ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2013年7号
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第85回 日本通運 運賃是正活動のリーダー役を期待相次ぐ子会社買収は変化の兆しか

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JULY 2013  62 「複合事業」の採算向上が急務  今年三月、日本通運は、新中期計画「日通グ ループ経営計画2015─改革と躍進─」(以下、 「新中計」)を発表した。
この中で同社が戦略の 二本柱として打ち出したのは、「グローバルロジス ティクス事業の拡大による成長性の向上」と「国 内事業の経営体質強化による収益性の向上」で ある。
このうち同社にとって、より重要性、緊 急性が高いのは後者であると筆者は考えている。
 本業の収益性を示す同社の連結売上高営業利 益率は二〇一三年三月期の実績が二・一%で、二 〇〇〇年度以降、一度も三%の壁を越えたこと がない。
利益率の足を引っ張っているのは、同 社が「複合事業」と呼ぶ、トラック運送、倉庫、 鉄道などの伝統的な国内物流業務だ。
 複合事業の収支を同社は一一年三月期から開 示している。
その売上高営業利益率は一一年三 月期が一・二%で、一二年三月期と一三年三月 期はともに一・〇%と、極めて低い水準にとど まっている。
複合事業は一三年三月期実績で連 結売上高の四三%を占める同社最大の事業部門 であり、その低い収益性が全体の利益率を大き く引き下げる形となっている。
 今回の新中計では、この複合事業の売上高利 益率を、現状の一%から一六年三月期に三%ま で引き上げることを目指している。
これを達成 すれば、複合事業の売上高が横ばいであった場 合でも一四〇億円程度の増益要因となる。
連結 営業利益が一三年三月期の水準から四〇%強も 増える。
 ただし、利益率の大幅な引き上げは簡単なこ とではない。
複合事業収益の多くは単純な運送、 保管業務であり、我が国においてこれらの市場 規模は縮小傾向を示している。
売上拡大が期待 できない中、日通は利益率改善のドライバーとし て、 (1) 支店の間接部門削減 (2) 支店、物流拠点の 統廃合や大型化──などの事業構造改革を挙げ ている。
しかし、それに伴う人員削減は基本的 には行わず、配置転換による対応を示唆するな ど、コスト削減対策としてどの程度の実効性を 持つものなのか不透明と言わざるを得ない。
こ れらを推進する過程では、従業員や自治体、下 請け業者などのさまざまなステークホルダーと軋 轢が生じる可能性が高く、事業構造改革が利益 率改善効果を生み出すには相応の実行力と時間 が必要だろう。
 同社の利益率低迷は、中小零細企業のひしめ く運送業界にあって単純運送や保管業務の付加 価値が極端に低下し、長期的なデフレ環境下で 運賃水準の引き上げがままならないという問題 が背景となっていると思われる。
そして日通は その長い歴史から地場の運送・作業協力会社と の関係を断ち切ることができず、内製化→積載 日本通運 運賃是正活動のリーダー役を期待 相次ぐ子会社買収は変化の兆しか  目下の課題はグローバル事業の拡大よりむし ろ、トラック運送や倉庫など国内物流事業の収益 性向上にある。
採算割れ運賃の是正、運行の自 社化、そして3PL事業を軸としたサービスの高 付加価値化等、やるべきことは既にはっきりし ている。
それを実行に移せるかどうか。
全ては 経営陣の決断力とリーダーシップにかかっている。
第85回 板崎王亮 SMBC日興証券 シニアアナリスト 63  JULY 2013 率向上による利益率向上がなかなか進められな いといった固有の事情を抱えているように筆者 には思われる。
 こうした問題に対応する処方箋として二つが 考えられる。
一つは、運賃の是正活動の徹底と 自車化推進などによる利益率の改善である。
福 山通運の取り組みにその実例を見ることができ る。
二〇〇〇年代後半以降、福山通運は適正運 賃収受活動を本格的に進め、不採算荷主に対し ては契約の解除まで覚悟して運賃の是正を迫っ た。
その結果、荷主数は減少したが、売上高営 業利益率を〇八年三月期の二・三%から一〇年 三月期には五%台にまで引き上げることに成功 した。
直近の一三年三月期決算でも五%弱の高 い水準を維持している。
 福山通運の一三年三月期のトンキロ単価は〇 八年三月期の水準を上回っており、また運行便 の自車化推進により、運行積載率は〇八年三月 期の七七・八%から一三年三月期は八六・九% まで改善している。
これらが利益率を大きく押 し上げたものと考えられる。
 装置産業色の強い路線便事業をメーンとする 福山通運の収支改善策が、貸切トラック主体の 日本通運にそのまま適用できるかどうかは議論 の余地もあるだろう。
しかし、日本通運におい ても一三年三月期には外部協力会社からの業務 集約効果によりグループの運送・作業子会社の 利益率が大きく改善するなどの一定の成果が見 られている。
 デフレ脱却を目指す国の政策も追い風に、日 本通運が貸切最大手としてのリーダーシップを発 揮し、積極的な運賃是正に取り組めば、予想以 上の利益率改善効果を得られる可能性がある。
3PL事業の組織体制に改善余地  利益率改善のもう一つの方策は、事業の高付 加価値化である。
日通は比較的利益率の高い国 際関連事業(海外事業、航空・海上フォワーディ ング事業など)の売上高比率を現状の約三〇% から新中計最終年度の一六年三月期に四〇%に 引き上げる計画だが、既存の国内物流分野にお いても、高付加価値化は可能と考えられる。
 本誌の調査によると、日本通運は3PL事業 で日立物流に次ぐ業界二位の売上規模を持つ。
し かし、複合事業全体の利益率の低さから見ても、 規模、採算性の両面で大きな改善余地があると 思われる。
その一つとして、現状では日通全体 として3PL業務の提案、受託に当たる組織体 制にはなっていないことが指摘される。
 同社は前中計の発動した二〇一〇年四月に営 業本部内にグローバルロジスティクスソリューシ ョン部(GLS部)を立ち上げている。
しかし、 これまでのところGLS部の関与は一部の業務 にとどまっているもようで、統括支店や支店な どが荷主に対して個々に企画提案、受託を行っ ているケースが多いようだ。
そのため広域かつ 包括的な業務受託というより、エリア限定、部 分的な業務受託が相対的に多く、事業採算のコ ントロールもあまり統制が効いていないという 印象を受ける。
 それでも今年三月、同社はNECの物流子会 社NECロジスティクスと、パナソニックの物流 子会社パナソニックロジスティクスのM&A実施 計画を相次いで公表した。
日通本社の主導によ る本格的な3PL事業への取り組み意欲を示す ものとして評価できる。
 今後は両子会社を核として産業機器、電子部 品、家電分野などにおける物流プラットフォー ム事業の展開が期待される。
同社の3PL事業 が大きく加速する可能性がある。
3PL事業の 基盤が拡大すれば、それに付随する輸送需要も 必然的に増えてくる。
トラックの効率的な利用 が可能になり、国内物流事業全体の収益性を底 上げする余地も広がるだろう。
 日本通運は、伝統ある会社ゆえに事業構造や 組織面で負の遺産や多くのしがらみを抱えてい る。
そこに本格的にメスを入れることができな いために、これまで低収益に甘んじてきたとい う面があることは否めない。
 しかし、新中計における組織構造の見直しや、 自社、連結子会社への業務集約、本社主導の3 PL拡大意思など、まだ断片的ではあるが、変 化の兆しは表れている。
運賃是正にリーダーシ ップを発揮し、事業改革を思い切って推進する ことができれば、そう遠くない将来、収益構造 を大きく変えることも可能だろう。
経営陣の決 断力と実行力に期待したい。
いたざき おおすけ 一九八八年三月神戸市外国語大 学卒業、同年四月岡三証券入社。
シュローダー証券、INGベアリ ング証券、クレディ・スイス証券 を経て現職。
八八年以来、運輸セ クターを中心にアナリスト活動を 展開している。

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