ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2013年9号
ケース
ヤマエ久野 現場改善 トヨタ流の改善活動を補完するためマテハン設備を導入して現場を強化

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

SEPTEMBER 2013  70 「ヤマエ改善システム」を展開  九州を地盤とする独立系食品卸のヤマエ久 野は幅広い事業を展開している。
三一三五億 円(二〇一三年三月期)の連結売上高のうち 七割弱を占める食品関連事業のほかに、メー カー向けに原料を調達したり、畜産業者に飼 料を販売。
プレカット木材を住宅メーカーに 販売する住宅関連事業も手掛けている。
 食品関連に限っても、加工食品や酒類の卸 売業からスタートして、農畜産物や水産物の 製造加工などに事業領域を広げてきた。
養豚 場や養鶏場を運営したり、食品スーパーを経 営していた時代もある。
試行錯誤を重ねなが ら卸売業のあり方を摸索してきた。
 同社の山口春幸常務は「原材料を調達して メーカーに買ってもらい、製品化されたもの を再び我々が取り扱ってスーパーマーケットに 届ける。
この一連の流れを卸売業がやらずし て誰がやるのか。
本当のサプライチェーンと いうのはそこにある」と強調する。
 同社が一括物流センターの運営に乗り出し た時期は早い。
ある小売チェーンの常温食品 を扱う目的で、一九九六年に延べ床面積約 一万八〇〇〇平方メートルの在庫型専用セン ターを設置した。
当時は一括物流の黎明期で、 国内には参考にできる事例がほとんどなかっ た。
米国のスーパーバリューなどを見学した 経験に基づいて手探りで仕組みを構築した。
 その後は積極的に専用センターの運営を受 託してきた。
現在では九州エリアを中心に二 五カ所の専用センターを構えている。
これと は別に二〇数カ所ある営業拠点では汎用セン ターも運営している。
 もっとも、戦略的な物流管理という意味で は出遅れた面もある。
今でこそ物流は同社の 中核業務だが、社内に初めて「物流部」がで きたのは六年前のこと。
それまで物流管理は 営業部門の一機能にすぎなかった。
各地の物 流拠点は営業部が管理しており、拠点の新設 も全て営業部内で対応していた。
 二〇〇〇年代半ばの事業環境の悪化が転機 になった。
全社規模でオペレーションのロー コスト化に取り組み、その一環で〇七年に物 流部を発足させた。
このとき初代物流部長に 就任した山口常務は「卸の競争原理の一つで ある物流戦略をはっきりさせなければ、成長 は難しくなると考えた」と振り返る。
 同じ〇七年には、もう一つ転機があった。
ヤマエ久野はこの年の十一月から、北九州を 地盤とする大手スーパーの専用センターの運 営を開始した。
このスーパーがトヨタ生産方 式(TPS)による現場改善に取り組んでい  大手スーパーの専用センターの運営受託をきっ かけに、トヨタ生産方式に倣った現場改善を導入 した。
10カ所近い物流拠点に横展開して、一部の 拠点では定着した。
だが浸透度に差があり、全社 展開までは至っていない。
秤付きのピッキングカ ートや音声認識システムなどを導入して、こうし た活動を補完している。
現場改善 ヤマエ久野 トヨタ流の改善活動を補完するため マテハン設備を導入して現場を強化 ヤマエ久野で物流を担当して いる山口春幸常務取締役 71  SEPTEMBER 2013 たことから、ヤマエ久野が受託した拠点でも TPSを導入することになった。
 およそ二年にわたって豊田自動織機のコン サルタントに改善の指導を受けた。
うち一年 間は指導者がセンターに常住して徹底的に鍛 えられた。
センターの?あるべき姿?を実現 するため、2S(整理・整頓)や見える化、 標準化、ムダ取り、作業者の多能工化といっ た活動を全員参加で推進した。
 活動の名称は「YKS」(ヤマエ改善システ ム)と名付けられた。
ヤマエ久野の本社から も担当者が現場に張り付き、人材の育成とノ ウハウの蓄積に努めた。
 この取り組みは大きな成果を上げた。
山口 常務は次のように評価している。
「何もして いない物流センターだと物量の伸びに比例し てコストも増えかねない。
ところがTPSが 定着した現場では、物量が減る中でもコスト が下がり続ける。
この点はすごい」  さっそく他のセンターにもYKSを横展開 することにした。
しかし、簡単ではなかった。
一〇カ所程度に導入したが、定着したのはご く一部だけ。
現場責任者が消極的な拠点では 徐々に失速してしまった。
 それでも物流部の宮嵜務次長は「この活動 は現場が自主的に取り組まなければ長続きし ない。
ただし、定着した現場では、みんなが 自分で考えるようになる。
これは大きな財産 だ」と前向きに活動に取り組んでいる。
最新のマテハン設備も活用  同社は最新のマテハンなどを使った業務改 善にも取り組んできた。
YKSを初めて実施 した拠点でも、ほぼ同時期にバラピッキング を効率化するため秤付きのピッキングカート (島津エス・ディー製)を導入している。
 オリコン三個のピッキングを同時にこなし ながら、スキャンした商品をオリコンに投入 するたびに重量を計ってミスを防ぐ。
一台当 たり約一五〇万円を投じて計二〇台を導入し た。
ピッキングミスの撲滅を最優先課題とし て、TPSとは別にヤマエ久野が自ら判断し て導入に踏み切った。
 従来はハンディターミナルを使っていたのだ が、ミスが減らなかった。
それが新たなカー トの導入によって、生産性を高めながら、ピ ッキングミスはほぼゼロにできた。
今では数 カ所の物流拠点に導入している。
 昨年六月にも、最新のツールを使った現場 改善を実施している。
前掲の施設とは別の専 ヤマエ久野の宮嵜務物流部 次長 ラベルを外側に貼り出荷検品 「一覧表」でスキルを見える化 全体像を示す「改善活動板」 活動を牽引する阿部恭一支店長 YKS(ヤマエ改善システム)で現場改善を推進 重量検品機能の付 いたピッキングカ ートを導入してミ スを撲滅 オリコン3個を同 時に処理できる重 装備カートだが移 動は軽快 秤付きピッキングカートで生産性が向上 用センターで、青果をケース仕分けする工程 に、音声技術を使ったヴォコレクト製の物流 システムを導入した。
 従来は紙のリストに基づいて作業をしてお り、青果にはバーコードが添付されていない ため作業者の目視に依存せざるを得なかった。
作業スピードは高まらず、一カ月に二、三件 の頻度でミスが発生していた。
ミスは店舗か らのクレームとして戻ってくるため、ヤマエ 久野としても困り果てていた。
 そんなときに音声物流ソリューションの存 在を知った。
導入した四セットのための投資 額は、ソフトの開発まで含めて約二〇〇〇万 円。
ミスが減って、顧客の信頼を得られるの であれば採算は合うと判断した。
音声システムで生産性を三割向上  結果は想定していた以上だった。
スタート 当初こそ生産性の向上は二割程度にとどまっ ていた。
だが作業者が慣れてきて音声指示の スピードを早められるようになると、生産性 はさらに高まった。
スタートから約三カ月後 には、生産性を従来比で三一・四パーセント 高めることに成功した。
 ミスも皆無になった。
「導入から一年以上 経ったが、いまだにミスゼロが続いている。
もちろん音声を使った仕分けでもミスは発生 するが、いろいろな仕組みの中でミスしたま まセンターから出荷することなく対処できて いる」と宮嵜次長は胸を張る。
 こうした問題点が、近年の技術革新と、業 務フローの工夫によって解消された。
今回、 ヤマエ久野のヴォコレクト導入を支援したイン フォセンス(山九のIT子会社)の西日本営 業部に所属する大関一郎氏は「特定の話者の 声を事前にトークマンに登録して認識率を高 めている。
あらかじめ作成した?対話フロー?  音声で指示されるデータ自体は、商品のロ ケーションや対象商品の内容、個数などハン ディ端末と同様だが、作業者とコンピュータ が常に音声で確認し合いながら作業を進める ことで正確性が格段に高まった。
 作業中にピッキングリストや携帯端末に目 線を動かすことがなく、両手も自由に使える ことから、紙のリストを使う方法より作業ス ピードも速くなった。
全くの初心者を一週間 程度で平均レベルの作業者と同等のレベルに できることも魅力だ。
 作業者は「トークマン」と呼ばれる約三三〇 グラムの専用端末を腰にベルトで装着し、こ れと有線でつながった「ヘッドセット」(ヘッ ドホンとマイク)を着用して作業を行う。
 トークマンは無線ハンディ端末と同様の役 割を担っている。
WMS(倉庫管理システ ム)から必要なデータを抽出して音声に転換 し、作業者に伝える。
その指示に対し、作業 者はヘッドセットのマイクを通じて実際に処理 した内容をコンピューターに返す。
 音声物流ソリューションは、米ウォルマー トをはじめ九〇年代の米国で広く普及した。
しかし、日本では一〇年前までほとんど導 入実績がなかった。
日本の現場オペレーショ ンの品質と作業スピードが海外とは比較にな らないほど高レベルであることに加え、作業 者の話す日本語を機械が判読できなかったり、 機械による音声指示が聞き取りづらいといっ た点がネックになっていた。
SEPTEMBER 2013  72 青果のケース仕分けの生産性を高めた音声物流ソリューション 1.一次仕分け(入荷検品) 2.二次仕分け(店別仕分け) 60 50 40 30 20 10 0 導入前導入直後導入後 時間(秒)/カゴ車 平均値 31.7 49.3 53.3 △40.5% 作業時間増 対象カゴ車数 導入前 :3 導入直後:4 導入後 :12 3.出荷検品 120 100 80 60 40 20 0 導入前導入直後導入後 時間(秒)/店舗 平均 99.0 18.3 ▲81.5% 作業時間増 対象カゴ車数 導入前 :1 導入直後:− 導入後 :25 25 20 15 10 5 0 導入前導入直後導入後 時間(秒)/ケース 平均値 21.4 15.3 10.0 ▲53.3% 生産性UP 対象カゴ車数 導入前 :18 導入直後:29 導入後 :95 ※導入後の単位作業時間の増加については、  作業者が変わったことに起因〈コメント〉 ■一次仕分けは、カゴ車単位当たり、  40.5%(22 秒/カゴ車)の作業時間が増加 ■仕分け作業において、  
瓠テ鷦〇妬け……53.3%  
癲ソ于抔”福帖81.5%の生産性UPを実現。
仕分け/出荷業務で生産性向上率が高く、 全体で見ると、31.4%の作業性向上 MSの開発などを手掛けているインフォセン スの強みが発揮された。
 もちろん成功はヤマエ久野の協力があって こそ。
この点についてインフォセンスの伊津 見一彦取締役事業本部長はこう指摘する。
 「この仕組みは関係者が一緒になって作り上 げなければうまくいかない。
その点、ヤマエ 久野さんの物流部は非常に前向きだった。
現 場の人たちも自らの業務を改善するという意 識で協力してくれた。
これが大きな成果につ ながった最大のポイントだと思う」  一連の成果にはヤマエ久野も満足している。
特にミスが発生しなくなったことで、届け先 の店舗をはじめとする関係者の信頼を取り戻 せたことを高く評価している。
既に他のセンタ ーでは、常温の特売品の管理に導入した。
日 配品への適用も検討している。
投資効果を見極める  とは言え、音声物流ソリューションにも限 界はある。
DPSなどを導入済みの現場では 既にある程度まで効率化されているため、青 果の仕分けほど導入効果は望めない。
生産性 の向上は一〇から一五%程度にとどまる。
こ の程度の改善では初期投資の回収に時間を要 するため、既存のマテハンを撤去してまで導 入するかどうかは難しい判断になる。
 こうした領域においては、YKSなど設備 投資に頼らない改善活動の出番となる。
地道 な改善活動を積み上げ、その上で最新ツール の必要性を判断する。
 ヤマエ久野はこれまで九州で盤石の地盤を 誇ってきた。
しかし、市場は既に成熟してい る。
「九州にDC型の専用センターを新設する 余地はほとんどない。
今後は汎用センターの 中にTCを作るぐらい」と山口常務。
 それだけに事業エリアの拡大と並んで、既 存センターの生産性を高めることが、これか らさらに重要になってくる。
人材不足の深刻 化で作業者を迅速に育てることも強く求めら れている。
YKSによる現場力の強化とマテ ハン活用が、その鍵を握っている。
(フリージャーナリスト・岡山宏之) に基づいてこれを使えば、業務の生産性を大 幅に改善できる」と説明する。
 トークマンと作業者とのやりとりは、例え ば次のようになる。
まずコンピューターが「商 品コードは?」と作業者に尋ね、作業者は該 当する商品のコードを読み上げる。
間違いな ければ次工程に進み、仕分けるべき商品の個 数などを指示される。
作業者はその数字を復 唱しながら処理を進めていく。
 いわばコンピューターと人間が音声で対話 するわけだが、この対話フローを事前に適切 なものに作り込むことが生産性向上の鍵を握 っている。
なるべく作業者の発する言葉をシ ンプルにして、機械に多くをしゃべらせるこ とがポイントになる。
 作業者の言葉が長いほど認識率は落ちる。
これを避けるため、作業者からの発声は極力、 数字やアルファベット、あるいは「はい」や 「いいえ」など簡単な言葉で済むようにシステ ムを設計する必要がある。
 この対話フローの構築は、システムを開発 する際の?要件定義?に該当する。
ここで総 合物流企業のIT子会社として日ごろからW 73  SEPTEMBER 2013 音声の指示を聞きながら移動 トークマンで速度などを設定 両手を自由に使って作業を処理 入荷検品と仕分け作業に適用 音声認識システムを導入しミスゼロを実現 インフォセンスの伊津見一彦 取締役事業本部長

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