ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2013年9号
中国鉄道コンテナ輸送
第3回 コンテナ海鉄連運の現状と今後の展開 福山秀夫 (公財)日本海事センター 海事図書館長

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SEPTEMBER 2013  94 由する外国貿易の輸送はリードタイムが長く、 コストも掛かる。
 そこで中国政府の発展戦略として展開され てきたユーラシア・ランドブリッジ(全てを海 上輸送によらず経由地の陸上輸送は鉄道で行 う国際的な陸路輸送方式)と呼ばれる中国鉄 道と中央アジア諸国の鉄道による、欧州や中 央アジア向けの新たな輸送ルートの開発が、地 方政府などにより強力に推進されている。
二 〇一二年十二月には新疆とカザフスタン国境 で、新しいホルゴス国境駅の運用が開始され るに及び、新ルート開発 【3】 に弾みが付いた。
 旧鉄道部は、海鉄連運とユーラシア・ラン ドブリッジで増大するコンテナの処理に対応 するため、「一八カ所鉄道コンテナセンター駅 (コンテナ物流センター)」整備戦略を早くか ら打ち出してきた。
 二〇〇六年の昆明コンテナセンター駅の開業 に始まり、二〇一〇年には九カ所目となる西 安コンテセンター駅が開業するに至り、それら の各駅が基点となる新ランドブリッジサービス が形成され、大きな効果を発揮し始めている。
 筆者らはそれらの情報の収集および、これ までの研究の裏付けを得るために、二〇一三 年二月二一日〜二七日にかけて、北京・鄭 州・青島を調査した。
本稿ではこの調査結果 を踏まえて、中国鉄道コンテナ輸送と海上コ ンテナ輸送を結ぶ海鉄連運と、ユーラシア・ ランドブリッジ輸送を二つの核として、一八 カ所コンテナセンター駅整備を急ぐ中国政府 中国政府の進める鉄道輸送戦略  二〇一三年三月に鉄道部が解体 【1】 されるま で、中国では港湾を経由する海上コンテナの 水運やトラック輸送などの内陸輸送を交通運 輸部が管轄し、鉄道輸送は旧鉄道部が管轄し ていた。
この二つの国家機関が最適な内陸輸 送を求めて戦略として取り組んだのが鉄道コ ンテナ輸送である。
 交通運輸部には、世界最大規模の海上コン テナ量を取り扱うことのできる最適な内陸輸 送インフラの構築が課題とされており、一方 の旧鉄道部には、経済発展に伴い増大する一 般貨物に対応した最適な鉄道輸送インフラの 整備が課題とされていた。
これらの二つの課 題を同時に実現し、経済発展の新たな起爆剤 となると考えられたのが、鉄道コンテナ輸送 であった。
 二〇一一年五月十一日、交通運輸部と旧鉄 道部は、「鉄水連運発展合作協議の共同推進 について」という協定を提携し、協同して海 鉄連運に政府の戦略として、本格的に取り組 むことを宣言した。
ちなみに交通運輸部では 海上コンテナを鉄道で輸送することを「海鉄連 運」と呼び、旧鉄道部では「鉄水連運」と呼ぶ。
 近年、上海・深圳などの中国沿海部の人件 費の高騰や製造コストの増加、中国政府の中 西部の開発振興政策 【2】 など受けて、外資の内 陸部シフトが進行している。
しかし、内陸か ら一〇〇〇?以上離れた上海港や深圳港を経 福山秀夫 (公財)日本海事センター 海事図書館長 コンテナ海鉄連運の現状と今後の展開 中国鉄道コンテナ輸送 《第3回》  中国物流研究会は今年2月、訪中調査団を 組織し、中国の鉄道コンテナ輸送のオペレーシ ョンを一手に担う中鉄コンテナ輸送社、旧鉄 道部傘下の鉄道科学研究院、交通運輸部傘 下の水運科学研究院などを訪問して、中国に おける鉄道コンテナ輸送の見通しと将来性につ いてヒアリングを行った。
その概要を紹介する。
福山秀夫(フクヤマ ヒデオ)  1955年生。
熊本県出身。
1991年日本郵 船入社。
2004〜08年日本郵船北京事務所 長。
北京在職中の05年に中国物流研究会に 参加。
11年4月より(公財)日本海事センター 海事図書館長。
11年10月、日本海事新聞に 「海上コンテナ輸送と連携する中国鉄道コン テナ輸送の発展−海側からみる中国鉄道コン テナ輸送」を、12年10月に日刊CARGOに「中 国鉄道輸送の最新状況とその方向性」をそ れぞれ執筆し、今回の調査プランを立案した。
PROFILE 【1】2013年3月の全国人民代表大会で鉄道部が解体され、行政部門は「鉄道管理総局」として交通運輸部に吸収され、実際の鉄道運行を担 う現業部門・営業部門などは、国有資産監督管理委員会の管理下に置かれ、国有企業「中国鉄路総公司」として再出発した。
95  SEPTEMBER 2013 を実質的に支えるネットワーク戦略が、一八 カ所コンテナセンター駅整備戦略である。
 海鉄連運戦略とランドブリッジ輸送戦略、 その二つを支える一八カ所コンテナセンター駅 整備戦略が、中国鉄道輸送の在り方を変えよ うとしている。
 海鉄連運の最大の眼目は、年間一億TE U以上に上る港湾コンテナ取扱量の鉄道によ る輸送を欧米のように港湾取扱量の二〇〜三 〇%程度に増やすことである。
 これに対して二〇一一年の中国全港湾取扱 量は一・六四億TEUで、海鉄連運量は一 九四万TEUであった。
シェアは一・一八% にすぎない。
二〇一二年は一・七七億TE Uで海鉄連運量は二〇二万TEU。
シェアは 一・一四%である 【4】 。
 目標のシェア二〇%は二〇一二年だと三五 四〇万TEUである。
この規模はコンテナ港湾 取扱量世界一を誇る上海港の二〇一二年の年 間取扱量に相当し、日本全港湾のコンテナ取 扱量(一七二八万TEU) の約二倍に当たる。
 中国の鉄道コンテナ輸送は、旧鉄道部傘下 の中鉄コンテナ輸送社(中鉄集装箱運輸有限 公司、China Railway Container Transport Co., Ltd =CRCTC)が一手に引き受けて おり、国際規格のコンテナ輸送サービスを行 っているが、海鉄連運量は急速には増えてな いのが現状である。
 貿易構造が輸出を中心とした加工貿易型構 造となっていること、産業や人口の地理的配 の物流戦略について述べたい。
中国鉄道コンテナ輸送の特異性  これまで、中国鉄道輸送の現代化の課題と して、?定時性の確保、?ドア・ツー・ドア サービスの実現、?輸送サービス品質の向上─ ─が挙げられてきた。
そして、この三つの課 題の全てを実現できる輸送形態が鉄道コンテナ 輸送であるとの認識が現在は定着している。
 港湾地区には大量の内外貿コンテナ貨物が 集まる。
それらを効率的かつ低コストで鉄道 によって運ぶために、最適でシームレスなリ ンケージ体制の構築が、鉄道輸送の現代化を 達成するための解決策として推進されている。
 現在、その最大の焦点となっているのが、 海鉄連運という海上輸送と鉄道輸送の連携戦 略である。
そして、その海鉄連運の大量輸送 置が沿海部に偏っていることなどから、コン テナ貨物の輸送は港湾周辺の三〇〇〜四〇〇 ?圏内が八〇%強を占めており、これらの輸 送にはトラックを利用するのが一般的である。
鉄道輸送を利用する貨物は港湾と中西部地区 間の中長距離輸送貨物となっており、その量 はまだ少ない 【5】 。
 なお、西部の内陸地域は、ロシア・モンゴ ル・カザフスタン・キルギスタン・タジキス タンなどと接しているため、これらの外貿貨 物が港湾経由で中国国内を通過する際の長距 離輸送が、現状では主な海鉄連運貨物となっ ている。
 中国の鉄道コンテナ輸送は、海鉄連運輸送、 ランドブリッジ輸送、海鉄連運とランドブリ ッジ輸送を結合した中国通過貨物輸送、お よび内貿コンテナ輸送の四つから構成される。
北米大陸や日本とは異なる複雑な複合一貫輸 送システムとなっているところに、中国鉄道 コンテナ輸送の特異性がある。
低成長の要因と今後の展望  二〇一一年五月一〇日に交通運輸部と旧 鉄道部が締結した「鉄水連運発展合作協議の 共同推進について」という協定に続いて、同 九月二六日には「コンテナ鉄水連運モデルプ ロジェクトの通知」が共同公布され、中国政 府の第十二次五カ年計画期中に取り組むべき 海鉄連運発展モデルプロジェクトとして、以 下の六つのルートを選定した。
交通運輸部水運科学研究院との面談  2013年2月筆者撮影 【2】2000年から開始された「西部大開発」や2006年から開始された「中部崛起」のことを指す。
【3】これまでのユーラシア・ランドブリッジは、阿垃山口(アラシャンコウ)を使用していたが、滞貨がひどく、新しい国境駅が求められて   いた。
ホルゴス国境駅は、ユーラシア・ランドブリッジの新国境駅として、期待されている。
【4】「中国物流発展報告」2012-2013(中国財冨出版社)124頁、131頁。
【5】「中国海鉄連運発展」交通運輸部水運科学研究所作成2013/2/22付資料13ページ(2013年2月訪中時配布資料) 中国鉄道コンテナ輸送  すなわち?大連─東北地区、?天津─華 北・西北地区、?青島─鄭州・隴海線地区、 ?連雲港─阿垃山口沿線地区、?寧波─華 東地区、?深圳─華南・西南地区──の六 ルートである 【6】 。
コンテナ貨物の多い巨大港 を中心とした取り組みとなっている。
 このうち大連港・天津港・青島港・寧波 港・深圳港の五港は、コンテナセンター駅の 建設対象港であり、現時点で既に、大連港・ 青島港ではコンテナセンター駅が営業を開始 している。
 筆者らは、海鉄連運の専門的研究機関であ る交通運輸部水運科学研究院を訪問し、調 査を行った。
彼等は現時点で既に一応の目鼻 が付いた三大コンテナ海鉄連運ルートとして、 以下の三ルートを挙げた。
?大連港・営口港を海鉄連運の重要港とし、 東北地区の瀋陽、長春、哈爾濱の三省都 および延吉・通遼・満州里などの都市と税 関を連携する海鉄連運ルート。
?天津港を海鉄連運の重要港とし、華北地区 の太原・呼和浩特の二省都、西北地区の 西安・烏魯木斉・銀川、西寧の四省都お よび包頭・侯馬・呼和浩特、阿垃山口など の都市と税関を連携するコンテナ海鉄連運 ルート。
?連雲港港、青島港を海鉄連運港の重要港 とし、隴海線、蘭新線に沿って、阿垃山 口に至る中央アジア地区の新アジア・欧州 行える複合一貫輸送業者の育成・支援、海 鉄連運に見合った運賃体系の整備などが、喫 緊の課題となっていることを明らかにした。
 先述のように海鉄連運の港湾取扱量に対す るシェアは現状では二%未満であり、急速に 成長しているとは言えない。
水運科学研究院 によると、海鉄連運の発展が緩慢である原因 として次の五つを挙げている。
?根本原因として、中国の総合的な交通運輸 体制メカニズムが欠落していること ●交通運輸業の管理が、輸送モード別管理に なっており、地域別管理・部門別管理・ 行政部門別管理とばらばらの管理になって いる。
●海鉄連運の各種の関連企業や輸送モードの 企業が、市場競争にマッチングしない組織 やメカニズムを持っているため、市場メカ ニズムが十分に機能していない。
?制約要因として、輸送能力が決定的に不足 していること ?阻害要因として、科学的計画とシステムが 欠落していること ●港湾・道路・鉄道システムのシームレスな 連携化が、管理部門が異なるためできてい ない。
?海鉄連運の競争力を弱めている原因として、 港湾─鉄道─ドアまで一貫して運ぶ複合輸 送専業企業が成熟していないこと ?経済的制約要因として、東中西部地域の ランドブリッジ(新ユーラシアランドブリッ ジ)のコンテナ海鉄連運ルート(国内区間 は、西安・蘭州・烏魯木斉の三省都を通 過する)。
 これらは先の海鉄連運発展モデルプロジェ クトで挙げられた六ルートのうちの四ルート をカバーしており、いずれもランドブリッジル ートである。
この三大ルートの海鉄連運量だ けで全国の海鉄連運量の約七〇%を占めると いう 【7】 。
海鉄連運が現時点ではランドブリッ ジサービスのような長距離サービスにかなり 依拠していることが伺える。
 また水運科学研究院は、今後、海鉄連運 を拡大するためには、ITプラットホームの 建設、鉄道と港湾のシームレスなリンケージ の構築、港湾─鉄道─ドアまでのサービスを SEPTEMBER 2013  96 鄭州鉄道コンテナセンター駅のインテリジェントゲート 2013年2月筆者撮影 【6】「中国海鉄連運発展」交通運輸部水運科学研究院作成2013/2/22付資料3ページ(2013年2月訪中時配布資料) 【7】「中国海鉄連運発展」交通運輸部水運科学研究院作成2013/2/22付資料7ページ(2013年2月訪中時配布資料) 拡大し、続いて南北地域の内貿海鉄連運およ び沿海地域の中短距離の内外貿海鉄連運へと 拡大していき、時間は掛かってもいずれは欧 米レベルに到達すると見ている 【8】 。
 そして対応策となる旧鉄道部や交通運輸部 の重点任務を次のように挙げている。
?海鉄連運のためのインフラ設備の完成 ?海鉄連運のリーディングカンパニーの形成 ?海鉄連運の市場化レベルの引き上げ ?海鉄連運の市場の育成 ?海鉄連運の技術レベルの引き上げ ?モデルプロジェクト実施による海鉄連運全 体の水準向上 ?海鉄連運の持続可能な発展の促進など  抽象的で分かりにくい点もあるが、要はハ ブとなる一八カ所コンテナセンター駅や地方の コンテナ取扱駅の整備、港湾施設とのリンケ ージ、輸送能力の引き上げに努力する一方で、 海鉄連運実現のための組織、団体、フォワー ダーの育成を行い、コンテナ貨物を増加させ るような市場競争原理を導入・強化すること で持続可能な発展を促進していこうというこ とである。
ダブルスタックトレイン導入に暗雲  ところで、北米大陸では、西海岸から東海 岸へ鉄道輸送する際に、コンテナを二段積み して輸送するダブル・スタック・トレイン(D ST)が多く利用されている。
米国の大陸鉄 道会社の経営危機を救ったのが、海運企業と 提携して運行するDSTであったとされる。
 中国の旧鉄道部もそれを参考にして、海鉄 連運のコンテナ専用定期列車へのDSTの導入 を推進してきた。
〇四年に北京─上海、〇七 年には鄭州東─青島でサービスを開始している。
 さらに二〇二〇年までに南北方向に四ライ ン(北京─哈爾濱、北京─上海─深圳、北 京─南昌─広州─深圳、蘭州─重慶─貴陽 ─広州)、東西方向に四ライン(青島─石家 庄─武威、連雲港─鄭州─西安─烏魯木斉、 上海─武漢─成都、上海─桂州─六盤水)を 追加整備する計画を発表している。
 しかしながら、今回の調査でCRCTCは、 DSTの整備が頓挫していることを明らかに した。
電化を推進してきた路線ではレールか ら電線までの高さが六・〇mしかないことが 主な原因だ。
四〇フィートを二段積むと六mを 超えてしまう。
しかし、DSTに合わせて鉄 道を改修しようとすれば高額な費用が掛かる。
 一方、四〇フィート型と二〇フィート型の 組み合わせであればクリアできるが、その場 合には下段が二〇フィート二個、上段が四〇 フィート一個の積み方が適切とされており、こ れらの貨物をタイミング良く集めるのはかなり 難しい。
そのためDSTの整備には慎重にな らざるを得ないとの結論に達しているとのこ とだった。
DSTを鉄道輸送の切り札にする ことは、現時点では困難であるようだ。
産業構造・経済規模が、海鉄連運の規模 を成長させるほどに、コンテナ化貨物を生 み出し得ていないこと  沿海港湾と中西部地域間の中距離コンテナ 輸送では、実際には鉄道がコスト的に優位で あることは明確であるものの、中西部地域の コンテナ積みに適する貨物が不足している。
 鉄道部解体はこれらの五つの要因をかなり 解消するのではないかと期待されるが、今後 は鉄道総公司だけの問題ではなく、交通運輸 部全体の問題となる。
新たに起こる改革をじ っくりと見ていきたい。
 水運科学研究院は今後の展望として、コン テナ海鉄連運は現状で比較的高い海鉄連運量 を維持している東部地域から中西部地域へと 97  SEPTEMBER 2013 北京大紅門コンテナ取扱駅のダブルスタックトレインの台車 2013年2月筆者撮影 【8】「中国海鉄連運発展」交通運輸部水運科学研究院作成2013/2/22付資料16ページ(2013年2月訪中時配布資料)

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