ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2013年8号
物流行政を斬る
第29回 アジアのハブ機能奪還に向けようやく動き出した港湾行政統廃合を含む大胆な施策が鍵

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

AUGUST 2013  76 九九四もの港湾が乱立  我が国の港湾が、世界の港湾に比べてどのような 位置にあるか考察してみよう。
図表は、港湾別コ ンテナ取り扱いランキングの上位三〇港である。
こ れを見ると、トップ一〇のうち中国の港湾が六つを 占めており、圧倒的なシェアを誇っている。
さらに、 シンガポール港が二位、韓国の釜山港が五位と、ア ジア勢が大きな存在感を示している。
 これに対し、我が国港湾は二九位に東京港がラン クインするのがやっと。
横浜港や名古屋港、神戸港 といった東京港以外の主要港ははるか圏外で、グロ ーバルレベルでは極めて存在感が薄いと言わざるを 得ない。
 今から約三〇年前の一九八〇年の状況はまるで違 っていた。
神戸港は世界で四位、横浜港は十三位、 東京港は一八位に位置し、アジアのハブ港湾として の役割を担っていた。
現在の惨憺たる状況と比べる と、隔世の感が否めない。
 圧倒的な国土と人口を誇る中国は別として、港湾 におけるグローバル戦略のセオリーは、主要港を一 つか二つに絞り、そこに投資を一極集中することだ。
アジアのハブ機能奪還に向け ようやく動き出した港湾行政 統廃合を含む大胆な施策が鍵  日本の港湾の国際競争力が低下の一途をたどっている。
港湾戦略のグランドデザインを描かず、場当たり的に港を増 設してきた結果だ。
行政や政治の責任は重い。
ここにきて、 ようやく機能統合や施設増強の施策が実現しているが、ま だまだ不十分だ。
日本全国に点在する九九四カ所の港湾体 制を抜本的に見直し、ドラスティックな統廃合を進めなけれ ばアジアのハブ機能奪還への道は見えてこない。
第29回 釜山港やシンガポール港がその好例だろう。
これら 港湾は明確な国策の下で急激に台頭し、現在では押 しも押されもせぬアジアのハブ港湾に成長している。
 一方、我が国には港湾が乱立している。
どれくら いの港湾があるか調べてみると、国際戦略港湾が五 カ所、国際拠点港湾が一八カ所、重要港湾が一〇二 カ所、地方港湾が八〇八カ所、五六条港湾(港湾区 域の定めのない港湾で、規模として小さなもの。
都 道府県知事が水域を公告)が六一カ所で、合計九九 四カ所あることが分かる(二〇一三年四月一日時点)。
 さらに、これら港湾とは別に数多くの漁港もある。
日本全国津々浦々、港だらけと言っても過言でない。
港湾戦略のグランドデザインを描かず、場当たり的 に港を増設してきた結果、我が国港湾のグローバル 競争力は急速に失われていった。
行政や政治の責任 は重い。
 こうした中、近年になってようやくアジアのハブ 機能奪還に向けた動きが出始めた。
東京港、横浜港、 川崎港は一四年度をめどに経営統合され「京浜港」 に、神戸港、大阪港は一五年度をめどに「阪神港」 に生まれ変わる。
大規模化することで規模の経済が 働き、効率化が促進されることだろう。
 港湾内の設備に関しても、より魅力的なものへと リニューアル中だ。
例えば横浜港では、二〇一四年 中に水深二〇メートルと世界最大級の岸壁が作られ る。
神戸港、大阪港でも一八年以降に水深一六メー トルの岸壁が設置される予定である。
横浜港では七 〇〇億円、神戸港では三〇〇〇億円、大阪港では 九〇〇億円がそれぞれ投じられる。
 この施策により、大型コンテナ船が入港できるよ うになる。
これまで我が国の港湾は水深一五メート ル以下が主流であったが、ようやく諸外国のライバ ル港湾に匹敵するスペックを備え始めたと評価でき る。
 また一一年三月に成立した「港湾法及び特定外貿 埠頭の管理運営に関する法律の一部を改正する法律 (通称、改正港湾法)」により、先に見た国際拠点港 湾一八カ所では、港湾運営会社の設立が認められる ようになった。
港湾運営会社は一つの港湾につき一 社が指定され、これまで地方自治体や埠頭公社が行 ってきた港湾の運営を一元的に引き受ける。
 具体的には、国や港湾管理者が岸壁などを整備し、 それを港湾運営会社に貸し出す。
港湾運営会社はそ れを荷主や船舶等に対して、自ら設定した料金水準 物流行政を斬る 産業能率大学 経営学部 准教授 寺嶋正尚 77  AUGUST 2013  で貸し出す。
荷主や船社等への営業活動も港湾運営 会社が行う。
民間の力を活用したものであり、これ まで硬直的だった港湾運営の魅力が増す可能性のあ る、大変意義深い施策であると言える。
 さらに一部報道によれば、国土交通省は、重要港 湾近くにある物流施設への助成制度を新設する方針 を固めたという。
物流事業者が同業他社や不動産会 社などと共同で、小規模かつ老朽化した従来の施設 を大規模なものに建て替える際に適用されるようだ。
 事業者はまず計画書を作成し、それを国交省に提 出する。
国交省は計画書を審査し、晴れて認定され れば、施設の共有部分(スロープやエレベーターな ど)の建設費や駐車場の整備費などについて、国が 最大で半額まで補助するという。
 補助の原資は、一三年度予算で確保した都市基 盤整備事業費が当てられる見込み。
詳細は今後決定 される予定だが、二〇億〜三〇億円程度が用意され、 物流事業者が提出した案件一件につき、数億円程度 が支給される見通しである。
中枢港湾と地方を結ぶ物流網も課題  このように、近年の港湾行政は我が国にハブ港機 能を奪還すべく、さまざまな取り組みを開始してい る。
いずれも高く評価できるが、筆者が思うに、ま だまだ不十分であると言わざるを得ない。
 例えば東京港と横浜港が経営統合し、京浜港に生 まれ変わったとしても、トップの上海港の四分の一 程度のコンテナ取り扱いにすぎない。
同様に、神戸 港と大阪港が合併しても国際的な競争力は依然低い ままだ。
到底、中国や韓国、シンガポールといった アジアの港湾大国にかなう状況ではない。
 我が国の港湾がライバル国と伍していくためには、 日本全国に点在する九九四カ所の 港湾体制を今一度見直し、ドラ スティックな統廃合を進めること で、ごく少数の大規模港湾を誕生 させるしか道はない。
港湾や施設 の重複をはじめとする無駄な投資 は、極力避けるべきである。
そう した青写真を描いた上で、先に説 明した大規模物流施設への助成制 度なども実施すべきだろう。
 並行して、地方と大規模港湾と の物流ネットワークを形成するこ とも喫緊の課題である。
国内にお けるハブ&スポークシステムの確立 である。
大規模なハブ港湾が設置 されたとしても、地方からそこにアクセスする手段 が成長していなければ、荷が集まらず、船舶の大規 模化などは実現できない。
高速道路や鉄道、内航船 なども含めた総合的なネットワークを構築する必要 がある。
 また国土計画や建設、まちづくりの視点も不可欠 である。
港湾近くに付加価値の高い流通加工が施せ る物流センターなどを誘致し、そのエリア全体での 経済成長を実現するのである。
さらに、東日本大震 災の経験も生かし、高速道路網が寸断された場合の 輸送手段を、平時から整備・シミュレーションして おく必要もあるだろう。
 中国や韓国における隆盛を見ていると、我が国の 港湾行政への取り組みは遅きに失した感が否めない。
しかし、まだ間に合わないことはないと筆者は信じ ている。
我が国はアジアのハブにふさわしい地理的 優位性を持ち、世界屈指の旺盛な内需もある。
巻き 返しは十分可能なはずだ。
 今、我が国港湾の多くは建設から約三〇年が過ぎ、 老朽化の問題を抱えている。
これら施設のリニュー アルや物流施設の再整備を進めるタイミングを好機 ととらえ、ぜひ港湾行政について今一度抜本的な 改革を検討し、望ましい港湾ネットワークはどのよ うなものであるか、どのような施策を講じるべきか、 国を挙げて考えていきたいところだ。
てらしま・まさなお 富士総合研究所、流通経済研究所を 経て現職。
流通経済研究所客員研究員、 日本ロジスティクスシステム協会調査 研究委員会委員、日本ボランタリー チェーン協会講師等を務める。
著書に 『事例で学ぶ物流戦略』(白桃書房)など。
港湾別コンテナ取り扱い量ランキング(2012) 順位港湾国取り扱い量 (TEU) 123456789 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 上海 シンガポール 香港 深圳 釜山 寧波 広州 青島 ドバイ 天津 ロッテルダム ポートケラン 高雄 ハンブルグ アントワープ ロサンゼルス 大連 タンジュンペレパス 廈門 ブレーメン/ブレーマーハーフェン タンジュンプリオク ロングビーチ レムチャバン ニューヨーク/ニュージャージー ホーチミン 連雲港 営口 ジッダ 東京 バレンシア 中国 シンガポール 香港 中国 韓国 中国 中国 中国 アラブ首長国連邦 中国 オランダ マレーシア 台湾 ドイツ ベルギー アメリカ 中国 マレーシア 中国 ドイツ インドネシア アメリカ タイ アメリカ ベトナム 中国 中国 サウジアラビア 日本 スペイン 32,575,000 31,649,000 23,100,000 22,941,000 17,023,000 16,830,000 14,744,000 14,502,000 13,280,000 12,289,000 11,866,000 10,001,000 9,781,000 8,900,000 8,635,000 8,077,714 8,000,000 7,720,000 7,193,000 6,280,000 6,214,000 6,045,662 5,927,000 5,520,211 5,147,418 4,977,000 4,848,000 4,738,000 4,690,500 4,469,754 出所:Containerisation international

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