ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2013年7号
道場
自家物流コストを把握する

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

湯浅和夫の  湯浅和夫 湯浅コンサルティング 代表 《第66回》 JULY 2013  68 くは」  大先生の言葉に編集長がむっとした顔をす る。
女性記者が、楽しそうに大先生の顔を見 て、うなずいている。
 「利潤源は売り上げと費用しかないんだから、 第一の利潤源が売上増、第二の利潤源が、メ ーカーで言えば製造原価、流通業で言えば仕 入原価、そして、それに次ぐ利潤源として三 番目に物流費が来たってことだ。
まあ、ここ まではいいな?」  大先生の確認に女性記者がうなずく。
編集 長はすねた感じで、そっぽを向いている。
そ れに構わず大先生が続ける。
 「ここでインパクトのあるアピールといえば、 第一の利潤源との対比で説明したことだな」  大先生の言葉に、今度は編集長も興味深そ うな表情をする。
女性記者がノートにペンを走 らせている。
 「例えば、売上高に対する物流費の割合が 五%しかなかったとして、それを一〇%減ら しましたって言っても、利潤源と言うほどの 67《第135そもそも「第三の利潤源」とは?  大先生事務所で、編集長と女性記者のやり 取りが続いている。
話題は、第三の利潤源に ついてだ。
女性記者が編集長に聞く。
 「流通費でも物流費でもいいんですけど、こ れが第三の利潤源なんだぞって言われても、何 か、もう一つインパクトが弱い感じがぬぐえま せん。
アピールポイントは、もっと別にあるん ですよね?」  「インパクトを持ったアピールポイントは何か ということだな。
うーん、先生、どうぞ」  編集長から突然話を振られた大先生が、お もむろに顔を上げ、二人を見る。
二人が身構 える。
 「昔、第三の男って映画があったろ?」  「えっ、あのチターのテーマ曲で有名な?も ちろん知ってます。
えー、あれと何か関係あ るんですか?」  編集長が身を乗り出す。
 「関係あるわけないだろ。
ばかだねー、おた  物流コストは企業業績にどれだけの 影響を与えているのか。
それを明ら かにすれば、経営者の意識が変わる。
日本に物流概念を普及させる大きな 原動力となる。
しかし、自家物流コ ストは、外部への支払いが発生せず勘 定科目に埋もれているため、それを 把握すること自体が容易ではなかった。
自家物流コストを把握する ■大先生 物流一筋三十有余年。
体力弟子、美人 弟子の二人の女性コンサルタントを従えて、物流 のあるべき姿を追求する。
■体力弟子 ハードな仕事にも涼しい顔の大先生 の頼れる右腕。
■美人弟子 女性らしい柔らかな人当たりで調整 能力に長けている。
■編集長 物流専門誌の編集長。
お調子者かつ大 雑把な性格でズケズケものを言う。
■女性記者 物流専門誌の編集部員。
几帳面な秀 才タイプ。
第 回 16 69  JULY 2013 インパクトはないだろ?」  「そうですねー。
それじゃあまりアピールし ませんね」  大先生の質問に編集長が素直に応じる。
も う機嫌を直したようだ。
 「そこで、こういうアピールをした。
頭の体 操だ。
頭の中で計算してごらん。
いい?」  編集長と女性記者が、何ごとかといぶかる ように、小さくうなずく。
 「ここに一〇〇〇億円の売り上げの企業があ ったとする。
営業利益が三%の三〇億円、物 流費が五〇億円、売上対比で五%だ。
ここで 頑張って物流費を一割減らしたとする。
削減 額はいくらになる?」  大先生の問い掛けに編集長は下手に答えた らまた何か言われると思ってか、答をちゅう ちょしている。
そんな編集長に代わって、女 性記者が素直に答える。
 「五億円です」  「そう。
何だ、編集長は暗算が苦手か?」  「いえ、そうじゃなくって‥‥まあいいです。
先に進んでください」  大先生と女性記者が顔を見合わせて、にた っと笑う。
物流コスト削減のインパクト  大先生が続ける。
 「まともに五億円のコスト削減をしましたっ て言ったって、『なんだ五億円か』なんて言わ れかねない。
そこで、第一の利潤源を利用す る。
さて、どう利用する?」  女性記者が、小さく手を上げる。
大先生が うなずくのを見て、答える。
 「第一の利潤源は売上増ですよね。
その五億 円がどれくらいの売上に匹敵するかを示した んですか?」  「正解。
いくらになる?」  「えーと、先ほど営業利益率が三%とおっし ゃいましたから‥‥」  「約一七〇億円」  女性記者が答える前に編集長が答えを言う。
今度は、女性記者がむっとした顔で編集長を 睨む。
大先生が楽しそうに続ける。
 「まあ、そういうことだ。
五億円といって もピンとこないけど、売り上げを一七〇億円、 つまり一七%の売上増に匹敵する経営効果を 発揮するとなると、関心の度合いが違ってく る。
当時は、売り上げの伸びは当分期待でき ない、製造原価の低減は限界だと言われてい たときだから、利潤源としての物流の位置付 けに関心が集まった」  「物流費率がもっと高かったり、利益率がも っと低いと、その効果はもっと大きくなりま すね」  編集長が確認するように言う。
大先生がう なずく。
 「そういうこと。
これが第三の男、じゃない、 利潤源説」  大先生の言葉に編集長がちょっと嫌そうな 顔をする。
女性記者がうなずきながら、独り 言のように言う。
 「ちょっと視点を変えただけで、ずいぶん印 象が違いますね。
五億円のコスト削減には違 いないんですけど‥‥」  「まあ、当時、物流コストの削減が経営にお ける課題だという認識が広まりつつある中で、 そのような説が物流への関心を一層引き寄せ たってことだ」  「何か新しいことが関心を呼ぶためには、そ ういうキャッチフレーズ的な言葉って重要です ね」  女性記者が、納得したような顔で感想を述 べる。
大先生がうなずいて、続ける。
 「確かに、キャッチフレーズなんだから、素 直に受け入れればいいと思うけど、些細なこ とで批判も出ていたな」  「へー、どんな批判なんですか?」  女性記者が興味深そうな顔をする。
編集長 も「へー」と言って、大先生を見る。
 「第三の利潤源説は、当然だけど、ほかの製 造原価や販管費などは変わらず、同じ条件の 中で物流費だけが低減するという前提で展開 されている。
つまり、物流費以外の費用に変 化はないという前提だ。
ここで、そのような 前提はあり得ないという批判が出た。
効率化 によって物流が変われば、それ以外の費用に も変化が出て、物流費の削減額がそのまま利 益になるわけではないといったものだった」  「うーん、何か、その批判は分かったような、 分からないような批判ですね」 JULY 2013  70  編集長が小首をかしげながら言う。
女性記 者が続ける。
 「正直、あまり意味のない批判に思えます。
製造や販売に影響を与えることなく、物流だ けでコスト削減を行うことは可能なんじゃない でしょうか?」  女性記者が断定的な物言いをする。
大先生 がうなずいて続ける。
 「そうだな。
そのころは、売り方や作り方と は関係なしに、物流にある無駄を排除するだ けで大きな効果を上げることができた。
その 意味では、確かに的を射た批判とは言えない かもしれない」 『物流コスト算定統一基準』  「でも、そんな批判が出ても、その利潤源説 は広まったわけですよね?」  編集長が大先生に確認する。
 「そう、それが物流に関心を呼ぶ大きな原動 力になったことは間違いない」  「そういう流れの中で、氷山説で言う海面下 の物流コストにも関心が向いていったっていう ことですか?」  「そういうこと。
ただ、そこで、自家物流コ ストをどうつかむかということが課題になっ たわけだ」  大先生の言葉に編集長が何か思いついたよ うだ。
「たしかに、コストが分からなければ、 削減のしようがないですもんね」などとぶつ ぶつ言いながら、ノートを繰っている。
目指 の面から算定するという内容だったように思 うんですが、なぜか、今は、そのような算定 の仕方が忘れられてしまっているような気が します」  「確かに、そうだな。
物流コスト管理自体が 存在しない会社が結構ある。
一体どんな管理 をやってるんだか。
まあ、文句はまたとして、 今編集長が言った三つの面というのは、物流 コストの分類の仕方で、物流領域別、物流機 能別、支払形態別の三つを言う」  「領域別というのは、物流のどの範囲を算 定対象にするかということですよね?」  「へー、よく知ってるな。
そのとおり。
調 達物流、社内物流、販売物流、返品物流など という区分だ。
物流コスト計算に当たっては、 どの範囲を対象にするかをまず決めなさいと いうことだ」  「そして、どの機能、つまり、包装、輸送、 保管などの機能のうち、どれを算定の対象に するかを決めなさいというのが物流機能別で すよね?」  「そうだけど、編集長は、算定基準を読ん だのか‥‥よく分かってる」  大先生にほめられて、編集長はまんざらで もなさそうな顔をする。
大先生が続ける。
 「この算定基準のポイントは、最後の支払 形態別計算だと言える。
前にも話が出たよう に、自社で消費している物流にかかわる費用 は、人件費や材料費、減価償却費など経理上 の勘定科目に埋もれてしまっている。
この中 すページが見つからないのか、ふと手を止め、 「あれです」と言って、大先生を見る。
 「あれって何?」  「ほら、あれです、国交省、じゃない、当 時は運輸省でした。
運輸省が物流コスト計算 に関する報告書を出しましたよね?そのこ ろ」  「もしかして、『物流コスト算定統一基準』 のこと?」  「それです、それ。
それは海面下の物流コ ストを把握するための手引書みたいなもので すよね」  「そうだけど、あれが出されたのは、もっ と後の一九七七年ごろじゃないかな。
物流へ の関心の高まりとともに、物流コストをどう 計算すればいいのかという産業界の要望が強 まり、政府が指針という形で提示した。
考え てみれば、政府がそういう指針を提供するく らいだから、いかに物流コストが大きな関心 を呼んでいたかが分かるな」  編集長が大きくうなずく。
隣で女性記者も 「そうですねー」とうなずいている。
編集長 が、恐る恐るという感じで大先生に提案する。
 「ちょっと時代が先に進んでしまいますが、 話の流れということで、その算定基準につい てお話を伺ってもいいですか?」  「もちろん、いいよ。
おれにとって、その 算定基準は懐かしい。
おれは、それを使って ずいぶん講演をしたもんだ」  「私の記憶では、それは物流コストを三つ 71  JULY 2013 先生がそれを受けて話す。
 「物流コストを三つに分類して、それぞれ範 囲を決めて計算せよというのは正しい提案な んだけど、その結果、企業間での物流コスト 比較ができなくなってしまったという事態が 生じた。
分かる?」 自家物流コストの把握は進まなかった  「分かります。
企業によって、算定の範囲は 当然異なるでしょうから、比較はできません」  「そこで、物流コストの評価は企業内で時系 列比較をせよということになった。
まあ、そ れはまだいいとして、実のところ、大きな期 待を背負って登場した算定基準だったけど、自 家物流コストの計算は意外に普及しなかった。
それは、なぜだと思う?」  女性記者が意外そうな顔で「へー、普及し なかったんですか?」と聞く。
 「おれが、前の会社にいたときに、自家物 流コストの算定度合いを調査したことがある。
その調査報告は探せばどこかにあるかもしれ ないけど、要するに、自家物流コストはほと んどと言っていいくらい把握されていないと いう実態だった」  大先生の言葉を聞いて、編集長が何か思い 当たったように、話し出す。
 「そうすると、3PLなどと言って、自家物 流部分を請け負ったりした場合には、注意が 必要ですね。
荷主はそのコストをつかんでい ないんだから」  「そう。
その埋もれているコストを正確に引 っ張り出さないと、3PL側が損をする危険 がある」  「なるほど、そうなると、その自家物流コス トの算定方法は、3PLにとって必要な技法 ということになってきますね?」  「そうだな。
ところで、荷主において、自家 物流コストの把握が進まなかった理由は何だと 思う?」  大先生に問われて、編集長が「うーん」と 考え込む。
外はもう暗くなってきた。
から物流に掛かったものを抜き出すという作 業が必要になる。
支払運賃や支払保管料など 外部の業者への支払額はすぐにつかめるけど、 自社で掛かった費用は特別の計算が必要にな る。
この方法を示したのが、この支払形態別 計算ということだ」  「その計算が面倒なので、それまでは、外部 への支払額しか物流コストとしてとらえていな かったわけですね。
それだと額が小さいため、 物流コストが過少評価されてしまう。
企業内 における物流の価値を高めるためには、物流 コストは大きいほど良いってことか‥‥」  編集長がちょっと首をかしげながら言う。
大 ゆあさ・かずお 1971 年早稲田大学大 学院修士課程修了。
同年、日通総合研究 所入社。
同社常務を経て、2004 年4 月に独立。
湯浅コンサルティングを設立 し社長に就任。
著書に『現代物流システ ム論(共著)』(有斐閣)、『物流ABC の 手順』(かんき出版)、『物流管理ハンド ブック』、『物流管理のすべてがわかる本』 (以上PHP 研究所)ほか多数。
湯浅コン サルティング http://yuasa-c.co.jp PROFILE Illustration©ELPH-Kanda Kadan

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