*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

SEPTEMBER 2013　　78 　物流不動産の仲介業をしていると、?困っ た物件? に出くわすことがよくあります。
特 に厄介なのが、長い間テナントが入っていな いのに、募集賃料が相場より高い倉庫。
この ご時世、いくら立地が良くても割高な物件に テナントが入るわけありませんよね。
こうし た物件には次のような共通点があります。
?高度成長期やバブル時に?建て貸し?を目 的に建設された ?大手物流会社や特定荷主などと長期契約を 結んでいた ?特定荷物専用の仕様のため汎用性が低い ?倉庫オーナーに物流の知識や関心がない 　高度成長期やバブル期の物流不動産市場は、 ?超?が付くほどの貸し手市場でした。
荷物 量は右肩上がりで伸び、倉庫の数が追い付か ない状況です。
オーナーや倉庫会社で営業マ ンをしていた筆者などにとっては、とても良 い時代でした。
　賃貸契約の期間も長く、当時の建て貸しは 二〇年、三〇年といった長期契約が普通でし た。
もちろん賃料も高く設定されていました。
　そうした倉庫の契約期間が満了し、今に なって当社に大量に持ち込まれているんです。
多くのオーナーは、当時のままの賃料で貸せ ると思っています。
「大手物流会社がこの賃 料で借りていたんだから、新たな借り手もい るはず」という理論です。
　ご存知の通り、今の物流不動産市場は借 り手市場にシフトしています。
当時のままの 賃料設定では相手にされません。
またテナン トから求められるスペックも高度化していま すが、持ち込まれる物件は旧耐震の保管型倉 庫がほとんど。
エレベーターの能力や天井高、 床荷重も不足しています。
私がこれらのこと をいくら説明しても、オーナーにはなかなか 分かってもらえません。
頭の痛い問題です。
　ただし、こうした難題をビジネスチャンス に変えた事例もあります。
我々イーソーコが 展開する「物流不動産Ｂｉｚ」では、全国 の物流会社とパートナー契約を結び、物件探 しやテナント探しを手伝ってもらっています。
そのうちの一社であるＢ社の話です。
　あるオーナーからＢ社に「一〇〇〇坪の倉 庫が空いて困っている」と相談がありました。
倉庫は二〇年前に物流企業の要望により建て 貸ししたもので、契約期間が満了となったも の。
オーナーは大地主で、物流のことは何も 知りません。
満了後の半年間は自分で募集を していたのですが、うまくいかなかったので 地元のＢ社に相談を寄せたという経緯です。
　案の定、バブル相場の賃料設定に旧態依然 のスペックでした。
今の時代にそぐわないこ とをいくらＢ社が説明してもオーナーは馬耳 東風です。
仕方なく、Ｂ社はオーナーが希望 する賃料で募集を開始しました。
　蓋を開けてみると、問い合わせはあるので すが、やはり賃料が折り合いません。
募集か ら三カ月が経ったころに賃料を下げるように オーナーに打診しましたが、強気な姿勢を崩 そうとしません。
　さらに三カ月が経ちました。
空室発生から は一年も経っています。
オーナーもここに来 てようやく危機感を覚えました。
とうとう「賃 料は下げるから、早くテナントを見つけて来 てくれ」と折れたのです。
　強気から一転、償却が終わっていることも あり、オーナーが新たに設定した賃料は驚く ほど低い水準でした。
これを受け、Ｂ社は自 ら倉庫の半分に当たる五〇〇坪を賃借し、特 定荷主の保管スペースとして使用することに 決めました。
　さらに残りの五〇〇坪についてもオーナー と交渉し、借り主が見つかるまでの間、利用 したスペース分だけを払う短期賃貸借契約（ア コーディオン方式）として使用する合意を取 り付けました。
これにより、Ｂ社は荷物の季 節波動への対応がグッと楽になりました。
　物流不動産Ｂｉｚを通じ、日ごろから倉庫 オーナーとのつながりを持っていたことがＢ 社の本業にも有利に働いたのです。
筆者は常々 「物流会社こそ物流不動産ビジネスを手掛け るべきだ」と提唱していますが、オーナーと 信頼関係を築いておけば、こうしたメリット も享受できるんです。
大谷巌一（おおたに・いわかず） 1957 年生まれ。
高千穂商科 大学卒。
81年東京倉庫運輸入 社。
同社物流部門、不動産部 門を経て2003 年イーソーコ副 社長就任（現職）。
2010年イ ーソーコドットコム会長に就任。
現在に至る。
著書に『これから は倉庫で儲ける！！　物流不動 産ビジネスのすすめ』（日刊工 業新聞社）など。
PROFILE 第6回 テナントが決まらない倉庫の共通点