ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2013年11号
物流指標を読む
第59回 今でしょ!と言えない消費増税のタイミング 日本銀行「日銀短観」

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

  物流指標を読む 第1 回 NOVEMBER 2013  76 今でしょ!と言えない消費増税のタイミング 第59 ●首相が日銀短観の結果を踏まえ消費増税を決断 ●景気回復は大企業のみ実感、中小はまだまだ ●日銀短観の結果には回答者の“思惑”も反映か さとう のぶひろ 1964 年 生まれ。
早稲田大学大学院修 了。
89年に日通総合研究所 入社。
現在、経済研究部担当 部長。
「経済と貨物輸送量の見 通し」、「日通総研短観」など を担当。
貨物輸送の将来展望 に関する著書、講演多数。
消費税をいつやるか?  政府は、さる一〇月一日の閣議で、現行五%の 消費税率を来年四月から八%に引き上げることを 決定した。
併せて、消費増税による景気の腰折れ を回避するため、五兆円規模の経済対策を実施す ることとしている。
 三%の税率の引き上げにより、消費税収は年間 八・一兆円増加する見通しだという。
言い換えれ ば、約八兆円の国民負担増となるわけで、民間需 要が落ち込むことは必至だ。
その落ち込みをカバ ーするために、公共投資などで需要を創出しよう としているわけで、景気の観点からは、その考え 方自体は間違ってはいないと思うのだが、何か腑 に落ちない。
だったら、一%の増税で良かったの ではないのか。
そもそも、社会保障の財源を確保 するための消費増税ではなかったのか。
 「一般庶民にはこれから地獄が待っているのに、 こんなデタラメ政権を容認する国民は大馬鹿者だ」 と、日刊ゲンダイなどは大騒ぎしている。
確かに、 給与水準は低下が続いている(注:例えば厚生労 働省「毎月勤労統計調査」によると、事業所規模 五人以上の事業所における「決まって支給する月 間現金給与額」は、調査産業計で二〇一二年六月 から一三年八月まで一五カ月連続で前年水準を下 回った)。
その一方で、円安の影響などにより燃料 油や食料品等の価格は上昇し、公共料金は値上げ され、さらに厚生年金保険料も引き上げられてい る。
そこに消費増税の追い討ちだ。
本当に地獄が 待っているのかどうかはともかくとして、低所得 者層の生活は今後、かなり苦しくなるであろうこ とは想像に難くない。
 さて、筆者の立場はと言えば、消費増税容認派 である。
しかし、「消費増税をいつやるか?」と 問われたら、「今でしょ!」とは言えない。
一九九 七年四月に、消費税率が三%から五%に引き上げ られたことなどが原因となり、その後、日本経済 が急降下したことが脳裏を離れないからだ。
 四〜六月期のGDP速報では、経済成長率(前 期比)は実質で年率三・八%、名目で同三・七% となり、消費増税の条件である「名目で三%、実 質で二%の経済成長」という景気条項を、瞬間風 速とはいえ、ともに達成できた。
しかし、デフレ から脱却できたわけではない。
少なくとももう一 年延期し、デフレ脱却の目途が立ってからでも遅 くなかったのではないかと考えている。
 さて、前回も書いたように、安倍首相は表向き、 「日銀短観」(九月調査)の結果を見て、消費税率 の引き上げを最終決定すると言われていたが、実 際のところ、その判断は正しかったのだろうか。
 日銀短観の九月調査においては、大企業製造 業の業況判断DIはプラス十二となり、前回(六 月)調査(プラス四)に比べて八ポイント上昇し た。
3四半期連続で改善し、リーマンショック後 では最高水準となった。
ただし、十二月までの先 行きについてはプラス十一と一ポイント低下する 見込みで、やや一服というところか。
この結果を 踏まえ、日本経済新聞(一〇月一日付夕刊)は 「景気が回復経路をたどっている現状を示す結果 で、来春の消費税引き上げに向けた環境が整いつ つある」と解説している。
 また、大企業非製造業においても、足元の業況 日本銀行「日銀短観」 77  NOVEMBER 2013 としてマイナスの見込みだ。
 このことから、大企業においては、景気回復が ようやく実感できる状況になりつつある一方で、中 小企業ではまだ実感できずにいるということが分 かる。
従って、大企業の業況判断DIのみで、足 元の景気が完全に持ち直したと判断するのは早計 だったのではないかと筆者は考えている。
「景気良い」と答えた方が得策  また、経済コラムニストの小笠原誠治氏も、今 回の日銀短観の結果を参考に、消費増税を決断す るのは少々問題があると指摘している。
その論点 をまとめると以下の通り。
1.例えば夏の最高気温の測定など、自然現象の 観測には主観が影響することはないが、業況 判断指数には、まさに企業経営者の主観が反 映される。
2.仮に、それほど景況感が「良い」とは思って いなくても、調査の対象になった企業経営者 には、今回、「良い」と答えた方が都合がいい 事情があった。
3.日銀短観の結果が良ければ、恐らく消費増税 が決定されるであろうということが企業経営 者の共通認識になっていた。
全ての企業経営 者が賛成していたとは言えないが、相当以前 から経済界は、消費増税を支持している。
4.もし、消費増税が決定されるならば、法人税 の減税がセットで実施されるであろうという 見方が共通認識になっていた。
すなわち、日 銀短観の結果が良くて、消費増税が決定され るのであれば、法人減税も同時に決定される。
企業経営者はそのような期待を抱いていたと しても不思議ではない。
だとすれば、全く景 況感が良くないというのであれば別であるが、 微妙な状況なのであれば、今回は「良い」に しておこうという判断が働いても当然だ。
5.従って、今回の日銀短観を最終判断の材料に したのは問題である。
操作可能な調査手段を 用いて、都合の良い調査結果を見せた上で結 論を出す手法が今後も行われる可能性がある のであれば、それは大変なことである。
 もう一点、大企業製造業が消費増税に賛成する 理由について補足したい。
そうした企業の多くは 輸出割合が高いと推測されるが、輸出企業には消 費税の還付制度(輸出戻し税)という特権があり、 税理士の湖東京至氏によると、還付金の総額は年 間三兆円にも及ぶという。
消費税率が八%になれ ば、単純計算で還付金の総額も四・八兆円に膨ら むことになる。
疑い出すときりがないが、小笠原 氏の指摘するように、大企業は本当に「正しい回 答」をしたのかと考えてしまう。
 なお、誤解なきように補足しておくと、小笠原 氏は「来年四月から消費増税すべき」という立場 であり、筆者とは景気判断に関して見解が異なる。
しかし、「操作可能な調査手段を政策判断に利用す るのはおかしい」という意見には大賛成だ。
判断DIはプラス一四、先行きもプラス一四と高 い水準だ。
 しかし、中小企業においては、足元の業況判断 DIは製造業でマイナス九、非製造業でマイナス 一と、それぞれ前回調査よりは改善が見られるも のの、引き続きマイナス水準にとどまっている。
ま た先行きについても、製造業・非製造業とも依然 業況判断DI の推移 20 15 10 5 0 -5 -10 -15 -20 -25 -30 11 年3月 6月 9月 12 月 12 年3月 6月 9月 12 月 13 年3月 6月 9月 (予測) 12 月 大企業 製造業 中小企業 製造業 大企業 非製造業 中小企業 非製造業 全般的に回復基調にあるものの、中小企業はマイナス水準を脱していない

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