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の席上、こう表現した。 「これはヤマトグループに
とって路線便事業の開始、『宅急便』の開発に続
く三番目のイノベーション。 出荷場所・出荷形態・
出荷量を問わない『クラウド型ネットワーク』だ」。
同席したヤマト運輸の山内雅喜社長は「我々が
展開しているネットワークのどこか一カ所にアク
セスすれば、トータルで最小限の分散在庫を維持
しながらスピーディに商品をお届けすることが可
能になる」と強調。 二人とも新構想の内容に自信
を示す。
新構想の庫内オペレーションは一〇年に運用を
スタートした「FRAPS」( Free Rack Auto
Picking System :フラップス)と呼ぶ独自のマテ
ハンシステムが中心的な役割を果たす。
荷主はオリコンに商品を詰め、専用のロールボ
ックスパレットに積んで最寄りのヤマト運輸の営
業拠点に託す。 パレットは宅急便のターミナルに
運ばれて、専用のピッキングラインに格納される。
「クラウド型物流ネットワーク」
ヤマトホールディングスは七月、「バリュー・ネ
ットワーキング構想」(以下、新構想)を発表した。
今夏以降、国内四カ所に大型のハブ拠点を順次整
備し、東京・名古屋・大阪間で「宅急便」の当
日配達を実施する。 さらに、既に稼働している「沖
縄国際物流ハブ」と連携させて、アジアの大都市
圏から日本への翌日配送を実現する。
八月に羽田空港の隣接地に「羽田クロノゲート」、
九月には神奈川で「厚木ゲートウェイ」がそれぞ
れ稼働する予定。 一五年には愛知・三河、一六年
には関西に同様のハブ拠点を新設する。 四施設へ
の投資額は計約二〇〇〇億円に上る見通しだ。
これらの大型拠点は二四時間三六五日稼働し、
それぞれ現地の企業ニーズを強く意識した高付加
価値機能を持たせる。 うち羽田クロノゲートには
医療機器や手術用工具の販売・貸し出し業者向け
に医療機器を洗浄・補修できる設備などを導入す
る。 また羽田クロノゲートは通関・保税機能を持
つ国際輸送の複合ターミナルとしても位置付ける。
国際宅配便も強化する。 ヤマト運輸は今年五月、
沖縄国際物流ハブを通じて日本から香港や上海、
シンガポールなどへの最短翌日配達をスタートし
た。 このインフラを利用して海外の生産拠点への
部品供給を請け負う。
日本からアジアだけでなく、アジアのサプライヤ
ーが発送した翌日には日本国内の拠点に納品でき
るようにしていく考えだ。 東名阪の当日配達、ア
ジアからの翌日配送を実現することで、アジア圏
の輸送需要を企業から一括して請け負うことを狙う。
ヤマトHDの木川眞社長は新構想の記者発表会
「宅急便」のインフラ活用しJIT納品
── ヤマト運輸
2000 億円を投じて羽田空港など国内4 カ所に大型拠点
を順次整備。 東京・名古屋・大阪間の当日配達とアジア
から日本への翌日配送を実現する。 通販会社や小売・卸
と並んで、メーカーの調達物流のアウトソーシングを主な
ターゲットに定めている。 (藤原秀行)
新構想を説明する木川眞ヤマトHD社長(右)と
山内雅喜ヤマト運輸社長
第9 部
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宅急便ターミナルや隣接する倉庫にあらかじめ
在庫を保管しておくこともできる。 それによって
荷主は在庫管理やピッキング、発送処理の手間か
ら解放される上、集荷の必要がない分、納品リー
ドタイムも短くなる。 主に通販会社やメーカーの
部品在庫などの利用を想定している。
東日本大震災を受け、メーカーの間ではBCP
(事業継続計画)の観点から在庫を分散する動き
が出ている。 しかし、拠点を分散すれば安全在庫
水準が上がり、管理の手間も増えてしまう。 ヤマ
ト運輸のインフラを使うことで負担を増やすこと
なく在庫分散を実現できる。
調達先約三〇〇社の部品をJIT納品
半導体製造装置大手の東京エレクトロン傘下の
「東京エレクトロン九州」(熊本県合志市)は今年
庫内作業員はデジタル・ピッキング・システム(D
PS)の指示に従って必要な商品をピッキングし
て納品用のオリコンに詰める。
それをシステムが宅急便の荷物として方面別に
仕分けて指定先へ届ける。 FRAPSを利用する
と一八時までにターミナルに入荷した商品をその
日の二一時に出発する宅急便の最終便に乗せられ
る。 ターミナルの配送エリア内であれば当日中に
届く。 この仕組みを使った遠隔地の当日配送も視
野に入っている。
一〇月以降、全
国のサプライヤー
約三〇〇社から
の調達物流をヤマ
ト運輸に委託す
ることを決めた。
これを受けてヤマト運輸は今夏には熊本のター
ミナルにFRAPSを導入する。 首都圏や関西な
ど広範囲に存在するサプライヤーから部品を引き
取って熊本に保管。 東京エレクトロン九州の生産
ラインにJIT納入する。 納品までのリードタイ
ム短縮や在庫削減に貢献していく考えだ。
ヤマト運輸法人営業部の川口浩司課長は「かつ
てはどうしても配送だとかシステムとか、単機能
の売り込みになっていた。 その体制を改め、数年
前からグループで協力して営業し、クライアント
に対して、本当の意味でのソリューションを提供
していくことに努めてきた。 顧客と一緒に物流を
改革しようという姿勢が東京エレクトロンさんに
も受け入れていただけた。 画一的なサービスでは
なく、顧客ごとにカスタマイズしてサポートして
いきたい」と手応えを感じている。
新構想では沖縄国際物流ハブを活用し、沖縄に
在庫を集約して日本や中国、韓国などアジア圏に
翌日配送することも想定している。
川口課長は「羽田や沖縄を通じてアジアの『宅
急便』ネットワークに接続するのに加え、アジア
からトランジットすれば世界各国に行くことがで
きる。 アジアを含めた国際ネットワークを整備す
ることで、クライアントに対する企画提案の幅が
大きく広がる」と新構想の今後の展開に強い期待
を寄せている。
ヤマト運輸法人営業部
の川口浩司課長
ヤマト運輸の企業物流支援システム「FRAPS」。
ピッキングや仕分けをヤマト運輸が代行する
新構想の調達物流支援のイメージ
海外部品サプライヤーX
指定組立工場
Line1
指定組立工場
Line2
指定組立工場
Line3
指定組立工場
Line4
国内部品サプライヤーY
国内部品サプライヤーZ
アジア
ネットワーク
各宅急便ベース
「FRAPS」
沖縄ハブ羽田
クロノゲート
厚木
ゲートウェイ
クロスマージ
(X+Y+Z)
調達側:リードタイム短縮、JITライン供給、調達見える化、在庫・スペースの最小化、コスト削減
サプライヤー側:業務負担軽減、生産期間延長、物流の見える化
出所)同社資料
特集 調達物流
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