ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2004年4号
特集
路線業の終わり 「アセット型物流業の復権に賭ける」

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

APRIL 2004 12 ――それでも路線便以上にパッケージ化された宅配便 は大きな市民権を得ています。
「宅配便はC to C、あるいはB to Cです。
コンシュ ーマ向けのサービスはレディメードで構わない。
むし ろ、そのほうが分かりやすい。
汎用的な仕組みを作る ことでサービスを提供できます。
しかし、法人客は違 う。
自分のところにあった仕組み、個別性を求めてい る。
とくに、ここ一〇年でそうした傾向が明らかにな ってきた」 ――規制緩和の影響はありますか。
日本では九〇年に 運送事業の規制緩和が実施されて、路線免許を持た ない一般の運送会社にも積み合わせ事業が開放されま した。
「いや、規制緩和がきっかけになったわけではあり ません。
やはり経済全体の動き、もっと言えば顧客の ニーズが変わってきたということだと思います。
荷主 企業の物流コストや品質に対する意識が高まったこと が何より大きい。
実際、我々の営業のやり方も一〇年 前と今とでは全く違う。
昔はあくまでも荷物を下さい というスタイルでした。
もちろん今でもそれはありま すが、顧客から期待されているのは単なる輸送ではな く、物流のサービスプロバイダーとしての役割です。
そのため営業の質が全く変わってきている」 ――そうした市場環境の変化に老舗の路線業者は上手 く対応できなかった? 「それは会社によって全く違います」 ――外から見ていると、ヤマトと佐川以外の大手路線 業者の経営はどこも横並びに見えます。
「どこの業界でも同じだと思いますが、相手の特徴 を消し合うというか、誰かが新しいことをやったら、 それに追随すれば当たり外れも少ないという考え方が、 かつては通用しました。
少なくとも市場が拡大してい 路線便は荷物を選ぶ ――戦後の物流市場をふり返った時、路線業者は物流 業の近代化の牽引役だったと言えると思います。
実際、 路線便は儲かっていたし、大手路線業者は業界の花 形だった。
ところが今日、路線業は採算のとれない構 造不況業種になってしまっています。
路線便の位置付 けがどこで変化してしまったのでしょうか。
「数字的にハッキリ現れるようになったのは九二年 頃から、バブルが弾けた頃からです。
しかしファンダ メンタルズの変化という意味では、もっと時代を遡ら なくてはいけないんでしょうね」 ――どこでボタンを掛け違ってしまったのでしょう。
「私の認識では路線事業というのは、レディメード の輸送サービスです。
誰でも買うことができる。
小さ なものから大きなものまで何でも飲み込める。
しかし、 顧客の本当のニーズは別のところにあった。
顧客は自 分だけのサービスを求めていた。
そこに、すれ違いが あったということだと思います」 ――レディメードというのは? 「ご存知のように路線便はパッケージ化された商品 です。
路線便という一つのできあがった規格からはみ 出したものは扱えない。
そのため路線業者は『それは できません』、『これはお客さんのほうでやってもらわ ないとできません』と、ある意味では自分のエゴを打 ち出した。
そこに路線の限界がありました」 「結果として路線の荷物の一部は共同配送に流れて いった。
これは必然だったと思います。
デフレ経済に なった九〇年代以降、荷主側ではコストセーブの要請 が高まっていった。
同時に品質への配慮も増していっ た。
しかし路線便はそれに対応できなかった。
そこか ら同業者同士の共同配送が拡がっていった」 「アセット型物流業の復権に賭ける」 ターミナルや車両などの資産を保有するアセット型 物流業者の苦境が続いている。
輸送キャリアではフォ ワーダーの下請け化が目立っている。
しかし、ノンア セット型物流業者の隆盛も永遠ではない。
巻き返しは 可能だ。
既にその兆しも現れている。
(聞き手・大矢昌浩) 第一貨物武藤幸規 社長 第1部 特積みトラック運送の50年 路線業の終わり トヨタ方式に挑む 第1特集 路線業の終わり 13 APRIL 2004 が普通です。
ましてや路線の仕組みなどまったく知ら ない。
知る必要もありません。
確実に安定的に、そこ そこのコストで輸送できる会社であれば路線だろうが 区域だろうが、顧客にとっては関係ない。
例えそれが アセットを持たないフォワーダーであっても全く構わ ない。
実際、現在のマーケットでは何も持っていない フォワーダーが勝っています.」 ――確かにキャリアと比較すると、フォワーダー的な 物流業者は今も儲かっていますね。
「残念ながら儲かっている。
その結果、キャリアが フォワーダーの下請けになるという構図がどんどん出 来上がってきている。
このままいけば、キャリアとし ての日本の物流会社は中小しか残らないということに もなりかねない。
果たしてそれで良いのかどうか。
疑 問があります」 ――アセットが今や足かせになっているのだとすれば、 路線業者もアセットを捨てたほうがいいのでは。
「少なくとも当社は捨てるつもりはありません。
むしろ、武器にしなければならないと考えています。
確 かにアセットを持つことの辛さはあります。
アセット が財務体質を悪化させるリスクは否定できない。
しか し、そこを強みにできないと、キャリアはこのままフ ォワーダーの下請けになってしまう。
ただし、じっと しているだけでは何も変わらない。
そうなるようにこ ちらから押し出していかなくてはなりません」 ――アセット型物流業者の一つの選択肢として、M& Aがあるはずです。
中堅企業同士を統合することで、 ヤマトや佐川に匹敵するインフラを作るというスキー ムです。
現在、武藤社長が代表を務めている日本路線 トラック連盟(路線連盟)は、そうした話し合いの場 になるはずだったのでは? 「路線連盟のなかで、そうした話が議題になること るうちは、横並びでもパイを分け合うことができた。
しかし、市場規模が縮小し始めると、そうはいかなく なってくる。
例えば今、当社が日通さんと同じ戦略を とることはあり得ません。
同じことをしても、とても 太刀打ちできないからです」 日本でも淘汰は進む ――海外に目を向けると、米国では八〇年の規制緩和 以降、日本の路線便に当たるLTL(Less than Track Load )市場の淘汰が極端に進み、老舗の路線 業者のほとんどが姿を消しました。
路線業が装置産業 である以上、日本でも自由競争になれば規模に勝る大 手への集中が起きるはずです。
しかし今のところ目立 った動きはありません。
「これからは違うと思います。
中堅以下の路線業者 には撤退が目立ってくるはずです。
実際、僕も米国で LTLの淘汰の傾向がはっきりしてきた九〇年頃から、 日本もいずれ同じようになるだろうという危機感を持 っていました。
路線業の限界にも、自分なりに気付い ていたつもりです」 ――日本で本格的な淘汰が始まった時に一番舵取りの 難しいのが第一貨物のような中堅業者だと思います。
一定の規模はあるものの、自社で全国ネットワークを 敷くほどではない。
「淘汰が進めば、中堅業者が厳しくなるというスト ーリーは理解できますが、別の見方もあると考えてい ます。
今お話している路線だとか、区域だとか、ある いは軽貨物運送であるというような輸送業者の業態は、 実は顧客にとって何の意味も持っていない。
あくまで も物流会社側の問題です」 「そもそも荷主の物流担当者ならともかく、経営者 ともなると路線と言われても何のことか分からないの 16 年 3月 山形合同貨物自動車株式会社設立 17 年 4月 15 社を合併して山形県第一貨物自動車に商号変更 26 年 1月 仙台市〜東京都の一般路線貨物運送事業開始 9月 第一貨物自動車に商号変更 29 年 9月 宮城県一円に事業網を拡大 34 年 9月 秋田県一円に事業網を拡大 11 月 東京都〜大阪市の一般路線貨物運送事業開始 47 年 12 月 札幌市に進出 50 年 6月 東京都・仙台市〜札幌市のフェリー輸送を開始 53 年 2月 航空貨物の営業開始 55 年 6月 コンピュータの全店オンライン開始 58 年 1月 山形県・宮城県一円の軽車両等運送事業開始 59 年 6月 VAN事業開始 60 年 2月 自動車運送取扱事業を登録 61 年 10 月 利用航空運送事業免許を取得 62 年 8月 保税上屋による通関業務開始 63 年 3月 総合通信システム開通 元年 5月 第二次オンライン開始 8月 貨物オンラインシステム(POS)開始 2年 7月 第一貨物に商号変更 9年 5月 3PL(サードパーティー・ロジスティクス)事業開始 11 年 5月 医薬品の共同配送開始 平成 昭和 第一貨物の沿革 APRIL 2004 14 はあり得ません。
しかし個別にはそうした話はこれま でもたくさんありました。
経営者同士で検討すること もあれば、第三者が話を持ちかけてくることもある。
表面に出ないだけで水面下ではいろいろなことが既に 起きています」 ――しかし、表立っては動いていない。
「確かに合併や吸収によって規模を確保することは できるでしょう。
しかし、その時には今の第一貨物と は全く違う会社になっている。
それが本当に良いこと なのか。
少なくとも当社の社員にとって幸せなことだ とは思えません」 「また規模を追っても当社が日通やヤマトに届くわ けではありません。
そうではなく当社は事業として成 功すればいい。
経営の理念や目標を実現することは、 単なる勝ち負けより、ずっと崇高なことだと思います。
ごまかしのように聞こえるかも知れませんが、私はそ れが非常に重要だと考えています」 路線ターミナルに新たな注目 ――規模を追わない、アセットも捨てないとなると、 第一貨物は全くオリジナルな業態を開発していかなく てはなりませんね。
「困難な道だと思われるでしょうが、勝算がないわ けではありません。
路線でも区域でもない、第三の道 はあると考えています。
実際、大手とのネットワーク 同士の全面戦争になればひとたまりもない当社のよう な会社でも、局地戦では勝っている。
負けてばかりで はありません」 ――その場合には何が勝因になっているのでしょうか。
「一つは社員です。
私を含めて当社の社風は山形と 切り離せません。
山形の人間は口は上手くないけれど、 とにかく真面目に一生懸命やる。
そんな信頼を当社も いただいている。
実際にそういう仕事を積み重ねてき たつもりです。
単に輸送するだけなく、3PLのよう な包括的なアウトソーシングでは、そうした信頼感が とても重要になります。
そのため営業エリアとして山 形に執着するつもりはありませんが、社風としてはか なりこだわっています(笑)」 ――第一貨物は路線業から3PLへの転換を図ってい ると考えていいですね。
「当社が3PLを目指しているというより、マーケ ットが3PLに向かっているんです。
サードパーティ に一括してアウトソーシングしたいという顧客は間違 いなく今後も増えていきます。
しかも単に輸送だけで はなく、もっと幅広い業務、例えば製品の組み立てま で含めてアウトソーシングできる会社を顧客は望んで いる。
繰り返しになりますが、その時にアウトソーシ ングする先はキャリアでも、フォワーダーでも、ある いは3PLと呼ぼうが顧客には関係ない」 「ただし3PLを実際に利用する時に顧客側で問題 になるのが、市場原理の働かない世界に飛び込んで 良いのかという不安です。
一括して任せることで、3 PL側に主導権を握られることを恐れる。
それに対 して当社側では、何より信頼をいただく必要がある。
その上で、アウトソーシング後も競争原理が働くよ うな仕組みを顧客に代わって考えていかなければなり ません。
いかに緊張感を持って顧客と対峙するかと いうことです」 ――緊張感を維持するための、具体的な仕組みとは。
「そこから先は戦略になってくるので、あまり詳し くは言えませんが、一つは数字を顧客側にオープンに することです。
例えば以前に記事にも取り上げていた だいたマルサンアイさんのケース(本誌二〇〇三年十 二月号)では、当社が儲かっているかどうかまで全部 マルサンアイ本社工場の 作業風景。
第一貨物が全 ての業務を管理している 路線業の終わり トヨタ方式に挑む 第1特集 路線業の終わり 15 APRIL 2004 荷主に知らせています。
コストの明細を全て開示して いる」 ――3PLを展開していく上で、路線業のアセットは 活かせますか。
「実際、路線のターミナルは今、新しい切り口から 顧客に注目されています。
全国にモノを流す必要のあ る荷主の多くが路線ターミナルに目を付けている。
工 場や在庫拠点から大ロットで消費地まで輸送した荷 物を路線ターミナルでバラして、クロスドッキングす るわけです。
それによって在庫を減らすことができる。
それまで各地の納品先の近くに分散させていた在庫を 全国一カ所か、あるいは東西二カ所に集約することが 可能になりますからね」 「しかし、通常の荷主の倉庫はクロスドッキング用 には作られていない。
建物の片側にしかヤードが無い ので、構造的にクロスドッキングには向きません。
そ の点、路線のターミナルはもともと両側にヤードを備 えている。
すぐにでもクロスドッキングセンターとし て使える。
既に当社はそうした案件を手掛けています し、今後はもっと増えてくるはずです」 ――路線の扱う中ロットの貨物は全体としては減る傾 向にあるのでは? 「クロスドッキングで発生する物流は従来の路線や 区域という区分とは違うものです。
先ほど触れません でしたが、路線便に限界が訪れた理由の一つに流通チ ャネルの変化があります。
以前は商店街の単独店で売 られていた商品が、今ではドラッグストアやスーパー、 ディスカウントストア、あるいは郊外のカテゴリーキ ラーなどのチェーンストアにチャネルを移しました。
そして、今やそうしたチェーンストアのほとんどが自 社センターを持っている。
その結果、メーカーや卸と 小売りを結ぶ輸送ロットは大きくなった。
路線便とは 合わなくなったんです」 あえて?逆張り〞に挑む ――なるほど。
確かにそうですね。
クロスドッキング の物流は、工場や在庫拠点から大ロットの貸し切り輸 送でターミナルに入ってくる。
それをバラす段階では 細かな仕分けが必要になるけれど、納品はやはり車両 単位でまとめて輸送することになりますね。
「そうです。
路線のパッケージとは合わない。
しかし 路線のターミナルは、これからの時代にはクロスドッ クセンターとして使われるようになる。
上手く仕組み を作ることができれば路線のアセットは十分使える。
従って市場は一回、路線離れをおこしながらも、再び 路線に戻ってくる。
楽観的にものを考えると、そうな ってくるんです(笑)」 ――路線業者がアセット型3PLとして巻き返すこと になりますね。
「今はアセット型の物流会社にとっては厳しい時代です。
しかしアセット型が全てダメかと言えば、僕は 違うと思う。
今はそうかもしれないけれど、今後の長 いスパンで見た場合、日本では若年労働層が減るので まずドライバーの確保が難しくなってくる。
ましてや、 今行政が検討しているようなトラック用の中型免許が 新たにできるともなれば、輸送能力の確保が再び制約 になる時代が来ないとは限らない」 ――ノンアセット型有利という現在のトレンドとは逆 行しますね。
「確かに僕の選択は弱者の選択であって、いわゆる ?逆張り〞かも知れません。
それでも世の中には逆張 りが正解ということもある。
もちろん独りよがりはい けません。
そのためマーケットに対する感受性は常に 磨いておかないといけないと心しています」

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