ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2013年8号
特集
第8部 中国モデルをアジア全域に展開──山九

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

AUGUST 2013  36 商社に代えて物流会社をパートナーに  調達物流のコスト削減は、荷物を集めてまとめ て運ぶことが基本になる。
サプライヤーごとにバ ラバラだった国際調達を統合すれば、ほとんどの ケースでトータルコストが二割以上違ってくる。
ただし、それを実施するにはサプライヤーとの取 引条件に踏み込まなくてはならない。
 改革のコスト効果を算定するには、それまでサ プライヤーが負担していた物流コストを開示して もらう必要がある。
しかし、サプライヤーの多く は情報開示を渋る。
実際のコストよりも安く言う ことさえある。
物流費込みの販売を工場渡しにす れば、物流費の分だけサプライヤーの売り上げは 落ちてしまうからだ。
 山九で自動車・機械業界を担当する神田幹人ロ ジスティクス・ソリューション事業本部3PL営 業3部営業企画2グループマネジャーはこのとこ ろ荷主の物流部門だけでなく、購買部門ともタッ グを組んで改革に当たる機会が増えている。
購買 部門と一緒にサプライヤー向けの説明会を開催し、 運用の詳細を説明して、不安や疑問を一つ一つ解 いていく。
 説明会に参加したサプライヤーに個別にコスト 削減策を提案することもある。
自動車部品を九州 で集めて中国・大連の組み立て工場に混載輸送、 組み立てラインにJIT納品するスキームを導入 した時には、それまでサプライヤーが大連に置い ていた専用倉庫の撤廃を提案した。
 山九が新スキーム用に手当した大連の保税倉庫 に、そのサプライヤーの他社向けの在庫もまとめ て置くことでトータルコストを削減した。
それに よって新スキ ームへの協 力を取り付 けた。
山九 にとっては 新規案件の 受託になった。
 神田グループマネジャーは「調達物流の改革は 難易度が高く手間も掛かるが、それを契機に多く のサプライヤーと新しい結び付きを得ることがで きる。
“出入り業者”になれるところに我々が調 達物流に力を入れる意味がある」という。
 実際、山九が自動車物流に本格的に進出したの は二〇〇〇年代に入ってからのこと。
それも日本 ではなく中国が最初だった。
現地の物流を受託して、 業務委託の範囲を日本からの調達物流に広げてい くことで、先発組の地盤に食い込んでいった。
 さらに中国で構築したモデルをアジア全域に拡 大することで日本国内の自動車物流も任されるよ うになってきた。
最近では自動車部品の「ティア 1」メーカーを荷主として、英国、インド、中国 など、世界中の「ティア2」から現地で部品を調 達し、日本に輸入。
山九の倉庫で保管して自動車 組み立てラインに一日八回のJIT納品を行う物 流を丸ごと請け負った。
 海外シフトが進み日本では生産していない部品 が増えてきた。
しかも中国の人件費高騰を契機と して、生産地が中国からタイ、インド、ヨーロッ パと拡散してきた。
その結果、海外の一〇カ所に も分散するグローバル調達の提案依頼を受けるケ ースが増えている。
 そうした国際調達には従来であれば商社が介在 中国モデルをアジア全域に展開 ──山九  割に合わない新興国の国内物流を進んで請け負うことで、 後発として参入した自動車業界に食い込んでいる。
現地の ハンドリングから国際調達に業務範囲を拡げるかたちで日 本に手を広げた。
海外シフトが進むと今度は日本の工場の 国際調達まで任されるようになった。
中国物流で構築した ビジネスモデルをアジア全域で展開する。
   (大矢昌浩) 神田幹人ロジスティクス・ ソリューション事業本部 3PL営業3部営業企画 2グループマネジャー 第8 部 37  AUGUST 2013 に任せることでも成立する。
しかし、それではも はや荷主にアピールできない。
 繊維や家具など労働集約型の消費財の調達先は、 中国から主にベトナムやラオス、カンボジア、イン ドネシアに移ってきた。
現地の保税倉庫に調達品 を集約、コンテナに混載して日本に運び、国内配 した。
メーカーは商社を挟むことで取引条件や関税、 在庫所有の問題を自分で考えずに済んだ。
しかし、 今や商社にマージンを払う余裕はなくなっている。
それに代わり物流会社の協力を得て自分で調達物 流のコントロールに乗り出すメーカーが増えてきた。
 神田グループマネジャーは「我々にとってはチャ ンスだが、同時に物流だけの提案では済まなくも なっている。
情報システムはもちろん、貿易協定 をどう活用して関税を最適化するか。
その場合に インボイスはどう切るかというところまで提案で きないと案件を受託できない」という。
 三国間の部品調達も本格化している。
二〇一一 年十一月には、タイで自動車部品を集めて、イン ドネシアのセットメーカーに納品する案件がスター トした。
ミルクランで部品を集荷してレムチャバ ン港の山九の倉庫に保管。
そこでコンテナに混載 してジャカルタの港まで運んでいる。
 この案件ではタイ国内のトラック輸送網と輸出 梱包が受託の決め手になった。
それまでタイの組 み立て工場にトラックで納品していた部品をイン ドネシアに運ぶには輸出梱包が必要になる。
しか し現地の人材は限られている。
コンテナ輸送に適 した梱包の設計やハンドリングの知識を持つスタ ッフを確保するのは容易ではない。
その点にまで 配慮した提案が評価された。
インドの現地企業相手にミルクラン  一方、撤退や縮小の続く中国では、現地工場を 引き上げたメーカーが現地で部品調達だけ必要と するケースも出てきた。
小口貨物をコンテナにま とめるバイヤーズコンソリデーションは、必ずしも ミルクランを必要としない。
納品をサプライヤー 送までまとめてコントロールする。
これも現地の トラック輸送に加え、検品などの付帯サービスが 提案の鍵になる。
やはり最後は現地オペレーショ ンの勝負になる。
 「新・新興国」と呼ばれるような東南アジア諸 国の物流事業は中国やタイよりもさらに単価が安 く、物量が動く割に売り上げは小さい。
日本人を 投入して採算を取るのは困難だ。
それでも山九の 3PL部門を率いる岩丸克之3PL推進部部長は 「当社はアジアに関しては全て網羅する方針だ。
“こ こはできません”という国があるようでは、荷主 は振り向いてくれない」と覚悟している。
 今年四月一日にはインド北部のミルクランがス タートした。
これまでインドで現地メーカーを巻 き込んだミルクランの事例はほとんどない。
出荷 時間の順守意識は希薄、手積み手降ろしの作業環 境、脆弱なインフラなど、運用条件はほかの新興 国と比べてもはるかに厳しい。
 しかし、荷主はインドでも調達物流の高度化を 強く求めている。
神田グループマネジャーは「ニ ーズに応えるためにインドで何が可能なのか、試 行錯誤しながら現地の実態に合わせてオペレーシ ョンを組み立てている。
いずれは中国と同じレベ ルまで持っていき、当社の武器にしたい」と意欲 を見せる。
 現地の車両は全て専用車でGPSを装備してい る。
積み荷の盗難などトラブルを回避し、日系工 場の緻密な生産計画に対応するには必要な装備だ。
とは言え、低価格車がメーンとなるインドの自動 車市場はコスト競争も熾烈だ。
そこで現在、パー トナー企業と協力して携帯電話を利用した簡易的 なGPSツールの開発に取り組んでいる。
中国(大連)〜日本往復物流 ■物流フロー 〔部材〕(北九州) (洋上) 九州工場 保管量 (1 週間分) 洋上保管量 (1週間分) 門司港 大連港 洋上保管量 (1週間分) 保管量 (2 週間分) 山九 国際物流C 〔製品〕 各ベンダー(150 社) 茅野工場(長野県) 泉崎工場(福島県) 九州工場(大分県) 箕島製作所(和歌山県) 中部デポ(愛知県) 岡山デポ(岡山県) 九州デポ(大分県) 部品センター(埼玉県) 箕島製作所(和歌山県) 850? 420? 65? 1,270? 650? 点線:JR活用 JR 北九州貨物駅 (大連) 保管量 (2週間分) JIT 保管量 (1週間分) 大九 保税倉庫 大連A社 大連B社 大連A社 大連B社 部材 製品 特集 調達物流

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