ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2013年10号
現場改善
第127回 中規模通販会社G社の物流再構築

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

89  OCTOBER 2013 売り上げ倍増で問題が顕在化  
納劼惑商約十二億円の通販会社である。
貴 金属製品とビジネス雑貨を中心に約三万アイテ ムを取り扱っている。
神奈川に本社ビルを所有 し、当初はその一部で物流も運営していた。
そ の後、物量の増加に伴い隣接するビルを購入し、 物流センターとして使用するようになった。
 通販業は物流のローコスト化と高付加価値化 が鍵になる。
不十分な管理体制は過剰在庫や 欠品の多発も引き起こす。
しかし、スタートア ップ期から物流を設計できている企業は少ない。
多くは坪単価の割高なオフィス併設型の物流セ ンターで、見よう見まねの自主運営で業務を開 始する。
G社もそうであった。
 この二年でG社の売り上げは倍増し、物量の 拡大に作業が追い付かなくなってきた。
本格的 に物流体制を整備する必要に迫られ、我々日本 ロジファクトリー(NLF)がそのサポート役を 務めることになった。
 
納劼料觚である商品管理部の物流担当責任 者と女性アシスタントの二人を相手に打ち合わ せを行った。
いずれも若い。
しかも、彼等は商 品の入荷から保管、出荷、配送手配という流れ を、商品管理の側面からとらえているため、物 流用語が通じない。
打ち合わせの最初の三〇分 はなかなか話が噛み合わなかった。
 それでも何とか実態を聞き出していったとこ ろ、彼等は次の二点を問題視していた。
一つは 伝票の種類が多過ぎること。
もう一つは出荷検 品の精度が落ちていることである。
ただし、い ずれも数値化して把握しているわけではなく、 感覚的な判断だった。
そしてG社としては以下 の対策を考えているという。
●入荷検品と格納に使用しているハンディ端末 (HHT)を出荷検品にも活用する。
スキャ ンしたコードを元にHHTに商品画像を映し 出し、実際にピッキングした商品と照合して 確認できるようにする。
●出荷伝票および納品書のレイアウト変更。
●伝票番号と運送番号をひも付けて、ユーザー からの問い合わせにスムーズに対応できるよう にする。
●在庫管理精度を上げる。
 いずれもシステム投資が可能であればクリア できる内容であった。
しかし、その投資効果を 事例で学ぶ 現場改善 日本ロジファクトリー 青木正一 代表  中堅の通販会社からコンサルティングの依頼が入った。
本 社併設の物流センターで自社運営を続けてきたが、この二年 で売り上げが倍増し、オペレーションが追い付かなくなりそ うだという。
現場を見て素人運営であることはすぐに分か った。
物流機能の整備に本腰を入れないと通販会社として 飛躍するのは難しいだろう。
中規模通販会社G社の物流再構築 第127 回 OCTOBER 2013  90 判断するには、作業品質や生産性、センターコ ストに占める人件費の比率などのKPI(重要 業績評価指標)を把握する必要がある。
 また、このヒアリング段階でG社の物流には明 確な作業フローや運営ルールがなく、日々、人 海戦術による対応を繰り返していることが判明 した。
これを受けて我々はシステム投資の前に、 現場運営の最適化が不可欠であることを強く訴 えた。
 その後、本社に隣接した物流センターに場所 を移し、現場を確認した。
四階建てでワンフロ ア当たり約三〇〇坪の延べ床一二〇〇坪。
貨物 用エレベータが一基設置されていた。
築三〇年 以上で柱が多く、レイアウトの制約になってい ることがうかがえた。
 現状では空きスペースが発生しているが、現 在の調子で売り上げが倍々ゲームで増えていけ ば二年も経たずにキャパオーバーになるだろう。
貨物用エレベータも二基は欲しいところだ。
一 基では作業のボトルネックになってしまう可能 性が高い。
 現場のオペレーションにも多くの課題があっ た。
一回りして気になった点をランダムに挙げ ると以下の通りである。
●ロケーション、レイアウトが無作為に設定さ れている。
そのため作業動線が長い。
●何がどこに保管されているのか、一部の熟練 したスタッフにしか分からない状況になってい る。
●スタッフの多くは正社員でパート比率が低い。
●庫内が暗い(照度が低い)。
 他にも整理整頓の不徹底など、商品管理の側 面からも問題になるような課題も多かった。
在 庫の管理精度が低いことは明白であった。
実棚 卸の頻度を聞いたところ年に二回だという。
月 一回の循環棚卸しに、すぐに変えるよう稟議を 上げたほうがいいとその場で伝えた。
余分なスペースは使用禁止に  先述のシステム開発については、我々NLF を含むプロジェクトメンバーで、システム開発 会社に提出する要件書をまとめることになった。
その際に我々は、ピッキングリスト、送り状、納 品書を一枚にまとめた「一体帳票」の利用を薦 めた(写真1)。
作業プロセスごとに、ミシン 目の切り取り線に添ってリストをちぎっていく。
シンプルなツールだが、手間を掛けずにミスな く送り状貼りまで処理できる。
 これと並行して次の六点をテーマに掲げて改 善活動に取り組むことになった。
?作業フローの作成 ?現場運営ルールの決定 ?ロケーション/レイアウトの見直し ?六つの「ない」の実践 ?HHTを活用した作業精度の向上 ?ビジュアル化を含めた誰もが分かる現場化  「?作業フローの作成」はタイムスケジュール管 理がポイントであった。
現場では仕入先からの入 荷が五月雨式に終日続いていた。
その都度、庫 内スタッフが入荷検品、格納を繰り返していた。
これを改め「入荷は午前中」というルールを仕 入先に徹底させた。
それを前提に、出荷までの 一連の庫内作業のタイムチャートを作成してボー ドに張り出し、進捗を管理する体制に変更した。
 この改善を通じて、低いパート化率が浮き彫 りになった。
現場作業の半分を正社員で処理し ている。
社員には作業ではなく判断を必要とす る業務をさせなければもったいない。
そこでパ ート化率を九〇%まで上げるという目標を立て た。
パート数を増やして、社員の一部は物流管 理に回す。
他はカスタマー部門等に異動させる。
成長企業であるため人手を欲しがっている部署 はいくらでもある。
 「?現場運営ルールの決定」については、朝礼 の実施、勤務シフトの提出など、報告・連絡・ 相談に関する基本的なルールづくりが主となった。
一体帳票(サンプル) 91  OCTOBER 2013  「?ロケーション/レイアウトの見直し」は、作 業動線の短縮が狙いである。
多層階の利用法に 問題があった。
最も動線が短い一階を輸入品の 備蓄保管に使用していた。
長期在庫分を上層階 に移し、一階は入出荷作業に必要なスペースの ほかに、最も回転率が高い「SAランク」の商 品を保管することにした。
 当面必要としないスペース、具体的には最上 階の四階は全面使用禁止にした。
そうしないと、 ついつい借り置きや保管棚を置いてしまうよう になるからである。
その結果、動線が長くなる。
間延びしたロケーションに慣れてしまうと在庫 量やアイテムが増えた時に棚を圧縮することも できなくなる。
「これ以上入りません」「そんな には置けない」という思い込みが染みついてし まうのである。
これはG社以外の現場でもよく 見られる現象である。
 フロア内の動線も見直した。
それまでは貨物 用エレベーターの出し入れの方向に対して垂直 に保管棚を設置していた。
そのため棚の向こう で作業しているパートの姿が見えず、動線も長 くなっていた。
保管棚をエレベーターの搬入ラ インと平行の向きに並び替え、他の保管棚は壁 面に設置することとした。
その結果、?一筆書 き?の動線が完成し、保管効率もアップした。
 「?六つの『ない』の実践」とは、「待たせな い・持たせない・書かせない・探させない・歩か せない・考えさせない」作業方法の構築である。
 
納劼慮従譴蓮△海凌慎佞任△辰拭
従来か ら棚番地こそ設定されていたが、ゾーン、スト リート番号は皆無で、どこまで行けばその番地 (棚)があるのか分からない。
ピッキング方法は アイテムごとに総量をピッキングして後から仕 分けるトータルピッキングだが、作業動線を示 す矢印がないため庫内を右回りするのか左回り なのかも分からない。
作業や保管の良い例、悪 い例の注意喚起もない。
ベテランにしか作業で きない現場であった。
 対策として二台のハンドリフトを購入、ショ ッピングカードを流用してピッキングカートとし て利用し、トータルピッキングを摘み取り式の オーダーピッキングに変更した。
 「?HHTを活用した作業精度の向上」はシ ステム開発会社のメンバーを加えて改善に当た った。
従来は入荷〜格納までのハンディ活用に 止まっていたが、これをピッキング時と出荷検 品時にも利用できるようにパッケージソフトの カスタマイズを進めた。
 「?ビジュアル化を含めた誰もが分かる現場 化」は、パート化率を上げるには不可欠の課題 であった。
一人前のパートができる仕事を一〇 〇として、作業初日でも二〇はできるようにす ることをまずは目指した。
そのための作業のビ ジュアル化を?誰もが分かる?という言葉で表 現し、A3版のラミネートに作業方法を明示し たツールを作成した。
ミス率一〇万分の一を当面の目標に  こうして、現場運営の最適化に向けてテーマ を設定し、段階的に改善を進めていった。
当初 は六カ月でスケジュールを組んでいたが、シス テムの修正作業などに時間が掛かり、おおよそ 一〇カ月を費やすことになった。
 また途中、システム開発費用の稟議が下りず、 どうなることかと心配されたが、投資対効果の シミュレーションを改めて精緻に落とし込み、品 質向上のメリット等の小項目まで挙げることで 何とかOKを取り付けた。
 現在、G社の物流は正常かつ順調に機能して いる。
生産性は一人一分当たりのピッキング行 数で四行を目標に置いている。
現在の実績値は 三・二行である。
 品質は一〇万分の一(九九・九九九%)の精 度を将来的な目標に掲げ、当面は誤出荷率と在 庫差異(数量と金額の両面)をそれぞれ一万分 の一(九九・九九%)にすることを目指してい る。
実績はいずれも九九・九二%で未達ではあ るが、改善の手応えと施策は見えており、三カ 月以内には目標を達成できそうだ。
 しかし、筆者に言わせれば通販業は物流業だ。
オペレーションの改善にとどまらず、拠点の規 模や立地、運営体制まで含めたロジスティクス の再検討をG社に進言するつもりである。
あおき・しょういち  1964年生まれ。
京都産業大学経済学部卒 業。
大手運送業者のセールスドライバーを経 て、89年に船井総合研究所入社。
物流開発 チーム・トラックチームチーフを務める。
96 年、独立。
日本ロジファクトリーを設立し代 表に就任。
現在に至る。
主な著書に『経営 のテコ入れは物流改善から』(明日香出版社)、 『物流のしくみ』(同文館出版)などがある。
HP:http://www.nlf.co.jp/ e-mail:info@nlf.co.jp PROFILE

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