ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2013年9号
特集
米航空宇宙局(NASA) 欧米SCM会議㉚ 宇宙開発計画の変更でSCMに懸念サプライヤーの事業継続性を調査

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

SEPTEMBER 2013  74 スペースシャトル計画の終了  米航空宇宙局(NASA)がSCMに関 するアンケート調査を実施したのは、スペー スシャトル計画の終了が発表された二〇一〇 年のことでした。
NASAにとってスペース シャトル計画は史上最大のミッションであり、 NASAとスペースシャトルは切っても切れな い密接な関係にありました。
 それだけに同計画の終了はNASAのサプ ライチェーンに大きな影響を及ぼしました。
そ れまでスペースシャトル計画を支えてきたサプ ライヤーたちは、NASAの変わりゆく戦略 に対応し、今後も部品やサービスの供給を続 けていくことができるのかという深刻な懸念 が生じました。
 それを調べることがアンケート調査の目的 でした。
一二年夏にその結果がまとまりまし た。
その詳細を説明する前に、スペースシャ トル計画の概略と終了の経緯について述べて おきたいと思います。
 スペースシャトルは、一九八一年の初飛行 から二〇一一年の最後の飛行まで、三〇年に わたり計一三五回の飛行を実施しました。
年 平均三・五回となります。
 その最大の貢献は、本格的な有人での宇宙 時代を切り開いたことにあります。
「コロンビ ア」「チャレンジャー」「ディスカバリー」「アト ランティス」「エンデバー」の五機を繰り返し 使って、延べ一〇〇〇人近い宇宙飛行士を宇 宙へと運びました。
 一〇年に五機の引退が決まった理由は、一 つは機材やシステムの老朽化でした。
九〇年 代に入ると機体をはじめ部材の損傷が激しく なり、その修理に手間が掛かるようになりま した。
そのため打ち上げ回数も減らさざるを 得ませんでした。
 二つ目の理由は航空機事故です。
一九八六 年のチャレンジャー、二〇〇三年のコロンビ アの二つの事故によって、一〇人以上の宇宙  スペースシャトル計画に続く「コンステレーショ ン計画」がオバマ政権によって中止になった。
2017 年に予定されている火星無人探査機の打ち上げに は、まだ間がある。
それまでサプライヤーは事業を 継続できるのか。
サプライチェーンの持続性に懸念 を抱いたNASAと米商務省はサプライヤーを対象と した詳細なアンケート調査を実施した。
担当者のテ ッド・ジュビスキー氏が説明する。
欧米SCM会議㉚ 米航空宇宙局(NASA) 宇宙開発計画の変更でSCMに懸念 サプライヤーの事業継続性を調査 組織名 アメリカ航空宇宙局(NASA) 設立 1958 年 本部 ワシントンD.C. 行政官 チャールズ・F・ボールデン 予算(2012 年) 177 億7000ドル(1 兆7770 億円) 従業員 1 万7000 人強 (注1)各数字は、NASAのウェブサイトより (注2) 1ドル=100 円で換算 組織概要 図1 NASA の能力主導の探索 月 火星:この10 年間の 人間の究極の目的地 国際宇宙 ステーション 地球 太陽系への進出 他の世界の探索 惑星への探索 初期の探索の目的 低軌道を超えた領域への拡大 宇宙打ち上げシステム 総量130トン 75  SEPTEMBER 2013 飛行士の命を失ってしまいました。
 三つ目はコストの増大です。
事故を起こし た二機の修理には膨大な時間と費用が掛かり ました。
有人飛行のスペースシャトルは安全 を最優先する必要があります。
事故を契機に、 より厳しい安全基準を設けたことが、さらに 割高な費用となって跳ね返ってきました。
 以上の三つの理由で、スペースシャトルの 引退が決まりました。
それ以来、マスコミが NASAについて報道する機会はめっきり少 なくなりました。
そのためアメリカでも、N ASAはもう大した活動はやっていないのでは ないかと考える人が少なくないようです。
し かしそれは大きな誤解です。
 現在のNASAのミッションは、スペース シャトル計画から大きく変化しています。
順 を追って説明すると、以下のようになります。
 宇宙探索の当初の目的は、国際的な宇宙ス テーションを作ることや商業的な宇宙飛行の 拡大などでした。
その次に、「地球低軌道」を 超えた領域への拡大に焦点が移りました。
地 球低軌道とは一般に高度一二〇〇マイル(約 二〇〇〇キロ)を指します。
それを超えた領 域まで活動を広げるということです。
 そして現在は「太陽系への進出」「他の世界 の探索」「惑星への探索」が新たな目的となっ ています(図1)。
「惑星への探索」では、二 〇一七年までに無人探査機を火星に着陸させ る計画です。
また火星への有人飛行について は、二〇三〇年の実現を目指しています。
 スペースシャトル計画と火星探索計画の間 に、「コンステレーション計画」と呼ばれる有 人宇宙機の計画がありました。
NASAの探 索の範囲を地球低軌道から月へと広げ、さら には火星探索へとつなげる位置付けの計画で した。
しかし、二〇一一年の予算教書でオバ マ大統領は、コンステレーション計画の中止 を発表しました。
 ここで問題として浮上してきたのが、スペ ースシャトル計画やコンステレーション計画に 部材やシステムを提供してきたサプライヤーが、 無人火星探索機を作るときまで、NASAの サプライヤーであり続けることができるのか という懸念です。
サプライヤーがNASAと の取引に見切りをつけ、宇宙飛行に関する部 材やシステムの製造をやめてしまったらどの ような影響があるのかを調査する必要があり ました。
 また、ここ一〇〜二〇年のグローバル化の 流れを受け、NASAのサプライチェーンに おいてもサプライヤーの多様化が急速に進み ました。
九〇年代までは「Tier1」と呼 ばれる年商二億ドル以上の大手サプライヤー からの納品がほとんどでしたが、今は年商二 五〇〇万〜二億ドルの「Tier2」や二五 〇〇万ドル以下の「Tier3」にまで取引 先が広がっています。
サプライヤーの四六%が3PLを利用  そこでNASAと商務省が協力して、NA SAのサプライヤーを対象にサプライチェーン に関するアンケート調査を行いました。
同調 査では〇七〜一〇年の四年間におけるサプラ イヤーの活動の詳細を尋ねました。
 アンケートの意図は次の三つの疑問に対す る答えを見つけることでした。
図2 プロジェクト別のサプライヤーの規模 アレス(大型ロケット) 国際宇宙基地協力計画 固体燃料補助ロケット 軌道衛星 オリオン(有人宇宙船) アレス4 アレス・アッパー・ステージ スペース・シャトルのメインエンジン 再利用できる固体燃料補助ロケット アレス・アッパー・ステージのエンジン 打ち上げ脱出システム 外部燃料タンク 貨物打ち上げ宇宙船 船外活動 月面着陸船 サービス・モジュール 0 50 100 150 200 40 45 58 58 62 33 35 87 35 39 68 36 50 50 29 35 36 29 29 34 18 27 49 20 21 46 18 22 34 24 27 24 19 21 28 21 20 28 18 11 18 18 14 9 10 13 12 73 Tier1 Tier2 Tier3 Tier1 Tier2 Tier3 階層2009 年の 売上規模 2億ドル以上 2500万〜2億ドル 2500万ドル以下 サプライヤー の数 155 社 101 社 280 社 ?スペースシャトルの引退から次の新たな宇宙 計画が再開されるまでの数年間、宇宙計画 を支えてきたサプライヤーたちは企業とし て生存し続けることができるのか ?もし、次の宇宙計画の再開までに部品やサ ブシステムなどを供給してきたサプライヤー が存続できなかったとしたら、NASAが どのようにして、新たなサプライヤー群を 作ればいいのか ?計画の間が空くというサプライヤーにとっ ては大きなマイナス要因の下、どのように すればサプライヤーの供給する製品やサービ スの質を維持することができるのか  一二年夏に二七〇ページにわたるアンケー ト調査の結果がまとまり、NASAのサプラ イヤーとサプライチェーンの全貌が見えてきま した。
中小サプライヤーに大きな影響  この調査の対象となったのは、有人宇宙飛 行に部品やサービスを提供していた五三六社 でした。
通常の任意のアンケート調査とは違 い、回答がない場合は、罰金や禁固刑などの 罰則を受けるものであるため、非常に正確で、 詳細な回答が寄せられました。
 全一六ページにわたるアンケート用紙には、 社名から、NASAへの納入製品の全リスト、 過去の取引数量、今後もNASAに部品やサ ービスを供給できるかどうかの見通しといった 質問に加え、経営の健全性や従業員数、R&  このアンケート調査でNASAが重視したの は、各サプライヤーのNASAへの依存度で した。
「依存している」状態についてはあえて 定義せず、回答者が依存していると思ったら、 依存しているとする手法を取りました。
する と、二八%の取引先(一五〇社)が、NAS Aとの取引に依存している、と答えました。
 そう答えた企業は、売上高の三〇%前後を NASAとの取引から上げていました。
全サ プライヤー平均は二%でした。
また、NAS Aの調達金額全体に占める上記の一五〇社の 比率は四〇%でした。
 こうしたサプライヤーが次の宇宙計画まで D(研究開発)への投資額なども尋ねました。
 
裡腺咤舛これまでに実施した一六のプロ ジェクトのうち、どのプロジェクトに部品やサ ービスを納入しているのかという問いに対し ては、七六%のサプライヤーが正確にプロジ ェクト名を回答してきました。
 この調査でNASAが関心を寄せた点の一 つは、Tier1のサプライヤーがどれだけ Tier2やTier3に外注しているかで した。
サプライチェーンが外部に広がれば広 がるほど、NASAの管理が及びにくくなる と考えたからです。
 サプライチェーンに関して三〇を超える項目 について尋ねました。
その結果、多くのTi er1が、実際の作業をTier2やTie r3に外注していることが分かりました。
七 〇%以上のTier1が、Tier2やT ier3と密接なパートナーシップを築いて いると回答しました。
また、Tier1が一 次取引先で、Tier2とTier3が二 次取引先もしくは原材料サプライヤーとなる 傾向にありました。
 ロジスティクス業務は四六%のサプライヤ ーが3PL企業に外注していると回答してい ます。
また二七%のサプライヤーが、ICタ グを使ってサプライチェーンを円滑に管理して いると回答しました。
 図3は納入先を、計画別、納入階層別、 製品の互換性という三つの観点から示してい ます。
SEPTEMBER 2013  76 図3 計画別のサプライヤーなど 計画納入先の 階層 製品の 互換性 国際宇宙 ステーション 計画 コンステレーション計画 38% Tier1 18% ほぼ100% 31% 不明 16% 50%以上 27% 25〜50% 11% 25%以下 12% Tier2 25% Tier3 57% スペースシャトル 計画 36% 26% なし 3% 上高の約五%に相当します。
そのために、既 に二〇人の従業員を解雇しました。
もし後続 の計画が決定されないようでしたら、解雇す る従業員の数は一層増えるでしょう」  サプライヤーの従業員の雇用問題も大切な 調査項目でした。
今回の調査の対象となった 〇七年から一〇年の間、NASAと取引のあ るサプライヤーの従業員は五七万人台から五 九万人台へと増えています。
全体で三・七% の増加となります。
これをサプライヤーの階 層ごとの割合を見ると、Tier1が全体の 八八%で、Tier2が九%、Tier3 が二%台となります。
政府機関横断で九〇〇〇社を調査  この間、アメリカ全体ではリーマンショッ ク後の不況の影響で雇用が一八ポイントも落 ち込んだのと比べると、NASAのサプライ ヤーの従業員の雇用は守られていたことにな ります。
 ただし、サプライヤーを製造業とサービス 業に分けてみると、製造業では六ポイントの 減少となり、コンサルティングなどのサービ ス業では一九ポイントの増加になっています。
これはNASAの活動が従来の、ものづくり 中心から調査・分析などの分野に変わってき ていることが要因として挙げられます。
 最後に挙げておきたい数字が、複数のプロ ジェクトに部品やサービスを提供しているサプ ライヤーについてです(図4)。
 アンケートの記入欄から、複数のプロジェ クトに納入しているサプライヤーについては、 合理化の可能性があるのではないかと考えて います。
約五〇%のサプライヤーがNASA の複数のプロジェクトに納入しています。
 あるサプライヤーは、NASAの八つのプ ロジェクトに納入していて、プロジェクトごと に部材の仕様がわずかに違うため、納入価格 もばらばらだと回答しています。
こうした部 材については、NASAの組織内で規格を統 一することで、無駄なく、無理なく部品を調 達でき、調達コストも下げることができると 考えています。
 商務省は、一〇年のアンケート調査の後、 一二年にもサプライヤーを対象としたアンケー ト調査を行っています。
ただし、一二年のア ンケート調査は、NASAだけではなく、米 空軍や米国家偵察局(NRO)など、複数の 政府機関を横断した調査で、調査対象企業も 九〇〇〇社を超えています。
 
裡腺咤舛畔洞軍、NROのサプライヤー は重複しています。
その時々の宇宙開発計画 の変更によってNASAのサプライヤーは大 きな影響を受けます。
しかし、これを政府調 達全体で見ることで個々のサプライヤーへの 影響を抑えることができないだろうか。
それ を見極めるのが調査の目的の一つになってい ます。
この調査結果は一三年中にはまとまる 予定です。
(フリージャーナリスト・横田増生) 経営的に持ちこたえられるかどうかを見極め ることが、NASAにとって大切でした。
こ の点に関して、あるTier3のサプライヤ ーは次のように回答しています。
 「はっきりとした後続の計画がないままスペ ースシャトル計画が終了したことで、部材を 提供する際のノウハウや経験豊富な人材の維 持が大変困難になっています。
また、次の主 力計画とみなされていたコンステレーション計 画も中止に追い込まれたことにより、将来の ビジネスの展望にマイナスのインパクトを与え ただけでなく、ノウハウの維持や人材を引き 留めるために払った投資が無駄になる危険性 が出てきました」  また別のTier3のサプライヤーはこう 回答しています。
 「当社は、コンステレーション計画の中止 によって、年間四〇万ドルから五〇万ドルの 売り上げを失うことになります。
これは全売 77  SEPTEMBER 2013 図4 納入するプロジェクト数 60 50 40 30 20 10 0 (%) 複数の プロジェクト 単一の プロジェクト不明 14% 7% 6% 4% 12% 6% 27% 24% 1 4 5 6〜10 11〜16 2 3

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