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2005年2月号
現場改善

営業至上主義の改善――中堅印刷メーカーY社

事例で学ぶ 現場改善 日本ロジファクトリー 代表 青木正一 FEBRUARY 2005 80ずさんな利益管理Y社は関東と関西に生産拠点を持つ年商五〇〇億円規模の中堅印刷メ カ だ 印刷メ カ の業務範囲は会社によ て かなりの違いがある 大量印刷中心の会社もあれば デザイン性の高い小ロ ト対応を得意とする会社もあり また印刷媒体も紙 塩ビ プラスチ ク 繊維など様々である Y社の場合 証券類などの金融機関向けの紙製品を始めとした 高い精度の求められる印刷物をメ ンに扱 ている かつては付加価値の高い仕事であ たが 印刷技術の革新とともに価格競争が激化し 収益性は低下傾向にある かろうじて黒字は確保しているものの このままでは赤字転落も時間の問題という状態にまで追い込まれていた 経営を立て直すため 改革の責任者としてY社の関連会社から二年間という期限付きでM氏が送り込まれることにな た 我々NLFに物流コンサルテ ングを依頼してきたのも このM氏であ た 赴任後 M氏はY社の内情を目の当たりにして その利益管理の甘さに愕然としたという 月次の損益は翌月一〇日までに作成する体制にはな ていた しかし その内容は信憑性に欠けるもので 得意先別の利益管理はもとより商品別 事務所別などの管理を全くしていない 年商五〇〇億円規模のメ カ とは思えない代物だ た それで済むぐらい 従来は楽に商売ができていたということでもある 改革に当た てM氏は 三つのプロジ クトを立ち上げた 1生産管理プロジ クト 2原価管理プロジ クト そして 3物流管理プロジ クト である 1生産管理プロジ クト と 2原価管理プロジ クト を先行させ 3物流管理プロジ クト が その後を追いかける形で全体の改革を進めた 三つのプロジ クトに それぞれ専門のコンサルタントを起用した その理由は M氏の在任期間が二年と限られていたこと 社内に優秀な人材が見当たらないこと 過去に社内メンバ だけでプロジ クトを行 て失敗した経験があ たこと さらには 社外の第三者から課題を強く指摘してもらうことで社内の意識改革を図るという狙いがあ た このうち 物流管理プロジ クト を我々NLFが担当した 新年度の始まる四月に取り組みをキ クオフさせた 我々はまず 東西二カ所に設置された二つの生産拠点を調査した 工場のラインは予想以上に複雑であ た 基本ラインから各仕様別にラインが枝分かれしていく 本流から支流に分かれる分岐点が六カ所で発生していた さらに各支流の機械の設定も商品が第25回顧客の要望には一〇〇%応える そんな営業至上主義が 生産や物流のコストをいたずらに増加させていた 収益性は悪化する一方だ しかし デ タが未整備で 事実を数値で裏付けることができない 中堅規模のメ カ であ ても 管理レベルは情報投資やSCM以前の段階にあ た 営業至上主義の改善 中堅印刷メ カ Y社あおき・しょういち  1964年生まれ。
京都産業大学経済学部卒業。
大手運送業者のセールスドライバーを経て、89年に船井総合研究所入社。
物流開発チーム・トラックチームチーフを務める。
96年、独立。
日本ロジファクトリーを設立し代表に就任。
現在に至る。
  81 FEBRUARY 2005じている 実際 物流専門コンサルタントとして我々が 物流という切り口から改善に取り組んでい た結果 仕入れ・生産・販売の問題点があぶり出されることにな たという経験は 枚挙に暇がない 物流という経済活動の 後始末 役には最も顕著に 商売の仕組み上の矛盾が反映されるのである 物流コストの算出結果に唖然話をY社の現場に戻そう このように受注にイレギ ラ の多いことが 庫内作業だけでなく 配車にも影響していた 事前に計画が立てられないため トラ クの持ち時間が長く コストア プの要因にな ていた しかも Y社には物流会社との契約書 タリフ自体が存在しなか た 在庫デ タも整備されていなか た 同社に限らず印刷業には印刷物や仕掛品を一定期間預か ておくための保管機能が求められる それをY社は敷地内の空いたスペ スに無造作に置いて保管していた 在庫のロケ シ ンはベテラン担当者に聞かなければ分からない 聞いても分からない場合は探すしかない 調べてみると なかには在庫としてカウントされていないものまであ た しかも 販売済み印刷物であれば 破棄するのか あるいは他に輸送するのか 顧客にお伺いを立てる必要がある Y社自身には容易に手が付けられないものが少なくなか た 関東拠点も関西拠点もほぼ同じ状況であ た Y社の現場は ベテラン担当者の経験と勘が頼りで 業務を数値で語ることのできない状況変わるごとに変更しなければならない 現場ではイレギ ラ 業務が多発していた 出荷は発注単位で処理することが基本とされていたが 実際にはそうな ていない 何がレギ ラ 業務なのかわからなくなるほど 多種多様な処理を強いられていた FAXや営業マンの指示 電話によ て受けた注文を元に作成された受注伝票を見ると 注釈や備考欄にぎ しりと文字が書き込まれている フ マ トはあるものの現実的にはフリ メモと呼んだほうが近い状態であ た 大手競合先との差別化を図るという目的で Y社では従来から第一線の営業マンが顧客の希望を全て聞くという体制をと ていた NOと言わない営業を行 ていたのである そのために後工程の生産や物流の現場では 緊急オ ダ やデザイン変更などに常に振り回されていた 物流の九〇%は受注のやり方で決まる Y社のような体制では 現場がイレギ ラ 業務の連続になるのも当然だ た 改革にあた てY社もまた 昨今叫ばれているSCM サプライ・チ ン・マネ ジメント という言葉を意識していた しかし 営業が顧客の要望を全て受け入れ 原価意識を持たないまま見積書を作成している現状では 取引会社とのコラボレ シ ンに取り組む以前に 社内の生販物を統合する必要があ た Y社のケ スは決して例外ではない 改革の旗印にSCMを掲げながら 現実にはも と足元に問題を抱えている会社は少なくない 三文字英語に踊らされて改革・問題の本質を見抜けないでいる会社が むしろ増えているように感であ た ト タル物流コストを算出するためのデ タ分析に当た た我々は予想していた以上の悪戦苦闘を強いられた それでも何とか改革の叩き台となる数字を弾いた 分析の結果 Y社の売上高に占めるト タル物流費の割合は十二・六%であ た うち支払い物流費だけで七・五%だ た これに対して業界大手二社の平均は一・七%だ その差 五・八ポイント 実に四倍以上という数字であ た ちなみに支払い物流費は その五〇%超を輸送費が占めていた 一方の対売上高社内物流費は五・一%であ た 社内物流費は受注処理のための庫内業務の人件費が大半を占めた これらの数値結果と現場調査に基づいて次のような改善実施項目と優先順位を設定した も とも この五項目のうち 1受注締め切り時間の設定 2物流コンペの実施 3物流運営ル ルの設定 の三つは 重要度の優先順位をつける以前の問題であり かつ早急な処置を必要としていたため ほぼ同時進行で着手した 1受注締め切り時間の設定2物流コンペの実施3物流運営ル ルの設定4物流経費算出による営業マンのコスト意識の向上5自社倉庫運営の外注化 1受注締め切り時間の設定 について 従来からY社では当日出荷の受注の絞め時間を一五:〇〇と決めていたものの ル ルが形骸化していた 実際には一八:〇〇過ぎまでの注文を当 FEBRUARY 2005 82一次募集時に十二社に声をかけたが 最終的に参加したいと申し出た物流会社は二社だけという散々な結果にな てしま た 緊急性が高いという判断から コンペの実施を最重要項目の一つとして最初から取り組んだことが裏目に出た 結局 仕切り直しを迫られて コンペの開催を三カ月延期することにな た 3物流運営ル ルの設定 では 受注伝票のフ マ トと処理の流れを変更するとともに イレギ ラ 時の対処方法とル ルづくりに注力した イレギ ラ 対応にもマニ アルを作成したのである 例えば 緊急便を出さなければならない場合でも 工場管理室を通して担当営業マンに本当に納期に余裕がないのか確認する Y社のように納期遅れが恒常的に発生していた会社の営業マンは 往々にして 保険 をかける 実際に求められている納期より一日 二日 前倒しにした出荷指示を生産や倉庫に伝えていることがある 情報投資の前にやるべきこと 4物流経費算出による営業マンのコスト意識の向上 は Y社の経営に最も大きなインパクトを与えた改善とな た それまで各営業マンの作成する見積書には物流関連の費用が組み込まれていなか た 材料費と大まかな人件費 外注費などから見積もりを出していたが その基礎デ タも三 四年前のデ タで正確な原価とは言いきれなか た そこでプロジ クトメンバ は ト タル物流コストを一〇%にまで落すためには一〇万円以下の受注は見直してもらうことも必要です 受注伝票は一枚一一五円で五行まで記入できます 可能な限り受注伝票をまとめて下さい などとい た具合に 具体的な数値を元に 物流経費が販売経費であることを強く訴えた 物流を数値で語ることで 営業マンも耳を傾けるようにな た こんなにコストがかか ているとは思いませんでした これからはリアルかつタイムリ に 様々なコストを考慮して値決めをしたいと思います という反応などがあ た Y社の全国約一七〇〇人の営業マンの例え半分にでも このような意識が働いていけば効果は絶大なものになる 5自社倉庫運営の外注化 は 先の物流コンペの実施と連動しているテ マだ これまで倉庫の運営の一部は自前で行 てきた しかし作業スタ フの老齢化が目立 てきたことに加え 倉庫施設にバブル期に建設したフルオ トメ シ ン機能の 高い買い物 をしており 今とな てはほぼ負の産物とな ていた そこで受託物流会社にはマテハンの改良あるいは撤去作業のレベルから協力を仰ぎ 運営自体を外注化する計画だ 一連のY社の物流改善を振り返ると 最大のネ クは基礎デ タの未整備にあ たと言える 数字の取り方や集計の方法などの基本的な作業が正確ではなか た このような状態で情報システムに投資しても効果は得られない ITは魔法ではない 先ずは利益を出すこと 経費をコントロ ルする重要性を認識した上で 一つひとつの数字の仕分けを正確に進めていくことが何より重要である 日出荷で処理していた 当然 作業員の残業代や協力会社のトラ クを拘束する費用が発生していた 生産コスト 物流コストが上がれば 強みと考えている 営業力 が 同社の経営にと て逆に弱みにな てしまう そのことをM氏は営業マンを集めたミ テ ングで説明した しかし 営業マンからは 顧客の要望を聞くことが一番である 今までのやり方を変えることはそう簡単にはできない などとい た反対の声が上が た 結局 この日は収拾がつかず時間切れとな た やはり物流改革はト プダウンでなければ成功しない 後日 今度は社長名で各営業マンに文書を通達し 現場に協力を要請した それから一カ月後 一五:〇〇を超える受注は全体の三〇%を切り 二カ月後には一五% 三カ月後には約一〇%にまで減 た 生産や物流コストを考えればル ル違反はゼロにしたいところだ しかし 営業を含めた会社の収益全体を考えればムゲに断るべきではないイレギ ラ 対応もある イレギ ラ 対応が全体の一〇%前後で落ち着くのであれば妥当といえるだろう プロジ クトメンバ と我々はそう判断した 一方 2物流コンペの実施 では大きくつまずいた 受注ル ル改善の結果が出る前の段階で コンペへの参加を表明した物流業者の現場視察を行 たため 大半の企業に これだけのイレギ ラ 業務 しかも量が大きく変動する物流を効率化するのは難しい と敬遠されてしま た

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