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グループ一体で事業展開
カネカは化成品や機能性樹脂、食品、ライ
フサイエンスなど、さまざまな分野に事業を
展開する化学メーカーだ。 そのうち最も売り
上げが大きいのは食品事業で、二〇一三年三
月期の連結売上高四七六四億円に対し、食
品事業の売上高は一三二二億円と全体の二
七・八%を占めている。
マーガリンやショートニング、パン酵母な
ど、パンや菓子向けの加工材料がメーンで、
この分野では国内トップクラスのシェアを持つ。
製造はカネカの高砂工場(高砂工業所)のほ
か、子会社の新化食品やカネカサンスパイス
など六社の工場が担当し、カネカの販売子会
社を通じて大手パンメーカーからベーカリーチ
ェーン、個人経営のケーキショップに至るま
で、幅広いユーザー層に製品を供給している。
近年、同食品事業グループは二つの大きな
改革を実施している。 物流の再構築と販社の
統合だ。
カネカは従来、全国を四つの地域に分け、
カネカ食品販売、東京カネカ食品販売、東
海カネカ食品販売、九州カネカ食品販売の販
売会社四社に各地域の販売を担当させてい
た。 各販社はそれぞれのエリアの主要都市に
支店・営業所を展開して、きめ細かな物流網
を構築し、地域密着型の販売戦略を独自に進
めてきた。
顧客の要望に応じてパンや菓子の製造に必
要な材料をワンストップで提供することに主
眼を置き、カネカ製品だけでなく他社製品の
仕入れにも力を注いだ。 これにより各販社は、
その品揃えや物流網について顧客から高い評
価を獲得し、それぞれの地域で有力卸として
の地盤を築いた。
今年7月1日付で食品事業部門の地域別販売会
社4社を統合する。 製パン・製菓向け材料では業
界初となる全国規模のフルライン卸として再出発
させる。 これに先立ってグループの物流を再構築、
東西に大型センターを設置して関東圏・近畿圏の
拠点を集約した。 グループの在庫管理と需給管理
の完全な一元化がその目的だ。
SCM
カネカ
東西に食品用大型拠点新設し物流再構築
販社統合機にグループ在庫を完全一元化
オリコン洗浄機も装備 3温度帯倉庫を完備 ロールボックスパレットで少量品保管
ドックシェルターは合わせて46基 首都高・関越道・圏央道へ好アクセス
カネカ食品東日本物流センター
トータルピッキング後に店別仕分け
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しかし、食品加工用材料の事業環境は厳し
さを増している。 食の安心・安全への関心の
高まりとともに温度管理の強化やトレーサビ
リティーの確保が強く求められるようになっ
ている。 その一方で、消費者の低価格志向に
応えるため価格競争力を磨くことも市場で勝
ち抜くための必須要件だ。
さらには、カネカグループが主要なターゲ
ットとするパン市場において、売り上げの比
重が、食パンからデザート感覚の菓子パンや
調理パンへ移ってきたことも、環境変化に拍
車を掛けている。 製パン業者が需要喚起のた
めオリジナリティーの高いパンづくりを競うの
に呼応し、材料メーカーにもバラエティーに
富んだ製品開発が求められるようになった。
需要が比較的安定している食パンに対し、
菓子パンの売り上げは季節や流行に大きく左
右される。 新商品が次々と市場に投入されて、
製品ライフサイクルが短くなり、需給コント
ロールが難しくなった。 多品種少量化の進展
によって物流の効率も悪化した。
こうした環境変化に対応するためにカネカ
は、それまでのようにカネカと各地域販社が
個別に課題に取り組むのではなく、グループ
の力を結集して動くことで競争力を高めると
いう方針に転換した。
そのために、まずはカネカと販社の物流拠
点を再編し、あわせて物流機能の高度化を図
る。 その上で地域販社を一社に統合して、パ
ン・菓子向け材料では業界初となる全国規模
の問屋を発足させる、というシナリオを描い
た。
マザー倉庫で補充をコントロール
その実現に向けて二〇〇〇年代半ばに食品
事業部に「コストダウンプロジェクト」を発足
し、販社を含めた在庫拠点の集約について検
討を開始した。 さらに二〇一〇年には食品事
業部長直轄の「物流改革チーム(現戦略統括
グループ業務・物流改革チーム)」を新設、グ
ループの物流再構築に着手した。
物流再構築は拠点数の大幅な削減と在庫管
理の一元化を柱に進めた。
従来、食品グループの物流拠点はメーカー
と販社を合わせ全国に五〇カ所あった。 販社
の拠点は「販社倉庫」と「販社支店倉庫」か
ら成り、グループの工場の製品をカネカの倉
庫から「販社倉庫」へ出荷し、ここで販社が
グループ外から仕入れた商品とともに「販社
支店倉庫」を経由してユーザーへ配送すると
いう物流体勢を取っていた。
これを改め拠点再編によって拠点数を半数
程度まで減らし多段階物流の解消を図る。 そ
のために東西に大型物流センターを新設する
計画を立てた。 東西のセンターに、それぞれ
関東圏と近畿圏にあるカネカと販社の在庫を
集約する。
従来のようにメーカーと販社が別々に在庫
を管理すると、おのおのの判断で安全在庫を
持つようになりトータル在庫の増加を招きや
すい。 在庫の集約と管理の一元化によってそ
うした弊害を解消しようという狙いである。
東西の物流センターはグループの「マザー倉
庫(MDC)」として位置付ける。 MDCに
は原則としてカネカ製品の全アイテムと、販
社が他社から仕入れる商品の中の主要アイテ
ムの在庫を持つ。 そして関東・近畿圏のユー
ザーへの配送だけでなく、圏外にある販社の
「地域拠点(DC)」に対して在庫の補充を行
図1 物流戦略イメージ図
グループ物流運営への変革:グループ共同物流運営
グループセンター倉庫化・物流情報・業務の統合へ
〈現状〉
〈改革後〉
カネカ管轄販社管轄
製造工場カネカ倉庫販社倉庫販社支店倉庫最終顧客
製造工場 販社支店倉庫 最終顧客
無在庫化
グループセンター倉庫
物流情報一元管理・重複物流業務の統合・集約
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う機能も持たせる。
構想の中心となるMDCの建設に当たって、
食品事業部および販社のメンバーからなる総
勢数十人規模のプロジェクトチームを立ち上
げた。 東西のセンター別にチームを分けてそ
れぞれ建物の仕様やレイアウト、庫内オペレ
ーションの仕組み、輸配送業務との連携の仕
方、運用ルールなど詳細について検討を重ね
ていった。
二〇一〇年六月にまず大阪府摂津市に延べ
床一万二〇〇〇平方メートルの西日本物流セ
ンター(WMDC)が稼動した。 続いて一二
年九月には埼玉県川越市に延べ床二万平方メ
ートルの東日本物流センター(EMDC)が
稼動した。
両MDCは冷凍・冷蔵・常温の三温度帯
の倉庫を完備し、温度設定の調整が可能な定
温庫も設けるなど温度管理を強化した。
カネカ製品の入出庫・ピッキング・検品作
業には二次元バーコードの「QRコード」を
使用。 他社製品には入庫ラベルのバーコード
を活用して作業の効率化と精度アップを図っ
た。 新たに導入した倉庫管理システム(WM
S)の運用を通じてトレーサビリティー管理も
実現した。
ピッキング作業の設計では多品種少量化へ
の対応を重視した。 販社が扱う商品は他社仕
入れ品も含め数千アイテムに上る。 パン・菓
子材料の中でも詰め物の具材に使用されるク
リームなどの「フィリング」と呼ばれる材料
のような形で在庫の一元化を実現するかとい
うことだった。 検討の末、販社の統合を分岐
点として、それまでを第一ステップ、統合後
を第二ステップと位置付け、二段階で一元化
を進めることにした。
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ップでは、それまで関東圏と近畿圏にあった
販社の在庫をMDCへの集約に伴いいったん
メーカー(事業部)在庫に置き換えた。 工場
の製品を全て東西のMDCで引き取ってカネ
カの事業部在庫として保管し、MDCに出荷
指示が出た時点で販社に所有権を移す。
これに伴いMDCから地域DCへの補充方
法を見直した。 従来は各販社が受注状況を判
断し、必要な数量をカネカの倉庫から自分の
倉庫へ引き取るというやり方が慣例になって
いた。 これを新体制では事業部の下、MD
C側で補充をコントロールするかたちに変え
た。 DC別にアイテムごとの基準在庫を設定
し、在庫の推移を見ながら基準値を元にMD
CからDCへ送り込む。
ただし、販社が扱う商品はカネカ製品だけ
ではない。 各地のユーザーのニーズに合わせて
それぞれの販社がグループ外から仕入れてい
る商品が取り扱いのかなりのウエートを占める。
その在庫の所有権は各地の販社にあり、在庫
管理や需給コントロールも販社が担っている。
このため第一ステップではMDC内の在庫
のうちカネカ製品は事業部が、他社仕入れ品
は販社がそれぞれ管理するという変則的な形
はとりわけ種類が豊富で、店舗からの注文は
ほとんどがピース単位だ。
そこでアイテム別にトータルピッキングして
から種まき方式で店舗別に仕分けるシステム
を導入し、ピース処理能力を強化した。 従来、
販社の拠点ではトータルピッキングだけを行い、
店舗別の仕分け作業は業務委託先の配送業者
が自社の倉庫へ商品を集荷してから行ってい
た。 MDCに店舗別仕分け機能を設けること
で業務の効率化とスピードアップを図った。
通常納品とは別に、個人経営の小規模単独
店等に対して実施しているルートセールス業務
の改善も行った。 従来はルートセールスの担
当者が自ら販社の倉庫で担当エリアの店舗別
仕分けを行っていた。 この仕分け作業をMD
Cのピッキングシステムの対象に加えた。 これ
によってルートセールス担当者は店舗別仕分
けの済んだ商品を引き取り、ただちに配送業
務を開始できるようになった。
全ての在庫を販社が一元管理
今回の改革で物流改革チームが最も大きな
課題としたのは、どんなステップを踏み、ど
カネカの食品事業部戦略統
括グループ業務・物流改革チ
ーム主任の八木宏茂氏
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た上、改廃も頻繁になり、過去のデータだけ
では予測精度が上がらなくなってきた。
そこで今後は販社の営業マンが発信する情
報を需要予測に活かす。 新規に稼動する情報
システムに営業マンが営業活動によって収集
する定量・定性情報を入力。 直近の販売情報
をもとに需要予測するサブシステムで算出し
たデータの修正を行う。 さらにそれを毎日見
直すことで予測の精度を高める。 カネカ側は
修正された情報を基に工場の生産計画を変更
して最適化を図る。
営業マンの情報を生産計画に反映させると
いうアイデアは、過去にも検討されたことはあ
った。 しかし、ここまで実現していなかった。
その理由を八木氏は「?つくるのはメーカーで
売るのは販社?という切り分けが双方の意識
の中にあったからだ」と分析する。
だが今後は需要予測機能とともに販社が在
庫責任を持つようになる。 その結果、「営業
マンは自分たちがキャッチした市場の情報を
きちんと(システムに)入れないと(SCM
の)仕組みが回らず、売れるものも売れなく
なることを自覚するはず。 これまでとは大き
く変わるだろう」と見ている。
物流拠点の再編はまだ道半ば。 販社の統合
を受けて今後、グループの物流ネットワーク
整備を加速させる。 地域DCが再編のターゲ
ットになる。
当初はリードタイムに問題が生じない限界
までDCの数を減らし、東西のMDCからそ
れぞれ東日本・西日本の広い範囲をカバーす
る構想だった。 だが東日本大震災を機に方針
を修正した。 BCP(事業継続計画)対応を
重視してMDC以外にも在庫拠点を設けるこ
とにした。 その前提の下で段階的に地域拠点
の再配置を行う計画だ。
(フリージャーナリスト・内田三知代)
になる。 またカネカ製品の在庫も、MDCか
ら地域DCに出荷して以降は販社に所有権が
ある。
これに対して販社統合後の第二ステップで
は、他社からの仕入れ品はもとよりカネカ製
品についても、在庫の所有権を事業部から販
社側に移す。 MDCおよびDCにある全ての
在庫を販社が一元管理することになる。 メー
カーではなく、サプライチェーンの川下側に当
たる販社が在庫責任を負い、MDCからDC
への補充のコントロールも自ら行う形にする。
食品事業部戦略統括グループ業務・物流
改革チーム主任の八木宏茂氏は「メーカーと
販社のどちら側が管理するべきかいろいろ意
見は出たが、グループ全体を効率化して商品
の供給を最適化するには、市場により近いと
ころで在庫管理や需給管理を行うほうがいい
という判断になった」と説明する。
営業マンの情報を生産計画に反映
今年七月一日、販売会社四社はカネカ食
品販売を存続会社に統合を行い、新社名「カ
ネカ食品」として再出発する。 今年九月中を
めどにMDCの在庫を事業部在庫から販社在
庫に切り替える予定だ。
これに合わせて販売物流システムのリニュ
ーアルを行い、SCMの仕組みを再構築する。
従来はメーカー側で過去の実績などを基に需
要予測を行い、生産計画を立てていた。 だが、
多品種化と共に需要変動の大きな製品が増え
図2 QRコードを活用した倉庫オペレーション
東西の物流センターには、倉庫管理システム(WMS)を導入し、バーコード・およびQRコード(カネカ品のみ)を
活用した倉庫運営を行っている。
お客様
DC
【入庫業務】
QRラベルスキャンQRラベルスキャン
【出荷業務】
TC
入荷検品
在庫引当
ピッキング
出庫
検品
出荷
入庫検品
ロケ確定
カネカHOST WMS
在庫管理棚卸出荷指示
ハンディターミナルを活用しミス防止
QRラベル活用
WMSにて生産性等のKPIデータ取得
カネカグループ工場他社仕入れ品
棚入れ
入荷検品
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