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AUGUST 2013 26
改革プロジェクトを再開
今年三月、セイコーエプソンの茅野誠一生産企
画・貿易管理部長は世界各国の製造現地法人のト
ップらを集めた会合で調達物流改革への協力を改
めて要請した。 東日本大震災とタイの洪水の影響
で遅れていた改革プロジェクトを仕切り直した。
今年度第1四半期中をめどに、各現法の調達し
ている部品の物量やサプライヤー、利用物流業者
などを洗い直し、正確な現状把握と問題点のあぶ
り出しを完了。 その後、第2〜第3四半期に施策
を進め、今年度中に調達物流費五%削減を狙う。
同社は二〇一一年度に全社を挙げてグローバル
規模の調達物流改革に乗り出した。 それまでサプ
ライヤーが別々に工場に納品していた物流を、出
発港での混載拡大や協力物流業者の共通化などに
よって集約しようというアイデアだ(図1)。
一一年度中に各製造現法の調達物流の量やコス
トなど現状を把握し、異なる製造拠点が同一のサ
プライヤーもしくは同一地域内から調達している
部品をリストアップ、問題点を抽出する。 その内
容を踏まえて一二年度に改善策をまとめて随時実
施する。 さらには、その効果を検証して業務の標
準化につなげる、という青写真を描いた。
この取り組みによって一二年度には、協力物流
業者のバイヤーズ・コンソリデーション(買付物流)
サービスを活用
して、中国のサ
プライヤーから
の部品調達を集
約することがで
きた。
中国本土の華南地域にある九社が供給する部品
を、香港にある日系フォワーダーの倉庫にいった
ん集めた上で船積みし、フィリピンやインドネシ
アの工場に近接した倉庫に運んで保管。 ジャスト・
イン・タイムで倉庫から工場の製造ラインに部品
を送り込む体制を整えた。 物流の集約で部品の輸
送ルート数が絞られ、調達物流費の低減に寄与した。
同様の取り組みをほかの地域にも展開していく
つもりだった。 ところが、一一年三月の東日本大
震災の発生で予定が狂った。 サプライチェーンが
混乱し、国内外の製造拠点は部品確保などの対応
に追われた。 さらに、同年の夏以降に発生したタ
香港を皮切りに「買付物流」を開始
──セイコーエプソン
異なる製造拠点が同じ部品を別々に購入するなど、
グローバルサプライチェーンの非効率が目立っていた。
製造拠点の担当者任せだった調達物流にメスを入れ、
本社と現地法人が連携し、混載の拡大やサプライヤー
との取引条件見直しなどに着手した。 2013年度は調達
物流費の5%削減を目指している。 (藤原秀行)
茅野誠一生産企画・
貿易管理部長
図1 各製造現法で“物流の集約化”目指す
Vendor 工場
Vendor 工場
Vendor 工場
部品積港
部品積港
部品積港
現法近郊港
現法近郊港
現法近郊港
通関
通関
通関
製造現法製造現法
Vendor 工場
Vendor 工場
Vendor 工場
部品積港 現法近郊港 通関
物流集約化
出所:同社資料
第3 部
27 AUGUST 2013
消耗品を合わせたグローバル在庫を前年度より二
割超圧縮した。 現在はほかの大部分の製品にも同
じSCMの仕組みが導入されている。 完成品在庫
の管理レベルは大きく向上した。
一方、調達物流は大きな改善の余地を残してい
た。 一一年度にフィリピンの新工場建設に踏み切
るなど、海外の生産能力を増強してきたのに伴い、
同一カテゴリーの商品を複数の国で製造するケー
スが増えた。 その結果、ロジスティクスが複雑に
入り組んできた。
例えばプリンターや液晶プロジェクターを手掛け
る「エプソン・フィリピン」(EPPI)は、一
一年時点で、香港や中国本土、日本、シンガポー
ルなど七カ国・地域のサプライヤー六〇社余りか
ら四〇〇種類以上の部品を調達していた(図2)。
サプライヤーの選定は本社の事業部が主体で進
めている。 しかし選定後の日常的な購買活動は
各生産拠点の担当者に一任している。 主力のプリ
ンターは毎年新製品を投入しており、採用する部
品の変更に伴ってサプライヤーがしばしば変わる。
部品数も多く、本社ではグローバルな調達の一元
管理まで手が十分回っていなかった。
取引条件もFOB(本船積込渡し)や仕向地で
の持ち込み渡し等々、サプライヤーによってバラバ
ラだった。 大昔に本社の担当者が決めた内容がそ
のまま継続されていたり、工場の担当者がサプラ
イヤーと直接交渉したり統制が取れていなかった。
サプライヤーが納品する部品は原価に物流コス
トが織り込まれている。 その多くはセイコーエプ
ソンより割高な運賃を支払っている。 製造物流費
の中で、調達に絡むものは約三割と最も大きな位
置を占めている。 看過できない問題だ。
イの大洪水で代替部品の確保や空輸手配などを迫
られた。 商品の供給が最優先された結果、調達物
流の改革は後回しとなってしまった。
セイコーエプソンは家庭・法人向けインクジェッ
トプリンターの国内主要メーカーの地位を確立し
ているほか、プロジェクターや半導体デバイスな
どの多様な情報機器・精密機器を手掛けている。
生産・開発拠点を世界二九カ所、販売・サービス
拠点を六〇カ所に展開するグローバルメーカーだ。
その全体最適化に向けて同社は、国内外にある
拠点の生産、販売、在庫のデータを日本で一元管
理できる新たなSCMシステムを〇八年に稼働さ
せている。 これによって生産・販売・在庫の計画
立案のサイクルを従来の月単位から週単位に短縮。
マーケットの変化をタイムリーにとらえて迅速に
軌道修正することが可能になった。
導入一年目の〇八年度にはプリンターの本体と
しかし、生産現場は次々に投入される新商品の
供給などに追われ、腰を据えて調達の効率化に取
り組めない。 本社の生産企画・貿易管理部や各事
業部の生産管理・調達部門などがコアメンバーと
なってプロジェクトを組んだのはそのためだった。
“現法任せ”では改革は進まない
今年度から再出発した調達物流改革プロジェク
トは、「?サプライヤーから生産拠点への積載効率
向上」、「?航空輸送の低減」、「?サプライヤーと
の取引条件見直し」を主要なテーマに掲げている。
「?積載率向上」のための出発港の混載は、香
港以外ではまだ実現していない。 「どの地域にサ
プライヤーが多く存在しているか等の現状を踏まえ、
例えば上海あたりに集約拠点を作ったほうがいい
のかどうか、といったことを検討している」と茅
野部長。
「?航空輸送」にも無駄が多い。 国際輸送は海
上輸送が原則だが、在庫削減を重視して航空輸送
が優先されていた時代があった。 その影響で今も
不必要に航空輸送を使うケースがある。 部品単位
で輸送手段を管理して、これを撲滅していく。
「?サプライヤーとの取引条件」にもメスを入れ
る。 現在はサプライヤー負担で運ばれているものを、
指定倉庫での引き渡しなどに改めることを視野に
入れている。 異なる生産拠点が別々に仕入れるの
ではなく、一括調達に移行することでサプライヤ
ーとの価格交渉力を高めることも狙っている。
とは言え、改革の実行は各地の製造現法に委ね
られている。 茅野部長は「我々が改善策を具体的
に指摘しないと目の前の仕事にかまけてずっと変
わらない」と嫌われ役をいとわない覚悟だ。
図2 国際調達状況(フィリピンの場合、2011 年時点)
EPPI
中国
香港
日本
米国
インドネシア
シンガポール
マレーシア
60 59
18
19
36
1
240
10 社
1 社
3 社
6 社
34 社
1 社
9 社
数字は
部品の種類
出所:同社資料
特集 調達物流
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