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OCTOBER 2013 98
国交省は前年度比一六%増
今年八月三〇日、二〇一四年度予算に対する各
省庁の概算要求が出揃った。 その総額は九九・二兆
円と過去最大に上る。 アベノミクスが一定の成果を
挙げているという認識の下、各省庁が軒並み強気の
要求を行った結果である。
ただし、今後は国際公約である収支改善に努め、
年末に行われる予算編成の過程で減額がなされるも
のと思われる。 各省庁の要求額をどこまで抑えられ
るか、その動向に注目が集まっている。
財務省は、政策で柔軟に増減できる裁量的経費と
呼ぶ既存経費を、一〇%カットするよう求めている。
その上で、カットした金額の三割を上限に、優先枠
(優先課題推進枠)への追加要望を認めている。 本
年度の予算では、裁量的経費は十三・二兆円、成
長戦略、防災、地域活性化などにつながる予算の優
先枠は約三・六兆円となっている。
国土交通省(以下、国交省)の概算要求を見ると、
一般会計総額は一三年度当初予算比一六%増の五
兆八五九一億円であった。 この予算の大半を占める
公共事業関係費は、同一七%増の五兆一九八六億
過去最大規模となった概算要求
縦割り行政のままでは
削減インセンティブは働かない
来年度予算の概算要求が総額一〇〇兆円に迫った。
しかし、施策の中身を見ると疑問符の付くものばか
り。 概算要求は真に必要な予算を積み上げた結果で
あるべきだが、各省庁の念頭には昨年度より多くの
予算を確保することしかない。 大幅な権限を有する
内閣府直轄の組織を設けなければ、この流れに歯止
めは掛からない。
第31回
円、道路整備は一兆二〇二六億円、港湾空港鉄道
等は四〇九六億円、ダムなどの治水は六七六三億円
である。 ちなみに、優先枠の要求が全省庁の中で最
も大きかったのが国交省であった。
国交省は、来年度予算の概算要求の基本方針とし
て、「我が国がデフレからの早期脱却を図り、防災
対策、強い経済、暮らしの安心、地域の活性化等を
実現していく上で重要な予算である」としている。
その上で三つのキーワードを掲げている。 「真に必
要な公共事業予算の確保」、「成長をもたらすストッ
ク効果の早期実現」、「総合力の発揮」である。 具体
的な内容としては、
(1)
東日本大震災からの復興加速、
(2)
国民の安全・安心の確保、
(3)
経済・地域の活性
化──を掲げている。
これに先立ち、国交省は「国土交通省重点政策」
を発表している(図参照)。 概算要求の内容と重な
る表現が多く、今回の概算要求の根本には、この重
点政策が敷かれていることが分かる。
実際の金額を見ると、前述したように、公共事業
関係費は前年度比一七%増の五兆一九八六億円と
なっている。 治水、道路整備、新幹線なども、揃っ
て同一七%増の水準を要求している。 裁量的経費を
一〇%削った後、上限の三割を優先枠で求めた結果、
いずれも一七%増となったわけだが、こうもきれい
に並ぶと、いずれの内容も本当に一七%増が必要な
のか疑問が生じる。 概算要求は本来、真に必要なも
のを積み上げていった結果として決定すべきである。
選別が十分なされていないのではないか。
こうした中、象徴的なニュースが流れた。 「本四
高速、出資打ち切り 国交省単独での債務返済断
念(日本経済新聞八月二六日夕刊)」である。 国交
省は、本州と四国を結ぶ高速道路の運営会社への出
資を一三年度で打ち切るというもので、要は来年度
予算の概算要求に盛り込むことを見送ったという内
容である。
国交省は同高速の債務返済を支援するため、これ
まで地元の地方自治体とともに運営会社に毎年出資
をしてきた。 ところが地方自治体が財政難を背景に
出資の継続に難色を示し、国交省もその流れに足並
みを揃えたというわけである。 地方自治体も国交省
も、同高速単独での債務返済や経営再建の展望が今
さらながら描けなくなったわけで、ずさん極まりな
い一連の道路整備プロジェクトの結果に驚かされる。
こうなることは目に見えていた。 中国地方と四国
物流行政を斬る
産業能率大学 経営学部 准教授
寺嶋正尚
99 OCTOBER 2013
地方を結ぶ橋は、現在三本ある。 香川─岡山間(瀬
戸大橋)、徳島─兵庫間、愛媛─広島間である。 高
知を除く四国三県が、いずれの県も他県を通ること
なく、自分の県から直接中国地方に向かうことを主
張した結果と容易に想像できる。
建設前から各種団体が、中国地方と四国地方にか
かる橋は一本あれば十分とする中、どんどん建設を
進めたのである。 日本は人口減少社会に突入してい
る。 中でも地方における傾向は顕著だ。 利用者の増
加は期待しづらいことが、なぜ分からなかったのだ
ろうか。 これら三本の橋の建設に要した費用は三兆
円規模に上り、さらに毎年高速道路の維持費用も掛
かっている。 高速道路がある以上、維持費用は未来
永劫支払っていかなければならない。
その結果、馬鹿げた解決策が検討されている。 現
在、旧日本道路公団系の東日本、中日本、西日本
の高速道路三社の債務は一括管理されているが、こ
れに本四高速の債務を統合し、三社の料金収入の一
部を、本四高速の債務返済の原資に回そうというも
のである。 東名高速やら関越やらを利用した料金が、
本四高速道路の債務返済に回されるのである。
もちろん高速道路は公共性を有するものであり、
地方切り捨ての考えがあってはならない。 しかし、
一本の橋の建設で足りるところを三本も建設し、そ
のツケを他の地域に住む人々に回すということは許
されるのだろうか。 これまでの経緯と今後の方針に
ついて、厳密な説明が行われて当然だろう。 この本
四高速の事例は、何も特殊ではない。 こうした話は
今後、次々に出てくるだろう。
概算要求の前にグランドデザインを
今回の概算要求を見ると、道路整備のほか、空
港・港湾などインフラ整備に多額の要求がなされて
いる。 羽田空港の滑走路延伸、成田空港の格安航
空会社(LCC)専用ターミナルの整備、既に着工
している整備新幹線の建設費、京浜港や阪神港とい
った大規模港湾への集貨や近隣の物流施設の機能向
上のための費用等である。
一つ一つを見ると、いずれも必要経費のように思
えてくる。 しかし惑わされてはいけない。 本稿でも
何度も述べてきたが、例えば羽田空港と成田空港の
重複投資一つを見ても、いずれ火を噴く問題である。
前述したように、これから日本はますます人口が減
少していく。 それが足枷となり、経済の成長もさほ
ど期待できない。 人の流れも、物の流れも、大幅増
が期待できるわけではない。
そうした中で、成田空港も羽田空港も機能拡充
に走っている。 羽田空港の滑走路を延伸すれば、こ
れまで成田を利用していた航空会社が羽田にシフト
し、成田空港の稼働率が下がるデメリットはないの
か。 LCCの専用ターミナルを成田に作るというが、
羽田空港のLCC専用ターミナルの充実を図るほう
が望ましいという可能性はないのか。 疑問だらけだ。
道路にしても、本四高速だけでなく、現在、各地方
で計画しているような高速道路網を作る必要はある
のかなどを再考しなければならない。
国交省が概算要求を行う前に行うべきことは、我
が国が置かれた状況を認識した上でコストとベネフ
ィットの関連を十分考慮しつつ、物流のグランドデ
ザインを描くことである。 しかし、残念ながらそれ
を国交省に求めたところで話は進まない。 縦割り行
政の中では、各省庁の論理は昨年度以上の予算を獲
得することであり、そこに削減のインセンティブは
存在しないからだ。
各省庁に対し、大幅な権限を有する内閣府直轄組
織を作れないものだろうかと筆者は考えている。 そ
こで物流のみならず日本経済の今後についてきちん
とした議論を成し、物流政策、労働政策、農業政
策など多様な施策に落とし込んでいくことが理想的
だ。 物流に関しては、全体像とマッチした「総合物
流施策大綱」を作成し、そこに現在よりも強い強制
力を持たせるべきだろう。
てらしま・まさなお
富士総合研究所、流通経済研究所を
経て現職。 流通経済研究所客員研究員、
日本ロジスティクスシステム協会調査
研究委員会委員、日本ボランタリー
チェーン協会講師等を務める。 著書に
『事例で学ぶ物流戦略』(白桃書房)など。
国土交通省重点政策
《分野横断的な取り組み》
《分野別施策》
●人口の減少・地域的偏在、災害に脆弱な国土等を前提とし、国
土・地域づくりの「理念・哲学」と「目標」、さらにはその実現のた
めの施策の方向性を示す新たな国土のグランドデザインの策定
●大規模地震、近隣諸国との国際競争の激化等の直面する課題
に対応して21 世紀型の社会資本整備を行うための基本的な考え
方を示す社会資本整備の基本方針の策定
●強い日本、強い経済、豊かで安全・安心な生活を実現するため、
交通政策を総合的かつ計画的に推進するための枠組みを構築
(1)東日本大震災からの復興加速
(2)国民の安全・安心の確保
(3)国際競争力強化などによる経済の活性化
(4)地域の活性化と豊かな暮らしの実現
(5)環境・エネルギー対策の推進
(6)観光立国の推進
(7)インフラシステム輸出の推進
(8)我が国の主権と領土・領海の堅守及び海洋権益の保全
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