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している人たちになるわけですか。
「どこの工場にも必ず出荷情報はあります。 しかし、
これを工場のなかにいる人たちに聞いても分からない。
ところが物流の人たちというのは毎日、出荷作業をや
ってるため、自分たちでは意識していなくても正しい
出荷情報を持っています。 僕はその情報を知りたいん
です」
「そういう話を聞いてから、工場を見ます。 そうす
ると工場と物流が、どのくらいミスマッチしているか
が分かる。 そこを直してやれば、経営は変わります」
――それだけで、いきなり経営を変えられるような情
報まで把握できるのですか。
「そう、分かるんです。 そんなことを書いてあるマニ
ュアルがないだけの話ですよ。 ようするに工場と物流
のミスマッチがあるから、コンピュータを入れたり、
余計な機械を入れたりしなければならない。 そんなこ
とを次々にやっていくうちに、会社がおかしくなって
しまうんです」
――ミスマッチの解消とは、トヨタ生産方式でいう物
の流れをなめらかにするという意味ですか。
「ようは、売れる分だけ作れということです。 言い
換えれば、売れた情報も分からずに作るなとなる」
――しかし、工場の出荷現場の先には流通がある。 そ
こまで把握しなければ経営は分からないのでは?
「工場の出荷現場を見れば、だいたい分かりますよ。
販売でどれくらい在庫を持っているかまで全部みえま
す。 ここさえきちっと抑えれば、販売店の在庫とか、
ロジスティクスの在庫までだいたい見えます」
「簡単に言うとね、トラックに一品種しか積んでい
ないのに工場で一〇〇品種を作っているとしたら、こ
れはもう全部が在庫なんです。 そういうことが僕は勘
でパッと分かる。 まあ、そうでなければコンサルタン
出荷現場で経営のすべてが分かる
――工場の指導をするとき、まず最初に出荷現場を見
るそうですね。 その理由から教えて下さい。
「どこの会社でも出荷情報と生産情報には狂いがあ
ります。 しかも生産部門が持っている情報は、経営の
実態とはかけ離れたものになってしまっている。 先月
売れた情報で今月の生産をしたり、三カ月先の需要
予測に基づいて生産計画を作ったりしていますからね。
三カ月先の予測が当てられる人間などいません。 でも
現実にそんなことをやっているんです」
「生産から情報をもらうということは、極端なこと
を言えば三カ月前の情報を見ることになります。 その
うえ生産の人たちが判断しているわけですから、これ
はもう彼らの情報に過ぎません。 だから僕は、いつも
出荷現場から最初に見るんです。 自分の目で出荷情
報を確認することが、企業の問題を把握するうえで一
番いい」
――出荷現場で具体的に何を見るのでしょう。
「例えば、トラックが一日に何便が出るのかを物流
の担当者たちに聞くわけです。 一日に一〇便というの
であれば、じゃあ一便あたりどれくらいの売り上げに
なっているのかと尋ねる。 もし一便あたり五〇〇万円
という答であれば、一日あたりの売り上げはざっと五
〇〇〇万円程度だと分かるでしょう」
「さらにトラック一台あたり、どれくらいの品種を
積んでいるのかを聞く。 それが一品種なのであれば一
日に一〇品種しか作っていないということだし、一〇
品種なら、ざっと一日に一〇〇品種作っているであろ
うことが分かる。 こういうことを、どんどん聞いてい
くと工場の全体像をだいたいつかめます」
――そこで話を聞く相手は、工場内で出荷物流を担当
APRIL 2004 32
「どこがムダか徹底的に研究しろ」
「トヨタ生産方式」の創始者である大野耐一氏に師事した。
コンサルタントとして独立してからは、ソニーやキヤノンな
ど200社余りにトヨタ流の改善を指導。 NHKスペシャル「常
識やぶりのものづくり」にも取り上げられたカリスマ・コン
サルタントが強いメーカーの秘訣を語る。
(聞き手・岡山宏之)
PEC産業教育センター所長山田日登志
第2部
トヨタ方式に挑む
第2特集
ければいけない。 そこを分業して、メーカーが親会社
で、ロジスティクスは子会社などといった役割分担を
するからバラバラになってしまう。 トータルの仕組み
にならないわけです」
「こうした考え方を誰かに学んだわけではありませ
ん。 大野先生が手取り足取り教えてくれたわけでもな
い。 自分で現場に行っては工夫し、この会社をもっと
よくするためにはどうしたらいいんだろうと考え続け
てきたら、そう思うようになっただけの話です」
――PECの指導企業のなかでも、キヤノンは成功事
例として知られています。 彼らは実際に在庫をどんど
ん減らしているわけですが、そのためには生産革新と
SCMの両方が必要だったと言っています。
「それは違います。 生産を直すことで、サプライチ
ェーン上の在庫も自然と削減できるんです。 ここで在
庫から先にやろうとすると、必ず生産が犠牲になって
しまう。 工場をそのままにしてサプライチェーンだけ
を先にやろうとしたら、たいてい失敗します」「キヤノンの場合は、御手洗社長が直接おやりにな
ったから会社が組織として動いた。 ところが経営トッ
プがやりたいところだけやりなさいと言うような企業
では、現場はそれぞれ自分勝手に解釈してしまう。 僕
らが指導している間はよくても、自分たちでやる段に
なると、とたんに我流が出てダメになってしまう」
――やはり経営トップの意識が大きいのでしょうか。
「経営はトップです。 下がどんなに良くても、上が
ダメだと経営は悪くなりますからね。 僕は日頃、経営
学というのは学問ではないと言っているんです。 経営
というのは結果論であって、たまたまこういうことを
やったら儲かったというものでしかない。 儲かったか
ら、あんたも同じようにやりなさいと言っても、絶対
に同じようには儲かりません」
トなんて商売はできませんけどね」
――人に説明できない直感的なものなのでしょうか。
「そうなんでしょうね。 だからソニーに行っても、キ
ヤノンに行っても、僕が一時間くらい現場を見ると一
五〇くらいの指摘項目が出てくるわけですが、みんな
『そんなにムダがありますか』とびっくりしますよ」
――似たようなムダのパターンがある。
「ありますね。 例えば、ある一人の作業員がムダな
動きをしているとしましょう。 その動作を少し直すと
生産性が三割上がる。 それが二〇〇〇人いれば、六
〇〇人分の工数を低減できるということです。 どこで
も同じようなことをやってます」
標準化は?物づくり〞を弱くする
――在庫というのはトヨタ生産方式が最も嫌うムダの
一つですが、これを減らすためには物流とかロジステ
ィクスを重視する会社全体の意識が不可欠です。
「そう、それがないとね。 しかし、そちらに目がいけ
ばいいのだけれども、普通の会社員はトップの方ばか
り向いて仕事をしている。 だからトップが間違うと、
みんなが間違えてしまう」
――昔から物流に注目されていたのですか?
「とくに意識してきたわけではありません。 ただ経
営全般を見ようとしたら、そこまでみなければダメな
んです。 僕らのように中小企業を中心に指導をしてい
ると、たえず全部に目がいくわけです。 そうした経験
を通じて、僕の眼もできたんでしょうね。 大企業だけ
をやっていたら、僕も生産とか物流を分業する視点で
見ていたと思いますよ」
「ロジスティクスというのは、もともとメーカーには
あってはいけない部門というのが僕の考えです。 本当
は製品を届けるところまで、物づくりが責任を持たな
33 APRIL 2004
APRIL 2004 34
「だから僕のところでは一切そういうことは言わな
い。 僕はこういうのが良いと思う、やるのは皆さんで
すよと言う。 ただし、うちへ来る限りは、うちのやり
方を強制します。 僕のやり方であかんと思ったら来て
くれるなということです。 ここに来るからには、僕の
言う通りに一生懸命にやってもらいます」
――その通りにやった企業は皆、成功していますか。
「今のところはね。 ようは時代に適応していくのが
経営なんです。 適応できなければ負けるだけです。 時
代に適応する理論となると、これは難しいけどね」
――そこは経営者が自ら考えるしかない。
「そう思うけどね。 実はね、僕のところには何のテ
キストもないんです。 僕もいろいろな会社に行くけれ
ど、鉛筆一本持って行かないし、資料も持っていった
ことがない。 僕が自分で何かを書いているのを、誰も
知らないと思いますよ」
「ただね、恐らく、僕らの仲間はみんな考えている
んです。 考えるように仕向けるのが経営ですよ。 それ
を、考えないようにしてきたのが経営学です。 標準化
しろとか、マニュアル通りにやれとかいってね。 すべ
て考えなくていいように、考えなくていいようにさせ
てきた。 それが経営を悪くし、今の時代に通用しない
ものにしてしまったわけです」
トヨタ方式の導入に成功するマネジメント
――これまでトヨタ生産方式を多数の企業に導入して
きたわけですが、導入できない企業の共通点は?
「もっとも基本的なのは、自分が悪いと思わない経
営者ね。 業績が悪いのは景気のせいだとか言っている
経営者はどうしようもない。 成功体験があればあるほ
ど人のせいにする。 こういう会社にトヨタ生産方式を
入れるときは苦労しますね。 たとえ一%でも二%でも
儲かっていると、なお悪い。 まだ大丈夫と言いながら、
深みにはまっていくのが分からないんです」
――経営者が理解したとして、それを社内に浸透させ
ていく段階で失敗してしまう会社もあるのでは。
「現場を分かっている人がリーダーをやらなければ
ダメです。 現場で改革をやるリーダーが管理屋さんだ
と難しい。 紙のうえでやろうとしてしまうからね」
――キヤノンの場合、御手洗社長が現場も分かるし、
全体を見る資質も持っていた。 次のステップとして、
社内に浸透させるときはどうしたのですか。
「
リーダーはみんな、ここに来させました。 御手洗
さんがPECの講座を受けて来ない工場長はダメだ
ぞと言ってね。 だから、もうやるしかなかったわけで
す。 文句なんて何も言えませんよ。 仮に文句を言っ
ていても、ここに来たら強制させられてしまいますか
らね」
――PECの研修ではどんなことをやるんですか。
「挨拶運動から始まって、現場まわりなどをします。
会社に帰れば二〇〇〇人、三〇〇〇人を使っている
工場長が、中小企業の工場に行って整理整頓やゴミ
を出したりするわけです。 キヤノンの工場長といった
らそれなりの人たちですよ。 それを『僕もやるから君
らも一緒にやれ』とやるわけですから大変です」
――そこで教えようとしているのは何なのでしょう。
「現場を見る眼を持てということです。 数字ではあ
かんのです。 僕はなんにも数字なんて持ってないわけ
だからね。 それで会社が良くなるということは、数字
なんていらない。 だから『君らも数字を見ていてはあ
かん。 数字を見る前に現場をみろ』というんです」
――何か具体的な方法論があるのですか。
「うちは、ちゃんとしたメジャーを持っています。 こ
ういうムダが見えると何点、ここまで見えると何点と
現場でムダをとる。 その場でムダをとる。
すぐにムダをとる。
ムダの「発見」と、ムダとりの「対策」。
ムダとりへの挑戦は、人生そのものに対する挑戦である。
ムダとりは向上心である。
自分が毎日向上しようと思っていないとムダは見えない。
ムダが見えなければ、改善のしようがない。
何事も行動しなければ結果が出てこない。
ムダの発見も、癖(習慣)になるまでやらせないと、
本当の結果はわからない。
『ムダとり』より
トヨタ方式に挑む
第2特集
35 APRIL 2004
いう具合にね。 だから研修では、僕らのメジャーで、
『あなたはまだ小学生レベルの見方をしています』な
どと言うわけです。 こういう見方をできれば中学生レ
ベルですよ、とね。 ムダを見抜く眼を養うというのが
一つのコースのようになっているんです」
リーダーが変わらねば組織は変わらない
――頭で理解しただけではダメなのでは。
「うちの講座では必ず試験をします。 現場の人たち
を説得できる話し方とか、現場のムダを自分でとれる
かまで、たくさんの試験があります。 この講座の受講
者は三割くらいが落第しますからね。 相当、大変なは
ずです。 参加者は『学生のとき以来、こんなに勉強し
たことはない』というくらい猛烈に勉強します。 部長
が社外の研修を受けにいって、落第したなんていうと
格好悪いからね」
――試験に落ちる方には何が足りないのでしょう。
「
現場を見る眼がないし、勉強もしない。 今までの勉
強がいいと思っているからです。 これとムダとりの
勉強は違うんだけどね。 経営者が自分を悪いと思え
ないのと一緒ですよ。 『大学も出たし、それなりに勉
強してきた。 工場長もやっているし、これくらいの
試験は受かるだろう』と思ってしまうからダメなん
です」
――研修でムダとりを叩きこまれた工場長とか管理職
は、現場に戻って何をするのでしょう。 リーダーの意
識が変わっただけでは、現場は変わらないのでは?
「いや、変わりますよ。 このあいだキヤノンのタイの
工場に行ってきたんだけれど、二年前に行ったとき僕
は、『だいたい二〇年は遅れている工場だな』と言っ
た。 で、それから半年くらいした一昨年の夏くらいに
社長から電話があって、『お前、PECの研修に行っ
てこい』と指示されたらしい。 うちの研修には海外か
らも通ってきますからね。 半年間、毎月二日間だけの
ためにタイから岐阜県まで通うわけです」
「この人が最初は嫌々やってたんだけれども、卒業
する頃には見違えるように変わった。 それで先日、タ
イの工場に行ってみてびっくりしました。 日本の工場
よりいい。 この人は『先生、おかしい』なんて自分で
言ってたくらいだけど、僕は『君が変わったからだよ』
と言いました。 上が変われば現場は変わるんです」
――逆に上手くいかないケースでは何が悪いのですか。
「やはり、我流が出てしまうんです。 人間というの
は、分かったと思ったときが一番恐い」
――こういうことをしたらダメという例はありますか。
「ある現場でAという工程と、Bという工程がある
とします。 この二つの工程を僕がつなげと指示したと
する。 僕が三ラインでやれと言ったら、先方の社長は
『先生が三ラインでというから、一ラインくらいやって
みるか』となった。 そうすると僕は怒るわけです。 『お前はみんなの?気〞を取っている』とね。 先生に三つや
れと言われたのに、それを社長が一つだけやろうと言
うのでは誰も本気でやりません。 先生から三つやれと
言われたら、五つやるつもりで、はじめて三つできるよ
うになる。 みんなの前で社長が嫌々やるという態度を
見せたら、その時点でその会社はダメです」
――つまりトップ自ら積極的に取り組まなければ、現
場は変わらない。
「そういうことです。 サラリーマンの管理職というの
は、社長から一〇〇点をとれと言われると、必ずその
まま一〇〇点をとれと現場にも教える。 しかし、現場
を変えられる工場長とか部長というのは、一〇〇点を
取れと言われたら、一二〇点をとろうとする人たちで
す。 だから、どんどん人間が進歩するんです」
PROFILE
やまだ・ひとし1939年生まれ、南山大学文学部卒業、
63年中部経済新聞社入社、65年岐阜県生産性本部で経営
コンサルタント、78年PEC産業教育センターを設立し所
長に就任、現在に至る。 71年から「トヨタ生産方式」の
創始者、大野耐一氏に師事し“ムダとり”の道に入る。 現
場の第一線監督者に研修を施すPEC産業教育センターの講
座は既に7000人が修了、これまでにトヨタ生産方式を導
入した指導企業はソニー、キヤノン、NEC、三洋電機、ス
タンレー電気、トステム、ミツミ電機など200社余り、
2001年5月には指導の模様がNHKスペシャル「常識破り
のものづくり」として放映された。 主な著書に『ムダとり』
(幻冬舎)、『改善魂を求めて』(日刊工業新聞社)、『トヨタ
生産方式をトコトン理解する辞典』(同)ほか多数。
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