ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2013年9号
判断学
第136回デトロイト市破産の問いかけるもの

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

奥村宏 経済評論家 SEPTEMBER 2013  88  廃墟と犯罪の街  アメリカのミシガン州デトロイト市が七月一八日、連邦裁 判所に破産手続をしたことが大きく報道されている。
 デトロイト市の負債総額は一八〇億ドル(日本円にして約 一兆八〇〇〇億円)で、もちろん過去最大の破産である。
 デトロイトは言うまでもなく「自動車の街」で、GMの本 社がある。
その人口は一九五〇年には一八〇万人にも達して いたが、現在は七〇万人を割っている。
こうしてGMの衰退 によって人口が減ったばかりか、犯罪が多発している。
 「廃墟となった住宅、鉄くずが山積みになった工場跡、落 書きだらけの古びたシャッター‥‥。
夜になると、広がるの は暗闇と静けさ。
現在、市内の街灯のうち約四割は壊れたま まで、ともらない。
 至るところにある廃墟からは、しばしば火の手があがる。
保険金目的の放火のほか、焼け跡から銅線などの金属を回収 し、販売する人もいる。
‥‥米誌『フォーブス』から四年連 続で『全米で最も危険な都市』に認定された街の実態だ」  「朝日新聞」(七月二〇日)はデトロイト市の状況をこのよ うに報道しているが、かつて「GMの街」として繁栄してい たデトロイトが今ではこのように全米一の危険な街になって いる。
 そして市の財政は無一文で、一八〇億ドルもの負債を抱え ている。
ところが返済のめどが全く立っていない。
そこで連 邦裁判所に破産手続をしたというわけであるが、これはいっ たい何を意味するのか?  
韮佑箸いΣ饉劼龍叛咾不振に陥ったということが都市の 破壊をもたらし、失業と犯罪の街にしたのだが、会社はその 従業員だけではなく、会社とは全く関係のない人間にも大き な打撃を与える。
 会社とはいったい何なのか、という根本的な問題をこれは 我々に突きつけているのである。
 
韮佑箸いΣ饉  ゼネラル・モーターズ(GM)がアメリカ最大の自動車メ ーカーであることは誰でも知っている。
 今から六〇年も前のことだが、一九五三年、アイゼンハワ ー大統領はGMの社長であったチャールズ・ウィルソンを国 防長官に任命した。
そこで議会はウィルソン社長を喚問した が、その時、ウィルソン社長は「GMにとって良いことはア メリカにとって良いことだ」と証言した。
 当時、GMは自動車を製造するだけでなく、戦車なども生 産していた。
そのGMの社長が国防長官に就任するというの で、国防費をGMにとって都合の良いように使うのではない かという疑いの声が上がった。
 そこで議員たちがそのような疑問をウィルソン社長に突き つけたのである。
それに対してウィルソン社長は「GMにと って良いことはアメリカにとって良いことだ」と証言したの である。
 
韮佑魯▲瓮螢を代表する企業であり、それが儲かるとい うことは、アメリカ国民全体が利益を得ることであるという わけだ。
 このウィルソン社長の証言はのちのちまで語り草になった が、議会ではウィルソン社長の国防長官への就任は了承され、 それに異議を唱える者はいなかった。
 
韮佑箸いΣ饉劼漏式会社であり、それは株主のものだと されてきた。
それが今では株主のものではなく国民のものに なっている、というのがウィルソン社長の主張であるが、い ったいこれは何を意味するのか?  株主が出資して作った株式会社が巨大化して、もはやそれ は株式会社とは言えないような巨大な怪物になっている。
 このような巨大株式会社(ジャイアント・コーポレーショ ン)がアメリカを支配している。
それが二〇世紀のアメリカ の姿であった。
 経営破綻したGMはアメリカ国民の負担によってかろうじて 生き永らえた。
しかし、それが今度はデトロイト市の破産とい う事態を招いてしまった。
第136回デトロイト市破産の問いかけるもの 89  SEPTEMBER 2013  株式会社の危機が招くもの  このGM倒産から四年、今度はデトロイトが破産したのであ る。
そこでGMをアメリカ国民の負担で救済したように、デ トロイト市もアメリカ国民、すなわち連邦政府、あるいはミ シガン州の負担で救済されることになるのであろうか?  会社の倒産は連邦破産法十一条によって救済することがで きるが、デトロイト市の破産を同じようなやり方で救済する ことができるのか?  現在、デトロイト市の破産手続について裁判所で話し合わ れているが、その見通しは立っていない。
それというのも、 仮にデトロイト市の負債を免除したとしても、デトロイト市 が正常な状態に戻ることは考えられないからである。
 一民間企業の経営破綻が市の破綻を招く、ということは、 ひいては国の破綻を招くことになりかねないということでも ある。
 日本では今東京電力という会社が事実上、経営破綻してい る。
福島第一原子力発電所の事故で東京電力は巨額の損害賠 償を迫られており、それを支払う能力がない。
 そこで普通なら東京電力は倒産しているはずだが、それを 国民の負担で肩代わりしているのである。
 もし、GMの場合のように東京電力が倒産していたなら、 それは日本国民の負担で救済するということになるが、事実 上、それと同じことが行われているのである。
 
韮佑療飮困デトロイト市の破産を招いたように、東京電 力の倒産がすぐに日本国の破産を招くということにはならな いが、しかし日本国民の負担という点に変わりはない。
 二〇世紀は巨大株式会社の時代であったが、二一世紀は巨 大株式会社が危機に陥り、それを国民の負担で救済しようと している。
 それが何を意味するか、ということをデトロイト市の破産 は我々に問いかけているのである。
 国民の税金で救済  ところが、そのような巨大株式会社であるGMが行き詰ま って危機に陥った。
 二〇〇九年六月一日、GMは裁判所に対して連邦破産法 第十一条の適用を申請した。
その負債総額は当時の日本円に して一六兆円で、もちろんアメリカ最大の倒産である。
 この連邦破産法第十一条というのは、日本の会社更生法の 基になった法律で、裁判所がこの適用を認めると、債権者は 債権を放棄させられ、そして株主は減資によって損害を受け るが、会社は減資した後、改めて増資することによって立ち 直っていくというものである。
 そこでこの倒産は破産とは異なるというわけだが、GMも この法律の適用を受けたために減資した後、増資した。
 その増資に応じて出資したのがアメリカ連邦政府とカナダ 政府、そして全米自動車労組(UAW)などで、そのうち アメリカ連邦政府の出資分は全体の六〇・八%であり、事実 上、これによってGMは国有化された、というわけである。
 こうしてGMの株式は上場廃止となったが、その後、二〇 一〇年十一月に再上場され、その際、アメリカ連邦政府所有 株式が放出され、これによってGMは再び元の株式会社に戻 った。
 しかし、これはアメリカ連邦政府の負担、ということはア メリカ国民の負担によってGMが救済されたということを意 味する。
 同じことはクライスラーについても言えるのだが、アメリ カのビッグ・スリー自動車会社のうち、フォードを除く二社 がアメリカ国民の負担で救済されたのである。
いったいこれ は何を意味するのか?  二〇世紀は巨大株式会社の時代であったが、二一世紀はそ れが危機に陥り、アメリカ国民の負担でかろうじて生き延び ているということなのである。
おくむら・ひろし 1930 年生まれ。
新聞記者、経済研究所員を経て、龍谷 大学教授、中央大学教授を歴任。
日本 は世界にもまれな「法人資本主義」で あるという視点から独自の企業論、証 券市場論を展開。
日本の大企業の株式 の持ち合いと企業系列の矛盾を鋭く批 判してきた。
近著に『会社の哲学 会 社を変えるために』(東洋経済新報社)。

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