ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2013年11号
ケース
ワークマン SCM 独自システムで需要予測の精度を上げ「買い取り型VMI」の自動補充目指す

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

NOVEMBER 2013  50 西日本DC新設し東西二拠点体制へ  ベイシアグループのワークマンは、作業 服・作業用品の専門量販店最大手だ。
フラ ンチャイズ(FC)加盟店を中心に全国に七 二〇店(二〇一三年九月末時点)を構えてい る。
一三年三月期のチェーン全店売上高は約 六三八億円で前期比四・八%増だった。
 完全買い取りを前提とするメーカーとの直 接取引に基づいてEDLP(エブリデー・ロー プライス)政策を展開している。
低価格を武 器にする一方で販管費を徹底して抑制し、十 一%以上の高い営業利益率を誇る。
チェーン 本部機能を担うワークマンの社員数は約二二 〇人にすぎず、その経営効率は業界の内外か ら高く評価されている。
 今年七月、西日本の拠点として新たに「竜 王流通センター」(滋賀県)を稼働した。
それ まで在庫型の物流センター(DC)は「伊勢 崎流通センター」(群馬県)しかなかった。
こ の一カ所に全取扱アイテムの約七割を在庫し て、全国の店舗へと出荷していた。
 西日本の店舗へは、「伊勢崎」で総量ピッキ ングした商材を、通過型の「小牧流通センタ ー」(愛知)で店別に仕分けてから届ける。
こ のため「伊勢崎」から直接出荷する店舗には 発注二日後に到着するのに、西日本の店舗だ と三日後になるという課題を抱えていた。
 群馬県を創業の地とするワークマンの店舗 はもともと東日本に多い。
しかし近年は西日 本への進出を強化しており、既に全体の四割 に達している。
将来の出店余地も西日本の方 が大きい。
そこで同社のロジスティクス部は、 西日本に新たな在庫型センターを構える計画 を三、四年前から進めていた。
 「竜王」が稼働したことで、西日本の店舗 にも発注から二日後に商品を供給できる体制 が整った。
新センターの稼働時に「小牧」は 閉鎖し、東西にDCを構える二拠点体制へと 移行。
今後は「二〇二二年に一〇〇〇店舗体 制を達成」すべく出店を加速していく。
 新センターには、ベイシアやカインズも利 用するグループ共通のWMS(倉庫管理シス テム)を導入した。
「統合WMSサーバ」で 商品マスターなどを集中管理する。
グループ の基幹システムとも連携しており、物流拠点 の稼働状況を一元的にコントロールできる。
 グループ共通の基盤を整えることで、カイ ンズで扱っているPB商品をワークマンでも 扱うといったグループ内での商材のやり取り が容易になる。
新WMSには電子商取引やE DIの機能が装備されているため、IT投資 の効率も高まる。
さらにワークマンにとって  作業服チェーン最大手。
完全買い取りによる仕 入れで価格競争力を確保すると同時に、効率経営 で高い収益性を維持している。
今年7月、西日本 にDCを新設したのを機に需要予測システムの構築 に本腰を入れた。
予測精度を上げて自動補充に移 行し、VMIでベンダーが納品した在庫を全品買い 取るという斬新なビジネスモデルを模索している。
SCM ワークマン 独自システムで需要予測の精度を上げ 「買い取り型VMI」の自動補充目指す ワークマンの土屋哲雄 常務取締役 51  NOVEMBER 2013 は、これまではあえて実施してこなかった店 舗での単品管理の実現にもつながる。
 「商品回転が年間四回余りと遅いこともあっ て、当社は単品管理をやってこなかった。
だ が実際に店頭を見ると空いたまま補充されな い棚がある。
単品管理を実施すれば、まだ 五%、一〇%は売り上げを伸ばせるはず」と 同社で情報システムとロジスティクスを担当す る土屋哲雄常務は見込んでいる。
 新しいWMSを「竜王」で使いながら、ワ ークマンに特有の機能をアドオンするなどし て完成度を高めていく。
「伊勢崎」ではまだ 旧システムを使っているが、こちらも来年八 月には新WMSに置き換える計画だ。
 ワークマンの店舗運営はコンビニエンスス トアにも似た合理主義に貫かれている。
店舗 の仕様や品揃え、オペレーションのあり方な どを徹底的に標準化し、新規で出店する時に は対象エリアの商圏人口や地価、既存店との 競合状況などを細かく分析する  約一〇〇平方メートルの売り場に八四〇〇 SKU程度を品揃えし、約一〇台の駐車場を 備えている店舗が現在の標準フォーマットだ。
この標準タイプの店舗を、FCオーナーであ る夫婦二人とアルバイト一、二人で運営する のが基本的なパターンになっている。
 店長との契約には「A契約」(フランチャイ ズ・ストア)と「B契約」(直営店およびトレ ーニング・ストア)の二種類がある。
初めて 店長を務める人物は、固定給制のB契約から スタートして、まず本部の管理下にある直営 店でトレーニングを積む。
ここで結果が出な ければFC加盟店としての独立は許可されな い。
このため「FCになったはいいが赤字で 食べていけないというケースはほとんどない」 と土屋常務は言う。
 平均的なFC店の年間売上高は九五〇〇 万円程度。
このうち一四・四%がFC側の取 り分となる。
ここから本部への支払いなどを 差し引いた一二〇〇万から一三〇〇万円程度 が加盟店の収入になる。
もちろん、店長の努 力によって売り上げが伸びれば収入は増える。
中には二億円を売り上げる店舗もある。
 開店時の品揃えは全国一律で、その後に 地域特性などに応じた見直しを施した後でも 数%しか違わない。
EDLPで特売はなく、 値引き販売もほとんどしない。
しかも扱って いる商品の大半は職人などが仕事で使う作業 着や用品のため、需要の変動が少ない。
 近隣で大規模な工事があるといった特殊要 因にさえ適切に対応できれば、過去の実績 から将来の需要を予測することが比較的やり やすい環境にある。
この需要予測に基づいて 「各アイテムのセンターでの安全在庫を何日分 ワークマンの業績と在庫の推移売り上げの伸びが物流費を上回っている (09年3月期を1とした推移) 05 年3月 06 年3月 07 年3月 08 年3月 09 年3月 10 年3月 11 年3月 12 年3月 13 年3月 1.3 1.2 1.1 1.0 0.9 700 600 500 400 300 200 100 0 1.40 1.20 1.00 0.80 0.60 0.40 0.20 0.00 09 年3月 10 年3月 11 年3月 12 年3月 13 年3月 全店売上高(億)・営業利益(億) 在庫回転期間(カ月) 1.29 1.15 1.10 全店売上高 運送費 ロジ販管費 全店売上高 在庫回転期間 営業利益 <施設概要> 所在地:滋賀県竜王市、敷地面積:約40,366 平方メートル、構造:鉄骨2階建、延べ床面積: 約23,731平方メートル、トラックバース:57 台、投資額:建物&施設に約23.5億円(土地 は賃借)、出荷店舗数:294、年間出荷個数: DC91万ケース・TC119万ケース(2013年9 月末時点)、現場運営:カンダコーポレーション 今年7月に稼働した「竜王流通センター」 に設定するかがロジスティクス部の一番重要 な役割だ」と土屋常務は説明する。
サプライチェーンの自動化目指す  土屋常務は昨年春にワークマンの経営に参 画するまで、全く畑違いの仕事をしていた。
大学卒業後に入社した三井物産でロジスティ クスに携わった後、三井情報デジタルの社長 などを歴任。
SCC(サプライチェーンカウ ンシル)日本支部のチェアマンも務めた。
ワ ークマンに入社して、同社が三〇年余りかけ て培ってきたビジネスモデルを目の当たりにし た時、「これは素晴らしいモデルだ。
しかも見 事なまでに?全国ワンモデル?でやっている」 と実感したという。
 現在はITを活用して、そのブラッシュア ップに取り組んでいる。
需要予測や発注業務、 店舗での検品作業などをシステムによって効 率化し、担当者がより戦略的な判断や、店頭 を訪れる客とのコミュニケーションに労力を割 ける環境を整えようとしている。
 その一環で、今年七月の「竜王」の稼働に 合わせて、新たな需要予測システムを構築し で次の段階では、加盟店からの自動発注に取 り組む。
今ロジスティクス部で発注業務を担 当している社員が、店舗からの発注をチェッ クするように役割を変えていきたい」と土屋 常務は構想を明かす。
 ベンダーが自らの判断で納入した商品を全 て買い取るという仕入れ方法は、常識では考 えられない。
しかし、商品ごとの安全在庫の 設定が適正に行われて、需要予測の精度も高 た。
従来はシステムに頼らず、ロジスティク ス部の担当者が人手で処理して在庫の適正化 を図っていた。
一〇人いるロジスティクス部 員のうち四人がこの発注業務に携わってきた。
 しかし、在庫拠点を二カ所に分割すれば、 発注業務の負担は跳ね上がる。
ロジスティク ス部長を務める増子秀見執行役員は「『伊勢 崎』と『竜王』に分けたことで、在庫管理の 手間は二倍になる。
本来なら二倍の人手が必 要になるところだったのだが、システム化に よって従来と全く同じ人数のままで二センタ ー分の発注業務を手掛けることができている」 とシステムの導入効果を強調する。
 この需要予測システムでは、八種類ほどの 統計モデル(時系列アルゴリズム)を使って 将来の売り上げを予測している。
過去の実績 データから販売の傾向を分析し、八種類のモ デルの中から最も誤差率の小さいアルゴリズ ムを半ば自動的に選択して分析する。
 現状では過去一年程度のデータしか蓄積が ないため予測値にブレが出る。
だが三年分の データを使えるようになれば、プラスマイナ ス二〇%の誤差で需要を予測できるようにな るという。
二年後を目途にITインフラの整 備を終えた暁には、調達先ベンダーやFC店 との役割分担を大幅に見直す考えだ。
 「最終的に、需要予測システムを使ってベン ダーがうちのDCに勝手に商品を入れ、それ を当社が全部買い取るようにしたいと思って いる。
いわば?買い取りVMI?だ。
その上 NOVEMBER 2013  52 ロジスティクス部長を務める 増子秀見執行役員 アルゴリズム選択方式の需要予測で発注の自動化を目指す 学習〜予測〜評価の一連のプロセスで予測 《学習》 時系列データから過去の売上傾向を読み取る トレンドは あるか 周期性は あるか トレンド× 周期性 シーズン商品 間欠商品 トレンド型モデル例周期性型モデル例間欠型モデル例コーザル対応 《予測》 統計モデル(時系列アルゴリズム)を用いて将来の売上数を予測する 移動平均法 指数平滑法 ホルト法 クロストン法価格弾力性 ホルト・ウィンタース法 ARIMA/SARIMA 法 季節性プロファイル (曜日、季節など) 《評価》 予測と実績を比較し、使用モデルの見直しやモデルのパラメータ調整を検討する 予測値 実績値 ?予実差(通常はWAPE:加重平均絶対誤差率をKPIに使用)を  定期的にモニタリング ?モデル見直しやパラメータ調整により精度の高いモデルを作成 ?在庫最適化(品切れの削減、過剰在庫の防止)の推進 土屋常務は期待している。
 店舗から本部への発注についても同様だ。
独立した事業主であるFC店が仕入れを自動 化することなど本来であれば考えにくい。
し かし、オーナー夫婦二人が中心になって切り 盛りしている店舗にとって、発注業務の負担 は小さくない。
これを自動化できれば、その 労力を販売業務に割けるようになる。
 店舗での単品管理や売れた分だけ補充する ?セルワン・バイワン?による仕入れも、シス テム化が前提になる。
需要予測システムを開 発した狙いは、単に目先の業務を効率化する だけにとどまらない。
将来のサプライチェー ン改革を可能にするツールなのだ。
「ノー検品」にらみ出荷精度を向上  「竜王」では、マテハンなどの設備と建物に 計二三・五億円を投じた。
庫内運営や配送管 理は3PLパートナーに委ねているが、丸投 げに陥らないよう、センターのハードやソフト についてはワークマンのロジスティクス部がし っかりと掌握している。
 物流現場の運営はカンダコーポレーション に委託している。
「伊勢崎」の運営は以前か ら同社に委ねてきた。
「竜王」を稼働させる に当たって物流コンペを実施したが、複数の 物流業者の中から再びカンダを選んだ。
 「こうしたケースでは必ず三社以上の見積も りをとるのが当社の原則。
『竜王』でもコンペ をやったが、結果的にカンダさんが一番安か った。
庫内運営だけでなく、配送面でも最も 競争力があった。
コストの安さに加えて、『伊 勢崎』での経験も豊富なことから委託を決め た」と増子執行役員は振り返る。
 「竜王」では、出荷誤差率を〇・〇一%に するという品質目標も掲げている。
これは店 舗での「ノー検品」を実現する上で必須の精 度だ。
ワークマンの本部とFC加盟店の関係 上、商品を納品することによって所有権が移 転する。
このため店着時の全量検品が不可欠 だった。
だが毎日一、二時間を費やして二〇 〜三〇箱の商品を検品する作業は、加盟店の 大きな負担にもなっている。
 〇・〇一%まで出荷誤差率が高まれば、年 間一〇万点程度を扱う標準的な店舗で、ミス の発生は年間一〇点程度になる。
商品の平均 単価が約八〇〇円のため、仮に一〇点すべて で間違えたとしても誤差は八〇〇〇円程度だ。
実際には少なく間違えることと多く間違える ことが混在するため、誤差はより小額になる 可能性が高い。
そこまで精度が上がれば、ノ ー検品によって加盟店を検品業務から解放す ることが現実的な選択肢になる。
 とは言え、FC店に対し、本部からノー検 品を強要することはできない。
本部としては、 直近の出荷精度に関するデータを提供するな どして、加盟店が自らノー検品に踏み切るこ とを期待するしかない。
今はそのためのイン フラ整備を着々と進めている段階にある。
(フリージャーナリスト・岡山宏之) いのであれば、ワークマンがやるより、むし ろベンダーが発注管理まで手掛けるほうがメ リットは大きくなると土屋常務は見ている。
 ワークマンの発注担当者が計四人しかいな いのに比べて、主力ベンダーの担当者の合計 人数は一〇〇人を超える。
さらに自社製品の 売れ行きをいち早く察知したベンダーが、早 めに製造の手配などをすれば、欠品を防ぐと いった手立ても講じやすい。
 「ワークマンへの出荷比率の大きいベンダー と当社は一蓮托生の関係にある。
うちが手の 内を一〇〇%見せることで、こうしたベンダ ーとの関係をより深めることにつながる」と 53  NOVEMBER 2013 配送先ごとにソーターで仕分け グループ共通のWMSで標準化 ハンディ端末を使いピッキング 商品の7割を在庫して欠品防止 カンダコーポレーションが現場運営を担う「竜王流通センター」

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