで改善している。 来
期中には五〇〇PPM以下にまで落とすことを目
標に掲げている。
しかし、そこには大きな障壁があるという。 若
林部長は「現在のレベルは既に限界近くまで行き
着いている。 一〇〇〇PPMくらいまでは仕組み
の工夫などで順調に改善できたが、ここから先は、
むしろ宅配ドライバー個人のモチベーションによる
ところが大きい。 今後はそうした部分も視野に入
れながら施策を打つ必要がある」と言う。
既に動き出している。 今期からの新たな取り組
みとして、配送と梱包に特化した二種類のアンケ
ートを顧客に対して実施している。 その目的は、
従来のようにクレームや要望を吸い上げるだけで
はなく、むしろ良い点を積極的に評価してもらう
ことにある。 その声を、宅配ドライバーや梱包作
業者にフィードバックする。
若林部長は「これまで通り物流管理は徹底する
が、さらに一歩進んでお客様に貢献するためには
新たな取り組みが必要と判断した。 アンケートが
さらなる作業品質の向上や新サービスの発案に結
び付く起爆剤になれば」と期待している。
飯島健センター長 若林智樹部長
特集
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