2013年8月号
特集

解説 IBMに学ぶグローバル調達改革

AUGUST 2013  16 購買改革=サプライチェーン統合  IBMは企業の調達機能の成熟度を測る「プロ キュアメント・マチュリティ・アセスメント(PM A)」と呼ぶプログラムをグローバルに運用している。
「戦略」、「サプライヤー管理」、「業務オペレーション」 など八つの角度から調達の現状をベンチマーキング するためのツールだ(図1)。
世界約一万五〇〇 〇社のデータがそこに蓄積されている。
 日本IBMの佐伯哲雄戦略コンサルティンググ ループサプライチェーン変革アソシエート・パート ナーは「PMAの分析結果を見る限り、日本企業 は総じて調達の成熟度が低い。
そのことに自分で も気付き始めていて、ここ数年、日本企業から調 達改革の相談を受ける機会が増えている」と言う。
 調達の成熟度を業界別に見るとコンピュータメー カーが抜きん出ている。
コンピュータは極端にモジ ュラー化の進んだ製品で、部品の購入費が製造原 価の大部分を占める。
技術革新と陳腐化のスピー ドも速いため、調達機能が競争力の決め手になる。
それだけに高度化に向けた取り組みが進んでいる。
 IBM自身が そのトップランナ ーだ。
米IBM がそれまで製品 や拠点単位に分 散していた調達 部門を事業部や 工場から切り離 してグローバル に統合したのは、 もう二〇年も前 のこと。
一九九二年に同社は約五〇億ドルもの赤 字を計上し創業以来の危機に陥った。
再建のため 初めて社外からトップを招聘。
アメリカン・エクス プレスやRJRナビスコでCEOを務めたルイス・ ガースナー氏を会長兼CEOに起用した。
 ガースナーCEOは、IBMのビジネスモデルを ソリューション型に大きく転換すると同時に、調 達に抜本的なメスを入れた。
CEO就任初年度の 九三年に本社にグローバル調達本部を設立。
その 指揮を執る最高調達責任者(CPO)を、CEO、 CFOに次ぐナンバー3のポジションに就けた。
 それまで調達部門は研究開発部門によって決め られた購入先と、価格交渉や発注処理をするだけ のオペレーション部隊にすぎなかった。
組織内に おける地位は低く、調達プロセスは国や事業部門 ごとにバラバラで、誰が注文を出しているのかさ 日本IBMの佐伯哲雄 アソシエート・パート ナー 日本IBMの嵯峨均シス テム・テクノロジー開 発製造統括部長 IBMに学ぶグローバル調達改革  グローバルな調達の統合と高度化はIBM が今日 のベストプラクティスとされている。
1990 年代初 頭に巨額の赤字に陥り、瀕死の状態にあった同社は、 再建をかけて改革に取り組み、約20 年にわたり方 法論を積み上げてきた。
その経験から多くを学ぶ ことができる。
           (大矢昌浩) 図1 購買業務成熟度分析 1.戦略 2.リーダーシップ 4.7 2.7 3.7 4.7 2.9 2.5 3.0 2.5 3.0 2.3 4.6 4.5 4.7 4.5 4.9 4.8 3.サプライヤー  管理 4.組織 5.実績詳細 6.ナレッジ マネジメント 7.業務オペ  レーション 8.IT技術活用 現状レベル 3年後レベル 解 説 17  AUGUST 2013  現在、物流サービスは二〇〇八年に本社物流部 門売却の受け皿となったフランスの大手3PLの ジオディス( Geodis)をグローバルパートナーと位 置付けている。
これに伴いジオディスは日本にも 〇九年に現地法人を立ち上げている。
 物流パートナーを一つの3PLにグローバルに集 約してしまうケースは珍しい。
世界的な3PLで もエリアによってサービスレベルやコスト競争力に は濃淡があるからだ。
それでもIBMは集約によ る効率化を重視した。
ただし、丸投げはしない。
えよく分からない状態だった。
それを一気に会社 の中核部門に引き上げた。
 それから約一〇年。
同社は次のステップとして 改革のスコープをサプライチェーン全体に拡大した。
調達から製造、配送に至る全てのオペレーション を統合するグローバルSCM部門「ISC」を二 〇〇二年に設立。
本社調達部門をその傘下に置い て、製品や部品、ソフトウェアだけでなく、物流 サービスを含めたあらゆるサービスの調達に管理対 象を広げた。
物流サービスの購買担当者がジオディスのパフォー マンスを常にウオッチして課題があれば指摘をし、 時には具体的な改善策まで提案する。
 それだけのスキルを備えた「プロキュアメント・ エンジニア」と呼ばれる各カテゴリーの専門家を グローバル調達部門のスタッフとして抱えている。
外部からの起用のほか、計画的な人事ローテーシ ョンや自社開発したトレーニングシステムによって 時間を掛けて育ててきた。
 バラバラの調達をまとめることでバイイングパワ ーを働かせるというロジックはシンプルでも、それ を実務に落とし込む段階ではスキルが必要になる。
どの単位でカテゴリーを切り分けるか。
何をグロー バルに統合して、何をローカルに任せるか。
それ をどこから購入するのか。
プロキュアメント・エ ンジニアが、その“目利き”を行う。
 日本IBMで二五年にわたり調達業務に携わっ てきた嵯峨均システム・テクノロジー開発製造統 括部長は「IBMの購買改革とは、一言で表せば “統合”だった」と振り返る。
通常、バイヤーは見 積書や注文書の発行などの事務処理に忙殺されて いる。
しかし、その業務プロセスを標準化すれば、 定型業務はシステム化できる。
あるいは人件費の 安い地域に集約できる。
実際、日本IBMの発注 は現在全て中国で処理されている。
 そして本社スタッフは調達戦略の立案と意思決 定に集中する。
日本の場合はまず物流費込みの取 引条件を改めて、商品価格と物流コストを分離す るところから始める必要がある。
その上で最も効 率の良いインバウンド・ロジスティクスを設計し、 構築する。
それには物流人材が不可欠だ。
手付か ずの領域だけに大幅なコスト削減が期待できる。
NPO法人 日本サプライマネジメント協会 上原 修 理事長  現在、米国では製造業の「リショアリング(国 内回帰)」が購買・調達分野における最大の トピックとなっている。
中国の人件費高騰が 原因だが、製造だけでなくR&Dまで中国に 移した結果、知財権が著しく侵害されたことで、 やはりR&Dは本国に残すべきだとの考えに 大勢が傾いている。
雇用を本国に戻そうとい う要素も大きい。
ウォルマートは米国製のタオ ルや靴などの調達を今後一〇年間で五〇〇億 ドル増やすという。
 工場はGEがケンタッキー州のルイスビルへ、 キャタピラーはジョージア州、アップルも移転 計画を公表し、メキシコやカナダも含めた広い 意味での北米に回帰している。
ただし、中国 から工場を完全に引き上げてしまうのは、労 務問題なども絡んでくるので簡単ではない。
そのため各社は現地の生産規模を段階的に縮 小するソフトランディングを図っている。
 リショアリングの結果、調達先も大きく変 わる。
中国のサプライヤーに代わって、地元の 北米と南米、東南アジア、中でも「新・新興国」 と言われるカンボジア、ラオス、ミャンマーの サプライヤーが新たな調達先に浮上している。
そのためにシンガポールもしくはクアラルンプ ールに国際調達拠点(IPO)を新設するケ ースが目立って きた。
 一方で「サプ ライヤー・ダイ バーシティ・プ ログラム」も本 格化してきた。
これまでの女性 と少数民族に加え、退役軍人や障害者などの 社会団体が発言力を増している。
とりわけイ ラク戦争を経験した退役軍人の就職問題はア メリカの大きな政治的テーマになっている。
 そこからマイノリティが経営陣の五一%以 上を占める会社を「ダイバーシティ・サプラ イヤー」として認証する動きが広がっている。
ペンタゴンをはじめ米政府機関は調達の際、 ダイバーシティ・サプライヤーから見積りを取 ることが義務付けられている。
同じ条件であ れば優先的に採用される傾向にあるようだ。
 それに倣って軍需産業に近い民間企業や、 ウォルマートやデルタ航空など、マイノリティ を顧客層に抱える企業が同様のルールを採用 し始めている。
これも米国市場の復活に期待 する日本企業にとっては無視できない動きだ ろう。
               (談) 製造業の米国回帰《Reshoring》が進んでいる 特集 調達物流

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